ジェフリー・フォード『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美・訳)

アメリカの幻想小説ジェフリー・フォードの、日本オリジナル短編集
このフォードという作家のことを全然知らなかったのだが、2000年代に長編三部作が国書刊行会から訳出されている。
本作は、同じく日本オリジナル短編集『言葉人形』に続く日本では2作目の短編集となる。自分は『言葉人形』刊行時に書評を読んで少し気になっていたのだが、結局そちらを読む前に本作を手に取った。
編訳者によると、幻想小説を中心にした『言葉人形』に対して、『最後の三角形』は、SF、ミステリ寄り、ホラー寄りといった多彩な方向性の作品を集めたということだったので、そういう方が面白いかな、と思って。
実際、色々なテイストの作品が収録されているが、どれもはっきりと何らかのジャンルに収まるわけでもない。
短編ながら(短編だからこそか)サスペンスなプロットになっていることが多くて、ハラハラしながら読めることができて結構エンタメしているのだが、その中で、不可思議だったり、怪異だったり、幻想的だったりな描写をたっぷり楽しむことができる。それでいて、人生の味わい(?)みたいなものも感じられたりした。
トレンティーノさんの息子」「最後の三角形」「ナイト・ウィスキー」「星椋鳥の群翔」が面白かった。「アイスクリーム帝国」や「ばらばらになった運命機械」もわりと。

アイスクリーム帝国

共感覚者の少年が主人公
書評記事でも紹介されていた作品で、気になっていた作品。
なお、ネビュラ賞受賞作
様々な共感覚を経験している少年ウィリアムが、コーヒーの味を感じたときに、少女の姿を見る、という共感覚経験をするようになる、という話(共感覚で感じられるのは抽象物だが、それが具体物だったら、というところから着想した作品のようだ)。
13歳のときに初めて彼女を見る。その際は、コーヒーアイスクリームを食べた時。大学生になって、初めてコーヒーそのものを飲んだ際、さらにはっきり見るようになり、なんとその少女アンナと互いに話すことができるようになる。
主人公は、幼い頃、両親から共感覚が理解されず、何らかの精神病を患っていると思われ、無数の怪しげな治療を受け、また半ば世間から隔離されて育てられてきた。
そんな彼の初めての親への反抗が、アイスクリームショップへ行くことで、上述の13歳の時の経験につながる。
また、彼にはピアノの才能があり、それは彼が唯一、安らぎを得られる時間でもあり、次第に作曲家を志すようになり、音楽大学へ進学していた。
彼はその共感覚を作曲活動に活かしていた。
そして、アンナには絵画の才能があって、そしてやはり彼女も共感覚を活かして創作活動を行っていた。
コーヒーを互いにがぶ飲みしながら話すうちに、互いの境遇が非常によく似ていることが分かってくるが、一方で、互いに相手のことを、ある種の幻覚にすぎないとも思っている。
最後、なるほどそういうオチになるのか、という感じだった。
立場の逆転。


共感覚が起きる際にノエティックな感覚というのが生じるらしい。
ゲルスベス音楽大学やヴァリオン島という地名が出てきたのでググってみたら、架空の地名のようだった。

マルシュージアンのゾンビ

主人公の近所に引っ越してきた老人のマルシュージアンは、非常に強い訛りのある英語を話すので当初は何を言っているのか分からなかったのだが、そのいたずらっぽい笑顔から主人公は話をするようになり、話をするうちに、文学談義で盛り上がるようになっていった(主人公は文学を専門とする大学教授)。
親しくなり、引退前の仕事を尋ねると「洗脳者(ブレイン・ファッカー)」だと言うので聞き返すと「心理学者のことさ」と答える。また、以前は政府の秘密研究に関わっていたとも言う。
ある時、マルシュージアンが倒れて病院に運ばれる。亡くなったかと危惧していたところ、回復して家に戻ってきたマルシュージアンから、とんでもない秘密の告白と依頼を受ける。
曰く、彼はかつて、どんな命令にも従うゾンビ兵士をつくる研究を行っていたのだという。それにより、親と妹をこの国に連れてくることはできたが、しかし、親と妹とは二度と会うこともできなくなってしまった。
冷戦終結後、ゾンビを殺すことを命じられたが、そのゾンビも元は誘拐された被害者なので殺すことができず、実は今でも匿っている。ついては、自分が死んだ後、しばらくの間預かっていてほしい、というのである。
主人公はこれまたマルシュージアンの冗談かと思い、帰宅後、妻と笑い飛ばすのだが、マルシュージアンが亡くなった後、何者かが彼の家の戸を叩くのだった。
そして、物語の後半は、なんと本当にゾンビが登場し、彼が自分の記憶を取り戻すまで、密かに一緒に生活するようになる。
小学生の娘がモンスター好きで、マルシュージアンからゾンビの絵をもらっていたり、実際に現れたゾンビともすぐに親しくなったりしている。
なお、ここでいうゾンビの話は、ジュリアン・ジェインズの『神々の沈黙』に由来している。マルシュージアンは、ジェインズのいう二分心が脳の器質的な形状によるものだと考えて研究していたという設定で、人為的に二分心をつくって、命令をあたかも神からの命令のように聞こえるようにした。さらに、何故か老化も止めることにも成功している。
最後、このゾンビが自分の記憶を取り戻したので、家へと連れ帰るのだが、その家にいたのはマルジュージアンの妹だった、というラスト

トレンティーノさんの息子

訳者解説曰く、筆者の経験談を元にした作品らしい。
1970年代前半、主人公は大学をドロップアウトして、グレート・サウス・ベイ(ロングアイランド島の南側)でクラム漁を始める。
隙間時間にSFなどの習作を書いている描写がある。
冬が非常に寒く、漁師たちのあいだで、こういう年は夏が豊漁となる代わりに人が死ぬ、ということが語られる。
実際、その年の春先から豊漁となるのだが、言い伝え(?)通りというか、死者が出る。それが、タイトルにもなっているトレンティーノさんの息子のジミーで、主人公にとっては、中高生時代の後輩であった(主人公が中学生の時にジミーは小学生くらいの年齢差。課外活動か何かで時々会うことがあった程度の関係)。
ジミーもクラムをとりにいって水難事故に遭って亡くなったのだが、その後しばらくして、漁師たちの間で、海の上で彼を見た、という幽霊譚のようなものが出回り始める。
で、主人公も嵐の日に遭遇してしまう。
(幽霊というよりは、少し動く遺体、みたいな感じで描かれている)
主人公も死にかけるのだが、九死に一生を得て、それが1つの人生の転機になって、陸の生活に戻っていった、ひいては作家になった、というお話。
ホラーストーリーではあるのだけれど、恐怖というよりは、モラトリアムの終わりみたいなものが中心に描かれている感じがする。
子どもの頃、父親から教えてもらった海との向き合い方が、彼の人生の指針ともなっていく。また、クラム漁を始めたばかりの頃に溺れかけたところを助けてくれた漁師のジョン・ハンターが、漁師時代、ずっとメンター的存在となっていたのだけど、その後は二度と会うことはなかった、という終わり方をしている。

タイムマニア

1915年7月、オハイオ州ハーディン郡スレッドウィルを舞台にした、ある殺人事件の話。
やはり幽霊譚でもある。遺体との遭遇、という意味で「トレンティーノさんの息子」とも似ているが、死者がもっとアグレッシブ(あ、そういえば、どっちもジミーだな)
主人公のエメット・ウォレスは、寝ていると魔物などの幻覚を見て叫んで起きてしまう、夜驚症を患っている。母親が淹れてくれるタイムのお茶を飲むのが習慣となっている。
タイトルの「タイムマニア」のタイムは、このタイムのこと
ところで、タイムのWikipediaを見てみたら、「ハーブティーとして古くから飲まれていて、ニコラス・カルペパーは、悪夢にうなされる人に効くと書き残している。」とあった。
ある日、無人の農場に入り込んだエメットは、井戸の底に遺体を発見する。行方知らずとなっていたジミー・トゥースの遺体だった。
エメットは、起きているときから、ジミーの姿を見るようになる。
そして、ジミーが何かを訴えていることに気づく。
一方で、日中に人の畑のタイムを貪り食べてしまったことから、タイムマニアという綽名を付けられ、両親を含む町の住人みんなから避けられるようになっていく。
どちらかといえばミステリ的な趣向で、ジミー・トゥースを殺した犯人と、第二の殺人をめぐる物語へとなっていく。
とはいえ、ジミーに連れられて地獄めぐりをするなど、幻想小説的なところも結構ある。
町のみんなから疎まれるようになったエメットのことを、唯一信じてくれるグレーテルという少女が出てくるのだが、微妙に正体がよくわからない。

恐怖譚

エミリー・ディキンスンが死神と取引をする話
ディキンスンの手紙の中に、人に言えない恐怖を抱いていたという記述があり、また、「わたしが死のために立ち止まることができなかったので、死が親切にもわたしのために立ち止まってくれた」という詩があり、それをもとに書かれた作品で、作中、ディキンスンの詩の引用などが多くなされている。
ある晩、屋敷から誰もいなくなってしまい、家族を探しているうちに、謎の男に声を掛けられる。この男がいわゆる死神だったのだが、取引を持ち掛けられる。
本来死ぬべき運命にある男の子を、その母親が何かの呪文によって妨げている。詩の力でこれを解いてほしい。そうすれば、まだ20年以上は生きられる、と。
エミリーは、子守役としてその親子の家に入り込み、さらにその後、解呪のための詩を書くために、永遠に冬の中にある家の中に閉じ込められる。

本棚遠征隊

妖精が見えるようになった主人公が、妖精たちが本棚を登攀していく様子を見ている。

最後の三角形

薬物中毒の主人公が、禁断症状でへろへろになった状態で、誰かの家のガレージへと転がり込む。その家の主人であるミズ・バークレーという老婆が彼を助ける。その厚意もあって主人公もハードドラッグには手を出さなくなる(マリファナはこっそり吸っている)。
そして、ミズ・バークレーからある仕事を頼まれる。
Eを横倒しにしたような記号が描きこまれている場所を、町の中から探し出してほしい、と。
実際、それを見つけ出して、その記号のあった場所を地図上で結ぶと正三角形になる。
ミズ・バークレー曰く、これは「最後の三角形」という魔術なのだという。
術者にとって、誰にも害されない結界になる代わりにその三角形の外へ出ることができなくなる。そして、その術の発動のために、三角形の真ん中で誰かが殺される。
彼女はそれを阻止しようとしていた。
何より、彼女の分かれた夫こそが、「最後の三角形」の術者であった。
一体、この記号は何なのか、この魔術とは一体何で、誰が何のために、というサスペンスで話を引っ張りつつも、主人公のある種の脱出の物語ともなっている。
それはまた、ミズ・バークレーにとっても、何らかの過去との決別でもある。
老人から、生き方の指針を得て、どうしようもない場所から抜け出す、という意味では「トレンティーノさんの息子」とも相似形の話かもしれない。

ナイト・ウィスキー

主人公が、ウィッザー老人の手ほどきで、酔っぱらいを木から落とすための練習をしているシーンから始まる。高校を卒業する年に〈酔っぱらいの収穫〉をする仕事に任命され、そしてその仕事に就くことは、この町では大変名誉なことだという。
そんな、ある種コミカルな始まり方をして、一体これはどんな話だろうと思わせるのだが、この酔っぱらいの収穫は、毎年9月に行われる、この町の習わしの一部であることが説明されていく。
この町には、死苺と呼ばれる木の実があって、その木の実から作られる「ナイト・ウイスキー」という飲み物がある(死苺の採集もナイト・ウイスキーの製法も、それぞれある一家にのみ伝わっている)。9月に行われる祝宴で、くじ引きで選ばれた町民だけがこれを飲むことができる。それを飲むと、深夜2時頃にどこかへふらふらと歩き出し、木の上で眠ってしまう。そして、その眠りの中で、亡くなった者と出会うことができるのである。翌朝、そうやって眠っていた人々を回収するのが、酔っぱらいの収穫人の仕事である。
こうして僕は、収穫人として初めての9月を迎えるのだが、その年は異常事態が起きる。翌朝、ピート・ヒージャントを回収すると、若くして亡くなったピートの妻らしき女性が一緒に木の上から落ちてきたのだ。
ウィッザー老人、保安官のジョル、クヴェンチ医師、同じくその年にナイト・ウイスキーを飲んだヘンリー、そしてぼくは、秘密を抱えることになる。
ナイト・ウイスキーの習わし自体が、奇妙な風習で面白いのだが、その後のスリラー的な展開もまた面白い。そしてこれもまた、脱出の話である。
ナイト・ウイスキーにまつわるあれこれは全て、この地に入植した人々が先住民から教えてもらった、という設定も興味深い。

星椋鳥の群翔

ファンタジー世界を舞台にしたサスペンス
舞台は〈ペレグランの結び目〉という都市で、夏は観光客で賑わうが、冬になると数年に一度、残虐な殺人事件が起きている。被害者の遺体には、無数のひっかき傷と脾臓を取り出されたあとが残っている。犯人は俗に〈野獣〉と呼ばれるようになった。
主人公は、植民地であるアンサー諸島出身の警察で、この殺人事件の専従捜査員に選ばれる。アンサー諸島出身者が警部に昇進できるとあって喜び勇むが、迷宮入り必至のこの事件の担当者という貧乏くじを体よく引かされただけでもあった。
その年の冬は、フォン・ドローム教授が被害者となり、娘のヴィエナが事件の目撃者と考えられた。しかし、ヴィエナは、事件より前、母親が亡くなって以降、喋れなくなっており、彼女から目撃証拠を得ることはできなかった。
以降、助手のジャリコとともに、数年間にわたり、主にヴィエナを尾行するなどの捜査を行う。
ヴィエナは、星椋鳥を飼っており、そしてある時、主人公はヴィエナが飼っている個体を含む星椋鳥の群れが集団で見事に統率のとれた飛翔を行い、そして、一瞬だけ、噴水の情景を描き出したのを目撃した。その後も何度か、そのようなある種の目撃証拠のようなものを見ることになる。
死んだと思われていたヴィエナの母親が実は、とある奇病に冒されていて……というようなところから話は進んでいくのだが、ある種のミステリ的なプロットに、アクションシーンなどもあり、また、主人公も一度事件解決に失敗して、解雇されてしまうという憂き目も見て、結構ハラハラする物語展開で面白かった。
主人公が植民地出身で、彼を助けてくる登場人物たちも、実はこの出身地つながりだったりするのも、世界観に陰影をもたらしている気がする。


イムリーにこんな記事を見かけた
ホシムクドリ、岩手で発見 陸前高田市立博物館の学芸員が撮影 | 岩手日報 IWATE NIPPO
群翔はこんな感じ
Flight of the Starlings: Watch This Eerie but Beautiful Phenomenon | Short Film Showcase - YouTube

ダルサリー

マッドサイエンスとのマンド・ペイジが作った微小人間の都市ダルサリー
瓶詰めになったドームの中に、縮小光線で作った人間を放り込んだら、都市を形成して……という話

エクソスケルトン・タウン

ユーモアSFでバカバカしい設定の話なのだが、最後の展開はなんだか悲哀のあるものになっている。
蟲型の異星人がいる惑星で、交易に来ている人間たちも、その大気圧に耐えるため、外骨格スーツを着ているので、外骨格の町(エクソスケルトン・タウン)と呼ばれている。
何の交易をしているかというと、異星人たちの糞球と地球の古い映画。
糞球は地球人に対して強い媚薬として機能し、地球の富裕層に高く売れた。
それで、一攫千金を夢見た地球人たちが、古い映画のフィルムを持って何人もこの惑星に訪れたのだが、この惑星での映画の流行の予測できなさや、彼らの悪賢い商才によって、なかなか上手くいかないのである。
それからもう一つ、地球人たちがまとう外骨格スーツは、古い映画の俳優たちの見た目を模しているものとして作られており、蟲たちには、俳優本人が来ているかのように思わせている。
主人公は、父親が持っていた秘蔵のフィルム『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を持ってきたのだが、地球人に対して常習性を持つ「煙」の依存症になってしまい、安値で売ってしまう。そのせいで、地球へ帰る運賃も払えず、この惑星に残っている。
そして、この町の町長からある取引を持ちかけられる。
町外れに住む地球人女性(亡き大使の夫人)が、『雨のせいよ』という映画を持っているのだが、どうしても譲ってくれない。これをどうにかして手に入れてくれないか、と。
こうして彼女の家に訪れた主人公だったが、彼女と、外骨格スーツ越しに(つまり本人とは異なる俳優・女優の見た目で)恋に落ちるのだった。
最終的に、主人公と彼女は『雨のせいよ』と同じ展開をなぞっていくことになる。

ロボット将軍の第七の表情

かつての戦争を率いたロボット将軍の晩年

ばらばらになった運命機械

老宇宙飛行士ガーンと死に別れた妻ザディーズとの物語
様々な惑星の話が出てきて、それ自体は古いSFっぽい感じでもあるが、登場してくるさまざまな種族の描写などは幻想小説っぽい感じがある。
ガーンはかつて惑星ヤーミット=ソビットを訪れて、そこの村の人たちと親しくなり、特にザディーズと近しくなった。一生の絆を結ぶために、試練も受けた。
結婚したのち、ガーンは再び宇宙へ旅立ちたくなり、ザディーズを連れて宇宙へ行くのだが、冷凍睡眠中にザディーズは亡くなってしまう。
ガーンは後悔を抱えながらも、その後も宇宙の旅を続ける。死に瀕した発明家オンスィンの姿を見て、運命から逃れられないだろうかと考える。
そして、老いて隠遁していたガーンのもとに、藍色の肌をした謎の訪問者が現れる。
一方、ザディーズは冷凍睡眠中の夢の中で、ピョンピョン骨動物の民アイユーたちの女王となっていた。
彼女のもとにも、藍色の肌をした訪問者が現れる。
その訪問者の姿をみたザディーズは、さらにその前に見ていた夢で、オンスィンが作った49というロボットと出会ったことを思い出していた。
オンスィンが作った運命機械は、ケトゥバーンによって破壊されたが、その最後のパーツが、ガーンがサディーズへと贈り、そしてサディーズ亡きあとにはその形見としてガーンが身に着けてた歯車のペンダントだった。
と、あらすじをまとめてみても、なんだかよくわからない話だし、実際読んでみてもよくわからない部分は残るのだけど、短編の中に様々な世界が出てきて、その描写がわりと魅力的であった。
バカ惑星とかピョンピョン骨動物とか、そういうひどいネーミングもあるのだが、ヤーミット=ソビットの異世界生態系とか藍色の訪問者の得体のしれない感じとか

イーリン=オク年代記

妖精トゥイルミッシュは、海辺の砂の城が波にさらわれて消えるまでの期間を生きている。
人間からすれば短い時間だが、彼らにとっては非常に長く感じられる時間でもある。
この作品は、そのトゥイルミッシュの一人であるイーリン=オクが残した手記の翻訳、という体裁で、前半3分の1くらいは、妖精学者による序文となっている。
ハマトビムシを忠犬のように飼い、ムール貝の貝殻をベッドとし、鮫の歯と葦の茎で斧を作り、といった感じ。火をつける魔法が使える。ネズミとの戦いが生涯続く。緑色の人形を見張りに立たせている。
太陽が沈み、彼の一生のほとんどの期間は、夜であった。ほかの種族の妖精の母子と出会い、彼らから昼や月などを教えてもらう。
彼らからもらった「昼間」の写真を首にかけながら、最期の時を迎える。