中村融編『宇宙生命SF傑作選 黒い破壊者』

主に、5〜60年代の「宇宙生命SF」を集めたアンソロジー
古き良きSF的な雰囲気というか?
「おじいちゃん」「キリエ」「妖精の棲む樹」は、謎解き的なオチの面白さのある話

リチャード・マッケナ「狩人よ、故郷に帰れ」(中村融訳)

1963年発表(初訳)
とある惑星の環境を丸ごと改造しようとするも、しっぺ返しを食らう話
モーディン人が、とある惑星を、ベルコンティ人の技術を使って、自分たちの惑星と同じような環境にしようとする。
環境改造という話の他に、モーディン人とベルコンティ人の文化・文明の違いというのも話を進めていく。
モーディン人は、グレート・ラッセルという獣を狩ることによって一人前として認められる。そして、母星のグレート・ラッセルが少なくなってしまったので、別の惑星を環境改造して狩猟地区にしようと計画している。
彼らにとっては、グレート・ラッセルと戦って勇気を示すこと、というのが何よりも重要な価値観。
一方、ベルコンティ人というのは、少なくともこの作品に出てくる範囲では、科学も発展しているし、自然を愛し、自然に対しても謙虚な人々、という感じ。
主人公であるモーディン人の青年は、ベルコンティ人からすれば十分に好ましい人物なのだけど、グレート・ラッセルを狩った経験がないため、モーディン人からは半人前扱いされているし、本人もまたグレート・ラッセル狩りを成し遂げる日が来ることを非常に重要視している。
で、その惑星に生息しているのが、フィトという、動物と植物が未分化な生物。植物の姿をしてるんだけど、葉が昆虫のように飛び交う。
で、これを駆逐するために、ザナシスという駆除用植物を導入する。
だが、これが一向に進まない。
ザナシスの技術を持ってきたベルコンティ人たちは、これ以上やってもよくない結果しか待っていないだろうとして、モーディン人たちにやめるよう言うのだけど、モーディン人たちは聞かない。
フィトという生命は、自他の区別がなく、死ももたない。化学物質で思考する。そして、ザナシスをも自らの一部として取り入れてしまっている。
主人公に想いを寄せるベルコンティ人の少女は、そういうことがわかっている。

ジェイムズ・H・シュミッツ「おじいちゃん」(中村融訳)

1955年発表(1973年に中村能三訳)
とある未知の惑星へと植民しはじめた植民団
視察に来た評議員を案内する少年の話
「おじいちゃん」というのは、水面に浮かぶ巨大な睡蓮のような植物の個体名。この植物は、熱線銃で端を刺激すると移動するので、植民団は水上移動用に使っている。
ただ、その「おじいちゃん」がいつもとは違う挙動を見せる。
で、この世界では、空飛ぶ虫とそれに寄生する虫という関係があって、少年はそういう生態に興味をもっていたのだけど、植民団ではあまりそういう好奇心は歓迎されてなかった。
実は、「おじいちゃん」にも、そういう寄生関係があって、それに気付けたことでなんとか危機を脱することができる。


ポール・アンダースン「キリエ」(浅倉久志訳)

1968年発表(1978年訳)
ブラックホールが出てくる作品だが、ブラックホールという用語をホイーラーが発表したのは1969年なので、ブラックホールという言葉は出てこない(作中では、超新星ということになっている)。時間膨張効果とかシュヴァルツシルト半径とかいった言葉は出てくる。
「射手座超新星探検隊は、50人の人間と1つの炎から成り立っていた。」
この「1つの炎」というのが、御者座生物と呼ばれるプラズマ生命体のルシファー。
プラズマが生命となっていて、宇宙船の横を併走して飛行している。テレパシーによって地球人類と交信ができる。
で、このテレパシーというのが、テレパシーなのでどんな時空の隔たりも越えて交信が可能。誰とでも交信ができるわけではなくて、人類の中でも限られた人としかできない。この探検隊の宇宙船にも、ルシファーと交信できる人が1人だけ乗ってる。
彼女とルシファーは、恋愛関係のようになっている。
で、ブラックホールに飲み込まれそうになって、ルシファーが助ける。ルシファーはブラックホールの知識があんまりなかったらしくて、大丈夫だろうという感じで、近付いてしまう。
ブラックホールの中と外では時間の進み方が違う。テレパシーはどんな時空の隔たりも越えて通じる。の2つから、このオチ。

ロバート・F・ヤング「妖精の棲む樹」(深町眞理子訳)

1959年発表(1972年訳)
鯨座オミクロン星第18惑星が舞台
約1000フィート(約300メートルくらい?)の巨大樹木があって、そこの樹の下には、原住民が遺した町がある。人類はそこに入植している。
主人公は、腕利きのツリーマンで、その樹にのぼって、枝を切る仕事をしている。
巨大な樹を1人で登り(下にサポート役がいる)、樹の上でキャンプしつつ、樹上作業をする。
すると、ツリーマンの間で噂になっている「樹の精(ドライアド)」を目撃してしまう。むろん、最初は自分の見間違いや妄想を疑うのだが、樹液が「血」そっくりだったり、夜寝る前に話しかけられたりというようなことが起きるうちに、どんどん自分が樹の精を殺しているのだという感覚にとらわれていく。
というくだりも面白いのだけど、最後の最後で明かされるこの樹と遺された町の関係・生態が面白かった。

ジャック・ヴァンス「海への贈り物」(浅倉久志訳)

1955年発表(1966年訳)
惑星サブリアの浅海
主人公らは、その海から、真珠などを養殖することを通してレアメタルを回収している作業員。
そのうちの1人が、突然謎の失踪を遂げる。何者かに襲われているというサスペンス的な展開から話が進んでいく。
元々、この星にいる生命で人間に危害を加えるものはいなかったはずなのだが、デカブラックという、オットセイに似た身体で十本の腕をもった生き物が、襲ってきたのではないかということが分かってくる。
一方、主人公達の会社からライバル会社に移籍した生化学者が、デカブラックについて何か隠し事をしていることも分かってくる。
デカブラックは知性を持っているのではないか、にも関わらずその生化学者はデカブラックを殺しているのではないか、そしてデカブラックがその復讐を始めたのではないか、と主人公は推論する。
もしデカブラックに知性があるのだとすれば、生化学者は有罪となる。
知性があることをどのように証明するか。
ここでは、もし社会性昆虫のようなものだったら知性はなく、人とコミュニケーションがとれたら知性がある、とされている。そして、コミュニケーションをとるために、デカブラック用の身振り言語を作ってそれを覚えさせる、と。
このあたりの知性観は、時代を感じさせるなあと思ったけど*1、最初はサスペンスとして始まった話なのに、最終的にファースト・コンタクトものになってたのが面白かった。

A・E・ヴァン・ヴォークト「黒い破壊者」(中村融訳)

1939年雑誌発表→1950年『宇宙船ビーグル号の冒険』として組み込まれ大幅に改稿。雑誌発表版についての新訳(日本では1960、1961、1966に訳出)。
猫型の生物ケアル*2が出てくる話。
ビーグル号って読んだことないしどんな話かも知らなかったんだけど、なんかこの触角のある猫っていうイメージは見覚えがなくもない。
文明が滅びてしまった惑星に残っていたケアル。こいつは生物のイド(特殊原形質、リンのことらしい)を食い尽くす凶暴な生き物なのだが、高い知性があり、人類の探検隊がロケットでこの惑星に下りてきた際、無害な生き物に自らを見せかけ、ロケットを奪う計画をたてる。
電磁波を操り、電気錠もなんなく解除できてしまうし、ロケットのエンジンも操作できる。
一方、探検隊の方には、隊長以下様々な分野の専門家がいて、彼らの知恵を集めることによって、撃退に成功する。
ところで、考古学者として日本人が1人乗っていたりする。この人、考古学者なので、ケアル撃退作戦に直接的には役に立たないし、なんかやたら長々とした口上をぶつのだけど、なかなか物語内でよいポジションにいる。


*1:じゃあ、今の知性観はなんだっていうと、これはこれでなかなか難しいけど

*2:クァール - Wikipedia そうだ、塩素を呼吸するんだった