SF

瀬名秀明『ポロック生命体』

AIをテーマに4篇収録した短編集 積ん読しているさいちゅうにいつの間にか文庫化されていた。 今まさに現実世界で話題になり続けている技術であるだけに、あっという間に古びてしまいかねないテーマではある。 ディープラーニング系のAIなどの発展が、人間の…

久永実木彦「わたしたちの怪獣」(『紙魚の手帖vol. 6 AUGUST 2022』)

先日、日本SF大賞候補作が下記の通り発表された。 樋口恭介(編)『異常論文』(早川書房) 荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』(小鳥遊書房) 小田雅久仁『残月記』(双葉社) 小川哲『地図と拳』(集英社) 久永実木彦「わたしたちの怪獣」(東京創…

ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング『ディファレンス・エンジン』(黒丸尚・訳)

言わずと知れたスチームパンクSFの古典 遙か昔に一度読んだことがあったのだが、全然内容を把握することができず、いつか読み直そうと思いながら幾星霜……。 ギブスン+スターリング『ディファレンス・エンジン』 - logical cypher scape2 最近、巽孝之『恐竜…

伴名練「二〇〇〇一周目のジャンヌ」

『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー』所収の短編 このアンソロジー自体、読みたいなと思っているのだが、他に読みたい本が結構たまっていて、色々比較しているうちに優先順位を少し下げてしまった一方、本作だけ、web上で期間限定で読めるうちに読んでいた…

『SFマガジン2022年2月号』

先日、ハヤカワSFコンテストと創元SF短編賞 - logical cypher scape2という記事で「坂永雄一や酉島伝法など、年刊SF傑作選などを通じてわりと読んでいてもう少し読みたいなあと思っている作家もいる。」と書いたのだが、そういえば、最近のSFマガジンに坂永…

ハヤカワSFコンテストと創元SF短編賞

春暮康一『オーラリメイカー』 - logical cypher scape2が第7回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作だったのだが、「あれ、そういえば自分、今までハヤカワSFコンテスト受賞作ってそんなに読んでいないのでは?」「創元SF短編賞の方が読んでいる気がするなー」…

春暮康一『オーラリメイカー』

惑星系を改造するような宇宙生物が登場し、知性の役割を問い直す宇宙SF 第7回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作で、その後出た春暮康一『法治の獣』 - logical cypher scape2と世界観を共有している。 短編「虹色の蛇」も収録 『法治の獣』が面白かったので…

リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳)

突如人類が滅亡し、最後の生き残りとなってしまった老天文学者と、木星から地球へと帰還するクルーたちが、それぞれに孤独を受け入れ愛に気付くまでの物語。 日本語訳は2018年に刊行されており、その際、冬木さんや牧さんの書評を読んで存在は知っていたのだ…

サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』(市田泉・訳)

滅法面白く装丁もかっこいい短編集 各SF雑誌で掲載された短編を収録しており、筆者初の単行本である(ただし、邦訳された本としては2冊目。長編『新しい時代への歌』が先に邦訳された)。 まず、内容ではなく装丁の話からする。ジャケ買いに近い感じだったの…

春暮康一『法治の獣』

地球外生命SFの中編3篇を収録した作品集。 3篇中2篇がなんとバッドエンドなのだが、それも含めていずれも面白い作品 地球人類が太陽系外に有人探査できるようになった未来で、3作品とも同一の世界を舞台としている(作者により「系外進出」シリーズと称され…

冲方丁『マルドゥック・アノニマス7』

3巻以降年に1回のペースで刊行されている同シリーズ。自分も大体毎年6月頃に読んでるっぽい。 冲方丁『マルドゥック・アノニマス1』 - logical cypher scape2 冲方丁『マルドゥック・アノニマス2』 - logical cypher scape2 冲方丁『マルドゥック・アノニ…

『ラブ、デス&ロボット』シーズン3

NetflixオリジナルのSF短編アニメオムニバス。 2019年にスタートしたシリーズ。 『ラブ、デス&ロボット』 - logical cypher scape2 最近、シーズン3が公開された。なお、シーズン2は、昨年2021年に公開されていたようだが、全然気付いていなかったので、…

ジョナサン・ストラーン編『創られた心 AIロボットSF傑作選』

最近、テーマ別の書き下ろしSFアンソロジーの翻訳が東京創元社から度々出ているが、今回はタイトル通り、「創られた心」をテーマにしたもの。 基本的にはAI・ロボットだが、脳インプラントものやサイボーグものっぽいものもある また、英米の作家以外に、バ…

上田早夕里『獣たちの海』

オーシャン・クロニクルシリーズの書き下ろし短編集 温暖化で海面上昇した未来世界を舞台にしたオーシャン・クロニクルシリーズ 本作は、海上民からの視点で描かれた短編が4作収録されている。獣たちの海 (ハヤカワ文庫JA)作者:上田 早夕里早川書房Amazon 迷…

プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』(関口英子訳)

1966年に刊行されたSF短編集、日本語訳は2008年。 レーヴィというと、アウシュビッツ体験について書いた作家でアガンベンが論じていたということしか知らなくて、このような作品を書いていることは全く知らなかったのだが、下記のモッタキさんのツイートで存…

大森望編『ベストSF2021』

2020年に発表された日本の短編SFの中から、大森望が選んだ11作 2008年から2019年まで創元から出ていた「年刊日本SF傑作選」の、版元が竹書房に、編者も大森・日下から大森単独に変わっての後継シリーズ第2弾*1 タイトルは『ベストSF2021』だが、収録されてい…

『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編)

伴名練による作家別アンソロジーシリーズ第3弾*1 石黒作品は、過去にやはりアンソロジーで「冬至草」と「雪女」を読んでいて、面白かったので気になっている作家ではあった。 「冬至草」と「雪女」はわりと似ていて、どちらも架空の研究をノンフィクション風…

ラヴィ・ディドハー『完璧な夏の日』

様々な特殊能力を持った超人(ユーバーメンシュ)が存在する20世紀を描くSF おおむね第二次世界大戦前後のヨーロッパが舞台だが、ベトナム戦争やアフガン侵攻、911なども出てくる。なお、原題はThe Violent Centuryであり、こちらのタイトルの方が内容には沿っ…

『パワードスーツSF傑作選 この地獄の片隅に』(ジョン・ジョゼフ・アダムズ編、中原尚哉訳)

パワードスーツをテーマにした書き下ろしSFアンソロジー やはり宇宙や戦場を舞台にした作品が多いが、開拓時代のオーストラリアやスペイン内戦を舞台にした歴史改変系SFがあったり、ラブロマンスサスペンスものがあったりと、多様性があってちょっと驚く。 …

『SFマガジン』2021年6月号

異常論文特集 SF短編集とかに時々入ってる論文風とかレポート風の作品が好きなので、この特集は当然買いだった そういう感じの作品としては、柞刈湯葉の裏アカシックと、柴田勝家の宗教性原虫がそれっぽさ(?)があって面白かったが、一方、最後に並ぶ3編が小…

冲方丁『マルドゥック・アノニマス6』

ウフコックがアノニマスからウフコック・ペンティーノへと帰る道を歩み出す 4巻から続いた、2つの時間に分かれて進む展開が、ここにきてようやく合流 再会と再出発としての別れを同時に描くために、ここまでこんな展開をしてきたのか、と思った冲方丁『マル…

オキシタケヒコ『筐底のエルピス7 継続の繋ぎ手』

とりあえず読み終わったのでその記録筺底のエルピス7 -継続の繋ぎ手- (ガガガ文庫)作者:オキシタケヒコ発売日: 2021/02/18メディア: Kindle版 今まで頼りになる味方だった人物が、それも3人まとめて敵になってしまった、さあどうする、という回だった

橋本輝幸編『2010年代海外SF傑作選』

橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』 - logical cypher scape2に引き続き、2010年代傑作選 個人的な好みでは、2000年代のより2010年代の方が好きな作品が多かった。 前半にポジティブな作品、半ばにダークな話が続き、後半は奇妙な話ないし不思議な動物の話…

橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』

2000年代というとわりと最近のような気もするが、もう10〜20年前のことであり、自分もまだほとんどSFを読んでいなかった頃だったりする 「暗黒整数」は言うに及ばず「ジーマ・ブルー」「地火」が面白かった2000年代海外SF傑作選 (ハヤカワ文庫SF)作者:エレン…

天冥の標9・10

というわけで読み終わりました 最後はシリーズの集大成なわけだけども、各巻ごとに異なる顔を見せてきた本シリーズは最終巻でもやはりそうで、これまでになくスペオペ 無数の地球外知的生命体種族が現れ、意味不明なスケールの宇宙艦隊戦をやり始める ポッと…

天冥の標(7・8)

巻ごとに異なることを色々やってるこのシリーズ 7巻は、十五少年漂流記、ただし子どもの数は5万人、みたいなっ 奴だった で、少しずつ、これが一巻のメニーメニーシープにつながっていくんだろうなというのは分かってくるんだけど、実際に繋がった時には、う…

天冥の標(5・6)

一巻のあとがきで、やれることを全部やる的なことが書かれていたが、5巻でようやく何となくその意味が分かってきた 5巻は、小惑星の農家の話で、これまた1〜4巻とは少し雰囲気が異なる。 こうやって、1つの物語の中でしかし、様々なネタ・アイデアを展開し…

天冥の標(1〜4)

ついに読み始めてしまった…… これ読み始めたら、しばらく他のもの手につかなくなるなと思って、読まずにいたのだけど 無料だったkindleを読み始めたのが運の尽きw とりあえず途中経過 こんなにも性と羊をめぐる話だったとは あと、こんなに各巻ごとに時代も…

伴名練編『日本SFの臨界点[恋愛編]死んだ恋人からの手紙』

タイトル通り、恋愛SF(一部、恋愛ではなく家族愛ものだが)を集めたアンソロジー 何故か歴史改変ものが2作ある。 恋愛SFというと時間SFと相性がよいという勝手なイメージがあるが、その点直球の時間SFはなく、しかし、歴史改変ものも広義の時間SFと捉えればそ…

津久井五月『コルヌトピア』

植物と都市、そして庭園のSF 人と居場所を巡る物語、かもしれない 「コルヌトピア」と、文庫化に伴い、その後日譚(15年後を描いた)「蒼転移」が書き下ろしで収録されている。 ビルディングが植物で覆われた未来都市、というのは絵的にはありがちだが、新宿と…