小説
人類存亡の危機に立ち向かうべく、別の惑星系へ旅立つことになった1人の科学教師の物語。 アンディ・ウィアー『火星の人』 - logical cypher scape2やアンディ・ウィアー『アルテミス』 - logical cypher scape2に続くウィアーの第三長編。 アストロバイオロ…
台湾を舞台に、怪力でならす客家の少年が第二次大戦中から戦後にかけての動乱を生き抜く姿を描く長編小説。 「鬼殺し」というタイトルだが、「killing the Ghosts」と英訳されていて、中国での「鬼」は、日本語ではむしろ「幽霊」にあたる。「鬼」には基本的…
1979年、大江が44歳の時に書かれた書き下ろし長編。 谷間の村の神話=歴史を書き残すという使命を負った「僕」が双子の妹に宛てた手紙という形式で書かれている。 大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』 - logical cypher scape2に続けて読んだ。 『同時代ゲ…
1986年、大江が51歳の時に書かれた作品。祖母から聞いた谷間の村の神話・歴史が語られる。 本作は、『同時代ゲーム』(1979)をわかりやすく書き直した作品でもある。 『大江健三郎全小説(8)』に『同時代ゲーム』とともに収録されている。 『全小説』は基…
去年の年末あたりから「海外文学を読むぞ」と意気込んで読んできているわけだが、海外文学のおすすめ記事などを見ていると、わりと見かける名前が、アントニオ・タブッキである。自分は、意識的に海外文学について調べるまで全然知らなかったのだが、複数箇…
この前、ギリシアSF(『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』 - logical cypher scape2)を読んだので今度は韓国SFを読んでみることにした。 最近、中国SFに次いで韓国SFも翻訳が進んでいる様子があるが、全然読んだことがなかったので、いい機会かと思い。ま…
2013年に刊行された阿部和重初の短編集 「初」というのに驚くが、今まで出してきた作品集は中編を含むということで、純然たる短編集としては初らしい。 ところで自分は、2014年に阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』 - logical cypher scape2…
実家に帰った際に当該号が置いてあったので読んだ。 むろん「ハンチバック」目当てで読んだのだが(実家にあったのも同じ理由)、それ以外についてもちらっと読んだ。 感想をメモっておいたが、結果的に「ハンチバック」本編へのコメントが一番少なくなって…
筆者の初のSF短編集。2010年代各所で発表された作品8編*1と書き下ろし1編を収録している。 あとがきで作者自身が述べているが、前半と後半とで作品の雰囲気というか作風がずいぶんと違っている。前半の5編は設定やプロットがちゃんとあるが、後半4編は、奇…
アフリカについてのルポルタージュ。ポーランドのジャーナリストである筆者が、1958年からおよそ40年に渡って取材してきたアフリカ各国でのルポ29篇からなっている。 「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」におさめられた1冊である。文学というとつい小説を…
この作品を読もうと思ったのはタイトルが恐竜だったから、では決してなくて、以下の矢野さんのツイートによる。 滝口悠生さんの「恐竜」(『文藝』2023・秋)、めちゃ良いですね。ここ最近の滝口作品のなかでもとても好き。保育園するからだだと思いました、…
ギリシャで書かれた短編SFアンソロジー もはや完全に翻訳SFの一角をなした竹書房文庫から。 タイトルには傑作選とあるが、元の本として『α2525』という、未来のアテネを想像するという企画による短編アンソロジーがある。これにさらに英語圏で発表されていた…
20世紀の歴史をカットアップした実験小説 海外文学読む期間をやっているが、海外文学といえば白水社だろと思って、白水社のサイトを見て回ってたときがあってその時に見かけて気になった本の1つ。 現代チェコ文学を牽引する作家が、巧みなシャッフルとコラ…
エチオピアの少女を養子としたアメリカ人作家ザンの「アメリカ」を巡る物語。 オバマが大統領選挙に勝った頃のロサンジェルスやロンドン、あるいはザンが書く小説の中のベルリン、ロバート・ケネディが大統領選に向けて活動中のワシントンなどを舞台にして物…
久しぶりに図書館で文芸誌の棚を見ていたら(というか『文藝』の別の号を探していたのだけど)、表紙にある「フォークナー」「イーガン」「犬王」の文字が目に入ってきたので、思わず手に取ってしまった。文藝 2022年夏季号河出書房新社Amazon ◎特集2 フォー…
分岐した20世紀のあいだで交錯するポルノ作家の男とダンサーの女の物語 片や1942年にナチスドイツがイギリスに勝利することになる世界で、ヒトラー専属のポルノ作家となる男と、片や1945年にナチスドイツが敗北する世界で、ダンサーとなる亡命ロシア人の女が…
サイバーパンク・ハードボイルド 見幸市を牛耳るハイテク企業・佐久間種苗で発生した大規模細菌テロを皮切りに、元狙撃兵の捜査官、準市民の少女、元警官の探偵が、佐久間の秘められた計画をめぐる事件に巻き込まれていく。 同じ作家の作品として、以前結城…
毎年恒例、アノニマスの新刊 冲方丁『マルドゥック・アノニマス1』 - logical cypher scape2 冲方丁『マルドゥック・アノニマス2』 - logical cypher scape2 冲方丁『マルドゥック・アノニマス3』 - logical cypher scape2 冲方丁『マルドゥック・アノニ…
1967年、大江健三郎が32才の時に書かれた長編小説。前作から3年のブランクを経て、大江にとって30代初の長編作品であり、代表作品でもある。 1960年代の愛媛の谷間の村を舞台に、内向する主人公と活動的な弟との対比を描く。 障害者の子が生まれ、友人を自殺…
ヒューゴー賞、ローカス賞、ネビュラ賞の三冠を受賞した表題作を含むSF短編集 作者のバトラーは、1947年生まれで2006年に亡くなっており、本書も原著は1995年に刊行されている。長編が一つ邦訳されているが、日本ではほとんど紹介されてこなかった作家だとい…
19世紀フランスで女性解放活動家として労働組合結成を呼びかけたフローラ・トリスタンと、その孫でポスト印象派の画家であるポール・ゴーギャンの半生をそれぞれ描いた歴史小説。 リョサはマリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』(旦敬介訳) - logical cyp…
士官学校を出た主人公が、辺境の砦に任官するところから始まり、定年で退官するまでを描き、いつか人生を意味づける瞬間が訪れると期待しながら、しかし、徒に時間が過ぎていくばかりの人生を描いた作品 先日から海外文学読むぞというのを個人的にやっている…
コンプレックスを抱え込み、自慰に耽溺してしまうことへ後ろ暗さを持つ17才の少年が、偶然にも右翼団体に参加することになり、天皇主義へと傾倒していく過程を描いた短編。 大江作品については、先日大江健三郎『芽むしり仔撃ち』 - logical cypher scape2を…
大江健三郎が1958年、23歳の時に書いた、初の長編作品。 戦争末期、僻村に一時的に閉じ込められた少年たちによるスモールパラダイスの形成と崩壊を描く。 プロットがめちゃくちゃしっかりしているというか明快 以前、読んでいたので再読ということになるが、…
2022年12月〜2023年3月 事の発端(?)は、文学読もうかという気持ち - logical cypher scape2を参照 これが2022年の9月頃で、12月頃から「海外文学読むぞ期間」と称して海外文学を読み始めた。 (9~11月は日本文学篇で、まとめは最近読んだ文学 - logical …
コルタサルのアルゼンチン時代に書かれた8篇からなる第一短編集。 海外文学読むぞ期間の一環として、フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男他八篇』(木村榮一・訳) - logical cypher scape2に続いてコルタサル。 のちにパリに移住する作家だが、それ…
老詩人の遺作となった詩「青白い炎」に、元隣人がつけた大量の注釈が、とある王国から革命の末亡命してきた元国王の物語になっているという作品。 著者のナボコフというのは『ロリータ』のナボコフである。というか、自分はナボコフについて『ロリータ』の作…
地上でただ1人の人間となってしまった主人公が、狂気すれすれの中でタイプした手記 今、狂気すれすれ、と書いたがそれはあまり適切な言い方ではないかもしれない。 その筆致自体は軽妙で、狂人のようでは全くない。 誰もいなくなった世界を孤独にさまよいな…
AIをテーマに4篇収録した短編集 積ん読しているさいちゅうにいつの間にか文庫化されていた。 今まさに現実世界で話題になり続けている技術であるだけに、あっという間に古びてしまいかねないテーマではある。 ディープラーニング系のAIなどの発展が、人間の…
カナダ東部を舞台としたファミリーサーガ 物語の舞台は1990年代後半で、主人公は、18世紀にスコットランドのハイランド地方からカナダのケープ・ブレトン島へ移民してきた男の子孫であり、自らの半生と一族について物語っていく。 カナダというのは何となく…