メタファーについて論文2つ

石田知子「「遺伝情報」はメタファーか」

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このツイートを見て存在を知り、タイトルに惹かれて読んでみた。
分子生物学において「遺伝情報」というメタファーがあるが、メタファーは科学にとってどのような役割を果たしているか、という議論


ちなみに、石本賞というのは2006年に始まって、青山拓央、大塚淳、山田圭一、佐金武、秋葉剛史等々の面々が受賞している。


サーカーは、情報のメタファーは、消去できる&理論形成の妨げになる(初期の遺伝暗号研究の不首尾の事例)ので、不要だと論じる
次いで、サーカーのメタファー観がいささか素朴であるとして、ボイドによる、メタファーが科学の理論構築において役に立っているという議論を取り上げる。
その上で、情報というメタファーが役に立った事例としてPCRの例をあげる。ただし、PCRは後に、情報のメタファーなしに理解されるようになった
最後に、レイコフらのメタファーの議論から、イメージスキーマの共有が認知的資源になりうることを論じ、さらにギャリーやワイスバーグのモデル論を参照し、イメージスキーマの共有に必要な類似性がモデルと現象の類似性と同様ではないかと指摘し、イメージスキーマがモデルを作ることと関連していると論じる。
その上で、分子生物学において情報のメタファーは、原理的には消去可能だが、イメージスキーマという認知的資源を用いる上で有用であると論じている。
なお、PCRはイメージスキーマの共有に至らなかった例。
理論構築に役に立つメタファーと理解に役に立つメタファーがある感じか。


科学とメタファーについてはロバート・P・クリース『世界でもっとも美しい10の科学実験』 - logical cypher scape2にも少しあったが、こことは少し違う議論をしているかなと思う。
ところで、メタファーの議論に当たって、石本論文では、まずブラックによるメタファー論が触れられている(元々、メタファーの生産性についてはブラック論文があり、その後、科学哲学では主流にならなかったが、ボイドが改めて論じたという流れ)。
クリース本に出てくるフィルターとしてのメタファーというのは、おそらくブラックを参照にしているっぽい。


ブラック論文の邦訳は、『創造のレトリック』という本に収録されている*1らしいが、ググっていたら、下記の論文を見つけた。

西村清和「視覚的隠喩は可能か」

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隠喩論、特に認識論的隠喩論について整理を行った後、これらの隠喩論は類比一般の話をしており、あれもこれも隠喩になってしまうと一刀両断し、言語的現象として隠喩を捉え直す。
なお、ここで取り上げられている隠喩論は、主にブラック、レイコフ、グッドマン。


というわけで、タイトルになっている視覚的隠喩についても、西村は否定的である。
絵画において隠喩と論じられてきた事例、映画において隠喩と論じられてきた事例を取り上げつつ、それらを隠喩として理解する余地はあるものの、それはあくまでそうした絵画や映画を見た者の言語的な振る舞いなので、画像や映像の知覚経験とは異なるものだ、としている。


「(映像の)物語言説は、語られた知覚経験世界の次元、つまり説話世界から独立した次元として区別されることはできない。」
隠喩は説話世界に属さないイメージによって生じる。
『モダンタイムス』における「羊の群れ」という隠喩は語りの次元の述語媒体だが、説話世界の次元に姿を現すと、述語として機能できない。
画像や映像は換喩、提喩ならできるが、隠喩はできない

*1:メタファー関係の論文を集めた論文集らしい。オルドリッチ「視覚的隠喩」とかある。気になる

石黒達昌『診察室』

石黒達昌電子書籍版短編集
『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編) - logical cypher scape2を読んだ勢いで手に取った。
どういう経緯で成立した企画なのかはよく分からないのだが、石黒については電子書籍オリジナル短編集というのがいくつか編まれている。つまり、紙媒体で出版されたものを後に電子化したもの、というわけではなく、電子書籍版しか存在していない短編集となる。
この『診察室』は、非SFの主に医療系の短編が集められている。
ほとんどが「死」をテーマとしていてる。

診察室

診察室

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ごっこ

主人公が医者で、癌になった義理の父親とどのように相対するかという話
主人公が、告知というのをあまりよく思っていないのが分かる

ハバナの夜

医療ミステリ
看護師が末期患者に麻薬をいつもより多く投与して死なせてしまい、自首してくる。
主人公の医者は、警察から要請されて協力する中で、彼女の動機を探り当てていく。

その話、本当なのか

医療系ではない作品
家に白蟻がゴキブリなどが次々と出てくるという話で、読みながら、正直「なんで俺、こんな小説を読んでいるんだろうか」という気持ちにはなってしまったが

叔父が脚の切断手術をすることになったのだが、脚の葬式をやらなければ手術に同意しないと言いだし、切断した脚を何故か家で保管する羽目になってしまった主人公
他の収録作と違って、どこかコミカルな感じの作品

真夜中の方へ

芥川賞候補作
院長が亡くなり閉院することになった、北海道の田舎の病院に、閉院までの処理をするために赴任してきた主人公の医者(院長の甥か何かなので)。
末期癌の入院患者数名と、看護師、薬剤師が一人ずつ。外来患者も少しずつ減らしていき、入院患者がいなくなったら(つまるところ全員が亡くなったら)閉院となる。
薬剤師の人は、そんな病院に公募でやってきた人で何故かニホンオオカミを探している。
閉院へと向かう病院の様子と、その薬剤師(とそれに巻き込まれる主人公の)ニホンオオカミ探しとがパラレルに描かれていく。

D・サタヴァ他『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 生化学・分子生物学』

アメリカの生物学教科書『LIFE』を分冊して翻訳しているシリーズ。以前から気になっていたが、たまたま本屋で新版が出ているのを見かけて手に取った。
なお、何故いきなり3巻なのかというと、自分が今興味があり、学び直したいと思っていたのが生化学だったから(例えば、生命の起源研究やアストロバイオロジーなどの本を読んでいると、代謝はよく出てくる話題。また、合成生物学だったり、プロテオームやメタボローロームの話を収録しているのもこの3巻だった)。
とはいえ、いきなり3巻から読むのは間違いだったようで、読み始めてみると、かなり1巻や2巻への参照が多い本で難儀した。いや、ちゃんと1巻や2巻に戻って読むべきなのだが、ものぐさなので、そのまま無理矢理読み進めてしまった。
代謝に関していうと、自分も高校生物で勉強した過去があるので、「あーなるほど、昔習ったわ」という部分があるのだけれど、もちろんこれは大学の教科書なので、高校生物の範囲を超えた話がどんどん出てきて、そこが難しかった。
あと、教科書らしく、問題がところどころ出てくるのだけれど、それもまた難しかった。どういう回答の形が求められているのかが分からないというか。
訳注が時々ついているのだけれど、日本人がノーベル賞とった研究についても訳注で触れられていて、「なるほど、あれはここに入るのかー」と思ったりした。
14章~16章が代謝、17章~19章が分子生物学
なお、代謝の方は図がすごく多いのだけど、分子生物学の図が減って、読み物感が強くなる。正直、後者の方が読みやすいといえば読みやすい。

第14章 エネルギー、酵素代謝
第15章 化学エネルギーを獲得する経路
第16章 光合成:日光からのエネルギー
第17章 ゲノム
第18章 組換えDNAとバイオテクノロジー
第19章 遺伝子、発生、進化

第14章 エネルギー、酵素代謝

エネルギーの種類や熱力学の法則
ATPがどんな反応をしているか
酵素がどういう働きをするか
あと、メインの話題ではないが、代謝経路をモデル化するシステム生物学という新しい分野があるよ、という話が少し出てくる

第15章 化学エネルギーを獲得する経路

酸化還元反応は何か、という話から始まって、好気呼吸の解糖系、クエン酸回路、電子伝達系、化学浸透の話、ATPシンターゼ、嫌気呼吸、異化と同化は統合されてシステムになっているという話、ミトコンドリアと肥満の関係

第16章 光合成:日光からのエネルギー

光化学系と化学浸透からエネルギーを獲得する話
葉緑体のATPシンターゼとミトコンドリアのATPシンターゼは非常によく似ているという話があって面白かった
それから、カルビンサイクル
呼吸との関係やC3植物、C4植物の話

第17章 ゲノム

配列をどのように決定するかという技術的な話
配列決定後、ゲノム研究には「機能ゲノミクス」と「比較ゲノミクス」という二つの方向性がある
原核生物のゲノムの特徴(遺伝子数が少ないとか)
ところで、インフルエンザ菌という菌がいるのを知った*1
メタゲノミクス
トランスポゾン
最小ゲノムと合成生物学(クライグ・ヴェンターの名前が出てきた)
真核生物のゲノムの特徴
モデル生物(酵母、線虫、ショウジョウバエシロイヌナズナ)の特徴と遺伝子ファミリー
反復配列(非コード領域にみられる。調節配列の他トランスポゾンなど)
ヒトゲノムの話(進化の話と医学(パーソナル・ゲノミクスやゲノム薬理学)の話)
プロテオミクスとメタボロミクスについて

第18章 組換えDNAとバイオテクノロジー

遺伝子組み換え技術について
この章は、テクノロジーの話なので、他の章と読み心地(?)が違うけれど、バイオテクノロジーとか遺伝子操作とか言葉ではよく聞くけど実際こんな感じなのかーという点で面白かったかも。


制限酵素と切断して、DNAリガーゼではりつけたプラスミドを挿入する
遺伝子を導入するベクターには、プラスミド以外にウイルスが用いられることもある(ウイルスの方がより大きな配列を挿入することができ、自然に感染するのでプラスミドよりも大きな利点をもつ)
遺伝子マーカーなどレポーター遺伝子を導入することで、組み替えられたかどうかを同定する
CRISPRについて
RNAを用いた遺伝子発現の阻止
DNAマイクロアレイによる発現パターンの同定


バイオテクノロジーの応用
医療と農業の例が挙げられているが、特に農業分野については、「殺虫剤を自ら産生する植物」「除草剤抵抗性の作物」「栄養価を高めた穀物」「環境に適応した作物」と多くの具体例が挙げられている
また、合成生物学の話も。
最後に、社会的な懸念の話についても触れられているが、一応触れるだけは触れといた感が強い。

第19章 遺伝子、発生、進化

主に発生の話
細胞分化と幹細胞の話
細胞運命がどのように決定されるか(誘導因子やそれを発現させる遺伝子)
エヴォ・デヴォと遺伝子ツールキット
ヘテロメトリー・異所性・異時性
発生遺伝子の変異による進化
発生遺伝子が保存されていることによる平行進化


発生の話は、それこそ高校生物で習ったようなところもありつつ(細胞分化、細胞運命と誘導)、一方で、倉谷滋の本でがっつり読んだようなところもありつつ(
倉谷滋『進化する形 進化発生学入門』 - logical cypher scape2とか)、あと実は以前、GACCOの
進化発生学入門ー恐竜が鳥に進化した仕組みー | gaccoを受講していたことがあって、そこでshhやヘテロクロニー、異所性を習っていたことがありつつで、色々思い出しながら読んでいた。

*1:詳しくはWikipediaなど参照。当初、インフルエンザの原因として特定されたのでこの名前がつけられたが、のちにインフルエンザの原因はウイルスであることが判明した

北村紗衣『批評の教室』

サブタイトルは「チョウのように読み、ハチのように書く」(もちろんモハメド・アリの言葉が元ネタ)。批評を書くための方法を分かりやすく解説している。
ここでいう批評はかなり広い意味で使われていて、何らかの作品について分析して説得的に論じた文章、というくらいに捉えればよいだろう。
例えば、何らかのメディアで書評やそれに類する記事を書くことになったライターとか、自分のブログで好きなドラマ・アニメや音楽について感想を書いているがもう少し人に読まれる文章にしたいと思っている人とか、あるいは、文系の大学生で授業のレポートとして批評を書くことになった学生とか、そうした人たちが対象読者になるのかなと思う。
もちろんこれ以外の人でも、何らかの形で批評に興味のある人にとって、面白い本であると思う。


かなり実践的な内容で、「作品で起きた出来事をタイムラインにしてみる」とか「まずタイトルを決めてから書き始める」とか、そういったことが書かれている。
また、第4章では、筆者と筆者のところの学生の2人が、実際に批評を書き、お互いにコメントし、さらに対談したものが収録されている。これは筆者が、批評を通じてコミュニティを形成していくことを重視していて、それの実践例として示しているものになっている。


なお、出た当初から気にはなっていたのだが、twitterで著者が「分析美学を実用的に悪用している」と述べていたのが、最後の一押しになった。
https://twitter.com/Cristoforou/status/1444951738839027720

プロローグ 批評って何をするの?
第1章 精読する
第2章 分析する
第3章 書く
第4章 コミュニティをつくる―実践編

プロローグ 批評って何をするの?

キャロルの『批評とは何か』が引用されていたが、価値付けが批評に必須かどうかという問題には関心がないとした上で、特に初心者は、価値付けまでやろうとするのは大変だろうと述べている。
それから、批評するというのは作品の楽しみ方の一つであって、批評せずに何も考えないで鑑賞するのもまたありだ、ということを述べている。どちらも作品の楽しみ方の一つであって優劣はない、と。だから、批評しない人たちを下に見てはいけないと述べる一方で、「批評とかしないで何も考えない方が楽しいじゃないか」と言われた場合は「これが私の楽しみ方なんだ」とちゃんと言いましょう、ということも書かれている。
とても穏当な立場だし、「何も考えずに楽しめよ」派に対するスタンスがはっきり書かれているのもよい。

第1章 精読する

精読は、ニュー・クリティシズムから出てきた概念

精読するのににやるべきこと
  • 辞書を引く
  • 何度も繰り返し読む・見る
  • 正しい解釈はないが、間違った解釈はあることを意識する

ここで、ウォルトンが引用され「虚構的真理」が紹介される。つまり、物語世界内の事実というのはあって、これを間違わないにしましょうという話

  • 作品のやろうとしていることを理解する

ポジティブなものとして出しているのか、ネガティブなものとして出しているのか、どちらでもないのかちゃんと把握する

  • フィクションには、意味のないものはない
    • 複数回出てきているものに注目する
    • しつこく時間をかけて描写されるものに注目する
    • 通常であればそこに出てこないはずのものに注目する
    • 登場人物が誰かに親切にする場合は深読みする

現実世界では特に何の意図もないということもあるが、フィクションの世界では登場人物の行動には何か意図があると考えるようにするということ

これは、あまり類書には出てこないと思われるし、筆者自身もなかなか普段の授業では言えないことだと述べつつ、説明している。
つまり、自分の性的な好みが作品の評価に影響してしまうことがあることを自覚すべし、という話で、確かになかなか大事な話だと思う。
好みの俳優が出演した作品は、そうでない作品よりも面白いと思ってしまう、という身も蓋もない話なんだけど、自分のバイアスのせいで読み間違えてしまうことがあるよという注意であると同時に、
逆に、それを利用した批評を書くこともできるよ、というアドバイスにもなっている。例えば、BL的観点で批評することで、今までとは違う解釈を提案するとか。

精読するのにやるべきではないこと
  • 登場人物を信じる(べきではない)

信頼できない語り手や、語り手ではない登場人物が嘘をついてるケース
信頼できない語り手はよく知られた技法でもあるので気付きやすいが、登場人物の嘘の方が気付きにくい。あと、最後まで嘘だったのかどうか分からないこともある。
注目ポイントは、どこそこに行くと言ったのに実際に行った描写がないとき。具体的な作品が2つ挙げられている

  • 作者の意図を探る(べきではない)

作者の意図が現れているとは限らないし、意図とは違うことが表現されてしまうこともある
作者と語り手の区別

  • 歴史的背景を無視する(べきではない)

作者は死なせても歴史的背景は死なせてはいけない

第2章 分析する

批評理論についての簡単な紹介と、実際の分析手法について
批評理論については、個々の理論について紹介するということはほとんどやらず*1、むしろ、批評を書くに当たって批評理論をどのように使うか、どのように付き合うかということが書かれている。
「巨人の肩の上に立つ」ためのもので、批評というゲームに勝つ*2ための戦略の一つであり、また、批評を書く際のアティチュードになるようなものだ、というようなことが述べられている。

タイムラインを起こしてみる

具体的な作品を例に出しながら、実際に筆者が書いた図付きで解説されていて、とても実践的
作品内で起きた出来事を時系列で並べてみよう、ということ
すごく短い期間の出来事だったり、あるいはかなり期間にわたってのお話だったりということが分かったり、あるいは、話の順番と実際の時系列が違うということが分かったりしてくる。

図を書いてみる

人物相関図を書いてみる
詩もイメージを図にしてみる
物語を、棒人間を使った簡単なマンガにしてみる
抽象化した物語の要素をあげてみる(昔話の形態分析みたいな奴)
モチーフ早見表を作ってみる
→ある作家や監督の作品にでてきたモチーフを一覧にして、そのクリエイターに共通したモチーフや、あるいは作風の変化を見つけられるようにする

価値付けする

再びキャロルの『批評とは何か』から、作品には「成功価値」と「受容価値」がある、と。
成功価値は、その作品が何を達成したか
受容価値は、受容者側がどのような経験をしたか
キャロルは前者を重視するのに対して、筆者は後者も大事だと述べる。
作品としての出来は悪いのだけど、嫌いになれない作品がある場合、どの点に惹かれるのか、自分にとってどんな受容価値があったのかを明らかにしよう、と。

  • 作品の「友達」を見つける

影響関係のある作品や、原作と翻案の関係にある作品、直接の関係はないがモチーフに類似性がある作品など、関わりのある作品をどんどん書き出していって、作品のネットワーキング作業を行う

  • 白いウサギは全て追いかける

分析段階においては、手がかりになるものは全て追いかけて、調べるべし
ある作品を批評したい時、その作品を見るだけでなく関連するような作品も全て見るようにする
ここらへんは、個人的には耳が痛い話だった……w

第3章 書く

実際に批評を書く方法について。
批評を書くための方法ではあるが、このあたりは、批評以外の文章を書くことにも応用が効く内容が含まれていると思う。
この章の前半では、筆者が実際に『ごん狐』をうなぎという観点から批評した文章を書いていくという形で進められるので、やはり実践的な内容になっている。

  • 切り口を決める

分析する際にはあらゆる手がかりを集めるのに対して、書く際には、切り口を一つに絞って、関係しないことは書かないという決断が必要。これまた、個人的には耳が痛い話だった

  • タイトルをまず決める

文章の書き方指南において、タイトルを最後につけるというのが一般的な気がする*3のだが、最初に決めるようにすすめている。切り口を決めて、それにそったタイトルをまずつけることで、それが縛りになる、ということが述べられている

  • 書き出しは作品情報
  • 切り口の提示と巨人の肩にのる

ここでいう「巨人の肩にのる」は、関係する文献をひたすら調べること。ここでは、『ごん狐』をうなぎという観点から書いているので、『ごん狐』が書かれた当時のうなぎに関する新聞記事などを調べている。文献の調べ方の勉強にもなる。

  • 書けない時は照明を褒める
  • 作品の様子を把握できるように書く
  • 感動した理由を書く
  • ターゲット層を想定する
  • 好きな書き手をロールモデルにする
  • 時にはルールを無視する
  • 型にはまる
  • 人に好かれることは諦める


ところで、うなぎについて色々調べているが、最後に実は私はうなぎは嫌いです、というオチがある(批評は好きだから、嫌いなものについても調べられるのだ、という話になっている)
それは全然構わないのだけど、北海道だとうなぎを食べないので好きにならなかった的なことが書いてあったので、同じ北海道出身者として、子どもの頃うなぎ食べてたし好きですが、ということを一応表明しておこうと思ったw*4

第4章 コミュニティをつくる―実践編

フィッシュの解釈共同体モデルについて説明したあとで、実際に批評を通じてコミュニティを作る例として、指導学生の1人と互いに批評を書いて議論しているところを掲載している。
具体的には、『あの夜、マイアミで』と『華麗なるギャッツビー』(2013年の映画版)の2つの作品について、筆者と学生が書いた批評文とそれに対する相手のコメントと、紙上ゼミと題した2人の対談が掲載されている。

*1:ポストコロニアルフェミニズムクィアについては簡単に触れている

*2:ここでの「勝つ」は誰かと戦って勝つというわけではなく、自分がより面白いと思えることをするという意味で使われている

*3:あまりその手の本などを読んでいないので分からないが

*4:ただ、ある時期からは食べていない。絶滅危惧種なので……。完全養殖はやく実現して

『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編)

伴名練による作家別アンソロジーシリーズ第3弾*1
黒作品は、過去にやはりアンソロジーで「冬至草」と「雪女」を読んでいて、面白かったので気になっている作家ではあった。
冬至草」と「雪女」はわりと似ていて、どちらも架空の研究をノンフィクション風に描いていく作品であった。
が、当然ながら、そういう作品ばかり書いているわけではなく、このアンソロジーも、この作者の様々なタイプの作品に触れられるように編まれている。
しかし、そうは言ってもやはり、タイトルにも選ばれている「冬至草」と「雪女」はやはり別格に面白い感じがある。同系統の作品で、芥川賞候補作にもなった「平成3年5月2日……」や、この中で唯一のSFマガジン掲載作である「希望ホヤ」も面白かった。
伴名練編『日本SFの臨界点[怪奇編]ちまみれ家族』 - logical cypher scape2で読んだときに知ったが、石黒は基本的に文芸誌で活動してきた作家で、そういう意味では実はあまりSF作家ではない。現役の医者でもあり、そちらが忙しくなってきて作品発表が減っているという事情もあるらしい。


希望ホヤ

娘が末期の小児癌だと宣告された弁護士のダンが、癌について独学で勉強しはじめるも、手遅れだということが分かり、娘が行きたがっていた海岸の町へと訪れる。
ほとんど何も食べられなくなっていた娘が、地元の名産であるホヤだけは口にする。
ダンは、そのホヤが腫瘍と共存しているのではないかと考え、調べ始める。
石黒のデビュー作および初期の作品は、医者である主人公と癌患者についての話らしく、また、死をあまり理解していない幼い娘、というのも他の作品やエッセーで登場するらしい。
一方、結局その正体などを解明するには至らず、ホヤ自体も失われてしまうという結末は、「冬至草」「雪女」「平成3年5月2日……」などとも通じるところがあるように思える。
ホヤが癌の特効薬になるかも! な展開は、ポジティブなSFっぽいが、最終的な結末は石黒作品の味かなーと。
なお、こういう結末になっているのは、主人公が医者ではないから(医者だったらこうはしないだろう)ということが編者解説で書かれている。

冬至

以前、『ゼロ年代日本SFベスト集成<F> 逃げゆく物語の話』大森望編 - logical cypher scape2で読んでいた。
あらすじは上記記事にまとまっているので省略
これもまた、プロの研究者ではなく在野の研究者であったために、真理探究よりも一発当ててやる的なモチベーションでなされていた研究であったがゆえに、みたいな展開をしていく(「希望ホヤ」も医者・研究者でないものが、娘を助けるというモチベーションで行った研究だったのでああいう結末になる)。
あと、戦争中の話なので、秘密兵器研究みたいな名目で研究を認めさせる展開がでてきたりする。
それから、恥ずかしながら朱鞠内湖の強制労働・タコ部屋労働のこと知らなかった*2

王様はどのようにして不幸になっていったのか?

他の作品と全然違って、寓話テイストの話
ある国の王様がすごく賢くて、どんどん国を発展させ、周辺国との戦争にもどんどん勝って領地を拡大させていくのだけど、ある時、戦争から帰ってきた兵士が、実はこの国は負けているんだと告発する。
王様が賢すぎて、自分で考えるのをやめてしまった国民の話でもあるし
そもそも正しいことって一体なんだよ、という問答があったりする。
王様と森の対比

アブサルティに関する評伝

研究不正をテーマにした作品
ちなみに、初出は2001年
実験の鬼といわれたアブサルティだったが、そもそも彼がいる時しか実験がうまくいかず、主人公は彼のデータねつ造を指摘する。その後、アブサルティは結局再現ができない。
そもそも彼は、別の研究室でも結果を怪しまれて追い出されていた。今の研究室に移ってきたのは、ボス同士の仲が険悪なので、前科(?)がバレないだろうというもくろみだった。
実験データはねつ造なのだが、彼の理論が正しかったことは後に明らかになる。彼自身、独特の科学観を持っており、理論さえ正しければ実験はどうとでもなる的な考え方をしていたっぽい
ねつ造の話だけだと単なる不正の話なのだが、このアブサルティの科学観があるので、ちょっと文学(?)っぽくなっている

或る一日

おそらく何らかの原子力災害が発生したところに、医者として外国から派遣されてきた「私」の、ある一日を描く。
被曝した子供たちを収容する施設で、医療資源も限られた中、次々と子供たちが死んでいく。
私が着ていたTシャツに描かれたカメのキャラクターが、子供たちの間で「信仰」の対象となっていく。
とにかく、情け容赦なく襲い掛かってくる多くの死が淡々と描写されていくが、タイトルにある通り、ここに描かれるのはあくまでも「或る一日」の話であって、そこには救いもクライマックスもない。

ALICE

初出95年の作品で、精神分析と多重人格と殺人事件が描かれており、90年代っていう感じがする作品
Aliceという女性が、研究所の上司であり同性愛関係にあったとされるMikaを殺害するのだが、二重人格者であったことから、精神科医のaliceが鑑定を行う。
物語の前半は、aliceによるAliceの精神分析が描かれる
その後、Aliceは刑務所で看守の銃を奪い、aliceを人質にとって立てこもる。ところが、その事件は、aliceによってAliceが殺害されるという経緯をたどる。
物語の後半は、C57/blcackという医師が、aliceの精神分析を行う過程が描かれていく。特に後半は、aliceが見る夢とその解釈に多くがさかれ、内容は難解というか観念的という感じになっていく。死やアイデンティティに関する考察と夢解釈が交錯するような作品

雪女

これも戦中の北海道が舞台
低体温のまま生き続けている不思議な女性ユキを研究した柚木医師の話
その後、若い姿でありながら約200歳という年齢である可能性が出てきて、その謎の解明に迫っていくが、元々軍医として凍傷研究を行い、あくまでその関連でユキの研究を行っていた柚木は、最終的に、ユキの研究を禁じられ、私費で研究を行うことになり、袋小路へとどん詰まっていく。

平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群に急逝された明寺伸彦博士,並びに,

初出は『海燕』93年8月号で、110回芥川賞候補作となっている。なお、110回芥川賞受賞作は奥泉光『石の来歴』だったらしい*3。その際には、田久保英夫大江健三郎日野啓三が受賞を推している。また、編者解説によると、当時、筒井康隆沼野充義からも高評価だったらしい。
本来の作品名は無題で、作品を識別するために、冒頭部分の「平成3年5月2日……」が用いられているとのこと。なお、石黒作品には無題のものが他にもいくつかあるらしい。
形式的に目を引くのがそれだけでなく、横書きで書かれており、写真や表、架空の参考文献一覧なども挿入されており、一種のレポート形式として書かれている。
これまた北海道を舞台としており、その名の通り、背中に羽のようなものが生えた「ハネネズミ」というネズミについての研究と、ハネネズミが絶滅にいたった経緯が書かれている(研究が始まった時点で稀少化しており、確保できた2個体が最後の個体で、繁殖に失敗し死なせてしまう)
死や絶滅に向けて進化していった生き物だったのではないか、という考察が付されている。
ちなみに、阿部和重ニッポニア・ニッポン』同様、日本のトキが発想の源であったらしい。

解説 最も冷徹で、最も切実な生命の物語――石黒達昌の描く終景/伴名練

石黒のファンブログを運営しているほどの伴名練による解説で、石黒の経歴、収録作品の解説、全短編集の紹介が詳細になされている。
それによると、石黒はもともと『海燕』から「最終上映」でデビューし、純文学的な医療小説を元々書いていた。
93年に「平成3年5月2日……」を発表し、これが高く評価される。そして、石黒の作風自体、SF的ないし幻想的あるいは寓話的な要素が増えていくことになったらしい。また、95年頃には、『パラサイト・イヴ』の瀬名秀明、『リング』の鈴木光司と並び、理系の作家として注目されていたらしい。
ところが、96年に『海燕』が廃刊し、作品発表の場を失う。その後は、『文學界』とハルキ文庫で執筆の機会を得る。SFの書き手となるのはこの頃。ハルキ文庫がSF作家を集めていて、そのうちの一人として石黒が書くことになったらしい。ハルキ文庫から発表された『人喰い病』が星雲賞参考候補作ともなり、SFマガジンでの「希望ホヤ」につながっていく
2004年に『文學界』で発表した、非SF・非幻想系の小説で3度目の芥川賞候補となり、06年にはハヤカワSFJコレクションから『冬至草』が出るも、発表作は徐々に減っていき、2010年以降新作は発表されていない。

*1:ということはもちろん、1と2もあり、それぞれ中井紀夫新城カズマのアンソロジーで気にはなっているのでいずれ読みたい

*2:あれ、もしかして劉連仁ってと思ってしらべったが、劉連仁は炭鉱労働者だった。ただ、地理的には近い(どちらも空知)。

*3:奥泉光『石の来歴』 - logical cypher scape2

『日経サイエンス2021年10月号』

SCOPE

  • ヒト受精卵ゲノム編集の行方

どういう時ならやっていいか、ということで、それ以外に治療の手段が絶対にないという時に限り解禁しようという動きが出てきているらしい。

ADVANCES

  • 思考による文字タイピング

BMIでの文字入力について。既に実現していたのか。
手で文字を書く時の動きを思い浮かべてもらって、その時の信号を読み取っているらしい(思考そのものを読むのはまだ難しく、代わりに身体の動きについての信号を読み取る)
タイピング速度はまだ遅いのだが、60代で障害を負った男性で行ったところ、毎分95文字でタイプができたとか。なお、シニア世代が携帯電話で入力する平均速度が毎分115文字らしい。

  • 除虫菊の秘密

2種類の成分で蚊よけになっていらしい

  • 新たな「月の石」

中国によるサンプルリターンによってえられた月の石。
クレーター年代学の見直しにつながるかもしれない
中国国内へのサンプル要請受付期間が7月ないし8月に終わり、その後、国際研究チームへの割り当てが始まる見込み

  • 異星の地下生命

放射線が水分子を分解し、生成された水素と硫酸塩が、地下の微生物を支える
火星の地下に微生物生命圏があるかも

特集:新しい恐竜像

ジュラシック・パークの“毒吐き恐竜” ディロフォサウルスの本当の姿 M. A. ブラウン/ A. D. マーシュ

ジュラシック・パーク世代として、ディロフォサウルスが表紙の本誌は読まざるをえない!
いやまあ、そんなにディロフォサウルス自体は好きではないけれども、しかし、『ジュラシック・パーク』を見た者に強烈な印象を残した恐竜であるのには間違いない。
今、恐竜にさして興味がない人であっても、過去に『ジュラシック・パーク』を見ていて、エンジニアのネジスンを毒殺したあの恐竜のことを覚えている人には、是非読んで欲しい記事。
ジュラシック・パーク』は、当時の恐竜研究を参照しながら作られたが、今となっては結果的に間違っている点もあれば、演出の都合上、当時からあえて事実とは異なる形で描かれている部分もある。
その中でもディロフォサウルスは、実は映画と実態が特に異なる恐竜なのである。


まず、大きさ。
映画では実際よりも小さく描かれている。これは、ヴェロキラプトルとの混同を避けるための演出の都合で、あえて小さいサイズにしていたらしい。


発見当時は、あごが貧弱だと考えられ腐肉食恐竜だとされていた。
しかし、その後、あごが頑丈であることが分かってきて、頂点捕食者であったと考えられるようになった。
映画で描かれているように、毒を飛ばしてひっそり殺して、というのではなく、かなり強力なハンターだったようだ。

卵の化石から読み解く恐竜の進化  真鍋 真

恐竜の卵はすべて硬い殻を持っていると考えられてきたが、2020年、ウミガメの卵のようにやわらかい殻の恐竜もいることが明らかになった。
恐竜の進化の中で、何度か硬い殻の獲得が起こったらしい
そして、硬い殻の獲得は、抱卵へとつながったのではないか、と
卵の殻の気孔の数から抱卵したか地中に埋めていたか調べた研究などの紹介
抱卵という行動が獲得されたのは、トカゲからヘビが進化してきて、捕食するようになったからではないか、とか

特集:宇宙の夜明けを見る

最初の星を探せ 日本発の宇宙望遠鏡計画  井上昭雄/谷口義明

宇宙はビッグバンで誕生後、宇宙の晴れ上がりという現象を経て、その後、天体が形成されたことで、宇宙再電離が起きたとされる。
宇宙で古い時代の出来事を見るには遠くのものを見ればよい。遠いものは赤方偏移している。で、観測すべき周波数帯が決まってくる(この場合、赤外線)。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が赤外線観測できるが、詳細な観測ができる代わりに観測範囲がピンポイント。どこに目標天体があるか分からないので、広範囲に観測したい。
そこで、筆者らが提案しているのがGREX-PLUS計画である。
冷却装置が必要になるが、日本には既にその技術がある。

月の裏側に電波望遠鏡  A. アナンサスワーミー

上の記事と同じような話で、月の裏側は地球の大気に邪魔されず観測できるので、昔からそこで観測できたらなあという話はあり、本記事では、現在考えられている各国の計画がささっと紹介されている
月の裏側に着陸した実績があるという点では、中国が一歩リードしている。
月の裏側での天文観測に向けて、まずは10月打ち上げのROLSEがある。ただし、着陸場所は月の表側で、月での電波ノイズの特徴を探る。
月の電波ノイズの特徴を探る計画としては、2024年打ち上げ予定のLuSEEもある
月の裏側に設置するのではなく、軌道上に複数機の衛星からなる望遠鏡アレイを展開するというアイデアもある。
望遠鏡アレイについては、もちろん月面に展開するというアイデアもあり、本記事では、各国の研究者(中国、オランダ、イギリス、アメリカ)がどのような計画をたてているか、というのが紹介されている。

共生細菌サプリがサンゴ礁を救う?  E. スヴォボダ

現在、温暖化により世界各地のサンゴ礁が危機に瀕している。病気などによる白化現象などが生じている。
サンゴは、多くの細菌と共生しており、その中にはサンゴの高温耐性を高めたり病気を防いだりするなどのいわゆる善玉菌をいる。そうした善玉菌のカクテルを投与することで、サンゴ礁を守ろうとする動きが生まれている。
現在、実験室での実験を経て、実地試験が行われ始めている。
これに対して、その後どのような影響がでるのか分からないという慎重論や効果があるとしても散布コストがかなり高くつくのではないかという批判もあるが、このままにしておくとあと10年以内に死滅するという状況でもあり、地元の自然保護運動などはこの動きをすすめている。

飲み水を求めて 渇きが促した人類進化  A. Y. ロージンガー

鳴沢真也『連星から見た宇宙』

サブタイトルは「超新星からブラックホール重力波まで」
元々連星に特に興味があったわけではなかったのだが、サブタイトルにある通り、ブラックホール重力波天文学あるいは系外惑星などの最近話題のトピックについて扱っており、連星をキーワードとした天文学入門という感じだったので、手に取ってみた。
実際読んでみたら、天文学にとっていかに連星が重要なのかということが分かった(そもそも連星は数が多い。連星を調べることで分かったことが多い)。
自分は科学ミーハー(?)で、ニュースになるようなトピックを追いがちなので、「連星? ふーん、何それ地味だね。それより、重力波とか系外惑星とかの方が派手で面白いよね」というところがあるが、背景として連星が重要だったんだなーということが知れてよかった。
星の質量とか、わりと、どうやって調べたんだって謎なところだったので面白かった。
あと、元素の起源の話も「え、めちゃくちゃ最近の研究じゃん」と驚いた。

第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら