『日経サイエンス2015年7月号』『Newton2015年7月号』

日経サイエンス

今月の日経サイエンスは面白い記事多い

時空の終端 ファイアウォール  J. ポルチンスキー

うん、まあこれはあんまりよくわからなかったのだけど、ブラックホールには色々とパラドックスがあって、相対論と量子力学とのあいだで、あちらを立てればこちらが立たず、みたいな状態になっているらしい
これを解決するべく考えられたのが、事象の地平面は高エネルギー粒子があって、入ってきた物質を跡形もなく消滅させていしまう「ファイアーウォール」がある、ということらしい
ほんとにそんなものがあるかはまだ分からないし、提唱者自身もなんか困惑しているらしい。筆者ポルチンスキーの弟子でもある日本語訳の監修者(夏梅)によれば、ファイアーウォールの是非よりも、情報のパラドックスを明確にしたことに意義がある研究とのこと

ブラックホールからエネルギーを取り出せるか  A. ブラウン

ブラックホールからトンネル効果で漏れ出すホーキング放射のエネルギーを「採掘」できないか、という試案
結論としては、かなり無理そうって話なんだけどw
宇宙エレベータを作って、カゴをブラックホールの近くに降ろし、高温のガスで一杯にして引き上げるというアイデア
地球の重力ですら、既存の素材じゃ軌道エレベータ作れなくて、カーボンナノチューブかなーって感じだけど、ブラックホール用の軌道エレベータなんて一体どんな素材で作ればいいのか→そこで「弦」、あの超弦理論とかの弦。でも、これを使ってもギリギリ、らしい。
ところで、この記事の中で一番面白かったのは、ブラックホールの周辺だと、回転速度が速いほどブラックホールに向かって落ちてしまうという話
例えば、普通、惑星とか衛星とか、中心星のまわりをぐるぐる回ってる奴は、回転速度が速いほど遠心力が働いて、中心星の重力とつりあって、中心に落ちずにぐるぐる回っていられる。
ところで、そもそも、重力は質量とエネルギーに対して作用する。ブラックホールの重力は、回転する運動エネルギーに対しても作用する。このため、回転すればするほど、それによって生じる遠心力よりも重力の方が強くなって、ブラックホールへと落下してしまう。
やばいな、ブラックホール
あと、宇宙エレベータの話をしている時の、こんな一節
カーボンナノチューブで宇宙エレベータを作るときの問題を並べたあとで)「だが、私のような理論物理学者にとっては、提案された構造が既存の物理法則を破ってさえいなければ、その他の点は単に技術的な問題でしかない(この基準によれば核融合発電プラントは解決済みだ)」

遺伝するエピジェネティック変異  M. K. スキナー

エピジェネ変異が遺伝する、というのは、つまり後天的な変異も遺伝するという話で、それ自体で結構驚きなのだけど
ここでの研究は、ダイオキシンとかDDTとかいった化学物質の影響が、それを食らった本人だけでなく、孫ややしゃごの代にまで現れるということを示していて、結構社会的インパクトの大きそうな話だなと。

王者の系譜 ティラノサウルスの実像  S. ブルサット

見開きのイラストが味があってとてもいい
T・レックスじゃなくて、ユスティラヌスとディロングだけど
ティラノサウルス・レックスは超有名だけど、それ以外のティラノサウルス類の話、というと意外にわからないもので、この記事は面白かった
ティラノサウルス類の様々な種のイラストが載ってたけど、レックス含め、みんな羽毛生えているイラストだった
ティラノサウルス上科は、ジュラ紀中期くらいからでてくるのだけど、この時代はアロサウルスなんかが台頭していて、ティラノサウルスの仲間は小型肉食恐竜だった。グアンロンとかがこの時期。
白亜紀中期にアロサウルス類やケラトサウルス類が姿を消し、ティラノサウルス類の時代となり、いよいよ巨大化するのだけど、巨大なティラノサウルスが登場したあとでも同時代に、小型のティラノサウルスもいたり、あとアラスカとかでも発見されていたり、多様性があったとか
鼻先の長いキアンゾウサウルスなんてのもいる。
タルボサウルスは、レックスのすごく近縁。アルバートサウルスとゴルゴサウルスは、ティラノサウルス科ではあるけど、ちょっとレックスとは離れているみたい。

隠れたパターンを探し出す データ可聴化  R. コーエン

目で見るよりも耳で聞く方が、人間は細かな変化に気付きやすいらしく、データを音に変えるという調査方法があるらしい
太陽風の観測データとかがんの診断データとか
手術室でデータの音を流して、がんの切り残しがないかどうか分かるようなシステムが作れないだろうか、という話もあるらしい
データを聴覚的に表現するのは利点もあるけど、視覚表現(における円グラフとか棒グラフとか)と違って語彙がない。視覚表現と比較するための基礎がない、というところがネック。
あと、連星のX線データを使って、作曲した音楽家もいるらしい。X-ray Hydraというアルバムで、i-Tunesで試聴してみたけど、全く普通の音楽だったように思える

脳を操る寄生生物 トキソプラズマ  G. アリバサラガ/ B. サリバン

これやばい
猫の寄生生物なんだけど、ネズミに寄生すると、ネズミの防衛本能を破壊して捕食者である猫への恐怖感をなくさせて、猫に食べられやすいように行動傾向を変化させる、という
タツムリに寄生して鳥に食べられやすいように行動を変化させる寄生虫は知ってたけど、哺乳類に対してもこういう奴がいたとは知らなかった
そして、さらにやばいのが、人類も30億人は既に感染済みだとか……やばい! やばすぎる!
いちど感染すると一生キャリアのままで、完全に駆除する方法はない。
まあ基本的に無害だと考えられているのだが、最近になって、人間に対しても行動傾向の変化をもたらしているのではないかとか、統合失調症と関係しているのではないかとかいった研究も進められているらしい。

ポップコーンの物理学/地球外生命のホットスポット/空飛ぶ円盤,火星に着陸!?

NEWS SCANから
ポップコーンが飛び跳ねるところを高速度カメラで撮影してみた研究
M型矮星は、数が多いからハビタブル惑星探すのに有望かと思われていたけど、そうでもないかも、と。同じ面を常に主星に向けているようになっているかもしれないし、また形成期において、恒星の形成が惑星の形成よりも遅く、その間に水が干上がってしまうかもしれないとか
ところで、これを読んでいて、あれ5月号で超ハビタブルなのは主星の寿命が長い奴って書いてなかったっけ? と思って見直してみたら、5月号で有望とされていたのはK型矮星だった。寿命が長くて数が多いという点で、M型とK型で、前述の理由でM型矮星は水をもつ惑星が少ないというシミュレーション結果があって、K型が有望ということになるらしい。
ただ、数が多いから、実際の観測ミッションではM型調べるのが多いらしいけど
空飛ぶ円盤は最近ニュースにもなってた
CNN.co.jp : NASAの「空飛ぶ円盤」、ハワイで飛行実験
NASA、火星用「空飛ぶ円盤」テスト映像を公開(動画あり)|WIRED.jp
火星大気は薄いのでパラシュートでは減速しきれない、逆噴射のための燃料は持っていくの大変
で、新しい着陸機を作ってて、それが円盤型してる、と。

ブランクを埋める幻  S. マルティネス=コンデ/S. L. マクニック

いろんな錯視とかを紹介してるだけの記事なんだけど、その中に水玉コラが……w

Newton

今回は、地球と生命特集が大半を占めている

「地球と生命 46億年をさかのぼる旅」

段々過去へと遡っていく構成
恐鳥類とか植物の上陸とか2度の全球凍結とかの記事があったのがよかった
あと、新世界ザルが何故か南米大陸にいる謎に対する「浮島仮説」とかあんまり知らなかった
それから、マントル対流の変化と酸素増加の関係。27億年より以前は、上流と下流に二層対流になっていたのが、地球が冷えていって対流が大きな1つの対流になったことで、大陸が増加してシアノバクテリアが増えた。また、水素や硫化水素が地球の深部から出てくる量が減った。それで、酸素が増加したという話
酸素というと、恐竜が気囊を進化させたのは、低酸素時代に適応したからという説が紹介されているんだけど、特にウォードの名前もバーナーの名前もなく紹介されていた。

絶景でたどる地球史

まさに絶景、ニュートンらしいカラーグラビアなんだけど、個人的には、イギリスの海岸にある白亜の崖とオーストラリアの縞状鉄綱層*1の写真が特によかった。すごく迫力ある、あるいは美しい写真でもあるし、また地球・生命史の本とか読むと、よくでてくる奴でもあるし

生命の“種”を宇宙でさがす「たんぽぽ計画」が開始

ただよってる有機物探すだけでなく、地球の微生物を宇宙空間に曝す実験もやってる、ということを知った
2016年秋頃に分析結果が得られる

パラサウロロフス

パラサウロロフスだけでなく、鳥脚類の仲間の再現CGイラストとスペックがずらっと並んでいた。
イグアノドンってでかいんだなー、と
小型の体長2,3メートルとかの奴以外は、基本的に4本脚で描かれていたのもちょっと印象的
自分が子どもの頃は、鳥脚類ってみんな2本脚で描かれてたけど、今は通常は4本脚で走ると2本脚になる、とかになってる

Newton(ニュートン) 2015年 07 月号 [雑誌]

Newton(ニュートン) 2015年 07 月号 [雑誌]

*1:鉄鉱床?