はるか未来、地球は植物が支配する世界となっており、人類は文明を失い、森の片隅でひっそりと暮らす存在になっていた。自グループから追放されてしまったグレンは、他の地域の見知らぬ動植物や人々を見て回ることになる。
今まで読んだオールディス作品は、ブライアン・オールディス『寄港地のない船』 - logical cypher scape2と『20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻』 - logical cypher scape2に収録されていた「讃美歌百番」。
むろん、有名な作品なので以前から気になっていたが、「讃美歌百番」が面白かったので、いよいよ読むことにした
なお、原題は”Hothouse(温室)”だが、邦訳タイトルは、アメリカ版のタイトルである”the Long Afternoon of Earth”からとったとのこと。
やはり、変な植物がたくさん出てくる、というところが一番面白い。
ツナワタリとアシタカが(あるいはベンガルボダイジュもそうなのだが)、スケール感が大きくて、絵的にも映えるところがあって、読んでても面白かった。
それから、最近読んだ別のSFの元ネタってこれだったのかな、というのも思った。
一方、物語的には、振り返ってみると、わりと行き当たりばったりな話だったなあという感じはある。もっとも、そのことが特別マイナスになっているわけでもないのだが、しかし、一体どういう話だったんだっていうと、グレン少年が色々旅しました、以上という感じもする(感想後述)。
内容
まず、物語はリリヨー率いるグループの子どもがひとり死んでしまうところから始まる。
この物語全体の主人公はグレンという少年だが、序盤では、このグループの年少世代の一人として名前が出てくるだけで、むしろリリヨーが主人公として描かれている。
20名弱の集団なのだが、人がえらくあっさりと死ぬ。
リリヨー含めメンバーの大半は女性で、男は希少な存在となっている。
動物はほとんどが絶滅し、植物の中には動物を模倣した動き回る種もいる。
地球の自転は止まっていて、昼間の領域の大陸は、ベンガルボダイジュという巨大な樹によって覆われていて、リリヨーたちもその樹の上で暮らしている。
で、リリヨーは自分たちの死期が近いと考え、みなでボダイジュの頂へと向かう。
そこには、ツナワタリという植物が上空から蔓をおろしていて、莢が上空と頂とを行き来している。年長世代は、この莢に乗って天へと旅立つ。
で、なんとこのツナワタリは月と繋がっていて、莢は月へと到着する。
リリヨーたちは、文字通りそのまま天に召されると考えていたはずだが、月で目覚めて、鳥人たちと出会う。鳥人は、地上では敵対していたのだけど、リリヨーたちも放射線浴びて鳥人に姿が変容してしまっている。
リリヨーと鳥人たちの話はここでいったん終わりになって、最後の最後でまた再び出てくることになる。
残された年少世代では、トイという少女が新リーダーとなるのだが、まだ求心力がない。
鳥のように飛ぶ植物がいて、これを狩って食べることを提案するのだが、これに失敗。逆に、この植物鳥に乗って海岸まで飛ばされてしまう。
海はボタイジュが支配できなかった世界で、海岸は、海の植物とボタイジュの森の植物とが対立する最前線となっている。
植物たちが激しく争う、まさに弱肉強食、万物と万物の闘争みたいな光景が繰り広げられ、トイたちは必死にボダイジュの森めがけて移動を開始する。
しかし、ここでグレンが、トイの指示に反発。トイはついにグレンを追放する。
グレンは、砂でできた城へと逃げ込む。この城、ハガネシロアリが作ったもので、ハガネシロアリに案内してもらう。ハガネシロアリは森でも人間の味方をしてくれる生き物であった。
ところでこの城には、茶色いぶよぶよしたものを頭に乗せているシロアリがいて、グレンを案内していたのもそういう奴
果たしてその茶色いぶよぶよは、他の生き物に寄生して生きるアミガサダケで、グレンも寄生される。
グレンの脳内では、アミガサの声が聞こえるようになり、アミガサとグレンは共生するようになる。
今後、グレンは半ばアミガサに命令されながら、さすらうことになる。
トイたちはこの後、物語で再度出てくることはないのだが、トイのグループからポトリーという少女が抜け出してきて、グレンと行動をともにすることになる。
アミガサに寄生されたグレンとポトリーは、森の果てで〈牧人〉というグループと出会う。
彼らは〈魚取り〉というグループと交易している。
アミガサは、人類を支配するという野望を抱き、グレンに〈牧人〉〈魚取り〉グループを掌握させようとする。
彼らは〈黒い口〉というのを崇めている。これは火口なのだけど、この中にセイレーンのように歌声で他の生き物を呼び寄せる植物が住み着いている。
結局、グレンは〈牧人〉グループから追い出されてしまい、〈魚取り〉グループへ接近する。その際、〈牧人〉グループのヤトマーという美少女がグレンと同行することになる。
〈魚取り〉は、知能の劣った人々で、会話はできるが何言っているのかが分かりにくい。そして何より、ポンポンの木から伸びる蔦(?)が尻尾のようになってつながっていて、木からのコントロールに従って、漁労をしていたのだった(以後、〈魚取り〉の人たちは、作中で「ポンポン」と呼ばれる。彼らは魚をたらふく食ってお腹がでているので)
グレン=アミガサは、その尻尾を切りおとして、ポンポンたちを支配から解放するが、ポンポンたちからは嫌がられる。そのどさくさの中でポトリーが死ぬ。
グレン=アミガサ、ヤトマー、そしてポンポンたちは、舟に乗って川を下ることになる。
河口から海へ、そして、島へと漂着する。
舟の上で、グレンとヤトマーがセックスしていたのを見て、ポンポンはヤトマーのことをサンドイッチ姉さんと呼ぶようになる。ポンポンは、セックスのことをサンドイッチと呼ぶらしい。しかし、サンドイッチが何か彼らは知らないはずだが。
あと、人類全体の記憶が個人の脳の中に引き継がれているという設定で、アミガサはグレンの脳の無意識下から人類史を掘り出す(この設定、なかなかトンデモない設定だなと思うが、突っ込んだら負けな奴かなと)。
それによれば、人類はそもそもアミガサの祖先種に寄生されたことで、知能を進化させた、と。それを知ってアミガサは大興奮して、アミガサ(と人類)の栄光再び! と野心を燃やすのだが、まあ、グレンはそれにはついていけない。
最初こそ、アミガサがもたらした知識に喜ぶグレンだったが、すぐに、アミガサとの不一致が明らかになり、いやいやアミガサに従うというのが続いていくことになる。
さて、漂着した島は比較的平和で、ヤトマーやポンポンはここに定住しようとするのだが、アミガサは反対する。
ところで、この島には、まだ文明があった頃の人類の遺物があって、ひたすらプロパガンダを繰り返す機械仕掛けの鳥のおもちゃとかが出てくる。
グレンらと比較して、比類なき知識をもつアミガサも、この鳥が言っている内容は理解できておらず、的を外した説明をグレンにしていたりしている。
アミガサの指示に従って、グレンは、島に生息しているアシタカという植物の生態を観測する。
受粉すると、名前の通り、アシのような構造を伸ばして歩き出すという植物で、そのまま海を渡っていく。
このアシタカに乗って島を脱出するぞ、とアミガサ=グレンは息巻く。ヤトマー(とポンポン)は嫌がるが、まあアシカタに乗ることになる。
本書の中で一番驚くべき植物は、月に到達しているツナワタリだとは思うが、次にすごい、というか、映像的に映えるのはこのアシタカだろう。
ひたすら、自動的に歩き続けて海を渡り、さらに大陸に上陸してもそのままずんずんと進み続け、昼夜境界線も越える(この地球は自転が停止しているので、常に昼の領域と常に夜の領域がある)
で、真っ暗な山地を越えて、ようやくアシタカは停止する。
当然めちゃくちゃ寒い世界なんだけど、そんな世界にも生物は存在する。昼間の領域での生存競争から逃れて、こちらにニッチを見出した生物たち。
その中には、トンガリという、中途半端にヒト語を喋るイヌのような生き物たちがいる。
ヤトマーは、グレンとの間にできた子を出産するが、グレンは完全に塞ぎ込んでしまう。
ポンポンたちとトンガリたちは何となく親しくなっている。
そんな中、ソーダル・イーとそのお付きの者たちが現れる。
ソーダル・イーは、知性を持った魚のような生き物で、人間に自身を運ばせている。さらに2人の女性が付き従っていて、1人は時渡りの能力を持つ(未来視のようなことができる)が、その代わりに言葉を失っている。もう1人は、時渡りはできないが言葉は分かり、ソーダル・イーと時渡り能力者との間の通訳的存在。
ヤトマーはソーダル・イーに、グレンとアミガサについて相談する。ソーダル・イーは一計を案じて、見事、アミガサとグレンを切り離すのに成功する。
ソーダル・イーは、世界中を旅して回っており、グレンとヤトマーは彼らとともに昼の領域へと戻ることにする。
ソーダル・イーはかなりの長命で、かつとにかくすごく喋る奴で、この昼夜境界領域で、様々な部族の興廃があったことを語る(時渡り能力者は、かつて興隆していた部族の生き残り)
で、戻ってきて、アミガサの逆襲があったり、月から戻ってきたリリヨーたちと再会したりする。
ポンポンとかトンガリとか、異なる種同士の融合みたいなことが起きているのが、退化なのだ、という話があったり。
リリヨーたちから、この地球がいずれ太陽の新星化に伴い滅びること、それを逃れるため宇宙へ脱出する計画があることなどが聞かされるが、グレンはしかし、それはさらに何世代もあとのことであって自分たちにはさしあたり関係ないとして、リリヨーたちについていくことを拒否する。
感想
色々な諸要素が面白くて、それだけで普通に面白く読めていくんだけど、特に伏線とかにはならないんだな、と。
トイたちが、グレン追放後は一切出てこなくなる、というのも、「え、あれで終わりなんだ」となるし、ポトリーの死なんかもテキトーな感じはする。
文明を失った人類はもはや弱者で、ちょっとしたことであっさり死んでいくし、それについてあんまり深く気にされてもいない、というのは描かれているところで、そういう意味で、ポトリーがあっさり死ぬというのは、作中世界の出来事としては「まあそういうこともあるんだな」と思えるが、物語のつくりとしては、グレンのパートナーとして登場しつつ、その恋のライバル的な存在としてヤトマーが出てきた途端、物語から退場となるので、物語の都合で殺されたな感がありありとする(ポトリーは、グレンとともにアミガサに寄生されてしまっているが、その後の展開上、寄生されていない女の子を旅の道連れとしたかったのだろう)。
ソーダル・イーもなんか都合のよい存在といえばそうで、にっちもさっちもいかなくなったグレン=アミガサ問題を解決する、デウス・エクス・マキナっぽい感じがする。
まあ、ソーダル・イーは見た目が面白いし、キャラも立っているので、それだけで「まあ、いいか」とはなってしまうのだが。なんだったんだ、あいつ。
ハガネシロアリなんかも、わりとあっさり物語からいなくなるよなあ。まあ、物語の舞台が、ボダイジュの森から出てしまうから、ハガネシロアリが出てこなくなるのも仕方ないのだが。