上田早夕里『獣たちの海』

オーシャン・クロニクルシリーズの書き下ろし短編集
温暖化で海面上昇した未来世界を舞台にしたオーシャン・クロニクルシリーズ
本作は、海上民からの視点で描かれた短編が4作収録されている。

迷舟

〈朋〉となるはずだった魚舟が戻ってこなかった主人公が、〈朋〉を探して迷い込んできた魚舟=迷舟と一時交流する話

獣たちの海

魚舟視点で描かれた作品
おそらく「迷舟」で出てきた迷舟なのではないかと思わせる
生まれた直後、海へと放され、巨体へと育っていき、帰巣本能に基づき群れへと戻ろうとするが、ついに見つけられず、獣舟へと化していく
人間、特に陸上民からすると、害獣である獣舟であるが、当の本人*1からすればそんなこととは関係なく、生きる意志によって行動しているだけ

老人と人魚

ある海上民の老人が死期が近づいてきたのを感じて、再び1人で船出する
1人のルーシィがついてくる。

カレイドスコープ・キッス

本書の半分以上のページ数がこの作品(他の3作が短め)
近づいてくる〈大異変〉を前に、マルガリータ・コリエへの移住を選択した海上民たち
主人公である銘は、子どもの頃に移住してきた1人。両親はもちろん、兄姉も海上民としてのアイデンティティがあるが、銘は海で暮らしていた頃の記憶がなく、海上民としてのアイデンティティは希薄で、陸上民と同じように、アシスタント知性体とともに育った。
銘は保安員(リンカー)となり、都市周辺で暮らす海上民たちと陸上の政府との間を取り持つ仕事を始める。そうした中彼女は、まだ年若いオサのナテワナと出会う。
獣舟にどう対処するのか、という課題を軸にしつつ、銘とナテワナの交流を描く。

*1:魚舟も人といえば人 なのである