社会科学

越智萌『 だれが戦争の後片付けをするのか』

ウクライナの事例を紹介しながら、「戦争後の法」について概説する本 具体的には、戦争犯罪の裁判や、捕虜や遺体の返還、賠償などについてである。 これらのテーマ自体、あまりよく知られていないことだと思うので、それ自体が面白い。 また、ウクライナの具…

上杉勇司『紛争地の歩き方―現場で考える和解への道』

紛争が終わったあと、和解はどのように行われる/行われた/行われなかったのかが書いてある本。 バーニングさんの書評きっかけで読んだ。 紛争地の歩き方 ――現場で考える和解への道 バーニングさんの感想 - 読書メーター 筆者は、紛争解決学を専門とする研…

井上弘貴『アメリカの新右翼』

2010年代以降のアメリカの右派・保守主義(本書では「第三のニューライト」と総称される)についての概論 浜由樹子『ネオ・ユーラシア主義』 - logical cypher scape2に引き続き、時事的な政治思想の本 なお、全部で6章からなるが、2章では2010年代の左派の…

浜由樹子『ネオ・ユーラシア主義』

現代ロシアを読み解く際のキーワードとなりつつある「ネオ・ユーラシア主義」について、何人かの論客を通して解説する新書 ただし、本書を読んでわかるのは、ネオ・ユーラシア主義という確固たる思想があるわけではないし、また、プーチンがネオ・ユーラシア…

オーナ・ハサウェイ、スコット・シャピーロ『逆転の大戦争史』(野中香方子・訳)

1928年のパリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)を画期として、国際的な法秩序が転換したとして、戦争にかんする国際法の歴史を描いた本 本書では、戦争を合法であるとするグロティウス的な法思想を「旧世界秩序」、戦争は違法であるとする法思想を「新世界…

ジェイムズ・カー=リンゼイ、ミクラス・ファブリー『分離独立と国家創設』(小林綾子・訳)

タイトルが面白そうなので気になっていた奴で、タイトルに「国家創設」とある通り、新しく国家ができるとはどういうことなのかについて、様々な事例を交えて解説している入門書 国家が作られる方法はいくつかあって、「分離独立」*1はそのうちの1つだが、現…

『ロシア極東・シベリアを知るための70章 (エリア・スタディーズ)』(一部)

タイトル通り、ロシア極東・シベリアの地域研究についての本で、自然地理、歴史、民族・文化、政治経済問題、各州・自治共和国の5パートに分かれている どれも気になるといえば気になるが、今回は菊池俊彦『オホーツクの古代史』 - logical cypher scape2に…

『日経サイエンス2025年2月特大号』『Newton2025年3月号』

日経サイエンス2025年2月特大号 大規模言語モデル「思考力」で進化 吉川和輝 協力:椎橋徹夫 科学研究を加速する基盤モデル 出村政彬 協力:泰地真弘人(理研) 研究できるAIは科学をどう変えるか? 高木志郎/丸山隆一 日本の「HAKUTO-R」月へリベンジ 林 公…

『宇宙・動物・資本主義 ――稲葉振一郎対話集』

久しぶりに稲葉振一郎を読んだ気がする。宇宙倫理学関係は2010年代後半にちょいちょい読んでいたし、ブログとかSNSとかは見ているので、全くの久しぶりというわけでもないのだけど 対談集なので、気楽な感じで読んだが内容は濃いし、タイトルが象徴的だが、…

『Newton2023年8月号』『日経サイエンス2023年8月号』

Newton2023年8月号 建築の未来 進化するリニア 意識の謎はどこまで解けたか 日経サイエンス2023年8月号 フロントランナー挑む:AIが仮説,ロボが実験 サイエンスの営み変える:高橋恒一 ChatGPTが映し出すヒトの知性 数の感覚 生まれつきか学習か J. ベック…

千々和泰明『戦後日本の安全保障』

サブタイトルは、「日米同盟、憲法9条からNSCまで」 防衛政策史研究者による本で、タイトル通り、戦後日本の安全保障政策の歴史を論じた本である。 小林義久『国連安保理とウクライナ侵攻』 - logical cypher scape2を調べていたら、関連する本として出てき…

Regula Valérie Burri and Joseph Dumit "Social studies of scientific imaging and visualization"

STSにおける、科学の視覚的表象研究についての総説論文みたいな奴 http://www.kana-science.sakura.ne.jp/scientific-illustration/studies.html で紹介されていたので読んでみた。 科学哲学には一応慣れ親しんでいるつもりだが、STS読むのはこれが初めてだ…

日経サイエンス・Newton2022年7月号

日経サイエンス SCOPE ITで目の不自由な人をナビゲート ADVANCES 細菌のエピジェネティクス From nature ダイジェスト 巨大ウイルスがゆるがす生物と無生物の境界 中島林彦 協力:村田和義 試験管で再現したRNA生命体の進化 中島林彦 協力:市橋伯一 メディア…

倉田剛「社会存在論の「統一理論」について」「いかにして社会種の実在性は擁護されうるのか」

倉田剛による下記の2つの論文が、グァラに触れているので、フランチェスコ・グアラ『制度とは何か』(瀧澤 弘和 監訳・水野 孝之 訳) - logical cypher scape2を読んだついでに、これらの論文も読んでみた 倉田剛「社会存在論の「統一理論」について」 htt…

フランチェスコ・グアラ『制度とは何か』(瀧澤 弘和 監訳・水野 孝之 訳)

社会科学の哲学の立場から書かれた制度論 経済学的な制度理解と哲学的な制度理解とを架橋するための議論が展開されている。 二部構成となっており、前半では、制度についての均衡説と制度についてのルール説を統合した統一理論「均衡としてのルール」説を展…

『日経サイエンス2019年12月号』

NewsScan●海外ウォッチ 卓上の重力波検出器 あなたも感じる「数学の美」 特集:真実と嘘と不確実性 物理学 物理学におけるリアリティー G.マッサー 数学 数学は発明か発見か K. ヒューストン=エドワーズ 神経科学 脳が「現実」を作り出す A. K. セス ネット…

日経サイエンス2019年9月号

特集:恐竜 その姿と動き 実物化石が語る新たな恐竜像 内村直之/古田 彩 恐竜たちの走りを再考する 出村政彬/古田 彩 協力:宇佐見義之/平山 廉/ 久保 泰 トリケラトプスの本当の歩き方 古田 彩 協力:藤原慎一 デング熱ワクチンの混迷 抗体依存性感染増…

瀧澤弘和『現代経済学』(一部)

サブタイトルが「ゲーム理論・行動経済学・制度論」で、様々なサブジャンルに多様化した現代の経済学についての入門書となっている というわけで、個人的には、制度論に興味があったので、制度論の章だけとりあえず読もうかなーと思ったら、結構それ以外も面…

弥永真生・宍戸常寿編『ロボット・AIと法』

ロボット・AIに関連する法学諸分野の論点を解説している本 編者によれば、ロボット・AIを糸口にした法学入門としても読むことができることが企図されており、実際、法律門外漢の自分にとっては、そのように読むことができた。 法律の専門家たちによって…

堀田義太郎「差別の規範理論―差別の悪の根拠に関する検討―」『社会と倫理 第29号 2014年』

『差別はいつ悪質になるのか』(http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-60354-9.html)という書名を見かけて検索していたら、翻訳者の1人による2014年の論文がヒットしたので、読んでみた。 http://rci.nanzan-u.ac.jp/ISE/ja/publication/se29/29-08hot…

『日経サイエンス2017年5月号』

NEWS SCAN 冥王星のクジラ模様の謎を解く ジュラ紀のタコ化石 メイク・アース・グレート・アゲン From nature ダイジェスト 第8大陸「ジーランディア」を探る 特集:スターショット計画 亜光速でアルファ・ケンタウリへ A. フィンクベイナー 日本の宇宙ヨッ…

「ロボット法研究会」設立記念シンポジウム

5月21日に、情報ネットワーク法学会の特別講演会として開かれたシンポジウム 場所は慶應の三田キャンパス 時間は10時〜18時だったけど、自分は13時過ぎ〜17時くらいまでいたので、そのあたりのレポ 主に、パネル1の「ドローンは日本で飛躍できるか?」につい…

『日経サイエンス2016年2月号』

ツイートでわかる所得区分 覆る定説 ピラミッドを築いた人々 Z. ゾーリッチ 心を持つロボット P. ファン 地球の情報容量 C. A. ヒダルゴ テストで学ぶ A. M. ポール 読んだ奴だけ ツイートでわかる所得区分 自分の所得について直接話すということは普通ない…

坂井豊貴『多数決を疑う――社会的選択理論とは何か』

多人数の意見を集約するルールとして、多数決があるが、それ以外にも方法があって、どの方法がいいのかをどういう基準で考えるか、というのが社会的選択理論である、という本。 多数決以外にどういう方法があるかというと、例えば、1位に3点、2位に2点、1位…

『日経サイエンス2015年5月号』

特集「超ハビタブル惑星」 「生命の理想郷スーパーアース」 「有力候補を探せ 系外惑星の空を見る」 「沈没船のお宝を探せ 海洋考古学の新時代」 「透明化が社会に強いる進化」 大型実験施設関係 とりあえず読んだ記事のメモ 特集「超ハビタブル惑星」 「生…

松尾匡『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』

左派のための経済政策入門、とでも言うべきか 全くそうだよなあという感じであり、政策としてはそう考えればいいのか、という感じ 第1章 三十年続いた、経済政策の大誤解 第2章 ソ連がシステム崩壊が教えてくれること 第3章 一般的ルールか、さじ加減の判断…

『日経サイエンス2014年1月号』

特集:量子世界の弱値 「光子の裁判」再び 波乃光子は本当に無罪か 細谷曉夫 量子テレポーテーションと時間の矢 井元信之 光子は未来を知っている 語り:Y. アハラノフ/聞き手:古田 彩 「光子の裁判」というのは朝永振一郎が、ダブルスリット実験について…

小島寛之『数学的推論が世界を変える―金融・ゲーム・コンピューター』

小島寛之が、様相論理について書いている本が出たと聞いたので読んでみた。 ゲーム理論と可能世界意味論を組み合わせて共有知識を定式化し、共有知識によって通貨攻撃を説明するというもの。 様相論理といっても、必然性や可能性の話ではなく、その応用編(…

『日経サイエンス2013年3月号』

特集:量子ゲーム理論 政治家に見る反科学主義 自閉症と理系思考 特集に、量子ゲーム理論という怪しげな言葉が踊っていたのでw 思わずチラ見 特集:量子ゲーム理論 何となく分かったような分からないような まあそれは量子うんちゃらというものに必ずつきも…

あんまりちゃんと感想メモ書けてなかったけど、読んだ本の記録2(『フィクションの哲学』『現代の金融入門』『憂鬱と官能を教えた学校』『セカイ系とは何か』)

清塚邦彦『フィクションの哲学』 色々な意味で勉強になった。 何というか、文章の書き方レベルから。 想像って結局何なの、とか、西村清和から来るであろう反論をどうかわすの、とかが気になった。 あと、やはりウォルトンは面白そうだなあとか。 虚構記号と…