『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』(伴名練編)

伴名練による作家別アンソロジーシリーズ第3弾*1
黒作品は、過去にやはりアンソロジーで「冬至草」と「雪女」を読んでいて、面白かったので気になっている作家ではあった。
冬至草」と「雪女」はわりと似ていて、どちらも架空の研究をノンフィクション風に描いていく作品であった。
が、当然ながら、そういう作品ばかり書いているわけではなく、このアンソロジーも、この作者の様々なタイプの作品に触れられるように編まれている。
しかし、そうは言ってもやはり、タイトルにも選ばれている「冬至草」と「雪女」はやはり別格に面白い感じがある。同系統の作品で、芥川賞候補作にもなった「平成3年5月2日……」や、この中で唯一のSFマガジン掲載作である「希望ホヤ」も面白かった。
伴名練編『日本SFの臨界点[怪奇編]ちまみれ家族』 - logical cypher scape2で読んだときに知ったが、石黒は基本的に文芸誌で活動してきた作家で、そういう意味では実はあまりSF作家ではない。現役の医者でもあり、そちらが忙しくなってきて作品発表が減っているという事情もあるらしい。


希望ホヤ

娘が末期の小児癌だと宣告された弁護士のダンが、癌について独学で勉強しはじめるも、手遅れだということが分かり、娘が行きたがっていた海岸の町へと訪れる。
ほとんど何も食べられなくなっていた娘が、地元の名産であるホヤだけは口にする。
ダンは、そのホヤが腫瘍と共存しているのではないかと考え、調べ始める。
石黒のデビュー作および初期の作品は、医者である主人公と癌患者についての話らしく、また、死をあまり理解していない幼い娘、というのも他の作品やエッセーで登場するらしい。
一方、結局その正体などを解明するには至らず、ホヤ自体も失われてしまうという結末は、「冬至草」「雪女」「平成3年5月2日……」などとも通じるところがあるように思える。
ホヤが癌の特効薬になるかも! な展開は、ポジティブなSFっぽいが、最終的な結末は石黒作品の味かなーと。
なお、こういう結末になっているのは、主人公が医者ではないから(医者だったらこうはしないだろう)ということが編者解説で書かれている。

冬至

以前、『ゼロ年代日本SFベスト集成<F> 逃げゆく物語の話』大森望編 - logical cypher scape2で読んでいた。
あらすじは上記記事にまとまっているので省略
これもまた、プロの研究者ではなく在野の研究者であったために、真理探究よりも一発当ててやる的なモチベーションでなされていた研究であったがゆえに、みたいな展開をしていく(「希望ホヤ」も医者・研究者でないものが、娘を助けるというモチベーションで行った研究だったのでああいう結末になる)。
あと、戦争中の話なので、秘密兵器研究みたいな名目で研究を認めさせる展開がでてきたりする。
それから、恥ずかしながら朱鞠内湖の強制労働・タコ部屋労働のこと知らなかった*2

王様はどのようにして不幸になっていったのか?

他の作品と全然違って、寓話テイストの話
ある国の王様がすごく賢くて、どんどん国を発展させ、周辺国との戦争にもどんどん勝って領地を拡大させていくのだけど、ある時、戦争から帰ってきた兵士が、実はこの国は負けているんだと告発する。
王様が賢すぎて、自分で考えるのをやめてしまった国民の話でもあるし
そもそも正しいことって一体なんだよ、という問答があったりする。
王様と森の対比

アブサルティに関する評伝

研究不正をテーマにした作品
ちなみに、初出は2001年
実験の鬼といわれたアブサルティだったが、そもそも彼がいる時しか実験がうまくいかず、主人公は彼のデータねつ造を指摘する。その後、アブサルティは結局再現ができない。
そもそも彼は、別の研究室でも結果を怪しまれて追い出されていた。今の研究室に移ってきたのは、ボス同士の仲が険悪なので、前科(?)がバレないだろうというもくろみだった。
実験データはねつ造なのだが、彼の理論が正しかったことは後に明らかになる。彼自身、独特の科学観を持っており、理論さえ正しければ実験はどうとでもなる的な考え方をしていたっぽい
ねつ造の話だけだと単なる不正の話なのだが、このアブサルティの科学観があるので、ちょっと文学(?)っぽくなっている

或る一日

おそらく何らかの原子力災害が発生したところに、医者として外国から派遣されてきた「私」の、ある一日を描く。
被曝した子供たちを収容する施設で、医療資源も限られた中、次々と子供たちが死んでいく。
私が着ていたTシャツに描かれたカメのキャラクターが、子供たちの間で「信仰」の対象となっていく。
とにかく、情け容赦なく襲い掛かってくる多くの死が淡々と描写されていくが、タイトルにある通り、ここに描かれるのはあくまでも「或る一日」の話であって、そこには救いもクライマックスもない。

ALICE

初出95年の作品で、精神分析と多重人格と殺人事件が描かれており、90年代っていう感じがする作品
Aliceという女性が、研究所の上司であり同性愛関係にあったとされるMikaを殺害するのだが、二重人格者であったことから、精神科医のaliceが鑑定を行う。
物語の前半は、aliceによるAliceの精神分析が描かれる
その後、Aliceは刑務所で看守の銃を奪い、aliceを人質にとって立てこもる。ところが、その事件は、aliceによってAliceが殺害されるという経緯をたどる。
物語の後半は、C57/blcackという医師が、aliceの精神分析を行う過程が描かれていく。特に後半は、aliceが見る夢とその解釈に多くがさかれ、内容は難解というか観念的という感じになっていく。死やアイデンティティに関する考察と夢解釈が交錯するような作品

雪女

これも戦中の北海道が舞台
低体温のまま生き続けている不思議な女性ユキを研究した柚木医師の話
その後、若い姿でありながら約200歳という年齢である可能性が出てきて、その謎の解明に迫っていくが、元々軍医として凍傷研究を行い、あくまでその関連でユキの研究を行っていた柚木は、最終的に、ユキの研究を禁じられ、私費で研究を行うことになり、袋小路へとどん詰まっていく。

平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群に急逝された明寺伸彦博士,並びに,

初出は『海燕』93年8月号で、110回芥川賞候補作となっている。なお、110回芥川賞受賞作は奥泉光『石の来歴』だったらしい*3。その際には、田久保英夫大江健三郎日野啓三が受賞を推している。また、編者解説によると、当時、筒井康隆沼野充義からも高評価だったらしい。
本来の作品名は無題で、作品を識別するために、冒頭部分の「平成3年5月2日……」が用いられているとのこと。なお、石黒作品には無題のものが他にもいくつかあるらしい。
形式的に目を引くのがそれだけでなく、横書きで書かれており、写真や表、架空の参考文献一覧なども挿入されており、一種のレポート形式として書かれている。
これまた北海道を舞台としており、その名の通り、背中に羽のようなものが生えた「ハネネズミ」というネズミについての研究と、ハネネズミが絶滅にいたった経緯が書かれている(研究が始まった時点で稀少化しており、確保できた2個体が最後の個体で、繁殖に失敗し死なせてしまう)
死や絶滅に向けて進化していった生き物だったのではないか、という考察が付されている。
ちなみに、阿部和重ニッポニア・ニッポン』同様、日本のトキが発想の源であったらしい。

解説 最も冷徹で、最も切実な生命の物語――石黒達昌の描く終景/伴名練

石黒のファンブログを運営しているほどの伴名練による解説で、石黒の経歴、収録作品の解説、全短編集の紹介が詳細になされている。
それによると、石黒はもともと『海燕』から「最終上映」でデビューし、純文学的な医療小説を元々書いていた。
93年に「平成3年5月2日……」を発表し、これが高く評価される。そして、石黒の作風自体、SF的ないし幻想的あるいは寓話的な要素が増えていくことになったらしい。また、95年頃には、『パラサイト・イヴ』の瀬名秀明、『リング』の鈴木光司と並び、理系の作家として注目されていたらしい。
ところが、96年に『海燕』が廃刊し、作品発表の場を失う。その後は、『文學界』とハルキ文庫で執筆の機会を得る。SFの書き手となるのはこの頃。ハルキ文庫がSF作家を集めていて、そのうちの一人として石黒が書くことになったらしい。ハルキ文庫から発表された『人喰い病』が星雲賞参考候補作ともなり、SFマガジンでの「希望ホヤ」につながっていく
2004年に『文學界』で発表した、非SF・非幻想系の小説で3度目の芥川賞候補となり、06年にはハヤカワSFJコレクションから『冬至草』が出るも、発表作は徐々に減っていき、2010年以降新作は発表されていない。

*1:ということはもちろん、1と2もあり、それぞれ中井紀夫新城カズマのアンソロジーで気にはなっているのでいずれ読みたい

*2:あれ、もしかして劉連仁ってと思ってしらべったが、劉連仁は炭鉱労働者だった。ただ、地理的には近い(どちらも空知)。

*3:奥泉光『石の来歴』 - logical cypher scape2

『日経サイエンス2021年10月号』

SCOPE

  • ヒト受精卵ゲノム編集の行方

どういう時ならやっていいか、ということで、それ以外に治療の手段が絶対にないという時に限り解禁しようという動きが出てきているらしい。

ADVANCES

  • 思考による文字タイピング

BMIでの文字入力について。既に実現していたのか。
手で文字を書く時の動きを思い浮かべてもらって、その時の信号を読み取っているらしい(思考そのものを読むのはまだ難しく、代わりに身体の動きについての信号を読み取る)
タイピング速度はまだ遅いのだが、60代で障害を負った男性で行ったところ、毎分95文字でタイプができたとか。なお、シニア世代が携帯電話で入力する平均速度が毎分115文字らしい。

  • 除虫菊の秘密

2種類の成分で蚊よけになっていらしい

  • 新たな「月の石」

中国によるサンプルリターンによってえられた月の石。
クレーター年代学の見直しにつながるかもしれない
中国国内へのサンプル要請受付期間が7月ないし8月に終わり、その後、国際研究チームへの割り当てが始まる見込み

  • 異星の地下生命

放射線が水分子を分解し、生成された水素と硫酸塩が、地下の微生物を支える
火星の地下に微生物生命圏があるかも

特集:新しい恐竜像

ジュラシック・パークの“毒吐き恐竜” ディロフォサウルスの本当の姿 M. A. ブラウン/ A. D. マーシュ

ジュラシック・パーク世代として、ディロフォサウルスが表紙の本誌は読まざるをえない!
いやまあ、そんなにディロフォサウルス自体は好きではないけれども、しかし、『ジュラシック・パーク』を見た者に強烈な印象を残した恐竜であるのには間違いない。
今、恐竜にさして興味がない人であっても、過去に『ジュラシック・パーク』を見ていて、エンジニアのネジスンを毒殺したあの恐竜のことを覚えている人には、是非読んで欲しい記事。
ジュラシック・パーク』は、当時の恐竜研究を参照しながら作られたが、今となっては結果的に間違っている点もあれば、演出の都合上、当時からあえて事実とは異なる形で描かれている部分もある。
その中でもディロフォサウルスは、実は映画と実態が特に異なる恐竜なのである。


まず、大きさ。
映画では実際よりも小さく描かれている。これは、ヴェロキラプトルとの混同を避けるための演出の都合で、あえて小さいサイズにしていたらしい。


発見当時は、あごが貧弱だと考えられ腐肉食恐竜だとされていた。
しかし、その後、あごが頑丈であることが分かってきて、頂点捕食者であったと考えられるようになった。
映画で描かれているように、毒を飛ばしてひっそり殺して、というのではなく、かなり強力なハンターだったようだ。

卵の化石から読み解く恐竜の進化  真鍋 真

恐竜の卵はすべて硬い殻を持っていると考えられてきたが、2020年、ウミガメの卵のようにやわらかい殻の恐竜もいることが明らかになった。
恐竜の進化の中で、何度か硬い殻の獲得が起こったらしい
そして、硬い殻の獲得は、抱卵へとつながったのではないか、と
卵の殻の気孔の数から抱卵したか地中に埋めていたか調べた研究などの紹介
抱卵という行動が獲得されたのは、トカゲからヘビが進化してきて、捕食するようになったからではないか、とか

特集:宇宙の夜明けを見る

最初の星を探せ 日本発の宇宙望遠鏡計画  井上昭雄/谷口義明

宇宙はビッグバンで誕生後、宇宙の晴れ上がりという現象を経て、その後、天体が形成されたことで、宇宙再電離が起きたとされる。
宇宙で古い時代の出来事を見るには遠くのものを見ればよい。遠いものは赤方偏移している。で、観測すべき周波数帯が決まってくる(この場合、赤外線)。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が赤外線観測できるが、詳細な観測ができる代わりに観測範囲がピンポイント。どこに目標天体があるか分からないので、広範囲に観測したい。
そこで、筆者らが提案しているのがGREX-PLUS計画である。
冷却装置が必要になるが、日本には既にその技術がある。

月の裏側に電波望遠鏡  A. アナンサスワーミー

上の記事と同じような話で、月の裏側は地球の大気に邪魔されず観測できるので、昔からそこで観測できたらなあという話はあり、本記事では、現在考えられている各国の計画がささっと紹介されている
月の裏側に着陸した実績があるという点では、中国が一歩リードしている。
月の裏側での天文観測に向けて、まずは10月打ち上げのROLSEがある。ただし、着陸場所は月の表側で、月での電波ノイズの特徴を探る。
月の電波ノイズの特徴を探る計画としては、2024年打ち上げ予定のLuSEEもある
月の裏側に設置するのではなく、軌道上に複数機の衛星からなる望遠鏡アレイを展開するというアイデアもある。
望遠鏡アレイについては、もちろん月面に展開するというアイデアもあり、本記事では、各国の研究者(中国、オランダ、イギリス、アメリカ)がどのような計画をたてているか、というのが紹介されている。

共生細菌サプリがサンゴ礁を救う?  E. スヴォボダ

現在、温暖化により世界各地のサンゴ礁が危機に瀕している。病気などによる白化現象などが生じている。
サンゴは、多くの細菌と共生しており、その中にはサンゴの高温耐性を高めたり病気を防いだりするなどのいわゆる善玉菌をいる。そうした善玉菌のカクテルを投与することで、サンゴ礁を守ろうとする動きが生まれている。
現在、実験室での実験を経て、実地試験が行われ始めている。
これに対して、その後どのような影響がでるのか分からないという慎重論や効果があるとしても散布コストがかなり高くつくのではないかという批判もあるが、このままにしておくとあと10年以内に死滅するという状況でもあり、地元の自然保護運動などはこの動きをすすめている。

飲み水を求めて 渇きが促した人類進化  A. Y. ロージンガー

鳴沢真也『連星から見た宇宙』

サブタイトルは「超新星からブラックホール重力波まで」
元々連星に特に興味があったわけではなかったのだが、サブタイトルにある通り、ブラックホール重力波天文学あるいは系外惑星などの最近話題のトピックについて扱っており、連星をキーワードとした天文学入門という感じだったので、手に取ってみた。
実際読んでみたら、天文学にとっていかに連星が重要なのかということが分かった(そもそも連星は数が多い。連星を調べることで分かったことが多い)。
自分は科学ミーハー(?)で、ニュースになるようなトピックを追いがちなので、「連星? ふーん、何それ地味だね。それより、重力波とか系外惑星とかの方が派手で面白いよね」というところがあるが、背景として連星が重要だったんだなーということが知れてよかった。
星の質量とか、わりと、どうやって調べたんだって謎なところだったので面白かった。
あと、元素の起源の話も「え、めちゃくちゃ最近の研究じゃん」と驚いた。

第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら 

スティーブ・ブルサッテ『恐竜の世界史』

恐竜の黎明期から絶滅まで、恐竜がいかに進化し生きてきたのかを描いた恐竜入門。
1984年生まれの筆者自身や筆者の研究仲間による最新の研究成果を交えながら、恐竜の歴史をトータルに見せてくれる。

プロローグ 恐竜化石の大発見時代 
1 恐竜、興る
2 恐竜、台頭する
3 恐竜、のし上がる
4 恐竜と漂流する大陸
5 暴君恐竜
6 恐竜の王者
7 恐竜、栄華を極める
8 恐竜、飛び立つ
9 恐竜、滅びる
エピローグ 恐竜後の世界
謝辞
訳者あとがき
参考文献

1 恐竜、興る

第1章は、筆者がポーランドで、友人の古生物学者であり足跡化石を発見する天才のグジェゴシとともに発掘をしているシーンから始まる。
ペルム紀末の大量絶滅から三畳紀にかけての話、そして、恐竜形類プロロダクティルスの足跡化石について
三畳紀、最初の恐竜が現れた頃
恐竜形類から恐竜類が分岐して「真の恐竜」が誕生したが、筆者は、恐竜形類と恐竜類の違いは曖昧で、この差は言葉の上のもの、人為的なものとして、その境界は重視していない。
とにかくこの時代、恐竜が現れたが、まだ支配者ではなく、他の生き物の方が目立っていた。
第1章は、この時代の恐竜化石が産出している、アルゼンチンのイスチグアラストの話

元々この地域は、1940年代、ローマーが調査をしていて、その後50年代と60年代に地元の研究者による調査もされていて、その時発見されたのはエレラサウルスだったらしい。
が、その後調査は続かず、80年代後半にポール・セレノが改めて調査隊を組織したのが、今に続くという感じらしい。
ポール・セレノ以降の調査地だと思っていたので、ローマーが調査していたと知って驚いた。

2 恐竜、台頭する

三畳紀について
二酸化炭素濃度が高く、またパンゲアという超大陸があったために、温暖化していた。
乾燥地帯が広がり、中緯度地域湿潤地帯があった。
初期の恐竜たちは、そうした湿潤地帯(イスチグアラストや現在のブラジル、インドで化石が発見されている)に生息しており、乾燥地帯には全くいなかった。
湿潤地帯にしても、恐竜以外の生き物の方が多かった
三畳紀後期から、湿潤地帯で恐竜が数を増やしはじめ、乾燥地帯への進出も始める。
ところで、ここで、筆者が学部生時代だった頃に、博士課程の学生でありながら新進気鋭の研究者として活躍し始めていた四人の研究者がいた。本書では「四天王」と称されている。
彼らは、ニューメキシコ州、画家のジョージア・オキーフで知られるゴーストランチ、ヘイデン発掘地と名付けられた場所で発掘調査を行う。
三畳紀後期、恐竜が乾燥地帯に進出し始めると恐竜は即座にその地を征服した、と考えられていた。
ところが、ヘイデン発掘地では、恐竜は発見されたものの、よく出てくるというわけではなかった。
四天王は調査を進め、実はかつてこの時代の恐竜として発見された化石の多くが、恐竜のものではないことを明かした。
三畳紀後期、恐竜と見た目がそっくりの偽鰐類が繫栄していた。
筆者は、三畳紀の恐竜と偽鰐類の多様性を形態的異質性を用いて比較した。
それぞれの種の形態的特徴を列挙して、0か1かでチェックリストを作り、それを元に種間の距離行列を作成し、距離空間というグラフを出力する。
結果は、三畳紀を通じて、偽顎類の方が恐竜より多様性が上回っていた、というものだった

3 恐竜、のし上がる

三畳紀末からジュラ紀にかけて、主に竜脚類の話
三畳紀末、パンゲアの分裂と大噴火により、大絶滅が起きるが、何故か恐竜は生き延びる。
ジュラ紀初期から恐竜の繁栄が始まる。
何が恐竜とそれ以外(例えば偽鰐類)との違いを分けたのは、筆者は分からないという。


スコットランドのスカイ島で竜脚類を探す話。
デュガルド・ロスという人が出てくる。研究者ではないのだが、スカイ島で多くの化石を発見していて、化石だけでなくスカイ島で見つかる遺物などを集めて私設博物館を作っている。


竜脚類ってでかいよねっていうことで、恐竜の体重を推定する方法が2つ紹介されている
1つは、肢骨の太さを測りそこから推定する方法
もう一つは、3次元モデルを作り、コンピュータ上で筋肉や内臓、皮膚をつけて体重を計算する方法。三次元デジタルモデルを作るためには、普通のデジカメで全身骨格をあらゆる方向から撮影すればよい。「写真測量法」という。
竜脚類は、三畳紀、プラテオサウルスなどの竜脚形類が2,3t、ジュラ紀になると10~20tほどになり、プロントサウルスやブラキオサウルスなどの有名どころは30t超え。白亜紀になると、ドレットノータス、パタゴティタン、アルゼンチノサウルスなどおティタノサウルス類が現れ、50tを超える


竜脚類が巨大化するための5つの課題と解決策
1)たくさん食べなければならない
→長い首のおかげ
2)速く成長しなければならない
→まだ体の小さかった祖先の頃から、成長が速かった
3)効率的に呼吸しなければならない
→含気孔のある骨をもち、鳥類式の肺により効率的な呼吸が可能だった
※鳥盤類恐竜は鳥類式の肺を持っていなかったので竜脚類のように巨大化できなかった
4)骨格が強靭でないといけないが、身体がを動かせなくなるほどかさばってもいけない
→気嚢により、強靭でありながらも軽い骨格
5)余分な体熱を発散できないといけない
→気嚢により、体熱を発散させる表面積を確保した

4 恐竜と漂流する大陸

ジュラ紀から白亜紀にかけて
「進歩の行進」を描いたルドルフ・ザリンガーの「爬虫類の時代」で描かれた恐竜たちは、アメリカ西部のモリソン層で発見された。
13の州にまたがる規模で、ジュラ紀の代表的な恐竜が多く発掘されている。
1980年代には、95%という驚異的な保存率のアロサウルス化石「ビッグ・アル」も発見されている
ポール・セレノも学生向けの野外実習地として利用している。


三畳紀からジュラ紀への移行と違い、ジュラ紀から白亜紀への移行は緩やかな変化
「海水準が少し変動した」とか「海が若干寒くなった」とか
竜脚類白亜紀初期に急激に衰退。有名どころがあらかた絶滅したが、ティタノサウルス類という新しいグループがあらわれる
その代わりに、鳥盤類が栄える
剣竜類が絶滅し、それに代わり、鎧竜類が台頭
小型獣脚類が多彩になり、肉食ではない種も


ポール・セレノのアフリカ調査(ニジェールやモロッコ
カルカロドントサウルスの発見
当時のサハラ地域は砂漠ではなく湿地性の密林
カルカロドントサウルス類は、ティラノサウルス類以前の支配者
ジュラ紀後期に登場(アロサウルス類の近縁)
カルカロドントサウルス類の中で最後に進化したのは、南アメリカとアフリカにすんでいたグループで、肉食恐竜としては異例の巨大化(ギガノトサウルス、マプサウルス、カルカロドントサウルスなど)

5 暴君恐竜

5章はティラノサウルス類について、6章がティラノサウルス・レックスについて割かれている。
5章の冒頭は、筆者が友人の呂君昌と共同研究することになる、チエンチョウサウルス・シネンシス(愛称ピノキオ・レックス)の発見時のエピソードと、筆者と呂との出会いなどのエピソードから始まる。
その後、ティラノサウルス・レックスの発見とティラノサウルス類についての話へと進んでいく。

ティラノサウルス類は、ジュラ紀中期に登場している
最古のティラノサウルス類と目されるのは、2010年にシベリアで発見されたキレスクスで、全長2~2.5mほどしかない。
中国では、徐星が、やはりジュラ紀中期の小型ティラノサウルス類「グアンロン」を発見している
白亜紀初頭になると、もう少し大きくなり、エオティラヌス、ジュラタイタラント、ストークソサウルスなど、3~3.5mほどの中型ティラノサウルス類が登場してくる
シノティラヌスは、グアンロンの骨とよく似ているが、全長9m、体重は1tを越えている。シノティラヌスは、レックスの類縁なのか、原始的なティラノサウルスが巨大化したものなのか
徐星が、ユーティラヌスを発見したことで、この問題が答えられるようになる。なんと、3体もの全身骨格が発見されたからだ。
ユーティラヌスは、羽毛の生えた大型のティラノサウルス類ということで有名だが、筆者にとっては、先の問いを解くのに重要であった。
ユーティラヌスとT・レックスの骨には違いがあり、近縁ではなかった。
ティラノサウルス類は、初期の段階で既に大型化が可能だった。同じ地域に他に大型の捕食者がいる場合、ティラノサウルス類は小型~中型にとどまっていた。
白亜紀の中頃というのは、恐竜化石が少ない。
その時期のものとして、近年、ウズベキスタンで産出しはじめている。
筆者は、他の研究者とともに、2016年、ティムルレンギア・エウオティカというティラノサウルス類を記載している。筆者は、ティムルレンギアの脳函をCTにかけており、それによりティラノサウルス類であることが分かったのだが、まだ巨大化はしていなかったが、大きな脳と鋭敏な感覚をもっていたと述べている。
ところで、つい最近、筑波大と北大のチームが、ウズベキスタンでカルカロドントサウルス類の新種を発見しており、プレスリリース内でティムルレンギアに言及している。
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210908_pr.pdf
もう少し後の時代になると、北米とアジアからカルカロドントサウルス類は消えており、大型ティラノサウルス類の時代が始まるのである。

6 恐竜の王者

続いて、ティラノサウルス・レックスについて
まず、どれだけ強力な肉食動物であったのか、最新の研究をもとに紹介されている。
その話を始める前に注意書きとして、T・レックスは時々「腐肉食者であった」説が流れることがあるが、これはありえないという。例えば、現生の動物でも、腐肉食者として成功しているのはハゲタカくらいであり、他の肉食動物は、腐肉「も」食べるが、決してメインではない。


T・レックスは獲物をその強力なあごで噛み砕く。
顎の筋肉のパワーについて調べたのが、筆者の研究者仲間であるグレッグ・エリクソンだ。
彼は、青銅とアルミニウムでレックスの歯を再現して、模擬実験を実施。1万3400N、1400kg重のパワーがあったことを調べた。
噛み砕くためには、筋肉だけでなく、そのパワーに負けない頭骨の強度が必要である
それを調べたのが、エミリー・レイフィールドだ。
彼女の研究室には化石はなく、ソフトウェアのマニュアルが並んでいる。彼女はコンピュータモデルを用いた有限要素解析による研究を行っている
ほかの獣脚類には見られない、個々の骨同士がしっかりと結合して強靭な構造になっていることを突き止めた。


T・レックスは、実は早く走ることはできない。
時速15~40kmだという。
これは、ジョン・ハッチンソンという動物学者によるコンピュータモデルを用いた研究によって計算された
レックスは、走って獲物を狩るのではなく、待ち伏せによる狩りを行っていた
待ち伏せは瞬間的に体力を消耗する。それを支えるのが、鳥類型の高効率の肺と気嚢だった。


T・レックスの特徴として、あの小さな前肢がある。
何のためにあったのかよく分からないと言われる前肢だが、近年、サラ・バーチが解明している
サラ・バーチは、筆者とは同じポール・セレノ研究室での学友。
彼女は、解剖学的に筋肉を復元していき、レックスの前肢に強力な筋肉が備わっていることを突き止め、獲物を捕まえておくために用いていたとしている


T・レックスの近縁であるアルバートサウルスやタルボサウルスは群れで暮らしていたことが明らかになっており、T・レックスも群れで狩りをしていたと考えられている。


脳函のCTスキャン研究により、脳化指数が高かったことも分かっている。なんと、チンパンジー並み
また、嗅球が大きかったことや、聴覚が優れていたこと、両眼視ができたことも分かっている


巨大なT・レックスも、幼体は小さかった。
骨にある「年輪」から成長速度が非常に速かったことがわかっている。
幼体は素早く走り回れたと考えられる。もしかしたら、待ち伏せ型の成体と群れで狩りをしていたのかもしれない。
筆者の親友であるトーマス・カーは、成長過程を研究し、T・レックスの頭骨が幼体から成体にかけて大きく変わっていくことを明らかにした。幼体はまだ獲物にかみついて引きちぎる、というT・レックス独特の食べ方ができなかったらしい。

7 恐竜、栄華を極める

白亜紀の北米、南米、ヨーロッパの様子について
白亜紀にはとうにパンゲアは分裂しており、大陸ごとに恐竜の種類が異なっていた。ティラノサウルス・レックスがいたのは、北米西部のララミディア大陸で、他の大陸には進出していない

  • 北米

モンタナ州のヘルクリーク地域
ヘルクリークに初めて恐竜を探しに来たのは、T・レックスの発見者でもあるバーナム・ブラウンで、彼は1902年に、同地でT・レックスを発見した。
本章では、筆者の出身地であるイリノイ州にある、バーピー自然史博物館の調査隊によるヘルクリークでの発掘物語が紹介されている。
イリノイ州では恐竜は産出していないが、博物館に新棟を作ることになり、目玉展示のためにモンタナ州のヘルクリークへ調査に出かけたのだという。この時、古生物学芸員は一人しかおらず、その学芸員マイクと彼の友人であり恐竜好きの警察官スコットが調査隊を組織したらしい。なお、スコットは後に警察を辞めて博物館職員になっている。
彼らは、若年期のティラノサウルス(愛称「ジェーン」)を発見する。
その後、さらにトリケラトプスも発見されるのだが、1体ではなく3体発見され、初めてトリケラトプスが群れで生活することが明らかになった。
ヘルクリークにいたのは、ティラノサウルストリケラトプスだけではない。エドモントサウルスなどのハドロサウルス類やパキケファロサウルス、ドロマエオサウルス類やトロオドンなど
角竜類やハドロサウルス類は被子植物を食べるためのあごを発達させていた
小型の獣脚類は、サンショウウオやトカゲ、初期の哺乳類などを食べていた。
状況はアジアでもおおむね同じで、ティラノサウルス類を頂点ととして、ハドロサウルス類、パキケファロサウルス類、ラプトルの仲間、雑食性獣脚類からなる生態系が形成されていた。

  • 南米

一方、ブラジルはゴイアス州
筆者は、ホベルト・カンデイロというゴイアス連邦大学の教授に招かれブラジルに訪れていた。
ヘルクリークでは多く発見されているティラノサウルスも、ブラジルでは皆無
代わりに、カルカロドントサウルス類とアベリサウルス類が頂点に立っている
アベリサウルス類は、カルカロドントサウルス類やティラノサウルス類よりは小ぶりだが、獰猛で、カルノタウルスやマジュンガサウルス、スコルピオヴェナートルなどがいる。なお、前肢が貧弱だったようだ。
また、角竜やパキケファロサウルス類もおらず、一方、北米では既に姿の消した竜脚類がいた。ティラノサウルス類である。
また、中型・小型の獣脚類はいるにはいるが数が少なく、むしろその地位を、ワニ類が占めていた。

  • ヨーロッパ

白亜紀ヨーロッパの恐竜研究をした人物として、ノプシャ男爵がまず紹介されている。
ノプシャ男爵がなんかすごい人であるのはなんとなく知っていたのだが、これを読んで改めて色々と知って、さらに認識が改まった。
ノプシャ男爵は、オーストリア・ハンガリー帝国トランシルヴァニア地方の貴族。1877年生まれ1933年没。
領内で妹が発見した化石が恐竜の化石であることをきっかけに恐竜研究を始める。生物として恐竜を研究する、という当時としては先進的な研究を行い(そのような考えが主流になるのは20世紀後半になってから)、また地質学者としてトランシルヴァニアがかつて島だったことに気付き、島嶼効果による小型化が恐竜にも起きていたという説を唱えた。
さて、この人、これだけで恐竜研究者として歴史に名が残る人物なのだが、それ以外にも学術的功績があり、さらに彼の送った人生そのものがかなりドラマチックである。
彼は、アルバニアの山岳地帯に惹かれ、アルバニアに長期滞在するようになり、アルバニアについての研究でも多くの論文を残している。アルバニア学者としての一面もあるのだが、その一方で実は、帝国のスパイとしての面もあり、大戦中にアルバニア人部隊を率いたりもしている。また、自らアルバニア王になろうとしたこともある(失敗したが)。
また、彼は同性愛者でもあり、そもそも最初にアルバニアに興味をもったきっかけも、当時の恋人からアルバニアについての話を聞いたからなのだが、アルバニアで出会った青年と恋に落ち、彼を秘書として雇いつつ、人生のパートナーとしても生涯をともにすることになる。
第一次大戦後、帝国が崩壊しトランシルバニアルーマニアとなり、爵位も領地も失うことになったノプシャは、一時はハンガリーの地質学研究所に勤めるが、役所仕事が向いておらず、恋人をオートバイのサイドカーに乗せ、ヨーロッパ放浪旅行を始める。
晩年、鬱病もちとなった彼は、ピストルを使って恋人と心中してこの世を去った。
これだけドラマチックな経歴を持つ古生物学者、後にも先にも彼しかいねえだろうな、という人物である。


さて、これを受けて本章では、ノプシャが残した謎を一つあげる。
つまり、彼が発見したが植物食恐竜ばかりで、どんな肉食恐竜がいたか分からないという謎である。
ノプシャと同じくトランシルヴァニア人で、マルチリンガルで探検家でもあるマティアズ・ブレミー
彼が発見したのは、ラプトルの仲間の肉食恐竜で、しかし大陸にいる近縁種とは異なり、余分な指と鉤爪をもっていた。

8 恐竜、飛び立つ

恐竜から鳥への進化の話
まず、鳥の恐竜起源説の歴史について(ダーウィンの頃の話と、恐竜ルネサンス期の話)
恐竜ルネサンスを牽引したオストロムとバッカーは師弟関係だが、だいぶ流儀が異なっていて、深刻な軋轢があったこともあるらしい。
1996年の古脊椎動物学会で、フィリップ・カリーがオストロムに、のちにシノサウロプテリクスと名付けられることになる化石を見せる。それはまさにオストロムが探し求めていた羽毛恐竜だった。


鳥類は獣脚類の一種であり、さらにその中で原鳥類の一種である。原鳥類の中には、ディノニクスやヴェロキラプトル、すべてのドロマエオサウルス類とトロオドン類が含まれる。


鳥類の特徴とされるものは、一挙に獲得されたものではなく、進化の中で少しずつ獲得された

  • 直立二足歩行

原始の恐竜が既に獲得していた

  • 叉骨

獣脚類が進化させた

  • S字形の首

獣脚類の一種であるマニラプトル類が手に入れている。なお、原鳥類はマニラプトル類の一種。

  • 大きな脳

これもマニラプトル類の時点で既に持っていた。
なお、ここで筆者の師匠の一人であるマーク・ノレルが登場する

  • 気嚢や一方通行式の肺

これらについて竜盤類が持っていたのはすでに紹介された通り

  • 羽毛

これも獣脚類が獲得している
ところで、羽毛は何のために進化してきたのか。空を飛ぶためではない。ただ、羽毛は色々なことに役に立つので、なかなかはっきりした理由が分からない。
世界初の羽毛恐竜は、カリーがオストロムに見せた、中国遼寧省で発見されたシノサウロプテリクスだが、カナダのアルバータ州でも、実は1995年に羽毛恐竜が発見されていた。しかし、発見当時は、まさか羽毛が化石に残ると思われていなくて、2009年に羽毛だと確認された。
このカナダのオルニトミモサウルス類は羽毛だけでなく翼をもっていたが、体格・体重、前肢の長さ、翼の大きさからみて、飛行は不可能だた。
ヤコブ・ビンターは、メラノソームで絶滅した生き物の色が分かるのではないかと考えた。
恐竜の羽毛の色がわかり、それは決定的な証拠というわけではないが、初期の羽毛がディスプレイ用に用いられていたのではないかという傍証となった。
おそらく恐竜は、ディスプレイ用に羽毛を進化させ、それを巨大化させる過程で飛行能力を獲得するに至った


飛行能力の獲得自体は紆余曲折があったようだが、ひとたび飛行能力が獲得されると、その後に進化は急速に進んだ
グレアム・ロイドといスティーブ・ワンという古生物学者は、古生物学者ではあるが統計学者で、彼らと筆者は共同で、進化の速度を計算した。

9 恐竜、滅びる

本章の冒頭で、隕石衝突の日から恐竜が絶滅するまでの様子が、具体的な情景が目に浮かぶような筆致で描かれている。
続いて、筆者の、隕石衝突説の提唱者であるウォルター・アルバレスとの思い出が書かれている。
筆者は高校時代、家族とイタリア旅行することになり、アルバレスが恐竜絶滅について考え始めるきっかけとなったイタリアのグッビオの渓谷の場所を知るために、直接、アルバレスに電話をかけているのである。そして、大学の地質巡検でイタリアへ行った際に、アルバレスに再会している。


ウォルター・アルバレスはもともと、イタリアの形成における大陸移動の経路を調べようと思っていたが、白亜紀の境界を見て恐竜絶滅へと興味を持つ。地層の形成速度を知りたいと考え、父親のルイス・アルバレスに助言を求める。ルイス・アルバレスノーベル賞物理学者で、しかもマンハッタン計画に参加していて、エノラ・ゲイの後続機に乗っていたらしい。
で、地層の形成速度を調べるために着目したのがイリジウムだったのだが、それがどう考えても多すぎる量が発見され、隕石衝突説が生まれることになる。


隕石衝突による突然の絶滅説に対して、環境の変動などにより恐竜は少しずつ数を減らしていったのだという説が対立している。
筆者らは、これに決着をつけるため、白亜紀末の恐竜の多様性を調べ始めた。
再び「形態的異質性」の出番である。
恐竜の多様性は絶滅直前まで減っていなかったことが分かる。
またここでは、世界各地の恐竜の多様性についての研究を集約していっており、この本でこれまで登場してきた各地の古生物学者の名前が数名であるが言及されており、最終章らしい(?)大団円感が醸し出されている(??)
恐竜は隕石衝突以前から数を減らしていたのではなく、それゆえ、隕石衝突こそが恐竜絶滅の主因だったと言えるのである。
ただ、実は話はそこまで単純ではなく、角竜類とカモノハシ竜類の異質性と種数は減少していた。そして、これをもとにしたモデル研究によると、そのことにより生態系が崩壊しやすくなっていたことが分かった。
もし、隕石衝突が起きていなかったら、おそらくこの異質性と種数の減少は一時的なもので、また安定した生態系に戻っていたのかもしれない。
一方で、この生態系が弱くなっていた時期に隕石衝突が起きたことで、恐竜はいともたやすく絶滅したのかもしれない。もし衝突の時期が異なっていたら、恐竜絶滅はまた別の経緯をたどったかもしれない。

エピローグ 恐竜後の世界

筆者が、ニューメキシコ州で暁新世の哺乳類化石を調査している様子が書かれている。

日経サイエンス2012年1月号

www.nikkei-science.com
参考文献にあがっているもので、すぐに読めそうなもので、かつノプシャ男爵の記事だったので読んでみた。
大雑把な内容としては『恐竜の世界史』で書かれているものと同じだが、先駆的な恐竜研究者であったことが強調されている。
当時、島嶼化は哺乳類については一応知られていたが、恐竜について当てはめたのはノプシャが初で、当時は顧みられていなかった。1970年代頃に見直されたとか。また、ノプシャは、骨組織の微細構造から年齢を測定する手法を開発。これも、現在では当たり前になった手法だが、相当先駆けている。島嶼化について、単に幼体・亜成体なのではないかという批判に反論するため、年齢を測定する必要があったようだ。
また、当時、鳥は爬虫類の遠縁と考えられていたが、恐竜が鳥の先祖であるという説を支持していた(なお、この説自体は19世紀イギリスに遡る)
トランシルヴァニアは、白亜紀当時、島となっており、ノプシャはこれをハツェグ島と名付けた。恐竜が北半球を行き来するにあたっての交易路的な位置にあって、恐竜の世界的な広がりを考える上で、重要なポイントらしい。
ノプシャが先駆的な研究を行えた理由として、彼が貴族であった点を指摘している。帝国中を自由に調査できた上、各国の博物館にも自由に行けたので、当時の研究者としては相当恵まれていた、と。
帝国崩壊後は没落し、自らの化石コレクションを大英博物館に売却したらしい。


『Newton』2021年8月号・9月号・10月号

『Newton2021年8月号』

Super Vision ダンスする光と影

ブラックホール連星のシミュレーションCG
降着円盤が歪んでる奴
元になった動画はこれ→
GMS: NASA Visualization Probes the Doubly Warped World of Binary Black Holes

足し算とかけ算の未知なる関係の謎にせまる ABC予想とIUT理論

ABC予想とIUT理論、名前はちらほら聞くけど一体何なんだろうかと思って読んでみたのだが、ABC予想の段階で全然わからんかった。

ティラノサウルス研究の最前線

ティラノサウルスの幼体の話とか、皮膚の印象化石の話とか、個体数の話とか

「中年危機」の心理学

そろそろ自分も中年だしなーと思い、この号を手に取った主な理由だったりw
エリクソンアイデンティティ論をさらに更新した論みたいなのが紹介されていた

地球が生んだ脅威の洞窟

写真特集
柱状節理とか水中洞窟とか
メキシコのナイカ鉱山とかアメリカのアンテロープキャニオンとか

タイムトラベル映画を科学する

ブラックホールワームホールを使ったタイムトラベルについて
『TENET』まだ見れてないけど、「素粒子の擬人化」って書いてあった

アルゴリズムな世界第3回 情報を効率よく探せ

検索について

『Newton2021年9月号』

FOCUS
  • デルタ株は日本人にとって難敵

日本人、COVID-19への細胞免疫持ってたけど、デルタ株には効かないことがわかった話

  • ふたたび金星へ

VERITASとDAVINCI+が採択されたよ話

Super Vision 建造進むNASAの巨大ロケット

SLSの写真

ブラックホール最新研究レポート

ブラックホールの大きさによる分類(恒星質量、中間質量、超大質量)
恒星の進化の果てにブラックホールになって恒星質量ブラックホールになって、それが合体していって超大質量ブラックホールになると考えられており、そうすると、合体していく過程の中間質量ブラックホールがあるはずなのだが、あまり見つかっていない
重力波での観測により新たなブラックホールが発見されているが、上の3つのどれでもない、新しい「種族」
宇宙誕生直後にできた原始ブラックホールというのが理論的には予想されていて、重力波で発見されたブラックホールはその一種ではないか、とか
EHTの話
今後は、システムとしてのブラックホール研究

世界の自然災害最新ファイル

ここ最近の自然災害が紹介されていて、国内のものだと「あったなー」と覚えているが、海外のものは「こんなこと起きてたのか……」という感じだった。
森林火災、洪水、ハリケーン・台風、蝗害、火山噴火

科学の名著

今号の特集記事だが、ざくっと眺めただけでちゃんと読んではいない
何冊か読んだことのあるものがあったが、一方で、数学テーマの本は一つも読んだことなかった。
立花隆が宇宙飛行士にインタビューしてる本、ちょっと気になる。

核融合研究の最前線

核融合の話、時々Newtonで読むけど、炉の名前(トカマクとかヘリカルとか)なかなか覚えられない
高レベル放射性廃棄物(安全になるまで十万年)はでないけど低レベル放射性廃棄物(安全になるまで100年)は出るのね。高レベルと比べたら全然マシだが、それでも100年は長ーよ
ベンチャー企業が参入し始めている、という話が気になってこの記事を読んだ。
数十社が開発してて、従来にないタイプの炉を作ってたりする。まだ稼働しているところはどこもないが、そろそろプラズマに点火しようとしているらしい。

  • 追記(20210927)

核融合ベンチャーについて下記の増田があったのでメモ

実はこの遅れが核融合ベンチャーが乱立する現在を作ったと言っても過言ではない部分があって、というのも、核融合ベンチャーにはiterに予算が取られて食い詰めた研究者が立ち上げた組織が多いのである。

核融合が2030年代に実現とか何言ってんの?って人への解説(補足あり)
結局核融合ってどの段階まで行ってんの?2030年代にどこまで行けんの


透明な生き物たち

記事ちゃんと読んでないが、モモイロサルパというホヤの仲間が透明なマットみたいで不思議な生き物だった

世界の高層建築

自分が子どもの頃、トロントCNタワーが世界一高いと覚えた。その後、21世紀に入って中東や中国で続々それを超える高層建築が建っているのは知っているが、改めて高層建築ランキングとか見ることはなかった。CNタワーは既に首位ではないが、TOP10圏内にはまだ残っていることを知って、ちょっと嬉しかったw 
スカイツリーは世界2位だったのか。
そして、メッカロイヤルホテルクロックタワーがヤバい。他の高層建築がタワーないしいかにも高層ビルなデザインなのに、これは、名前の通り時計塔の形をしている。しかも、カーバ神殿の横に建っている。巡礼者宿泊用のホテルらしい。
そのほか、現在サウジアラビアで建築中という1000m越えのビルとか、ベトナムにある470mのビルで地盤が弱いから90mの杭売ってるとか、ノルウェーの木造建築での世界1位のビル(89m、18階)とか
木造高層建築アツい

アルゴリズムな世界第4回 データの特徴を探れ

データマイニングの話。おむつとビールとか。
クラスタリングのk平均法というの、なんとなくわかったような気がした

『Newton2021年10月号』

FOCUS

学術誌に掲載された論文を紹介するコーナーだが、最近科学ニュースを頻繁にチェックしているので、既にチェック済みのものがいくつかあって嬉しいw

  • 太陽系の外から地球はみつかるか

人類の存在、宇宙人にばれている? 29惑星が受信可能:朝日新聞デジタル

地球のことを観測できて、人類の放つ電波が既に届いている距離にあり、液体の水がありうる惑星が29個あるらしいので、そこに知的生命体がいたら既にこちはの存在が知られているかも? という話

2021/06/27 12:18
b.hatena.ne.jp
宇宙人が地球を見つけられるとしたら、どの星から? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

どこから見えるかだけでなく、いつからいつまで見えるかという「トランジットゾーン」があるというのは面白い

2021/06/28 09:39
b.hatena.ne.jp

  • ラクダの抗体でつくるコロナ治療薬

これは知らなかった奴

  • 水の流れが止まる川

これも知らなかった奴
1年間のうち、水がなくなることがある「非永続河川」というのが今まであまり注目されていなかったが、流域も広くて重要だ、という話らしい

  • ヒト属の新種発見

これなんだっけと思ったけど、以前チェックしていた。この分野はいま次々変わっていくのでなかなか大変。

未知の人類か、謎の頭骨がイスラエルで見つかる | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

14万〜12万年前、イスラエルのネシェル・ラムラ遺跡で発見。古いタイプの頭蓋をもつが、ルヴォロワ技法という複雑な石器を作れる。新種かどうかはまだ不明。

2021/07/02 09:58
b.hatena.ne.jp

  • 氷は曲がる

ぐにゃりと曲がる「柔らかい氷」を作ることに成功 - ナゾロジー

中国の浙江大学の研究チーム/この氷はマイクロファイバーのような細い氷だけど、柔らかい氷というとキテレツ大百科にあったのを思い出す

2021/07/13 10:32
b.hatena.ne.jp

Super Vision 人類初の民間宇宙飛行に成功

ヴァージンギャラクティックとブルーオリジンの奴

神秘の「プラトン立体」

正多面体の性質について
そういえば、学校で習ったような気もするなーと思いつつ。
コペルニクスが、プラトン立体で惑星の運行を説明しようとしていた話も紹介されていた。
展開図どんな形でも敷き詰められる、秋山仁の定理なんかすごいな
プラトン立体の角をとったアルキメデス立体というのもあるらしい。組み合わせて空間を敷き詰める。

脳解読はここまできた

BMIないしブレイン・デコーティング
神経信号をAIに深層学習させて、今見ている図形、思い浮かべている図形、さらには夢の内容を読み取ることができるようになったという、本記事の監修者でもある神谷之康の研究が紹介されている。
それから、ニューラリンクが開発したBMI装置「LINK V0.9」について
マウスの頭からUSB-Cコネクタが生えてる写真はなかなインパクトがあるが

クリーンエネルギー最新事情

太陽光、風力、地熱、潮力について。
各国のエネルギー源の比率のグラフもある。カナダの水力の多さとフランスの原子力の多さよ。
太陽光はペロブスカイトの説明、風力は、浮体式と垂直軸型マグナス式の紹介
地熱と潮力は自分が子どものころから言われているけど、なかなか実用化しないよなー
潮力はスコットランドで稼働したらしいのと、日本でも実験機が

信じられない立体錯視
世界の最新航空機

未来の航空機デザインのCG見てるの好き、実用化できるのかよくわからんけど(あの東北大の複葉超音速旅客機とか)
超音速旅客機というとコンコルドだけど、ソ連でも実用化されていたのがあったの知らなかった。
水素や電気など脱炭素化の方向も
あと、スロバキアのクラインビジョン社が開発した空飛ぶクルマ。まじで、クルマの形まんま飛ぶんかい
あと、サブオービタル機

瀬戸際に立つ南極の危機

棚氷の下に流れ込む海水温の上昇で、棚氷の底面から解ける、薄くなっていくという現象が最近注目されているとか
棚氷が崩落すると氷河が直接海に接してさらに融解が進むとか
臨界点超えたのでは、とか
なかなかヤバい話が

月村了衛『機龍警察白骨街道』

機龍警察シリーズ長編第6弾
ミャンマーに赴くことになった部付警部3人、そして京都を舞台に城木は親戚たちと対峙する。
特捜部解体に動き出した〈敵〉


「至近未来」小説と銘打ってきた本作が、いよいよ「現実に肩を叩かれ」ながらも、しかし筆者曰く「現実の変容に耐え抜」いた本作
現実に迫ったリアリティとハードな物語展開がありつつ、その一方で痛快で外連味のあるロボットアクションであることを両立させていて、それこそが本作の持ち味とはいえ、一体どうしてこんな作品書けるんだ、と。
前作『狼眼殺手』では、機甲兵装のバトルがなかったのは打って変わって、本作では、機甲兵装の戦闘シーンが手を変え品を変え様々なパターンで出てくることになる。
ミャンマー編は、ユーリ視点やライザ視点で描かれるところもあるものの、姿が中心になっているといっていいだろう。
というのも、既にそれぞれ「警察」になる決意を固めたユーリやライザと異なり、姿はあくまでも「傭兵」として特捜部に関わっており、そしてその契約期間の終了が近付いている時期なのだ。そして、このミャンマー行きは、沖津が指摘したとおり〈敵〉による罠であり、姿にとっては日本政府による裏切りと見なせるようなものであった。以前から、警察組織に対して歯に衣着せぬ物言いをしていたが、いよいよ警察や政府に対して辟易しはじめている様子が出てきている。
一方、本作では引き続き(?!)城木に対する苛烈な展開が続く。一体どうなってしまうのか城木。
また、桂主任の出番も少し増えてきているところ。
今回はやはりミャンマーと京都が本編というところがあるが、特捜部と捜査二課との合同捜査が行われており、刑事警察パートもちゃんとある。『狼眼殺手』で警察内部にも特捜部と協力してくれるところがあることが分かってきたが、引き続きその体制が構築されることになる。数字の〈声〉が聞こえる仁礼財務捜査官も引き続き登場

以下既刊
月村了衛『機龍警察』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 自爆条項』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 暗黒市場』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 未亡旅団』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察 火宅』 - logical cypher scape2
月村了衛『機龍警察狼眼殺手』 - logical cypher scape2

以下、ネタバレこみのあらすじと感想
首相官邸に呼び出される沖津。国際指名手配犯がミャンマー警察に捕まり、交渉の結果、ミャンマー現地に日本の担当者が来るのならば引き渡すということになり、官邸は、特捜部の部付警部3人を派遣することを決定する。
彼らを国外に出すこと自体問題であるし、〈敵〉の罠である可能性が高いが、官邸からの命令には従わざるを得ず、3人はミャンマーへ向かうことになる。
問題の国際指名手配犯である君島は、沖津も知らぬところで進められてきた国産機甲兵装計画の機密を国外へと持ち出していた。
特捜部の捜査班は、国内で君島についての捜査を開始する。
君島の身辺調査を行う夏川班と、捜査二課と合同で会社を捜査することになった由起谷班だったが、夏川班は即座に公安から捜査を止めるように警告を受ける。しかし、それは公安から沖津に対するヒントの提示でもあった。
捜査二課と仁礼捜査官は、怪しい金の動きを見つけるが、それに関わっている企業が全て城州グループであることが判明する。それこそ、城木の親戚が役員として名を連ねる企業グループであった。
城木は捜査から外され休暇を取ることになるが、沖津の示唆により、京都へと赴す。子どもの頃からよく遊んでいた従兄妹の昭彦と鞠絵、そして叔父・叔母らの親戚たちのもとへ、久しぶりの再会をするために。しかし、もちろん彼らはみな、城州グループの経営陣でもある。


外事の寒河江とともにミャンマーに降り立った3人は、休む間もなく、移動となる。
大使館で働く愛染が通訳として同行するともに、ミャンマー警察の第5分隊が護衛としてつき、君島が留置されている職業訓練センター(という名の刑務所)へと向かうことになる。そしてそこは、ロヒンギャが多く住んでいる地域でもあった。
なお、3人は日本の警官として派遣されているので、龍機兵はもちろんのこと、武器を何一つ携行できずに行っていて、ライザが現地でナイフを調達しているシーンとかがある。また、ロヒンギャ問題を抱える土地柄で、携帯電話も没収される。
姿、ユーリ、ライザの3人と、危険な任務を承知で同行してきた大使館職員愛染、ミャンマー警察の第5分隊長の大尉、副隊長の少尉ならびに第5分隊による、ミャンマー行軍が始まる。「ミャーチカ」
センターに一番近い町で食事をとっていると、店内に怪しい男が。店長によれば、サイードという余所者でおそらく密輸商だろうと。国境に近いのでそういう者が時々いるのであり、大尉も犯罪者ではあろうがテロリストではないだろうと看過するが、姿らは、ただの密輸人ではなさそうだ、と感じる。「黙って食え」
その後、君島の引き渡しまでは順調だが、行きはよいよい帰りは、という奴で、帰りの道中、川沿いの足場の悪い道でいよいよ襲撃に遭う。テロリストなどではなく明らかに軍の特殊部隊による襲撃。第5分隊も機甲兵装で応戦、姿もその中の1機を借りる。ライザはナイフで歩兵に忍び寄り屠っていく。ユーリは、君島・愛染の護衛とそれぞれに役割分担しながら応戦する。
機甲兵装ごと川に転落した姿だったが、何故か、あの謎の密輸人サイードによって助けられる。
移動手段を失い第5分隊に犠牲も出る中、近くの国境警備隊の駐屯所へと向かうが、何故か誰もおらず、電話線なども断たれていた。国軍が襲撃に加担しており、第5分隊ごと抹殺しようとしていることが次第に明らかになってくる。とにかく日本政府と連絡がとれるような場所へ向かうしかない。愛染が大使館の地図で見たという、リゾート開発地へと向かうことになる。
しかし、このリゾート開発地とやらが、着いてみると明らかにリゾート開発地ではなく、人身売買組織の拠点で、今度はこの組織から攻撃されることになる。
このミャンマー行軍だが、まず第5分隊の大尉が一行の指揮官で、姿も兵士の習いで一応大尉の指示に従って行動している。一方、大尉の方も、次第に姿が手練れであることを認識し、姿の意見を聞きながら行動するようになる。なお、ミャンマーの警察は国軍の下にあるので、階級も軍人のものとなっているが、第5分隊はあくまでも警察。
また、ライザは戦闘の折には即座に単独行動に入り、次々とナイフで敵兵を屠っていく役目を担う。第5分隊は明らかに驚いているが、姿とユーリがその点でライザに全幅の信頼を置いているのが分かる描写が度々あるのがなかなかよい。
さて、リゾート開発地での攻撃では、機甲兵装に囲まれ絶体絶命のピンチに襲われるのだが、そこにインドの機甲兵装が颯爽と現れて、人身売買組織の機甲兵装を次々と倒していく。特にそのリーダー格は動きが別格で、姿は自分よりも上であると認めざるをえない。中国に12人しかいないといわれる化け物級の機甲兵装乗り、姿は一度も見たことがなく、実在しないと思っていた存在――かくしてその正体は、クワンであった。


京都で城木は、親戚との会食や鞠絵の協力などから少しずつ手がかりとなりそうなものをえていく。そうした城木からの情報、捜二と仁礼捜査官の捜査、鈴石主任の調査などから、特捜部はある事実へとたどり着く。一方、ミャンマーでも、君島を改めて問い詰めることで、同じ事実を知ることになっていた。
すなわち、国産機甲兵装計画が存在することは事実だが、君島が持ち出したとされる軍事機密たるユニットなるものは存在していなかった。
そして、その背景にあるのは、城州グループによる資金操作によって作られた裏金が、機甲兵装契約のため、ミャンマー政府・国軍へと流れていたということであった。
姿らを襲撃した特殊部隊と人身売買組織が実は繋がっていることも判明。
人身売買組織での生き残りであるロヒンギャの少年が一行に加わり、生きて帰るための行軍が始まった。
ところが、そのさなか、第5分隊の1人が死亡する。負傷していたため、それによるものかと思われたが、ユーリがこれは殺人であると喝破する。しかも犯人はこの中にいる、と。


イードが、実は沖津部長が密かに雇っていたSNS(ソルジャー・ネットワーク・サービス)の傭兵であることが分かる。元モサドの彼は、機甲兵装備をも密かにミャンマーへと持ち込み、姿たちに提供する。
君島の身元を奪還するため、姿らを襲撃している部隊の基地へと向かう。
ミャンマーでのラストバトルは、いよいよ姿・ユーリ・ライザの3人も機甲兵装を装着しての戦闘なのだが、ここで出てくるミャンマー軍がやばい。
地面を這い回るような奴らや、ワイヤーで飛びまくる奴らが出てくる。っていうか、後者は立体機動ですよね、それっていうw
さらに、ボスとして出てくるのが、アルキメディアン・スクリュー(ドリルみたいなキャタピラ)をつけて、泥の中を潜ったりすることもできる、特注品の第3種。見た目が強すぎ!w


公安の中にも〈敵〉が
そして何より、城木にとっては兄に引き続き従妹まで、という展開。しかも、兄より手ごわい
あと、城木の親戚たちがみな、兄より城木の方が政治家に向いているというのに苦しめられる城木
一体どうなってしまうのか


そして、特捜部に新しいメンバーが!
姿は今後どうするのか?!

ラヴィ・ディドハー『完璧な夏の日』

様々な特殊能力を持った超人(ユーバーメンシュ)が存在する20世紀を描くSF
おおむね第二次世界大戦前後のヨーロッパが舞台だが、ベトナム戦争やアフガン侵攻、911なども出てくる。なお、原題はThe Violent Centuryであり、こちらのタイトルの方が内容には沿っているという話もある。
イギリスの超人諜報部隊「高齢退役軍人局」に所属していたフォッグは、完璧な夏の日と呼ばれた少女クララに出会う。その出会いは、フォッグを一体どのように変えたのか。


「われわれ」という一人称複数形視点からの語り、回想形式で次々と異なる時期の話が展開されていく断章形式、そして登場人物の誰もがどこか喪失感を抱えており、『完璧な夏の日』というタイトルとは裏腹、全編霧のかかったような雰囲気(文字通りほとんどのシーンで霧が出ているのだが)に覆われている。
霧のかかったような雰囲気ってなんやねんって話だが、謎の多い展開という意味でもあるし、登場人物たちの織りなす何とも言えない(エモくもあるし、エモいという言い方がそぐなわくもある)関係という意味でもある。


自分はアメコミのヒーローものを全然読んでいないし、映画化作品も見ていないので、そのあたりの作品との比較はできないが、それはそれとして、映像的な作品で、ユーバーメンシュたちの各種能力や様々なシーンが視覚的に思い浮かべやすい作品だった。
TLを検索していると『コンクリート・レボルティオ』と似ているという声もあり、確かに似ていると思う。ただ、違う点としては『完璧な夏の日』は、ユーバーメンシュがいるということ以外はほぼ史実通りで、歴史改変はほとんどされていない。


次何読もうかなーと思いながら、読みたい本リスト眺めてて、そろそろこれ読むかって何となく選んだんだけど、刊行が2015年で、もうそんな前だったのか……と軽く驚いてしまった。


ある時期、突如世界中に超人(ユーバーメンシュ)が現れる。彼らは元々は普通の人間だったが、特殊な波動を浴びたことによって、特殊能力と不老を得ることになる。
イギリスでは、オールドマンという男が「高齢退役軍人局」にユーバーメンシュたちを密かに集めて、諜報部隊として組織する。
主人公のヘンリー・フォッグは、オールドマンによってスカウトされたユーバーメンシュの1人で、名前の通り、霧を操る能力を持つ。
物語は、現代のロンドンから始まる。軍人局を長年離れていたフォッグが、突如、オールドマンから呼び出される。夏の日(ゾマーターク)というファイルについて確認したいことがあると言って。フォッグは、オールドマンと、フォッグの相棒であったオブリヴィオンの前で長い回想を始める。


すでに述べたように「われわれ」という一人称複数形視点による語りがなされ、回想も必ずしも時系列順ではなく、様々な時点に飛びながら、また現代とも行きつ戻りつしながら進められていくことになる。
この「われわれ」が一体何者なのかというと、早速ネタバレしてしまうと、実は最後まで正体が分からないままである。ただ、この「われわれ」が、メタフィクショナルな雰囲気を作品に持たせている。


回想は、フォッグが超人になる前の子供時代から始まり、オールドマンに連れられた養成所時代(チューリングがいる!)、そして軍人局エージェントとして活動した、ミンスクトランシルヴァニア、パリ、ノルマンディー、アウシュビッツ、ベルリンなどでの出来事が語られていく。
同じ軍人局に属するユーバーメンシュたちだけなく、アメリカの派手に活躍するユーバーメンシュたちや、ユーバーメンシュ狩りを行っているナチスのユーバーメンシュ、ソ連のユーバーメンシュ部隊などが登場する。
さらに彼らの戦後の状況は、オブリヴィオンによるヴェトナム・ラオスやアフガンの話として語られていくことになる。
彼らは、陰に陽に国家のために戦い、身も心も傷ついていく。しかし、身体は年老いず、精神だけに疲労が蓄積していく日々を送ることになる。
フォッグとオブリヴィオンは養成所で出会い、以来、コンビを組んで仕事をするようになる。しかし、ナチスドイツ占領下のパリで2人の道は分かれていくことになる。
フォッグは、クララという少女と出会う。彼女は、まさにフォッグらをユーバーメンシュへと変化させた要因となったフォーマフト博士、その娘であった。彼女は、現実世界とは切り離された、永遠に夏が続く空間とこの世界とを行き来する能力をもっていた。フォッグとクララは恋に落ちる。
『完璧な夏の日』は、フォッグがいかにクララとの愛に生きようとしたのか、という物語なのである。
一方で、この物語には、もう一つの愛も出てくる。フォッグの相棒であるオブリヴィオンである。彼は同性愛者であることが作中で明示されており、決して結ばれることはなかったが、フォッグを愛していた。オブリヴィオンの戦後編は、ラオスやアフガンで、かつての戦争ではヒーローだったユーバーメンシュたちの、馴れの果てが描かれるとともに、フォッグを思い続けるオブリヴィオンが描かれていく。