日経サイエンス・Newton2022年7月号

日経サイエンス

SCOPE ITで目の不自由な人をナビゲート

靴が振動してナビゲートする。横浜で実験。

ADVANCES 細菌のエピジェネティクス

エピジェネティクスというのは、真核生物のものであって、細菌にはないと思われていたけれど、実はそうではなかったというのが徐々に分かってきているという話(まず、細菌にはないと思われていたという方を知らなかったので、そこから「へぇ」だった)
遺伝子をオフにする仕組みがわかれば、医療にも応用できるかも、とか。

From nature ダイジェスト

  • 中国が持ち帰った「月の石」で新知見

月の火山活動が思われていたより長く続いていたことで、月の熱源についての議論がされているらしい。
これまで、地球の岩石を研究していた中国の研究者が月研究へと参入

  • 放射性炭素法で真贋判定

絵画が贋作かどうか、従来は化学分析などで調べられていたが、放射性炭素法での判定が行われるように。試料が少なくてすむので、絵をあまり傷つけないですむというメリットがある。
しかし、絵画なんてわりと最近のもので放射性炭素法使えるのかと思ったら、1950年代の核実験以前と以降とで放射性炭素の量が全然違っていて、それで判定しているらしい

巨大ウイルスがゆるがす生物と無生物の境界  中島林彦  協力:村田和義

巨大ウイルスというと、以前、
武村政春『生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像 』 - logical cypher scape2
を読んだことがあるが、果たして、この記事の中にも武村が登場してくる。本記事の協力としてクレジットされている村田と武村は、巨大ウイルスについての共同研究者とのこと。


ミウイルスという、細菌くらいの大きさのウイルスが発見されて以降、巨大ウイルスというのは多く発見されるようになっている。
また、ヴァイロファージというウイルスに感染するウイルスがいたり、さらにそれに対抗して、ウイルスがもつ免疫システム(CRISPR-Cas9に似ているらしい)があったり。
そして、ヴァイロセル仮説というのが出てくる。
続いて、巨大ウイルス2種について紹介されている。
まず、武村が発見した「メドゥーサウイルス」について
他の巨大ウイルスと異なり、翻訳機構を持ってはいないが、ヒストンを作る遺伝子を持っている。
ヒストンは、真核生物の細胞核の中で遺伝子を巻き付けておく糸巻きのようなタンパク質で、ウイルスは持っていないとされる。メドゥーサウイルスは、宿主となる細胞の細胞核の中で自らのDNAを複製するが、その際にヒストンを用いているのかもしれない(宿主の細胞核内での振る舞いはまだ確認できていない)。
このヒストン遺伝子は、真核生物のものよりも古く、真核生物から奪ったものではない。むしろ、真核生物の起源においてウイルスが関わっていた可能性を示唆する。
普通の巨大ウイルスの場合、ヴァイロセルの細胞核と宿主の細胞核がそれぞれ独立に存在することになるが、メドゥーサウイルスの場合、宿主の細胞核の中で複製を行うので、ヴァイロセルとしての細胞核と宿主の細胞核が空間的に一致するわけで、ここで、かつて宿主となった細胞がヒストンを獲得したのかも?
続いて「ピソウイルス」について
こちらは大きさだけでなく、形状が細菌によく似ている。ウイルスはそもそも成長しないので個体差がないのだが、ピソウイルスは大きさなどに個体差がある。また、表面を覆う膜も細菌に似ている。村田は、ピソウイルスはもともと細菌だったのが、ウイルスへと「進化」したのではないかという仮説を立てている。
また、細菌のように大きいウイルスとは逆に、ウイルスのように小さい細菌であるCPR細菌というのもいる。

試験管で再現したRNA生命体の進化  中島林彦  協力:市橋伯一

東大の市橋が行った進化実験についての記事
RNAワールド仮説の検証として、RNAだけで生命のように進化するかという実験
シュピーゲルマンという先駆者がいるのだが、シュピーゲルマンの実験では、RNAがどんどん短くなるという結果が得られている。短ければ短いほど複製が早く行われるので増殖速度も増すからである(この短くなったRNAシュピーゲルマン・モンスターと呼ばれているらしい……!)。
しかし、実際の生命はむしろ複雑化しているわけで、市橋は、シュピーゲルマンの実験に手を加える。シュピーゲルマンの実験では、複製のための翻訳機構は外から与えられていたが、市橋は翻訳機構の遺伝子を含んだRNAで実験を行った。変異でこの遺伝子を失ったRNAは淘汰されていくことになる。これは途中までうまくいったが、100世代ほどで進化が止まってしまう。
市橋は、赤の女王仮説を実験にとりこむことを思いつく。
それは寄生体の導入であった。
実は、元の実験で既に寄生体は発生していた。自分の翻訳遺伝子を失っても、他のRNAの翻訳機構を使って増殖をはかるタイプである。こういうタイプは取り除いて実験を進めていたのだが、むしろ、このタイプを放置することにしたのである。
すると、進化が止まらず、進んでいくことになったのである。
宿主として3タイプ、寄生体として3タイプあらわれ、それらは実際の生命の進化のように系統樹を描くことができた。
寄生体が増えると宿主が減り、宿主が減ると寄生体が減るので、再び宿主が増えるという現象や、宿主同士でも、宿主1が増えると宿主2が減る(その逆も)という関係が生じたのち、共生・共存関係が生じるように進化していったという。互いにどのタイプの複製を許すかという観点で複雑なネットワークが生じたのである(例えば、宿主2はどの寄生体の、さらには他の宿主の複製すら許すが、別の宿主3は特定の寄生体の複製しか許容しないとか)
ところで、実際の地球生命のことを考えると、ウイルスに寄生されているといえる。
この実験は、ウイルスと生命の関係がRNAワールド時代にまで遡る可能性を示唆している、と。

メディアリテラシー教育 手探り続く米国の苦悩  M. W. モイヤー

タイトル通り、アメリカにおけるメディアリテラシー教育の話だけど、色々行われてはいるけれど、まだ効果とかが分かっていないとか、やりすぎると全部疑うようになっちゃうとか、課題多いよねという話

拙速な思考は陰謀論に弱い  C. サンチェス /D. ダニング

タイトルにある通り。
拙速に結論に飛びつく、飛躍した思考をするという認知バイアスが人間にはあって、陰謀論と結びつきやすい
二重過程理論にちらっと触れつつ、この認知バイアスを克服する方法としてのメタ認知レーニングというのを紹介し、またこの飛躍思考が統合失調症にあることも指摘。筆者らは、統合失調症の研究から影響を受けており、逆に、一般の人の認知バイアスの研究が、統合失調症研究にもつながるのでは、と。

ネアンデルタールの首飾り クロアチアの遺物が語る知性  D. W. フレイヤー/D. ラドブチッチ

これ、記事のタイトルがいい
原題は「Neandertals Like Us」なので、日本語タイトルの方が断然よい
ネアンデルタール人にも現生人類に近い知性があったのではないか、という話は以前からあり、各所から見つかる遺物によって主張されてきたが、それに対して、それらは現生人類からの影響を受けたものにすぎないという反論もなされてきた。
クロアチアには、19世紀末に発掘されたネアンデルタール人の遺跡があり、ここでは現生人類の骨や遺物が見つかっていない。
多くの遺物が発見されているが、最近になって、これらが改めてリスト化された(これを行ったのが筆者の一人のラドブチッチ)
その中で、再発見されたのが、ワシの爪で、特定の指の爪が集められており、顔料が塗られていて、加工されたあともある、と。
また他にも、この洞窟とは違う場所から持ってこられて、星型のあとが付けられた石や、意図的に線が引かれた人骨などがあり、ネアンデルタール人も象徴表現を行っていたのではないかと見られる。
言語を話していたかどうか直接の証拠はもちろん残らないわけだが、こうした象徴表現が間接的な証拠になるとされている。また、右脳と左脳の機能分化と言語機能には関係があるとされている。また、右利き、左利きの別というのはサルにも一応あるらしいが、人類の場合、右利きが明らかに多いという特徴があるらしい。でもって、歯の化石から調べて、ネアンデルタール人も右利きの割合が多いことが分かってきている、と。
ネアンデルタール人と現生人類は交配したことが分かっているけれど、認知的能力が近かったからこそなのではないか、とも述べられている。

アグロエコロジー 地域の知恵で目指す貧困からの脱出  R. パテル

アフリカのマラウイで行われているアグロエコロジーの実践ルポ
単一作物の栽培ではなく、複数の作物の組み合わせをすることで、土地が痩せることを防ぎ、また、災害などが起きたときにも耐えられるようにする
どういう組み合わせで植えるかということについて、実際に農作している人たちが実験して、その組み合わせを探していっている
しかし、アグロエコロジーというのは、単にそういう農業の方法論というだけでなく、もう少し広い実践・運動のよう
マラウイでは、上記のような試みにより、生産量が増え、収入も安定したが、子どもの平均体重が増えないままだった。これは、正しい知識の不足や家事育児の男女不平等が原因だった。男性も料理をするようにイベント等を通して啓発を行って*1、男性の家事育児への参加を促し、結果として、子どもの体重増加にもつながった、と
そういう活動もこみで、アグロエコロジーと呼んでいるっぽい。
また、この記事の中ではいまだに「緑の革命」的なことが行われていることを批判している

ミリシア 先鋭化する米国の民間武装勢力  A. クーター

ミリシアへのインタビュー調査・実地調査を行っている研究者による記事
ミリシアというのは武装している市民集団のことで、いわゆる過激派もいるが、他方で「大人になったボーイスカウト」的なことしかしていない集団もあり、地域ボランティアの一環という感じで参加している人もいる、と。
彼らに共通しているのは「古き良きアメリカ」への憧れ
20代~30代の白人男性がもっぱらをしめるが、少数ながら女性や子ども、老人もいる。
一部に白人至上主義を標榜しているグループもいるが、一方で、白人以外のメンバーを募集しているグループもいる。筆者のインタビュー調査によって、自分たちは差別主義的ではないと思っているが、人種差別への理解が不足していることが多い、と(過去に行われた差別的な政策が差別であることを理解していなかったとか、人種やジェンダーバイアスを自覚していないとか)。
さらに、ミリシアの中には、政府を是正するためにデモ活動などをしているグループと、政府への「復讐」を考えていて政府高官や政治家への襲撃活動などを企てたり実行したりしているグループがいる。もともと前者9割、後者1割ぐらいの感じだったのが、後者が増えているというのが、筆者や他のミリシア研究者が感じているところらしい。
後者は陰謀論などとも親和性が高い。穏健なグループから分派して過激化していったグループもいるし、また穏健なグループであっても陰謀論を広めるのに加担してしまったりしている、と。

Newton

ダ・ヴィンチ発案の「空気ねじ」で飛ぶドローン

あの有名なイラストの奴、実際には飛べないと言われていたが、実際に飛ぶドローンが開発されたらしい

科学界に影を落とすウクライナ侵攻

ISSやエクソマーズなどの宇宙の話から始まり、北極評議会ITERなどロシアとの共同研究について
北極評議会というの知らなかった。

AI創薬の最前線

創薬自体が、かなりギャンブルみたいなところがある(数打ちゃ当たるというか、莫大な数打たないと当たらないというか。しかし、当たったときのリターンがでかい、と)
創薬には4つくらい段階があるけれど、それぞれについてAIが入りつつある、あるいは入れる可能性があるとかなんとかだったような。

パズルで身につく数学的思考

読んでないのだけど、「あ、これ中高生の時苦手だった奴だ」というのが見えて少し笑ってしまった

量子コンピューター2022

これもあまり読んでないのだけど、IBM量子コンピュータをオンラインで無料で利用できるようにしているというのに驚いた

世界の都市図鑑

ベルンとかケープタウンとかの航空写真初めて見たので面白かった
特にケープタウンテーブルマウンテンの麓につくられたまち

SF映画をもっと楽しもう!

連星系とかワープ航法とかエイリアンとか

*1:「男が料理をするなんて……」という価値観が妨げになっていたので、互いに料理をふるまって良い料理を表彰するコンテストのようなことをすることで、料理をすることと社会的承認をつなげたりしたと