2023-01-01から1年間の記事一覧

2023年まとめ

今年は、去年から引き続きで「海外文学を読むぞ」と言うのを一つのテーマとして本を読み進めることができた。自分としてはかなり小説を読んだ冊数が多い年となった。 小説でいうと、大江健三郎もちょいちょい読んだ。 振り返ってみると、美学・美術関係もそ…

2023年に読んだ大江健三郎まとめ

大江健三郎が今年の3月に亡くなったことを受けて、代表作をいくつか読んでみようかなと思って、この1年間、時々読んでいた。 大江は代表作と呼ばれている作品だけでもかなりたくさんあるので、その中でもさらに絞り込んで、ごく一部だけを読んだ形になる。特…

大江健三郎『取り替え子(チェンジリング)』

2000年、大江が65歳の時の長編小説。高校時代の友人であり、義兄である伊丹十三の投身自殺(1997年)について書いた作品である。 また、大江が後期に書いていった長江古義人ものの第一作である。 2000年に刊行された作品なので、刊行当時の記憶がある、とい…

大江健三郎『「雨の木」を聴く女たち』

1982年、大江が47歳の年に刊行された連作短編集 いわゆる私小説的な作品群だが、かなり物語化が施されている。有名だし読んでおくか、くらいのテンションで読むことにしたので、あまり内容も知らない状態だったが、癖の強い登場人物が次々出てきて、これがな…

上田早夕里『リラと戦禍の風』

第一次世界大戦下のヨーロッパ、西部戦線で瀕死となったドイツ人兵士イェルク・ヒューバーが、不死者である伯爵に助けられ、リラという少女を護衛するよう依頼される。リラと行動をする中で、銃後の困窮を知った彼は、情報や食糧の闇取引に携わるようになる…

松井裕美『もっと知りたいキュビスム』

キュビスム展にいった際に思わず購入 表紙、出版日からして、キュビスム展にあわせて企画された本なのではないかと思う。キュビスム展の復習になりつつ、キュビスム展には(い)なかった画家やトピックも含まれており、よかった。 キュビスムというとピカソ…

「パリポンピドゥセンター キュビスム展 美の革命」

西美にて キュビスムというと以前はピカソとブラックしか知らなかったが、「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」展 - logical cypher scape2や井口壽乃・田中正之・村上博哉『西洋美術の歴史〈8〉20世紀―越境する現代美術』 - logical cypher scape2でキュ…

『Newton2024年1月号』

Newton 2024年1月号作者:科学雑誌Newton株式会社ニュートンプレスAmazon 「共感覚」の不思議 まず、共感覚には色々な種類がある、と。 有名なのは、色字共感覚だが、色聴共感覚、空間系列共感覚、序数擬人化などがある。空間系列共感覚って知らなかった。 共…

海外文学読むぞまとめ2

海外文学読むぞまとめ - logical cypher scape2のつづき 2023年5月~12月 前回、2022年12月~2023年3月の期間に12作品を読んだところでまとめたが、その後、5月以降で9作品読んだ。およそ1年で21作品読んだことになる。我ながらこれはすごいぞ。グラフも更新…

ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』(平石貴樹・新納卓也・訳)

フォークナーのヨクナパトーファ・サーガの第2作目で、1929年に発表された作品 フォークナーについては以前、ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』(藤平育子・訳) - logical cypher scape2とウィリアム・フォークナー『エミリーに薔薇を…

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

公開直後からSNSで絶賛の嵐となり、それを受けて見に行った人もまた絶賛する流れとなっており、そりゃ見に行くしかないなと思って見に行ったら、全く評判に違わずめちゃくちゃ面白かった 自分は『ゲゲゲの鬼太郎』についていうと、子どもの頃にTVアニメ見て…

木澤佐登志『闇の精神史』

「ロシア宇宙主義」「アフロフューチャリズム」「サイバースペース論」という三部構成で、近代や資本主義を脱しようとしたユートピア思想を概観していく。 SFマガジンでの連載をまとめたもの。 木澤佐登志の著作は以前から多少気になってはいたものの、自分…

『ゴジラ-1.0』

いや、悪くない映画だったと思いますよ。 とりあえず見終わった後にはそう思った。 ただ、ブログに感想書こうと思って、言語化しようとすると、短所がぽこぽこ浮かびあがってくるんだよなー とりま、よかった探しからしましょう。 ゴジラとか特撮とか 山崎貴…

『モダニズムのハード・コア 現代美術批評の地平 批評空間臨時増刊号』

1995年に発行された『批評空間』の臨時増刊号で、現代美術批評の重要文献の翻訳が掲載されいてたことで有名だが、なおかつ、長いこと絶版が続いていて、重要にもかかわらず入手不可能であったためにある意味で「伝説化」もしていた。しかし、今では電子化さ…

『科学2023年6月号』(特集:意識とクオリアの科学は可能か?)

クオリア構造学とかロボティクスからのクオリア研究とか言語との関係とか 以前、生体の科学 Vol.73 No.1 2022年 02月号 特集 意識 - logical cypher scape2があったけど、一部重複する人もいるけれど、領域がまた違う感じ。 『生体の科学』にもいた大泉・土…

アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

人類存亡の危機に立ち向かうべく、別の惑星系へ旅立つことになった1人の科学教師の物語。 アンディ・ウィアー『火星の人』 - logical cypher scape2やアンディ・ウィアー『アルテミス』 - logical cypher scape2に続くウィアーの第三長編。 アストロバイオロ…

『科学2023年11月号』(特集:新しい恐竜学)

恐竜の脳、骨組織学、マイクロウェア、胚化石、エボデボ、初期進化、絶滅という7つのトピックについて紹介する記事が並んでいる。 非専門家向けに、各研究内容についての概要を紹介するものではあるが、それぞれの専門家が関わる最新の研究までフォローして…

『なぜ美』と『近代美学入門』への補足

井奥陽子『近代美学入門』 - logical cypher scape2のブクマが急速に伸びている。本ブログのTOP3に入ってきた。 https://hatenablog.com/ に載ったので多分そのせいだと思う。普段、見かけないidからのブクマが多いし。 (なお、ブクマが増えるとブログを書…

井奥陽子『近代美学入門』

タイトル通り、近代の美学についての入門書なのだが、とても良い本だった。 「芸術」「芸術家」「美」「崇高」「ピクチャレスク」という概念ごとに章立てした5章構成の本となっているが、これらの概念は全て近代に成立した概念である。 「崇高」と「ピクチ…

攻殻機動隊 M.M.A. - Messed Mesh Ambitions_ISSUE #01 特集_東洋的|The East

攻殻機動隊のグローバルサイトなるものが立ち上がり、その中で士郎正宗へのインタビューがあるのが話題となっているが、他にも論考記事が掲載されている。 普段、こういう記事へのリアクションはブクマでしているし、これらの記事についてもブクマでもよかっ…

『ザ・クリエイター/創造者』

ロボットと人類が共存する東南アジアを舞台とし、反ロボットを掲げるアメリカによる特殊部隊潜入作戦をベースに、戦争の行方と親子・夫婦の愛を巡る物語を描くSFスリラー映画。詳しくは後で書くが、どっちかというと巨大建造物フェチ映画ではある。 『ゴジラ…

ドミニク・マカイヴァー・ロペス、ベンス・ナナイ、ニック・リグル『なぜ美を気にかけるのか』(森功次・訳)

サブタイトルは「感性的生活からの哲学入門」とある。なお、原著タイトルは”Aesthetic Life and Why It Matters”であり、この「感性的生活」はAesthetic Lifeの訳だと思われるが、本文中では「美的生活」と訳されている。 美的なものには何故価値があるのか…

甘耀明『鬼殺し』(白水紀子・訳)

台湾を舞台に、怪力でならす客家の少年が第二次大戦中から戦後にかけての動乱を生き抜く姿を描く長編小説。 「鬼殺し」というタイトルだが、「killing the Ghosts」と英訳されていて、中国での「鬼」は、日本語ではむしろ「幽霊」にあたる。「鬼」には基本的…

『日経サイエンス2023年11月号』『Newton2023年11月号』

日経サイエンス 日経サイエンス2023年11月号 [雑誌]日経サイエンスAmazon “食べられる”ドローンで救命 翼部分がビスケットとなっているドローン。遭難者救助を想定。 「セントラルドグマ」を体感 今年の8月に東京タワーで、セントラルドグマをテーマにしたサ…

大江健三郎『同時代ゲーム』

1979年、大江が44歳の時に書かれた書き下ろし長編。 谷間の村の神話=歴史を書き残すという使命を負った「僕」が双子の妹に宛てた手紙という形式で書かれている。 大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』 - logical cypher scape2に続けて読んだ。 『同時代ゲ…

大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』

1986年、大江が51歳の時に書かれた作品。祖母から聞いた谷間の村の神話・歴史が語られる。 本作は、『同時代ゲーム』(1979)をわかりやすく書き直した作品でもある。 『大江健三郎全小説(8)』に『同時代ゲーム』とともに収録されている。 『全小説』は基…

井口壽乃・田中正之・村上博哉『西洋美術の歴史〈8〉20世紀―越境する現代美術』

ABSTRACTION展の図録で、企画の際に参照した先行研究として挙がっていて、日本語でまとまって読める抽象絵画の歴史についてのほぼ最新の文献っぽかったので、読んでみることにした。 テーマ別に章分けされており、抽象絵画は第1章と第3章 第2章にダダやシュ…

アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは…』(須賀敦子・訳)

去年の年末あたりから「海外文学を読むぞ」と意気込んで読んできているわけだが、海外文学のおすすめ記事などを見ていると、わりと見かける名前が、アントニオ・タブッキである。自分は、意識的に海外文学について調べるまで全然知らなかったのだが、複数箇…

『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』(吉良佳奈江・訳)

この前、ギリシアSF(『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』 - logical cypher scape2)を読んだので今度は韓国SFを読んでみることにした。 最近、中国SFに次いで韓国SFも翻訳が進んでいる様子があるが、全然読んだことがなかったので、いい機会かと思い。ま…

阿部和重『Deluxe Edition』

2013年に刊行された阿部和重初の短編集 「初」というのに驚くが、今まで出してきた作品集は中編を含むということで、純然たる短編集としては初らしい。 ところで自分は、2014年に阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』 - logical cypher scape2…