2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

倉田タカシ『あなたは月面に倒れている』

筆者の初のSF短編集。2010年代各所で発表された作品8編*1と書き下ろし1編を収録している。 あとがきで作者自身が述べているが、前半と後半とで作品の雰囲気というか作風がずいぶんと違っている。前半の5編は設定やプロットがちゃんとあるが、後半4編は、奇…

リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』(工藤幸雄・阿部優子・武井摩利・訳)

アフリカについてのルポルタージュ。ポーランドのジャーナリストである筆者が、1958年からおよそ40年に渡って取材してきたアフリカ各国でのルポ29篇からなっている。 「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」におさめられた1冊である。文学というとつい小説を…

滝口悠生「恐竜」(『文藝2023年秋号』)

この作品を読もうと思ったのはタイトルが恐竜だったから、では決してなくて、以下の矢野さんのツイートによる。 滝口悠生さんの「恐竜」(『文藝』2023・秋)、めちゃ良いですね。ここ最近の滝口作品のなかでもとても好き。保育園するからだだと思いました、…

『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』

ギリシャで書かれた短編SFアンソロジー もはや完全に翻訳SFの一角をなした竹書房文庫から。 タイトルには傑作選とあるが、元の本として『α2525』という、未来のアテネを想像するという企画による短編アンソロジーがある。これにさらに英語圏で発表されていた…

『犬王』

室町時代の猿楽師である犬王と琵琶法師の友魚(ともな)がバディを組んでロックをやる映画。 某動画サービスで見た。 2021年8月3日に、以下のようなツイートをしていた。 これ(『犬王』のこと)全然知らんかった 原作古川日出男、監督湯浅政明、脚本野木亜…

「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」展

アーティゾン美術館の3フロア全てを使った大規模展覧会 なお、以前アーティゾンに行った際には、1フロアにつき1つの展覧会をやっていた。一応全部見たので、3フロア全て回ってはいるのだが、とはいえ、目当て以外の展覧会は飛ばし気味に見ていた(Transform…

パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ 二〇世紀史概説』(阿部賢一・篠原琢訳)

20世紀の歴史をカットアップした実験小説 海外文学読む期間をやっているが、海外文学といえば白水社だろと思って、白水社のサイトを見て回ってたときがあってその時に見かけて気になった本の1つ。 現代チェコ文学を牽引する作家が、巧みなシャッフルとコラ…

『ユリイカ 2023年7月臨時増刊号 総特集=大江健三郎』

実物を見ると600ページ超の分厚さにびびる。 大江健三郎について最近ちょっと読んでいるとはいえ、全然明るくないので、ごくごく一部の論考だけちらっと読んだユリイカ 2023年7月臨時増刊号 総特集◎大江健三郎 ―1935-2023―作者:工藤庸子,尾崎真理子,市川沙央…

スティーヴ・エリクソン『君を夢みて』(越川芳明・訳)

エチオピアの少女を養子としたアメリカ人作家ザンの「アメリカ」を巡る物語。 オバマが大統領選挙に勝った頃のロサンジェルスやロンドン、あるいはザンが書く小説の中のベルリン、ロバート・ケネディが大統領選に向けて活動中のワシントンなどを舞台にして物…

『文藝 2022年夏季号』

久しぶりに図書館で文芸誌の棚を見ていたら(というか『文藝』の別の号を探していたのだけど)、表紙にある「フォークナー」「イーガン」「犬王」の文字が目に入ってきたので、思わず手に取ってしまった。文藝 2022年夏季号河出書房新社Amazon ◎特集2 フォー…

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』(柴田元幸・訳)

分岐した20世紀のあいだで交錯するポルノ作家の男とダンサーの女の物語 片や1942年にナチスドイツがイギリスに勝利することになる世界で、ヒトラー専属のポルノ作家となる男と、片や1945年にナチスドイツが敗北する世界で、ダンサーとなる亡命ロシア人の女が…