自衛隊を活かす会『新・自衛隊論』

普段読むのとはだいぶ毛色の違う本だけれど、普段あまり表だって言わないものの安保法制反対派なので、一応勉強しておこうかと。それで、伊勢崎賢治の本をいくつか読んでおきたいと思って手に取った1冊。伊勢崎賢治は、『RATIO』01〜04 - logical cypher scapeで知ってそれ以来気にはなっていたのだけど、最近またよく見かけるようになったので。
伊勢崎賢治は、この「自衛隊を活かす会」の呼びかけ人の1人らしい
代表は、元防衛官僚の柳澤協二、もう1人の呼びかけ人は、政治学者の加藤朗
この本は、この3人+元自衛隊幹部や政治学者の文章がまとめられたもの
基本的には9条護憲の立場で、なおかつその中で自衛隊を位置づけるという考え。
人によって具体的な考え方は違うが、例えば加藤の、「自衛隊専守防衛を徹底して海外派遣はなし、国際貢献は民間NPOで」というのが分かりやすいところか。


本書の内容について行く前に個人的な意見をちょっと書いておくと
まあ、9条そのまま読んだら自衛隊違憲だよね、と。
以下は結構昔にぽやーっと考えていたことだけど
自衛隊は現に存在しているわけではい解散というわけにはいかないわけで、自衛隊って実際の活動としては災害派遣が多いわけだし、災害レスキュー部隊としての面を見せてもいいのではないだろうか、とか
9条があるわけで、やはり紛争解決のために部隊を海外派遣するのはNGだと思うんだけど、国際貢献として人を出すなら、海外であってもレスキュー部隊として即座に出動できる人員が一定数いてもいいのではないか、と。
あと、国境警備隊としての海保。不審船とか出てきた時、実際に前線(?)いってる経験多いの、海自より海保だし、海保を強化すればいいのでは、とか。
まあ、ここらへんただのぼんやりとした思いつきに過ぎないのだけど、もともとこういう考え方をしていた自分にとって、この本は「あ、勉強になりそう」って気がしたし、実際読んでみて勉強になった。

第一部 「専守防衛」と「安全保障」の本質を考える
1 現代に生きる専守防衛 柳澤協二(元内閣官房副長官補・防衛庁運用局長)
2 日本防衛にとって何が必要なのか 冨澤暉(元陸幕長)
3 中級国家・日本の平和国家戦略 加藤朗(桜美林大教授)
4 米中関係と日本の安全保障 植木千可子(早稲田大教授)
5 中国の対日政策と「平時の自衛権」問題 小原凡司(東京財団研究員)


第二部 対テロ戦争で日本と自衛隊が求められる役割
1 国際テロ対策と日本の役割 宮坂直史(防衛大教授)
2 対テロ戦争の位置と「憲法9条部隊」構想 加藤朗
3 「イスラム国」の背景にあるイラク国家建設の失敗 酒井啓子千葉大教授)
4 対テロ戦争での非武装自衛隊の役割 伊勢崎賢治(元国連職員・東外大教授)
5 「対テロ戦争」問題の諸論考に学ぶ 柳澤協二


第三部 集団的自衛権のリアリティ――防衛のプロが見た15の事例
1 15事例の分析と軍事的・政治的リアリティ 柳澤協二
2 陸上自衛隊から見た15事例 渡邊隆(元陸将)
3 航空自衛隊から見た15事例 林吉永(元空将補)
4 軍事技術の発展の視点から捉えた15事例 加藤朗
5 カンボジアPKO派遣の教訓 渡邊隆
6 南スーダンPKO派遣の教訓 山本洋(元陸将)


提言 変貌する安全保障環境における「専守防衛」と自衛隊の役割――あとがきにかえて

内容全部書くの大変なので、まあ気になったとこだけ

第一部 「専守防衛」と「安全保障」の本質を考える

まあ、特に新しい話でもないんだけど、この章の全体のトーンとしては、まず現状分析として、中国の大国化とアメリカの弱体化、経済関係によるつながりを冷戦期との違いとしてあげている。冷戦の時に考えられていたような全面的な戦争の恐れはまずない。が、挑発とか小競り合いとかは起こる可能性はある。日本は列島でそもそも守りにくいので、そういった場合に局所戦で押さえ込む戦力を揃えておくのが大事。

1 現代に生きる専守防衛 柳澤協二(元内閣官房副長官補・防衛庁運用局長)

「基盤的防衛力(1976防衛大綱)」:限定的・小規模な侵攻に対処する、どういうパターンにも対応できるようにする
「動的抑止」「離島防衛」(2013防衛計画大綱)→あまり現実的でないのでは?
アメリカが期待するもの→国益重視に戻っているのでアジアで無用な争いは起きて欲しくない、在日米軍基地の防衛、米軍の力がなくてもある程度対処できる沿岸警備隊の能力構築、情報支援→集団的自衛権ではない
(そもそも集団的自衛権といっても他国を防衛する能力を日本は持ってない)
現代においてこそ、専守防衛なのでは(やられたらやり返すが、こちらからは手を出さない・挑発しない)

2 日本防衛にとって何が必要なのか 冨澤暉(元陸幕長)

中国の脅威=三戦(心理戦・広報宣伝戦・法律戦)→自衛隊じゃなくてNSCの仕事
敵基地攻撃能力→海自は敵基地の情報を持ってないので無理、米軍だってちゃんとは情報持ってない
南西諸島防衛→チョークポイント(海上隘路)封鎖だと言われるが、南西諸島は隘路というには広すぎ、仮に封鎖しても中国は南シナ海から太平洋に出れるので無意味
邦人救出自衛隊はおろか世界のどの軍隊でも無理
情報収集→ヒューミントが大事だから機密費がもっと必要

3 中級国家・日本の平和国家戦略 加藤朗(桜美林大教授)

大国・中級国・小国にわける
大国は米中2国
中級国は、G8とかG20とか
日本は中級国
英独仏加豪は、中級国であり「普通の国」として集団的自衛権を行使するような安全保障戦略をとっているが、これらの国は協力して地域秩序を構築している。日本は、周辺諸国中韓)と協力して地域秩序を構築できてないので、「普通の国」の安全保障戦略もとれない
ゆえに
(1)国家安全保障戦略としては、「専守防衛
(2)国際安全保障戦略としては、「非軍事分野での貢献」


専守防衛」とは
軍事用語では「戦略守勢」
専守防衛は軍事用語ではなく外交用語
佐藤内閣当時、中曽根防衛庁長官が「非核中級国家論」を唱える→佐藤が「中級国家」という表現を嫌がり「専守防衛国家」に修正したのが、この用語の始まり


「非軍事分野での貢献」
(1)巨額の援助はもう無理
(2)自衛隊の国外出動は国土防衛を危うくする
(3)人道支援・復興支援は、自衛隊より民間の専門家の方が効率的にできる
→民間の「憲法9条部隊」の設立


面白かったのは、筆者自らが極論と呼ぶ9条解釈で
全面放棄説に立つ場合、国民は憲法13条の幸福追求権に則り武装する権利を持つ、というもの。民兵組織をつくってもいいし非暴力を貫いてもいい。
9条の革命性は、国家による暴力の独占を否定したこと、と。
面白い面白い

4 米中関係と日本の安全保障 植木千可子(早稲田大教授)

中国の動き
世銀への代替としての、新開発銀行(BRICS銀行)
アジア開発銀行への代替としての、アジアインフラ投資銀行
TPPへの大公としての、FTAAP
CICA(アジア信頼醸成措置会議)
アメリカの作る枠組みへの対抗・代替
一方、温暖化ガス合意、防衛協力についての合意など、米中協力関係の推進もみられる


抑止がうまくいくためには、軍事能力だけでなく、シグナル・共通認識が必要
日本は、対中抑止策として、後者2つが進められていない
「上陸」と「全面戦争」のあいだには幅があって、上陸は断固として阻止する、としても、そのために全面戦争までしたいわけではない。となれば、その間のどこかで止まるだろうと考えがちだけど、自然には止まらない。
抑止のためには、全面戦争も辞さないという覚悟を示す必要はある。一方、激化不可避だととられると、逆に紛争のエスカレートを止めることができない。
「これ以上やると大変な目にあうぞ」ということと「これ以上でなければお互い手を出さない」ということの両方を構築しないといけない。

5 中国の対日政策と「平時の自衛権」問題 小原凡司(東京財団研究員)

中国が望む、米中の「新型大国関係」→対立しているけど共存している関係
西進戦略:対日強硬派を押さえ込むための西進
アメリカへの共存のための軍事プレゼンス獲得
空軍の不満へ対処するための空軍増強
習近平の権力掌握
軍事衝突を避ける方向性→コーストガードを使う
武装漁民→警察権で対処できる
コーストガード→国の機関なので警察権では対処できない、侵略でなければ自衛権でも対処できない
「平時の自衛権」→修理が必要で……と言うのであれば護衛艦で曳航したりする
集団的自衛権よりも「平時の自衛権」の方を議論すべき

第二部 対テロ戦争で日本と自衛隊が求められる役割

1 国際テロ対策と日本の役割 宮坂直史(防衛大教授)
2 対テロ戦争の位置と「憲法9条部隊」構想 加藤朗
3 「イスラム国」の背景にあるイラク国家建設の失敗 酒井啓子千葉大教授)

2008年に死傷者はへる
ペトレイアス方式の成功
2013年以降死傷者増加
政権が安定しなかった


サマーワへの自衛隊派遣の効果の検証が必要
民間企業による復興事業へとつなげるためという名目だったが、2011年までに3件しか受注できていない
イラク戦争に反対していた仏独はアメリカに次いで多く受注してる、次いで中韓もそれぞれ13件受注


宿営地、現地の人へ譲り渡したが、「使い方が分からない」とのことで使われていない
ただ、自衛隊の評判はよい


4 対テロ戦争での非武装自衛隊の役割 伊勢崎賢治(元国連職員・東外大教授)

集団的自衛権と集団安全保障は別物、しかし最近は限りなく一致しつつある
アフガン戦争の時もそう、NATO集団的自衛権を発動させたOEFと、国連安保理が発動させたISAFがあって、ISAFNATOの指揮下にあった
実態としては一体化。しかし法的根拠は違う。各国はそれぞれの事情にあわせて参加することになる
日本は、OEFの下部作戦(補給任務)に海自を派遣した
というわけで、既に日本はアフガンで集団的自衛権使っている。法的には、OEFでなくてISAFに参加するのが筋が通っていた。ただ、ISAFだと陸自派遣することになるので実際にドンパチする羽目になった可能性が高い。


あと、アフガンの武装解除の話
軍閥を解体しつつ、タリバンに対抗できる国軍を育成しつつ、人々がタリバン軍閥ではなくネーションに帰属意識を持たせるようにしつつとかやっているうちに、アメリカに厭戦気分が出てきて撤退が決まって、でも国軍はまだできてなくてやばい
パキスタンにもタリバンができてやばい。そうなると、印パ中、イランが介入しようと暗躍しはじめてやばい。
とにかく、やばい話しかなくて、実際結局アメリカのアフガン戦争は失敗し、今も混迷の状況にあるのだけど
不謹慎ではあるが、この伊勢崎さんの話、正直面白いので、小説とかとして読んでみたい、と思った


あとはまあ、国連の任務として停戦監視は重要で、日本は「戦わない」というブランド、各国からの信頼を持っているから、停戦監視団に参加するのがよい、という話


5 「対テロ戦争」問題の諸論考に学ぶ 柳澤協二

第三部 集団的自衛権のリアリティ――防衛のプロが見た15の事例

そんなこと本当に起こりうるのかって話と、それって集団的自衛権じゃなくて個別的自衛権じゃないのかって話と、そもそも自衛隊には能力的にそれはできないって話とか、そういうの

1 15事例の分析と軍事的・政治的リアリティ 柳澤協二
2 陸上自衛隊から見た15事例 渡邊隆(元陸将)
3 航空自衛隊から見た15事例 林吉永(元空将補)

空自の文化は「勇猛果敢支離滅裂」、陸自は「用意周到動脈硬化」、海自は「伝統墨守唯我独尊」というそうな
そも、15事例では航空のことが入っていない
あと、航空は現場での判断が一瞬なので、陸上、海上とは事情がだいぶ異なるとか。
それから、ICT化が進んでる現代の戦争を考えると、15事例とかは古くないのか、とか

4 軍事技術の発展の視点から捉えた15事例 加藤朗
5 カンボジアPKO派遣の教訓 渡邊隆
6 南スーダンPKO派遣の教訓 山本洋(元陸将)

提言 変貌する安全保障環境における「専守防衛」と自衛隊の役割――あとがきにかえて


新・自衛隊論 (講談社現代新書)

新・自衛隊論 (講談社現代新書)