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分析美学・アニメ批評・二次元アイドル『フィクションは重なり合う』販売中

フィクション重なり合う 分析美学からアニメ評論へ

フィクション重なり合う 分析美学からアニメ評論へ

フィクションは重なり合う: 分析美学からアニメ評論へ

フィクションは重なり合う: 分析美学からアニメ評論へ

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

イーガンの日本オリジナル短編集。収録作は6作品。
イーガン自体は長編がばりばり出てるから久しぶりな気はしないけど、短編集自体はわりと久しぶりなのか
それにしてもイーガンは何故日本でこんなに人気なのか。自分も好きではあるけど、やっぱり難しいところは難しいし
でも、エモーショナルなところがあって、そこにやはり惹かれるのかなあ
自分が面白かったのは「孤児惑星」「七色覚」「鰐乗り」
表題作は悪くないけどそこまでピンと来なかった。逆に「孤児惑星」がめちゃくちゃ面白くて、過去作含めてもかなり上位
「七色覚」「不気味の谷」は、今現在の世界から地続きの近未来が舞台
「ビット・プレイヤー」も、登場人物たちの知識が今現在の我々の知識と近い(今のアメリカ大統領が誰かとか)ので近未来っぽいが、舞台が、人格のアップロードがなされている仮想空間なので、実はかなり未来の可能性もある。
「失われた大陸」は、時間移動ものだけど、パラレルワールドといった方がよい
「鰐乗り」「孤児惑星」は、『白熱光』と同じ「融合世界」を舞台にしている遠未来宇宙もの。融合世界というのは、宇宙にいる多くの知的生命体が同じ文明に属していて、人格のアップロードにより事実上の不死となっており、ガンマ線通信を使って宇宙のあちこちへ移動できるようになっている世界。 

ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF)

ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF)

七色覚

主人公のジェイクは、遺伝により網膜に問題があり、人工網膜を使っている
12歳の誕生日に、従兄弟のショーンから「虹」というアプリをもらう
普通の人間は、錐体細胞が3種類あって、3色型色覚である*1が、この虹というアプリは、7色型色覚に人工網膜を作り替えてしまうのだ。
世界の見え方が文字通り変わってしまう
色が細かく見えることにより、例えば人の顔が、異様にけばけばしく見えてしまったり、あるいは、3D映画が安っぽく見えて友だちと話があわなくなってしまったり、と当初、ジェイクにとってはネガティブな変化で、戸惑うが、その後、彼は、七色覚の人々が、三色覚の人間には見えない色を使って遊び、仲間を作っていることを知る。
空の色の見え方の違いで、時間がわかるようになる、とかそういった世界の見え方の違いの話も。
で、成長したジェイクがなにをやっているかというと、三色覚の人間には見えない特徴を見ることで、トランプゲームで儲けるということだった。
同じ七色覚で妻のルーシーは、画家を志す一方、その七色覚を用いて贋作を見抜く仕事をしていた。
しかし、彼らのその能力は特殊なものではなくなってしまう。
量子カメラが普及し、ウェアラブルバイスで同じようなこと(ギャンブルでのイカサマや真贋判定)ができるようになりはじめたのだ。
職を失うかもしれない状況だったが、ジェイクは、そのような状況を逆手にとって、新事業を始める。
そして二人の幼い娘もまた。


知覚の拡張系SFの一種だと思うが、このテーマが好きなので、単純にこの作品も好きというところはある。
その中で、新しい知覚には、ポジティブな面もネガティブな面もあって、またそれが超能力というよりは、彼らの生活と一体のものとして描かれている、というのが本作の特長かと。
でもって、この作品は、ある種のマイノリティについて描いた作品でもある。
少年時代は、「彼ら」とは違う「我々」が新しい遊びや仲間として形成されていって、ある種の優越感にもなっているわけだけど、それが大人になり生活者になっていた時に、その位置づけってもっと違うものになっていく。
この作品の場合、技術の発展により職が奪われるというような要素もあるし。

不気味の谷

老脚本家が亡くなり、その記憶を引き継いだアンドロイドの話
というのは背表紙にも書いているのでネタバレにはならないだろうが、この話、最初は、主人公がアンドロイドであるとか、老脚本家の記憶を引き継いでいるとかは明かされぬまま、しばらく読んでいるうちに、「あ、そういうことか」と分かるようにできている。
記憶を引き継いでいるといっても、実は、一部に記憶の欠落があることに気付き、その謎を追うようになる、というちょっとミステリっぽいところもある話
でも、最後が結局よくわからなかった……


アンドロイドは、人間として認められていなくて、企業が色々肩代わりしている、というのはちょっと面白い設定
ロボットに権利は与えられるか、というロボット法の議論で、もしやるとしたら、法人が参考になるのでは、というのがあることを考えると。

ビット・プレイヤー

初訳時のタイトルは「端役」
主人公が目覚めるとそこは洞窟で、そばにいた女性から、世界の重力の向きが東向きに変わったのだと告げられる。
で、イーガンだなあと思ったのは、主人公は矢継ぎ早に、いやそれおかしいでしょと考える根拠を理路整然と語りだし、即席の実験までやってみせるところ。
正直、普通の人には無理でしょ、これ。何言ってるのか、自分には分からない部分がわりとあった。
突然目が覚めたら異世界にいるってだけで大変な状況なのに、滔々とおかしなところを指摘しているのがすごいw
イーガン作品によくある、登場人物がみんな異様に頭がいいという奴


主人公が目覚めたのはゲームの中の世界で、主人公やそこで出会った人々は、いわゆるNPC
何らかの形で人格のアップロードっぽいことができるようになっていて、かつて実在した人の人格や記憶が何らかの形で勝手に流用されてNPCにされているらしい、ということが分かっている。
主人公はそこで、ゲーム世界の設定とゲームの物理エンジンとのあいだの矛盾をついて、世界を少しずつ変えていこうとする

失われた大陸

時間移動ものだが、時間移動自体は特に重要ではなく、難民申請を状況を描いた作品
ホラーサーンで暮らすシーア派の少年、アリは、時間旅行者である男の手に預けられ亡命をすることとなる。
ホラーサーンは、未来から〈学者たち〉が来て以来、戦乱に未来の武器が加わり、混乱が激しくなっていた。
時間移動、というかパラレルワールドへ移動する砂漠のような場所をこえ、アリは収容所へとたどり着く。
いつまでも待たされる日々、繰り返される面談……

鰐乗り

融合世界を舞台にした作品
リーラとジャシムは、結婚生活1万年を経て、そろそそ死ぬことを考え始める。で、死ぬ前になんかすごいことをしたい、という話になり、慣れ親しんだ星を離れ、孤高世界の謎を探求することに決める。
孤高世界に一番近い惑星で、蛇タイプの隣人と暮らしながら、孤高世界の研究を進める。多くの先人たちが、探査機を打ち上げては諦めた残骸が残っていた。
だが、2人は、孤高世界の内部を伺い知ることのできるかもしれないビームを発見することに成功する。
さらには、そのビームにデータ化した自分を乗せて送信することを計画する


宇宙に残された大いなる謎を、無限の命とすごい技術と資源を用いて探求してやるっていう話なのだけど、夫婦の話でもある。
2人は非常に仲の良い夫婦で、価値観もよく似ているのだけど、ここでリスクを負うぞという判断が食い違ってしまう。
で、まあその後仲直りして、結局一緒にいくんだけど、まあそういうドラマがある、と。
最後、彼らは孤高世界探求における重要な一歩を踏み出すんだけど、彼らはそもそも、もうすごく長いこと生きてしまったし、そろそろ死のう、でも死ぬ前になんかやって死のう、と思って始めたことだったので、彼ら自身の探求は終わりにする
イーガンってわりと、好奇心万歳な主人公を描くことが多いけれど、終わりにしようってなるのは珍しい気がする。一方で、自分たちが自分たちのままでいられるうちに、という話であって、そのあたり、アイデンティティもののイーガンの一面もある作品

孤児惑星

自由浮遊惑星を舞台にしたアストロバイオロジーSF!!
これもまた融合世界もの。
融合世界の人々にまだ知られていたなかった「孤児惑星」に、2人の融合世界人アザールとシェルマが探査に訪れる。
この惑星には、謎の熱源があって、液体の海がある。しかし、電波などには反応してこなかった。
で、実際に探査することに(彼らはデータ化されているので、小型の昆虫ロボットを作ってそこに自分たちをダウンロードして実地調査に出向く)
で、植物を見つけるんだけど、ガンマ線通信をしていたら、なんか惑星の自衛装置みたいなのが起動して、軌道上の船が壊されてしまう。
とにかく、この星の熱源の謎を調べて、レールガンと送信機を作って融合世界に帰ろう、ということになり、さらに探査を調べると、先ほどの植物とは異なる遺伝子をもった生命が見つかる。遺伝子(自己複製子)が炭水化物ポリマーのC3生物、ポリペプチドのP2生物、核酸のN3生物がいることが分かる。
C3は遺伝子改変されていないが、P2とN3は遺伝子改変されており、N3生物は、2億年前から3億年前に、この惑星に入植してきたようだった。P2はさらに新しい。
さらに、謎の「灰」も見つける。
フェムトテクノロジーで作られたエネルギー変換プロセスの残骸……


そして、アザールとシェルマは、P2の蜥蜴型知的生命体と遭遇する。
彼らは、円環派・外螺旋派・内螺旋派の三派閥に分かれていた。
円環派は、アザールとシェルマがこの惑星を奪いに来た集団の尖兵だと考え、2人を拘束するが、外螺旋派の手伝いにより脱出することができる。
円環派は、この惑星で生きていく派、外螺旋派は、惑星の外へ打ってでたい派、内螺旋派は、データ化して生きていきたい派で、円環派が多数を占める。
この惑星が、フェムトテクノロジーを使える謎の文明によって作られたっぽくて、P2生命は、この惑星を箱船として勝手に利用している。P2生命も、この惑星のテクノロジーをまだ理解できていない。
内螺旋派は、惑星内部のフェムトテクノロジーで作られたハードウェアの中へと入っていくが、戻ってきた者はおらず、本当にそんなものが機能しているのかは謎。
アザールは、外螺旋派を融合世界へと連れて行くこととなり、シェルマは惑星の中へ潜ってみることにして、話が終わる。
好奇心に従って、自分が自分でなくなることも省みず新世界へと進出する者と、自分が自分であることの一線を守る者という、イーガン作品における主人公


フェムトテクノロジーが、エネルギー資源やデジタル化されたときの資源の問題を解決するすげーテクノロジーで、しかも謎の超古代文明(?)によるもので、正体が不明、みたいなところも、王道SFって感じで楽しいけど、やっぱ、個人的には、自由浮遊惑星に生命が! ってのがわかっていく過程がとても楽しかった。

中心星から弾き飛ばされた浮遊スーパーアースでも地熱を維持し、ひいては海も維持し続けているかもしれない、という予想もある!!
井田茂『系外惑星と太陽系』 - logical cypher scape2

*1:ごくまれに4色型色覚の人がいうらしいが

瀧澤弘和『現代経済学』(一部)

サブタイトルが「ゲーム理論行動経済学・制度論」で、様々なサブジャンルに多様化した現代の経済学についての入門書となっている
というわけで、個人的には、制度論に興味があったので、制度論の章だけとりあえず読もうかなーと思ったら、結構それ以外も面白く
とりあえず、ここではその一部だけを取り急ぎメモっていく感じで、後日改めてこの本はちゃんと読もうかなーと思っている次第。


著者は、青木『比較制度分析に向けて』、マクミラン『市場を創る』、ヒース『ルールに従う』などなどの翻訳も手掛ける人らしい
ゲーム理論から入って、制度論の研究をして、最近は社会科学の哲学へと関心が向かっているとのことで、この本でも、科学哲学的な関心で書かれているところがあり、上で「それ以外も面白く」と書いたのは、そのあたりの話。

序章 経済学の展開
第1章 市場メカニズムの理論
第2章 ゲーム理論インパク
第3章 マクロ経済学の展開
第4章 行動経済学のアプローチ
第5章 実験アプローチが教えてくれること
第6章 制度の経済学
第7章 経済史と経済理論との対話から
終章 経済学の現在とこれから

第2章 ゲーム理論インパク

期待効用理論って、ノイマンとモルゲンシュテルンなのか
「信念」についての説明で、ある結果がどのような確率で生じるかの予想のこととなっていた
で、ゲーム理論ナッシュ均衡囚人のジレンマのあと、逐次手番のゲームについて
逐次手番のゲームって、あんまり入門書に出てこない気がする。後番の方が、自分の選択肢を封じることで、逆に有利になる場合があることが分かるという話
次に、情報の非対称性について
中古車市場と逆選択は知ってたけど、これを最初に論じたアカロフという人の名前は知らなかった(2001年ノーベル賞受賞者
章の最後に、ゲーム理論とその影響を受けた分野の簡単なマップが載っているのがよい
マッチング理論とオークション理論からマーケット・デザインが
契約理論からメカニズム・デザインがあるのがわかる。

第4章 行動経済学のアプローチ

行動経済学の主要な内容
1.ヒューリスティクスとバイアスの理論
2.プロスペクト理論
3.異時点間の選択と双曲割引の理論
4.心の二重過程理論
5.社会的選好の理論
双曲割引の話は『虐殺器官』に出てきた奴だなーという感じで、自分の中では記憶されてる


志向的アプローチと自然主義的アプローチの違い
心の哲学について軽く触れながら、この二つの違いを述べて、行動経済学にはこの二つが素朴に混在しており、神経経済学は後者を特に徹底したものだと整理している。
行動経済学や神経経済学は、人間が実は不合理な生き物で、合理的な存在だと仮定している従来の経済学と相反するものだと言われることが多いが、本書はここで改めて「合理性」の位置づけを整理している。
自然主義アプローチの中では「合理性」は消えるかもしれないが、志向的アプローチの中ではベンチマークとして機能している。
意思決定理論というのは、従前から「記述的」と「規範的」の二つに分けられており、伊藤邦武の指摘によれば、歴史的には、「規範的な」理論(どのような理論が合理的な理論なのか)が探求されてきたということに触れられ、期待効用理論はその点では、説得力が高いのだ、とも


この章の最後では、サンスティーンのリバタリアンパターナリズムについても説明されている

第5章 実験アプローチが教えてくれること

この章は、非常に科学哲学的な意味で、興味深い章
経済学は何を探求している学問なのか、自然科学とは何が異なっているのか
実験によって明らかにされるのは何か
といったテーマがこめられている。


ところで、行動経済学と実験経済学、なんだか似たようなものに思えるのだが、成立した時期が異なっており(実験経済学の方が早い)、関わっている人や目的なども異なっているものらしい。

章末で、理論、実験、現実の関係について述べられているところがある。
一般的な考え方として、実験によって、理論の予測が現実に当てはまるかチェックできるというものがあるだろう、と
しかし、実験環境と現実世界の環境とは異なっており、実験がそのまま現実世界に妥当するとは限らない。特に経済学のような社会科学はそうだ、というのは、この章の半ばあたりで「外的妥当性」の議論として述べられている。
その上で筆者は、実験で確認されているのは、「現実に当てはまるか」ではなく、「メカニズムの理解」なのだという。
また、理論モデルが明らかにするメカニズムは、そのまま現実世界で成立しているわけではなく、現実世界の中の一部の要因だけしか考慮されていないもので、メカニズムがそのままの形で現実世界でも作用しているとは限らない、とする。
物理学を範例とした科学観において、実験とは法則を発見するもの、というイメージがあるが、経済学の実験はそのようなものではない、と述べられている。


この部分だけだと、理論モデルってなんだ? メカニズムってなんだ? となるのだが、そのあたりは、終章で改めて説明が加えられている。


ところで、実験とは何か、という問題は、意外と科学哲学の方でもそんなに明らかになっていないのかったのではないだろうか。
『科学哲学』サミール・オカーシャ - logical cypher scape2の日本語版解説で、「実験の哲学」への指摘があったりする。伝統的な科学哲学では、実験についての位置がなかった、と。イアン・ハッキングあたりから実験への注目が出てくる。
イアン・ハッキング『表現と介入』 - logical cypher scape2


第6章 制度の経済学

制度の経済学略史
そもそもアダム・スミスには、制度への関心が端々にあった
しかし、新古典派経済学の発展によって、経済学の対象は市場メカニズムに集中するようになる。
19世紀末~20世紀初頭にかけて、一部の経済学者が制度に着目していたが、一部にとどまる。
市場において、財・サービスが取引されているわけだが、取引されているということは、そこでは契約が行われており、契約がちゃんと履行されたりするには、それを保証するための仕組みが必要となる。
市場メカニズムの研究を進めていくうえで、その市場を補完するための仕組み=制度への注目が復活し始める。
1930年代にロナルド・コースが、さらにそのコースの研究をより実証的なものにする、1970年代以降のオリバー・ウィルソンが、制度の経済学の復興を担った。
また、この本では、第7章で主に扱うことになるが、制度を歴史的観点で取り上げたダグラス・ノースがいる。
1997年に、コース、ウィルソン、ノースの3名が協力し、国際新制度派経済学会が創設されている。


コースにより、取引費用の大小によって、取引が市場で行われるか、あるいは企業の内部で行われるかというような話がされる
ウィルソンは、さらに「不完備契約」「関係特殊投資」という概念を導入する


インセンティブ契約におけるエージェント・プリンシプル理論
と、それに対する批判として、岩井の法人論を紹介している
「企業」と法人である「会社」を区別し、会社と経営者との関係を、契約関係ではなく信認関係であるととらえるもの


制度がどのように生じてきたか、進化ゲーム理論から考える
制度=慣習=ゲームの均衡という考え方
どの均衡になるかは、初期値に依存する=歴史的経路依存性


青木の比較制度分析
制度的補完性


制度を均衡と捉える考え方や比較制度分析については、松尾匡『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』 - logical cypher scape2にもあった。
また、岩井の法人論は、上に挙げられたのとは違う観点でだけど、『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』 - logical cypher scape2の中の倉田剛「社会存在論――分析哲学における新たな社会理論」でも触れられていた。

第7章 経済史と経済理論との対話から

ダグラス・ノースの制度論
第6章で見てきた「制度=ゲームの均衡」という制度観ではなく、「制度=ゲームのルール」という制度観
また、ノースは「実効化の有効性」を重視する


グライフによる、歴史とゲーム理論を統合した研究
マグリブ商人とジェノヴァ商人の違い
それぞれ異なる均衡戦略をとっていた。
この話題自体は、松尾匡『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』 - logical cypher scape2にも出てきた、そこでは均衡が複数ある例として紹介されていた。
グライフは、制度が単にゲームの均衡である、というだけでなく、文化的信念が制度にとって不可欠な要素であると論じた



経済史と経済学
制度論以外で、歴史研究が経済学の理論研究に影響を与える例が3つ紹介されている
・大分岐
近代化以降の格差の拡大をどう説明するか
・貨幣
貨幣は交換から発生したというのが通説だが、貸借の記録である会計から発生したという説が近年できている
・ピケティ
理論先行ではなくデータ先行の研究


ルールとしての制度という考え方は、サールの社会存在論とも通じるところがなくはないだろう。ノースの考えとサールの考えは違うところが結構ありそうだな、とは思うのだけど
均衡としての制度と規範としての制度との関係は、今後考えるべき課題だというのが、『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』 - logical cypher scape2の中の倉田剛「社会存在論――分析哲学における新たな社会理論」で言われているところ

終章 経済学の現在とこれから

科学哲学的な話を結構色々としている。


科学は、法則探求なのではなく、メカニズムの解明なのである、という近年の科学哲学の考えを、Mechanisms in Science (Stanford Encyclopedia of Philosophy)により紹介する。
そして、メカニズムを探求するために、経済学は理論モデルを使っている、と続ける。
そのうえで、理論モデルとメカニズムと現実世界の関係について、以下のように論じている。

現実にはありえない想定をもとにモデルを構築することは、抽象化とは区別して「理想化」と呼ばれているが、これは科学研究の常套手段である。(中略)しかしここには、いわば誤った(現実に妥当しない)仮定に基づいて導いた結論が、どうして現実妥当性を持ちうるのかという問題がある。
(中略)
理論モデルの世界と現実世界における妥当世は、どのような関係にあると考えるべきなのか。そして、そこに前の節で述べたメカニズムはどのように関係してくるのか。
(中略)
理論モデルとの関連で考えられている現実世界というのは、実際には現実の現象をすべて含んでいるわけではないので、前節で説明したメカニズムだと考えられることである。メカニズムというのは、システムが何らかの現象を示しているとき、システムを構成する要素が組織化されて当該現象を作り出している状態のことであった。
(中略)
カニズムもまた現象そのものというよりは、現象に対してわれわれが何らかの概念的な読み込みを行ったものと考えることができるのではないだろうか。
(中略)
理論モデルとメカニズムとの関係は、前者が後者を「表現する」(represent)という関係であると考えられる。モデルがメカニズムの表現となるのは、モデルが何らかの仕方でメカニズムと類似しているからである。類似しているという関係には、「どのような仕方で」ということと「どの程度に」ということが含まれている
pp.250-252

完全にモデルの科学哲学だ!
本文に言及されていないし、参考文献にもあがっていないのだが、マイケル・ワイスバーグ『科学とモデル――シミュレーションの哲学入門』(松王政浩 訳) - logical cypher scape2とつながってくるところが多いように思える。
筆者が、モデル-メカニズム-現実世界としている図式は、ワイスバーグがいうところの、モデルー対象システムー現象という図式に、かなり対応しているように思える。



次に、社会科学の「遂行性」について述べている
ここでは、サールが自然科学と社会科学の違いについて述べたことが紹介されている
存在論的に客観的でかつ認識論的に客観的な存在を扱うのが自然科学
存在論的には主観的だが認識論的に客観的である存在を扱うのが社会科学
というのがサールの考え
存在論的には主観的だが認識論的に客観的である存在」というのは、制度的存在者のこと
制度的存在者は、人間の行為によって成り立つので、行為の影響を受ける
社会科学も、研究内容が研究対象に影響を与えてしまう=遂行性がある、という話


さらに、自然主義的アプローチに対して、人間は自然的存在でもあるけど、制度的存在でもあるので、自然主義的アプローチを否定するわけではないけど、それだけでは捉えることが困難な面もある、と
で、ディルタイの「精神科学」をあげながら、「人間科学」の必要性を強調している。

『日経サイエンス』の合成生物学記事

日経サイエンス』のバックナンバーを検索して、過去の合成生物学関連の記事をいくつか読んだ
生命の起源やアストロバイオロジー関連の本を読んでいると、時々「合成生物学」の話題が出てくることがあり、どっかのタイミングで読んでおこうと思っていたが、ウォードの本がわりと直接的なきっかけ。
なお、『日経サイエンス』のバックナンバーを「合成生物学」で検索してヒットした記事の全てを読んだわけではない。
後ほど出てくるが、合成生物学の中には、「生命の定義を探求する」タイプのものと「生命を用いてエンジニアリングする」タイプのものとがあるようで、前者寄りの記事を選んで読んだ。


自分が、これまでで「合成生物学」というワードに出会った主なもの
海部宣男、星元紀、丸山茂徳編著『宇宙生命論』 - logical cypher scape2
高井研編著『生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る』 - logical cypher scape2
『日経サイエンス2018年9月号』 - logical cypher scape2
第2回 生命は「2つの紐」から始まった? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』 - logical cypher scape2


W. W. ギブス「改造バクテリア―注文通りの生物をつくる」(2004年9月号)


日経サイエンス』における合成生物学の初出の記事、もしくはごく初期の記事

エンディは「合成生物学者(synthetic biologist)」を自称する科学者の1人だ。仲間はまだ少ないものの,その数は急速に増えつつある。

とあって、まだ合成生物学が始まったばかりのマイナーな分野であったことがうかがえる。
この分野の3つの目標というものが書かれている
(1)生物を要素に分解するのではなく、組み立てることによって解明する
(2)遺伝子工学をその名(工学)に相応しいものにする(規格化)
(3)生物と機械の境界領域を広げ、プログラム可能な有機物を生み出す
また、合成生物学のスタート地点として、1989年にベナー*1が、ATCG以外の「文字」を含むDNAを生み出した研究があげられている。
それ以外に、ゾスタックのTNA、クールのxDNAについても言及がある。
xDNAは、マイケル・ワイスバーグ『科学とモデル――シミュレーションの哲学入門』(松王政浩 訳) - logical cypher scape2で読んだことがある

D. ベイカー他「合成生物学を加速するバイオファブ」(2006年9月号)


こちらは、エンジニアリング寄りの合成生物学の話
半導体におけるチップファブという考え方を、合成生物学にも、という趣旨
あまりちゃんと読めてないのだが、規格化して、レベルごとに分業しようという話らしい
遺伝子工学は、工学と呼ばれているけれど、いまだ、職人技の世界
いろいろと規格化することで、例えばDNA合成をイチから始めなくても、すでにパーツ化されたDNAとか、より上のレベルのデバイスとかを組み合わせて、設計・製作ができるようになる、と

木賀大介「“ありえた生物”から生命を探る合成生物学」( 2007年7月号)」


現在、地球上にいる生命というのは、ある特定の進化の歴史をたどってきて生まれてきたもので、一度できてしまったものはそのまま活かしながら改良されていったもの
つまり、ありえる可能性全てが試されてきたわけではない
合成生物学は、ありえたかもしれない生命のあり方を探る。
紹介されているものは、たとえば、ショスタックによる、ATPと結合するタンパク質。自然界にあるものとは全く違う立体構造だが、機能は遜色ない。
また、筆者らの研究で、アミノ酸を20種類ではなく21種類に増やしてみるというもの。具体的には、21番目のアミノ酸用に、tRNAとアミノ酸を結合させる酵素を開発。でもってその後、同様の酵素を持っているアーキアが発見されているとか。
他に、DNAの塩基の数を増やす研究として、この記事でも、ベンナーが紹介されている。
RNA酵素の働きもあることがわかったことがRNAワールド仮説の誕生へとつながったが、ありえたRNAについての研究もなされている。


この記事では、応用生物学に二つの方向性があることも述べられている

1つは、生物そのものを知るために、その比較対象となりうるような素材を創り出す方向で、本文で取り上げているのはこちらに当たる。もう一つは、バクテリアに有用なタンパク質などを効率よく作らせるように遺伝子操作をしたり、毒素を感知すると蛍光を発するようにバクテリアを改変するといった、応用を重視した方向だ。
(中略)
自然の規格から外れた生命を探る方向と、この規格の中でさらに人為的な規格を加えた生命を創ろうとする方向に向いているわけだ。


また、合成生物学分野におけるロボコンに相当するような、学生の国際コンテストiGEMというものがあること
また、倫理やガイドラインの必要性についても触れられている
ガイドラインに関しては、複数の記事で、アシロマ会議への言及があった。合成生物学でもアシロマのようものが要るだろう、と)

P. デイビス「シャドー バイオスフィア 私たちとは別の生命」(2008年3月号)


これは、合成生物学の記事というより、ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』 - logical cypher scape2みたいな内容で、合成生物学にも言及があるという感じの記事
なお、ウォードのこの本が、further readingにもあがっている
ウォードの本でも、地球生命とは異なるタイプの生命を異質生命(エイリアン生命)と呼んでいたが、ここでも、異質生命という言葉が使われていて、そのような異質生命による生態系を「シャドーバイオスフィア」と呼んでいる。
筆者のポール・デイヴィスは、宇宙物理学者・宇宙生物学者だが、この記事は地球内の話をしている。
また、「シャドーバイオスフィア」という言葉は、クレランドとコプレーに由来するらしいのだが、このクレランドという人は哲学者
以前、いくつか論文を読んだことがある(アストロバイオロジーの哲学 - logical cypher scape2)。が、こんな面白い話をしていた人だったのか


この記事は、生命とは偶然的で奇跡的な存在であるという考えが、近年、むしろ必然的で宇宙には多くの生命がいるという考えに取って代わられてきているという話から始まっている。
前者の考えの代表としてモノーが、後者の考えの代表としてド・デューヴとシャピロがあげられている。
3人とも、ウォードの本でも言及があった名前だ(ついでにいうと、デイヴィスも)


異質生命体の候補として下記4つ

鏡像異性体の培地で微生物を培養して生き残った奴がいたら、そいつが異質生命だ!
カリフォルニア州の湖の微生物の中に、この培地でも生き残る奴がいた!
がしかし、鏡像異性体を使っているわけではなく、鏡像異性体を変換することができる奴だった。それはそれですごいけど、異質生命じゃなかった

これは、合成生物学で研究がされているよーという話になっていて、また、21番目のアミノ酸の候補が、これまたベンナーによって指摘されている旨の紹介
(上述の木賀記事には、21番目のアミノ酸を使えるアーキアについて書かれていたが、こちらにはなかった)

  • リンの代わりにヒ素を使う生命

リンとヒ素は化学的な性質が似ていて、それ故、我々にとってヒ素は有毒となっているらしい。で、リンの代わりにヒ素を使うことも化学的には可能だ、とウルフ=サイモンが指摘している
これは2008年の記事なのでこれで終わっているのだけど、2010年に、NASAヒ素細菌を発見した、というニュースがあったのを思い出した。今、検索してみたところ、発見者は、ウルフ=サイモンで、デイヴィスも共著者だったようだ。
ただ、結局この細菌は、ヒ素のある環境でも生きられる奴ではあったが、リンをヒ素に置き換えた奴ではなかったことが、後に明らかになっている。

  • 炭素の代わりにケイ素を使う生命

これについては、上の3つほど詳しい内容はなかった

「科学大予測 世界が変わる12の出来事 その7 生命の創出」(2010年9月号)


12の出来事その7 生命の創出 | 日経サイエンス
まず、既存の生物・微生物を改良して、有用なものを作ろうというエンジニアリング寄りの話(エンディやチャーチの名前があがっている)と
「ラルティーグ(Carole Lartigue)とスミス(Hamilton Smith)らは細菌のゲノムをゼロから作って,これをある微生物に導入することで別種の微生物に変えた。」というのが書かれている。
改変生物が、自然環境に漏洩するリスクに対する安全策を講ずる必要性があるだろう、ということも書かれている

「出番近づくユニーク技術10」(2013年3月号)


「DNAを必要としない生命体」
XNA(ゼノ核酸)について
DNAと同じような構造をもっているけれど、DNAと材料が異なるような核酸
この記事では、ホリガーが開発した、DNAの材料となる糖を全く異なる分子に置換したXNAが主に紹介されている
ホリガーによるXNAのポイントは、このXNAと連携する酵素もセットで開発したこと
この酵素、自然界にはないので、漏洩してもこのXNA生命は自然界では生きられない。逆に、自然界の酵素にはXNAが読み込めないので、DNA生命のゲノムに混入しない、という利点がある、と。

*1:ウォードの本で出てきたベンナーと同一人物

現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワード


本屋で見かけたので少し眺めました。
目次は青土社 ||現代思想:現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワードを参照
この中で多少目を通してみたのは「加速主義 / 仲山ひふみ」「反出生主義 / 戸谷洋志」「宇宙倫理 / 呉羽真」「ゲノム編集 / 八代嘉美」「エモい / 山田航」「Vaporwave / 銭清弘」「擬人化 / 松下哲也」
あとは、AIの項目書いている人が、科学史の人で人工知能研究史やっている人なんだなーとか、『ドローンの哲学』という本、そういえばあったなーとか、SF作家の樋口さんがポストアポカリプスの項目書いてるなーとか、

  • 反出生主義

反出生主義については、以前から同意できない気持ちがあり、こんなツイートをしたこともある


この記事で改めてまとめられいて、「苦は悪い」はいいとして「苦の不在はよい」と「快の不在は悪くない」の非対称性の議論が引っかかっているのかなあと思った。
その後、多少ググってみたら、このあたりを巡ってかなり色々な立場が入り乱れての論争になっているっぽい
まあ別に非対称でもいいのかもしれないが、「苦を減らすこと・なくすことはよい」とは思うが、「苦の不在」についてはよいのか悪いのか、俺にはよくわからない。

  • 宇宙倫理

『宇宙倫理学』は論文集であるため、個々のトピックについては論じていたが、そもそもどうして宇宙倫理なのか、ということに応えきれなかったと筆者
状況論の説明(民間企業の進出とか)や、従来の倫理学にとっても宇宙倫理というトピックから見直すべき点があるという話
で、最後に、科学基礎論学会シンポジウム「宇宙科学の哲学の可能性――宇宙探査の意義と課題を中心に」 - logical cypher scape2でも少し話がでていたが、地球についてのイメージが「ゆりかご」から「家」に変化していることを指摘。これが、宇宙進出したことによる人類の自己イメージの深化だとした上で、最近でも、宇宙開発を人類の必然として語る論があるけど、それはこのイメージの変化を全く踏まえていない、ということを指摘するのが宇宙倫理学の役割の1つと論じている。
参考文献の中に近刊があり、宇宙総合学研究ユニットで出している本があるっぽい

  • エモい


とか言ってたけど、よい記事だった
エモいという言葉は今はバズワードとなっているけれど、元がロックのジャンルの1つであるエモであるところから、「エモい」の変遷をたどっている
eastern youthなど、日本のエモが、わりと札幌出身が多いらしく(これも札幌のあるレコードショップがエモコアを入れてて云々みたいなのがあるらしい)、全然知らなかった。でもって、歌詞の中で初めて「エモい」が出てきた曲の歌詞も、郊外と地平線がどこまでも伸びる光景が描かれていて、筆者は、北海道的な想像力があるというようなことを書いていた
その後、ロック以外の音楽に登場する「エモい」も見ている。大森靖子の歌詞とかBiSのキャッチコピーとか。BiSにおける使われ方では、「萌える」と対置されて使われていたと指摘されているのも面白い(BiSは、萌えるではなくてエモい、みたいな内容のコピーのつけ方をしている)
さらに「エモい」という言葉の使い方への批判が、最初に若い世代から出てきたということとかを、落合陽一とかの「エモい」を「あはれ」の現代版として解釈するのとかとあわせて論じている


ちなみに(?)自分のtwilogを検索してみたところ、自分が「エモい」をtwitter上で使ったほぼ最初の例は、2012年に、MOGRAでのfu_mouさんのDJを聴いていた時っぽい

  • Vaprowave

最近、obakewebで、分析美学ブログとしてもめちゃくちゃ活躍されている銭清弘さんの記事
僕は、vaporwaveってちゃんと知ったのはobakewebでです

ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』

サブタイトルは「NASAの地球外生命研究」とあり、宇宙生物学の本である。また、原題は「Life As We Do Not Know It」とあり、私たちが知らない生命、つまり現在の地球にいる生命とは違った形の生命としては、どのようなものがありうるか、ということを書いている本
面白い内容ではあるのだけど、なんか文章が頭に入りにくい本でもあった。


大雑把に言うと、以下の4つくらいの話題があったと思う
「生命」の範疇を広げて、「私たちが知らない生命」が見つかった時のための分類を作っておきましょ、という話
ウイルスや合成生物学の例をあげて、「私たちが知らない生命」は実はもう地球にはいるんだ、という話
パンスペルミア説を推す話
太陽系内の地球外生命の探査について現在の状況を概観し、火星とタイタンを推す話


ウォードの本を読むのは、これで3冊目
ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scape2
ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク『生物はなぜ誕生したのか』 - logical cypher scape2
上2冊については、原題と邦題がわりと違っていて、邦題はキャッチーではあるが、内容に対してあまり適切ではない感じになっているが、本書は、直訳的なタイトルではないものの、全然内容には沿ったタイトルになっている。
ウォードは、ワシントン大学の古生物学者で、NASAのアストロバイオロジー研究所で研究しており、それがこの本につながっている*1
本書や上に挙げた2冊をはじめ、一般向けの著作も多く、またテレビ出演などもしている人らしい。
邦訳はなさそうだが、『レア・アース』という著作があり、13章に関連するエピソードが書かれているのだが、そこではSETI批判をしていたらしい。
『レア・アース』は、ワシントン大学でウォードの同僚であるドン・ブラウンリーとの共著であるが、本書でも、彼の名前は至るところに登場する。
また、同じくワシントン大学でのウォードの同僚、スティーヴン・ベンナーの名前も、多く言及されている。
さらに、この後にウォードと共著を書くことになる、パンスペルミア説派のカーシュヴィンクの名前もよく出てくる。
この3人が、それぞれウォードの研究仲間で、この本は彼らから得た知見も色々盛り込まれている、という感じ
(ちなみに、索引でざっと見たところ、彼らに次いで言及が多いのは、チャールズ・ダーウィンカール・セーガン、カール・ウーズといったところか)


下記の目次にある通り、全14章からなるが、ページ数的には、4章まででほぼ半分である


1 生命とは何か
2 地球の生命とは何か
3 われわれが知らない生命
4 生命のレシピ
5 生命の人工的合成
6 地球には、すでにエイリアンがいる?
7 パンスペルミア――太陽系にエイリアン遍在の可能性はあるのか?
8 水星と金星
9 月の化石
10 火星
11 エウロパ
12 タイタン
13 意味合い、倫理、危険
14 宣言――古生物学者を火星に、生化学者をタイタンに送ろう
終わりにあたって 生命の森?

生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究

生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究

ここは、本書がどういう本か説明している箇所だが、生命の定義や起源については、既にいくつもの本が書かれているといって、代表的な著作があげられていたので、ここにメモっておく
シュレーディンガー『生命とは何か』、モノー『偶然と必然』、クリック『生命それ自体、その起源と性質』、ド・デューヴ『生命の塵』、デーヴィス『第五の奇跡』、ダイソン『生命の起源』
特に、後ろ3つについては、本書では他の場所でも言及がある。
生命の起源の諸説については高井研編著『生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る』 - logical cypher scape2も参照

1 生命とは何か

いくつかの定義を紹介したりしているのだが、筆者は、地球の生命は複雑すぎるのではないか、という点を指摘している
つまり、生命とか「生きている」ということを定義するにあたり、地球の生命を参照すると、本来は要らない条件までいれてしまうのではないか、と
すでに絶滅してしまった(かもしれない)地球初期の生命であるとか、地球外にいる(かもしれない)生命は、もっと単純なものだろう、と
そのうえで、我々が知っているものとして、生命のボーダーケースを二つ挙げる
ウイルスとプリオンである
どちらも、一般的な分類において、生命には含まれない
しかし、筆者はこのふたつも「生きている」といって構わないと述べる。

2 地球の生命とは何か

この章がなかなか面白いのだが、ウォードは、新しい種カテゴリーの分類を作ることを提案する
地球の生命は、真核生物、アーキア、細菌の3つのドメインに分類されているわけだが、ウォードはドメインの上位として、ドミニオンという括りを作ることを提案し、これら3つのドメインを含むドミニオンとして、テロア(地球生命)を提案する
テロアは、情報保存子としてDNAを持ち、リボソームによってタンパク質を作り、そのタンパク質は20種類のアミノ酸セットから作られており、エネルギーをATPに蓄え、脂質膜をもつような生命、といった形で定義される。
LUCAとプロゲノートの区別にも少し触れており、LUCAというのはテロアに属するけれど、プロゲノートは多分、テロアじゃない、と。


ウイルスを考える上で、DNAウイルスを、細胞性の生物とは区別された枝なのではないか、と。
また、RNAウイルスを考える中で、ゲノムとしてDNAではなくRNAを持つ生命のドミニオンであるリボサを提案する。
このリボサの中には、RNAウイルスを含むドメインであるリボヴィラと、ゲノムをRNAとして持つ細胞性生物のドメインであるリボゲノマを置く
リボゲノマというのは、完全に、我々の知らない生命、ということになる


ウイルスが生命かどうか考える上で武村政春『生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像 』 - logical cypher scape2は参考になる

3 われわれが知らない生命

地球生命以外に、どのような生命がありうるのか
可能性を様々にあげている
テロアのことを、CHON生命(炭素・水素・酸素・窒素)と呼んでいる

  • CHON生命のバリエーション

DNAの遺伝コードを変える、RNAの糖を変える(リボース(五炭糖)からヘキソース(六炭糖)へ)、アミノ酸の種類を増やす、キラル性を変える、溶媒を変える、情報を核酸ではなくタンパク質に保存させる、あるいは固体や気体の生命?
このうち、最初の3つは合成生物学の分野で実例があることもあわせて紹介されている。ベンナーやロームズバーグの名が挙がっている。
また、固体や気体については、考慮から外してよいだろうということになっている

  • CHONエイリアン

RNA生命、アンモニア生命、酸生命を挙げている
RNA生命はテロアの先祖と考えられる
アンモニアは、水よりも液体である温度の範囲が広い
金星の大気の中に生命がいる場合、そこは強い酸性となっている

ここでもベンナー
地球みたいな環境だったら炭素ベースの方が強いけど、低温環境でメタン・エタンの湖だったら珪素ベースも可能性あるのでは、みたいなこと書いている

ケアンズースミスのクレイワールド仮説に出てくる粘土生命について
クレイワールド、名前は色々な本にちょくちょく出てくるけど、いまいちよくわからなかった奴が、わりと詳しく説明されていた
目に見えない粘土結晶が層となって積み重なり成長していく。これが、自己複製なんだけど、コピーのエラーが時々起こる。また、結晶の材料となる資源(珪素、酸素、水素)を巡って競争が起きる。これにより、複製と進化が生じる。結晶の一番上の層が遺伝子にあたる、というのが、ケアンズースミスの考えるクレイワールド
その「進化」の過程で、有機物が取り込まれる選択が生じ、結晶が有機物や核酸へと置き換わっていき、地球生命が誕生した、というのがケアンズースミスの考えるシナリオである。
乗っ取りが起きないバージョンもあるかもしれない、ということで、この、ありうるかもしれない生命の一形態にあがっている

  • ありそうもないエイリアン

スタートレック』に出てくるプラズマ生命は、進化してないので生命じゃない
ガイア仮説というのがあるが、生命が開放系であるのに対して惑星は閉鎖系なので、生命じゃない

4 生命のレシピ

地球生命の起源、どのように生命が生まれたかについての、様々な仮説を検討する

RNAが自然に生成されるのが非常に難しい、というのは、本書では繰り返し強調されている。
まず、水が何でも溶かしてしまうという問題
もう一つ、熱に弱いという問題(糖は熱で黒くなる)
これに対して、ベンナーが、ホウ酸塩を含むと、糖を熱から守れるということを発見し、高温環境下でのRNA生成への道が開けた、というのが紹介されている。

  • RNA生成以後

ダイソンのゴミ袋仮説、RNAワールド仮説、ケアンズースミスのクレイワールド仮説、黄鉄鉱仮説、ウォードのウイルス仮説が紹介されている。
RNAが触媒機能も有するということが判明し、つまりタンパク質なしでも生命っぽいことができるのでは、ということで出てきたのがRNAワールド仮説
クレイワールド仮説は、それとほぼ同時期に提唱されたらしい。

  • 生命の起源の場所

ダーウィンの「温かい池」、その変種としての「潮だまり」、「熱水噴出孔」、カール・ウーズによる「雲の中」、ヴェヒテルスホイザーの「鉱物表面」
(筆者は、ウーズの「雲の中」は、地球より他の惑星で使えるかもしれないとしている)
そして、ベンナーの考える「砂漠」説
ホウ酸塩や水の少なさから「砂漠」説が出てくるのだが、これをさらに推し進め、カーシュヴィングとワイスは、「火星」こそが生命の起源の場所だったと唱える

  • 似たような言葉

これは、この本を読んでいて、リから始まる色々似たような言葉があるなーと思ったので、まとめようと思ったメモ
リボソーム:超頻出単語。タンパク質を合成する奴ー
リボース:RNAを形成している糖
リボザイム:RNA酵素としても使われるとき、リボザイムと呼ばれる(らしい)
リポソーム:細胞壁の脂質
リソソーム:本書には出てこない用語だが、細胞内小器官の1つ
リボソームとリソソームは、高校の生物でも習う単語で、ややこしいよねというのはよく言われる話なんだけど、この本を読んでいたら「リポソーム」という、さらにややっこしい単語が出てきたので、メモっておこうと思った次第
その点では、リボースとリボザイムはそんなに似ていないし、ややこしくもないのだが、まあ、勢いで。

5 生命の人工的合成

合成生物学において、ジャック・ゾスタクという人がキーマンっぽい
章の後半で改めて紹介される
生命の合成について、ボトムアップトップダウンのアプローチがあるという
ボトムアップ・アプローチでは、DNA・RNA分子を作ろうとするグループと細胞を作ろうとするグループがいる
トップダウン・アプローチでは、細菌のゲノムを組み替える研究
また、ウイルスの合成にも成功しているとかいないとか
ジャック・ゾスタクは、RNA分子の合成に長年関わっているらしい。


この章については、完全に消化不良
合成生物学は、また後日改めて

6 地球には、すでにエイリアンがいる?

ロスト・シティの話を皮切りに、この地球にまだ発見されていない生命もいるよねという話
で、RNA生命が、絶滅せずに生き残っていたら、それは地球上の、(テロアではないという意味で)エイリアンな生命になる、という話
めちゃくちゃ短い章

7 パンスペルミア――太陽系にエイリアン遍在の可能性はあるのか?

パンスペルミア説の簡単な歴史
火星からの隕石で、いっとき、生命の痕跡があると話題になったALH84001が、パンスペルミア説を復活させた、と。
そもそも、脱出と衝突の時の衝撃に生命は耐えられんのか、という問題がパンスペルミア説には当然あるわけだが、カーシュヴィングは、隕石の内部に磁場があることから、内部は200℃以上には熱せられていない(から大丈夫)と考えている
また、ウォードは、テロアよりリボサの方が、よりパンスペルミアには耐えられるだろうという提案をしている

8 水星と金星

水星に生命がいる可能性はほぼない
金星はどうか
はるか昔は、地球に似た環境であって、生命に適していたかもしれないが、その後の温室効果で灼熱の惑星になっている
しかし、それでも、金星に生命がいる可能性はないのか。大気の上層部に温度が低いところがあって、そこに生命がいる可能性がいるという主張をしている研究者たちがいるらしい
もっとも、金星に突入する探査機は高温でだめになっちゃうし、調べる方法がないから、まあ金星探すのは無駄(とはっきり言っているわけではないが、ほぼ同じようなことを言っている)

9 月の化石

何故、月の話をするのか、というと、月で生命を探そうというわけではなく、太陽系の記録を探そうという話
月は、大気もないし火山活動もないので、過去に降ってきた隕石等の記録が残されている
隕石の重爆撃期の記録とか、宇宙から降り注ぐ放射線の記録とかから、生命の大量絶滅についても何か分かるかも的な

10 火星

前半は、ヴァイキングでの調査の話
後半は、スピリット&オポチュニティやマーズ・エクスプレスの話と、火星でありうる生命の可能性の話
ヴァイキングの話では、カール・セーガンのエピソードが色々と書かれているのが面白い
火星探査を生物学中心の探査にしたのは、セーガンの功績だとしているが、一方で、セーガンが火星で動物を探すためのカメラをヴァイキングに積載させたというエピソードも紹介している。もちろん、このカメラは無駄な重量にしかならなかったわけだけど。
後半で、メインとなるのは、やはりメタンの話
火星で発見されたメタンが、本当に生命由来であるかは諸説あって、まだ確かなことは言えないわけだけれど、ウォードは、そういうことは認めつつ、これをもって火星の生命を発見したんだということを繰り返し述べている
あと、地球の細菌の中にも火星の環境で生き残れる奴はいるだろうということで、探査機が持ち込んじゃってるかも話
そして、面白かったのは、火星にまだ水も大気もあった時代に、仮に生命が生まれていたとして、その生命が多細胞生物くらいまでは進化していたのではないかという可能性を述べているところ。
これが最終章の、火星に古生物学者を連れていくべし、という主張へとつながっていく

11 エウロパ

エウロパは、現在、太陽系で生命がいる可能性が高いとして取りただされることの多い星だ
ウォードもそのことは分かっているが、彼自身は、エウロパ生命に悲観的である
海表面は寒すぎる、海洋中は塩分濃度もしくは酸性の度合いが高い、海底は水圧が高すぎるか塩分濃度が高い、というのがその理由である

12 タイタン

ウォードが、火星とともに、太陽系での生命がいるかもしれない可能性に賭けているのは、タイタン
タイタンも、メタンが観測されているので、それは生命由来なのかどうなのかという話が出てくる
関根康人『土星の衛星タイタンに生命体がいる!』 - logical cypher scape2では、メタンの海にどのような生命がいるのか、という話をしていたけれど、ウォードは、タイタンについて3種類の生命の可能性を見て取る
隕石の衝突などによって発生した熱で生まれた淡水湖に、CHON生命
アンモニアの海に、アンモニア生命
メタン・エタンの海に、珪素生命
どうも、液体の水があるのではという話もなんかあったりするらしい?
この章では、アンモニアの話が一番長くされている
メタン・エタンの海と珪素生命については、一言、二言触れられている程度
火星については、もし生命がいるとするなら、地球の生命とよく似た生命か、あるいはもし火星が地球生命の起源の地だとするならば、そもそも同じ生命の樹につらなる生命がいると考えられるのに対して、タイタンは、根本的に異なる生命がいるだろう、と

13 意味合い、倫理、危険

主に惑星保護の話
つまり、地球から他の惑星に対して汚染してしまうのを防ぐ話と、他の星からのサンプル・リターンで地球が汚染される(病原体)危険について
それから、バイオテクノロジー・合成生物学による、人工病原体の危険性について

14 宣言――古生物学者を火星に、生化学者をタイタンに送ろう

この章の内容は、タイトルにほぼ尽きている
先の章で述べた通り、火星はすでに絶滅したかもしれないが過去に多細胞生物が生まれえた可能性があるとウォードは考えており、それゆえに、火星では化石が見つかる可能性があると考えている
化石を探すなら、古生物学者でしょ、と
何故人間を火星へ向かわせなければいけないのか、ロボットでは無理なのか
ウォードは、ロボットでは、地球上ですら化石を発見できないという。古生物学者の化石発見の技術・センスが必要だと語っていて、このあたりは、古生物学者ならではという感じである。
生化学者をタイタンへ、というのは、タイタンに生命がもしいるとすれば、地球生命とは異なる生化学反応を用いていると考えられるからだ。
こちらは完全に「宣言」という感じ

終わりにあたって 生命の森?

第2章で、ドメインよりも上位のドミニオンというカテゴリーを提案したウォードだが、最終章で、それよりもさらに上位のカテゴリーとして、アルボレアを提案する
これは、ラテン語の「木」に由来し、ある一つの惑星から生まれた生命全てを含む
あわせて、アルボレア・テラを提案し、果たして、アルボレア・アレス、アルボレア・エウロパ、アルボレア・タイタンはあるのだろうか、と締めくくっている。

訳語について

気になった奴
「研究センター」が「研究中心」と訳されている。
リンやホウ酸が、燐、硼酸と漢字表記されている(間違いじゃないけどカタカナの方が一般的では?)。
熱水噴出孔「ロスト・シティ」が「失われた街」と訳されている(同じく、間違いではないと思うけど、固有名詞であることを示す意味でもカタカナの方が一般的なのでは?)
とまあ、ちまちま気になる点はあるのだが、一方で、ところどころ、結構詳しく訳注がついていたりもして、よい所はよい

*1:NASAのアストロバイオロジー研究所というのは、どうもバーチャルな組織らしく、実際にどこかに研究所があるというのではなく、色々な大学や研究機関のチームをまとめたもの、らしい。ワシントン大学もそのうちの1つのようだ

関根康人『土星の衛星タイタンに生命体がいる!』

惑星科学的な観点からのアストロバイオロジー
太陽系全般から系外惑星まで扱っているが、タイトルにある通り、メインはタイタンである。
タイタンに生命がいる可能性があることは、どのアストロバイオロジー本でもたいてい書いているところだが、最近だと、やはりエウロパエンケラドゥスの方が強調されて、タイタンの記述はさほど多くない(気がする)。


筆者は、大学院生時代にNASAのエイムズ研究センターに行っていて、その際に、ちょうとカッシーニホイヘンスがタイタンへ到着した。本書のプロローグにはその時のいきさつや、当時の様子が書かれている。


NASAエイムズ研究センターというと、最近、インタビュー記事が載っていた藤島さんもエイムズ研究センターに行っていた人だった。
研究室に行ってみた。東京工業大学 宇宙生物学 藤島皓介 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
本書の著者である関根さんも、この藤島さんも、現在は東工大の地球生命研究所の所属である。
関根さん、元々は、東大の松井研の人らしい。また、飲み会のエピソードの中で阿部豊の名前も出てくる。*1


惑星探査機の探査で一体何が分かり、どのようにそれが説明されたのか、といったことが、非常に分かりやすく書かれている

プロローグ 宇宙は生命で満ち溢れているか
第一章 ハビタブルプラネット地球
第二章 氷衛星のハビタリティ
第三章 タイタン
第四章 系外惑星
エピローグ

第一章 ハビタブルプラネット地球

金星と火星の環境について詳しく見ていき、その比較として、地球が何故ハビタブルな環境なのかということを見ていく。
ハビタブルゾーンというのは、基本的には、太陽からの距離で、地表に液体の水が保持できる気温かどうかというものだが、筆者は、気温だけでなく、フィードバック機構が大気にあることを重視する。
火星は、仮に気温があがったとしても、大気が少なくて、液体の水を保持できない


ところで、金星は、大量の二酸化炭素によって灼熱の惑星となっているわけだが、そもそも、二酸化炭素温室効果というのは、金星の研究によって注目されるようになったものらしい
なお、金星に探査機が行くまでは、金星の環境はもうちょっとぬるいものだと考えられていたらしい。沼地などがあるかもという予想もあったらしい。カール・セーガンもサウナのような環境で、うまくすればテラ・フォーミングできるのではないかと考えていたらしいが、実際に探査機が行ってみたら、予想以上に過酷だった、と(探査機のデータを見た後、二酸化炭素温室効果を加えて気温を再計算してみたのもセーガン)

第二章 氷衛星のハビタリティ

つづいて、木星ガリレオ四衛星と、土星エンケラドゥスについて*2


イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストについて
木星から近い順にこの並びになっているのだが、この距離に応じて、環境や組成が異なっている、と。これは知らなかった。
木星に近い方が潮汐加熱の度合いが大きい。
火山活動が最も活発で、それゆえに水も蒸発してなくなってしまっているのがイオ
逆に、ガニメデやカリストは、木星から距離があるので、凍り付いてしまっている。また、ガニメデとカリストの間にも違いがあって、形成時の熱によって一度氷がとけて、内部構造が分化したガニメデと、溶けるほどの熱もなかったので、混ざったままのカリスト
カリストの組成を調べると、(融けなかったので)木星の衛星が作られた際の材料が分かる。
で、ちょうどよい距離にあったのが、エウロパということになる。
エウロパは生命がいる可能性もあるが、還元剤がすでに枯れているのではないか、という指摘もあるとか。


潮汐加熱型ハビタブルゾーン
木星であればエウロパ天王星であればアリエル、土星であればエンケラドゥス、ミマスがこの位置にあたる
土星には、潮汐加熱型ハビタブルゾーンにある衛星が二つある。
しかし、液体の水があるのはエンケラドゥスだけだとされている。
潮汐加熱は、もともと液体があるかどうかで効果が大きく異なる。
エウロパはサイズが大きいので、形成時の衝突熱だけで液体が生まれるので、最初から潮汐加熱が起きている
ところが、エンケラドゥスとミマスの大きさでは、形成時の熱だけでは液体がが生じない。
ここに偶然のイベントがあったのではないか、というのが筆者の仮説
つまり、巨大天体の衝突があったことで、エンケラドゥスは加熱されて液体が生じ、潮汐加熱が始まった。しかし、ミマスにはそのようなイベントが起きなかった、と。

第三章 タイタン

タイタンについて
20世紀初頭からタイタンに大気があることが分かっていたが、より詳しいことがわかったのはボイジャーによるフライバイ観測
大気圧1.5気圧、大気の成分が9割が窒素、数パーセントがメタン、気温がマイナス190℃ということが判明


これらのことから、タイタンに液体の海があることが予想された
物質の三重点(固相、液相、気相が共存する条件)に近いから
三重点に近いと、全球規模での物質循環が起きている
また、大気のメタンは紫外線で分解されてしまうため、その補給源として、液体のメタンがあると想定された


この予想は、カッシーニ探査機によって確かめられる
当初は全球を覆う海が予想されていたが、実際に観測されたものはもっと小さい。
タイタン最大の海=クラーケン海は、ミシガン湖ほど。しかし、タイタンは地球より小さいので、タイタンの面積に占める割合で考えると、地球における地中海の約1.5倍ほどとなる。
その他に、同等の二つの海や湖がある。


ここで『タイタンの妖女』が言及される。ヴォネガットが、ボイジャー探査機が到着する20年以上前に書いていた小説で、その中で、海や湖の存在をまるで予言するかのように書かれていた、と。
さらに『タイタンの妖女』では、タイタンの気象が、土星や他の衛星からの潮汐力で、変わりやすい天候をしているとも書かれている。
実際のタイタンの気象はどうか
カッシーニは、入道雲の発生や、時期による雲の変化、降雨などを観測
これらを見た研究者たちは、地球用の大気大循環モデルを、タイタン用にアップデートし、コンピュータ・シミュレーションを実行
年ごとの季節変化や、より長期間の気候サイクルが予想されている
なお、ヴォネガットの予想とは異なり、この気象をもたらしているのは、潮汐力ではなく、太陽の日射エネルギーと、液体の蒸発や凝縮といった物理過程


タイタンは、地球以外で太陽系唯一の雨の降る天体
地球と違い、雨粒は直径1センチメートル、毎秒1~2メートルというゆっくりした速度で降下してくるメタンの雨である
降水量も地球より少ない
また、タイタンの赤道域は砂漠
タイタンの砂漠にある砂丘を観測した研究者がおり、地球の砂丘と比較することで、それを形成した風を推測し、タイタンに季節風があると推定
また、赤道域は砂漠地帯であるものの、春分秋分の頃には雨が降り、赤道付近に着陸したホイヘンスは、河川地形をみつけている


タイタンの生命
タイタンの湖には、水位が下がったあとがみられる。干潟のようなものができていると考えられる
生命の誕生には、有機物質の濃縮が必要だったという考えがあり、干潟のようなものはその候補となりうる
メタンは、極性分子である水と違って非極性分子である。溶ける物質が異なる。水に溶けるようなものは溶けないが、エタンやプロパン、アセチレン、ベンゼンなどが溶ける
また、もしメタンの海で生命が生まれるとしたら、地球の生命と違って、細胞膜の脂質における親水部と疎水部が逆になっていると考えられる
それを踏まえて、長沼毅から筆者に対して、メタンの海に存在する分子を教えてほしいという問い合わせがあったことを明かしている。


タイタン探査計画
上述のタイタンの砂丘を調査した研究者、アリゾナ大のローレンツは、タイタンにボートを送り込む計画を立案
2011年、NASAは次期探査計画として、火星地震波探査、彗星着陸探査、そしてこのタイタンのボート探査を候補にあげたという
この中で、しかし、実際に実現されることになったのは火星の地震波探査、すなわちこの間火星へと到着したインサイトである(本書が書かれた当時は、この中から火星の探査が選ばれたという時点で、またインサイトの名前への言及はない)
彗星探査もやったよなーと思って検索してみたが、この2011年のものではないようだ(スターダストやディープインパクトは、2011年以前にスタートしている計画)
彗星とタイタンの探査計画は、今も候補には上がっているようである。
彗星と土星の衛星タイタンを目指す、NASAの新プロジェクト候補 | Telescope Magazine


太陽光エネルギー
エイムズ研究所のクリストファー・マッケイによる仮説
地球で生命は、光合成と呼吸によりエネルギーを利用している
光合成:水+太陽エネルギー→酸素+水素(水を分解)/水素+二酸化炭素有機物(有機物の合成)
呼吸:有機物+酸素→エネルギー+水+二酸化炭素有機物の燃焼によるエネルギー利用)
もしタイタンに生命がいるとしたら?
メタン+太陽エネルギー→アセチレン+水素(大気中でのメタンの分解)
アセチレンは雨になって、水素は風により地表や海へ
生命:アセチレン+水素→エネルギー+メタン
どれくらいのエネルギーが獲得できるかの試算があり、酸素呼吸に近い量ができるとされている
カッシーニによる観測によって、マッケイによる予想通り、水素やアセチレンが少ないということが分かる
つまり、水素やアセチレンを取り込む何らかの反応があるということ
しかし、非生命的なプロセスによっても説明できるため、生命存在の決定的証拠とはみなされていない


筆者が想像するタイタンの生命についても書かれている
生産者が、地球のプランクトンのように海水面近くに集まり、それを、ビニール袋のような見た目の消費者が、ジンベイザメのようにこしとって食べる、という想像図が描かれている
また、タイタンの生命は、大気に進出する可能性があるとも述べられている。タイタンでは、大気にラジカルが存在しているから。ラジカルは反応性が高いので、効率よいエネルギーを求めて生命が進出するかも


タイタンの環境
なぜタイタンには窒素があるのか
→筆者は、アンモニアに衝突が起きると窒素が発生することを実験で確かめた
後期隕石重爆撃期に、窒素ができたのではないかという仮説
後期隕石重爆撃期は何故起きたのか
→ニースモデルによる説明
ガニメデやカリストは暖かったため、トリトンは冷たかったため、窒素は生じたが大気とならなかった
メタンは太陽光によって比較的短期間に分解してしまう
→供給源がある
→低温火山もしくは地下メタン
地球は、水蒸気の正のフィードバックに対して、二酸化炭素の負のフィードバックで機構を安定させている
タイタンも、液体メタンは、水と同様に正のフィードバックを起こすが、大気中にある有機物微粒子のもやが、負のフィードバックを担う
この機構の安定性は、エイムズでホイヘンスの映像を見た筆者の博論のテーマだったらしい。



水のハビタブルゾーンと同様、二酸化炭素ハビタブルゾーン、メタンのハビタブルゾーン、窒素や一酸化炭素ハビタブルゾーンがあるのではないか

第四章 系外惑星

章の前半は、系外惑星の探し方などの話なので省略
バイオマーカーの話が面白い
酸素やメタンは、バイオマーカーと目されることが多い
しかし、非生物的にも発生することが分かっている
単に酸素やメタンがあればいい、というわけではない
もし、酸化的な環境でメタンが発生していたら、あるいは、還元的な環境で酸素が発生していたら、これは自然には発生しないので、生物由来の可能性が高まる、と

また、直接観測によって植物を確認することと、植物の色について
さらに、筆者が考えている、別種の光合成について
地球における二酸化炭素の供給源は火山だが、火山噴火の圧力が高まると、火山ガスはメタンを多く含む還元的なものになることが分かっている
そんな惑星における光合成と呼吸は、どのようなものになるか
地球上では、水を分解してできた水素と二酸化炭素を使って有機物を合成し、有機物と酸素を使ってエネルギーを獲得し、二酸化炭素を排出する
対して、上記の惑星では、水を分解してできた酸素メタンを使って有機物を合成し、有機物と水素を使ってエネルギーを獲得し、メタンを排出する、と。


最後に、SETIと文明の持続時間について簡単に触れられている。

エピローグ

再び『タイタンの妖女』に言及されている
自分は、かなり前に『タイタンの妖女』を読んだことはあるのだが、もうかなり前になってしまって何一つ内容を覚えていないので、また今度読み返してみようかなーと思った。


また、酸化的な環境である火星で、2004年にメタンは発見されている。この本が書かれた2013年時点で、キュリオシティはメタンを発見できずであり、2018年に打ち上げられ、ドリルを持って火星の地下を探査するエクソマーズに期待する旨書かれている。


ちなみに、火星大接近 -火星に生命は存在するのか?(縣秀彦) - 個人 - Yahoo!ニュースで「マーズ・エクスプレスは2004年、火星の大気中にメタンを検出しました。」とある。
また、火星でメタンが高頻度で急増、発生源は不明 NASA 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News火星に生命が存在する可能性か。探査機が確認した「メタンのスパイク現象」|WIRED.jpとある通り、2014年12月に、キュリオシティが火星でメタンを検出している。
エクソマーズは、打ち上げが2回に分けられており、現在、トレース・ガス・オービターが軌道上を回って、地図を作ったり、続く2発目の支援を行う。2発目は、元々2018年打ち上げ予定だったが、2020年打ち上げに予定が変更されている。こっちはローバーで、メタン源を調査する予定。
また、日本にも、火星のメタンをもとに火星生命を探そうという計画があるようだ(JAMP)
第15回自然科学研究機構シンポジウム アストロバイオロジー ust実況 - Togetter



この本にもタイタンにおける生命について言及がある
やはり、メタンやエタンが、水と違って極性がないことが指摘されたうえで

水と油は混ざらないので、特別に仕切りをつくる必要はない。つまり、細胞膜が必ずしも要るわけではない。(中略)細胞膜が必要だとしたら、それは脂質一重膜かもしれない。一重膜とは、脂質の疎水部が油側に向き、親水部が水側に配向してならんだ状態である。
pp.14-15

ここで問題になるのはむしろ細胞内の「水のような極性液体」である。この低温では水は固体なので、水以外の液体を考える必要がある。(中略)ホスファンになるだろう(われわれが知っている生命にホスファンは有毒であるが、タイタンの生命にはそうでないことを期待する)。(中略)液体エタン中にホスファン滴ができるかもしれない。これは非極性液体中の極性液体、すなわち油中の水滴のような状況(中略)ホスファンは、タイタンの大気には検出されていないが、土星木星の大気に検出されている
p.15

執筆者は山岸明彦



あと、こちらの本にも

長沼 問題は、酸化還元力の供給。酸化力がどこから来るのかということ。メタンだから還元力は多分いっぱいある。水素は富んでいるわけね。でも酸素は、やっぱり水がスプリット(分解)しないと出てこない。
p.345

油をイメージすればいい。油だけだと、生化学反応が起きないから生物はできないけど、そこに水滴がちょっとでもあれば水滴生命ができるかもしれない。回りが油だと水は膜がなくても丸くなる。それがそのまま生命になるかも。
(上述ブログ記事中のシノハラによる要約)


追記