常松洋『大衆消費社会の登場』 - logical cypher scape2は、戦間期アメリカの文化を考えるうえで、そのベースとなる社会構造などについて知れるよい本だったが、文化そのものについては手薄だったので、なんかいい本ないかなーと探しているのだが、それはそれとして、過去に自分が読んだ本から関係しそうなところを分野別にサルベージしてみることにした。
- 文学
といいつつ、いきなり過去に何も読んでない分野からいくが。
戦間期アメリカ文学というと、フィッツジェラルドやヘミングウェイなどの、失われた世代だろう。
彼らの作品も未読なら、そもそも彼らについてもあまりよく知らない。
パリに滞在していた時期が結構あるようなので、むしろ当時のパリについて書かれた本の中でちらほらと名前を見かけた。
また、同じくアメリカ人で、パリで美術家たちのパトロンとなっていたガートルード・スタインが「失われた世代」の命名者であるらしい。
断片的に名前を見ているだけなので、全体を概観したい(いつからいつまでパリにいたのか、とか)。
メインストリーム文学とは別に、この時期はまたSFの確立期でもあるだろう。
ガーンズバックの『アメージング・ストーリーズ』が1926年、『アスタウンディング』が1930年にそれぞれ創刊されているようだ。
このあたり、いずれSF史の本を読みたい。
- 美術
第7章 パリからニューヨークへ―アメリカ美術の胎動 沢山遼
第一次大戦勃発後に渡米したデュシャンとピカビア、これにアメリカ人のマン・レイで「ニューヨーク・ダダ」なんだけど、これ、自分たちで名乗ってなかったのだな。
これに続いて、機械や工場、摩天楼をアメリカの「原風景」として、キュビズムっぽく幾何学的に描くプレシジョニズム
写真家のスティーグリッツがギャラリーを開いて、ヨーロッパの作家だけでなく、ダウやオキーフなどアメリカで抽象画を描いていた作家が発表する
オキーフは、動物の頭骨とかの絵を描く人で、そういったものがメインだけど、20年代にはやはりプレシジョニズム的な都市を幾何学的に描く作品もあったらしい
一方で、写実主義へ回帰しつつ社会問題を描く「アメリカン・シーン」
メキシコ壁画運動や、失業対策の連邦美術計画
シュールレアリストたちの渡米
一方、彫刻分野では、1930年代にカルダーやイサム・ノグチが登場してくる
林洋子編『近現代の芸術史 造形編1 欧米のモダニズムとその後の運動』 - logical cypher scape2
ニューヨーク近代美術館は、世界の「近代美術館」のモデルとなったが、それまでに近代美術館的なものがなかったわけではなく、初代館長のバーは、ケルン、ベルリン、エッセンの美術館を視察している。
1936年、ニューヨークでは「キュビスムと抽象芸術」展が開催
(中略)
アメリカ
1930年代半ばから抽象芸術への公的評価が高まり、コレクションが形成され、展覧会も開かれるようになる。
アメリカの抽象画家には、マクドナルド=ライト、ラッセル、ダヴ、オキーフがいるが、ダヴやオキーフにとっては自然とのつながりが重要だったので、のちに具象へ回帰
(中略)
1915年、デュシャンのニューヨーク移住により、ニューヨーク・ダダの動きが始まる。ピカビア、クロッティ、マン・レイ。
デュシャンのレディメイド、大ガラス、ロース・セラヴィ
(中略)
シュールレアリスム
ジョゼフ・コーネルにも少し触れられている。
井口壽乃・田中正之・村上博哉『西洋美術の歴史〈8〉20世紀―越境する現代美術』 - logical cypher scape2
アメリカの美術というと、第二次大戦後の抽象表現主義の印象が強いけれども、戦間期も戦間期でまあ色々あることはある。
第一次大戦前後で、ニューヨークとパリの間で人の行き来があるな、という印象で、これは文学の話とも通じるところな気がする。
戦後になると、美術や文化の中心地がパリからニューヨークへ移行する感じだけど、戦間期の、このニューヨークとパリの距離感というのがどんなもんだったのかな、というのは気になる
スティーグリッツやオキーフも断片的に知っているだけなので、もう少し何か概観がわかるといいのだが。
- 音楽
大和田俊之『アメリカ音楽史』 - logical cypher scape2
第2章 現代の音楽2―リズム、ビート 小沼純一
あと、マイクの発明によって、声が大きくなくても歌手として成立するようになった、と(フランク・シナトラとボサノヴァ)
第3章 現代の音楽3―混血性 小沼純一
この章は「アフリカン・アメリカンの音楽」「ブラジルの音楽」「『ラプソディー・イン・ブルー』」「アコーディオン」「『ノヴェンバー・ステップス』」について書かれている
森山直人編『近現代の芸術史 文学上演編2 メディア社会における「芸術」の行方』 - logical cypher scape2
ジャズをはじめとするポピュラー音楽あれこれの重要人物や流れが、あんまり頭に入っていない
- 映画
第6章 映画1―古典的ハリウッド映画の功罪 北大路隆志
古典的ハリウッド映画によって形成された「映画の文法」について
グリフィスによる映画文法の確立
第8章 映画3―「夢の工場」の発展と盛衰 北大路隆志
エジソン社をはじめとする東海岸の「特許」による独占から西海岸へと逃げてきた新興勢力によって作られたのがハリウッド
1930年代のプロダクションコード(ヘイズコード)とスタジオシステムの確立
ド
森山直人編『近現代の芸術史 文学上演編2 メディア社会における「芸術」の行方』 - logical cypher scape2
この時代の有名な映画人というと以下のあたりか。
グリフィス
『国民の創成』(1915)『イントレランス』(1916)
チャップリン
『キッド』(1921年)、『黄金狂時代』(1925年)、『街の灯』(1931年)、『モダン・タイムス』(1936年)、『独裁者』(1940年)
フェアバンクス
『奇傑ゾロ』や『ロビン・フッド』などの冒険活劇映画でヒーロー役
グリフィスとチャップリンは、断片的に作品を見たことがあるが、ちゃんとは見たことないなあ……
ギャング映画やミュージカル映画も
一九世紀アメリカで誕生した。本書はその本質を音楽に注目して探る。ティン・パン・アレーのブロードウェイへの音楽供給から、一九二〇年代のラジオの流行、統合ミュージカルの成立、
ミュージカルの歴史 -宮本直美 著|新書|中央公論新社
この本、未読だが、いずれ読みたいと思っている。
ポピュラー音楽史との関連からも面白いらしいし。
ブラックトンの『愉快な百面相』(1906)について
P.T.バーナムが作った「アメリカ博物館」をはじめとして、見世物小屋的な「博物館」が多く生まれていた。
『リトル・ニモ』(1911)について
『恐竜ガーティー』(1914)
フライシャー兄弟の『インク壺から』シリーズ、その中の『ウィジャ・ボード』(1920)
、軍事教育アニメーション
『蒸気船ウィリー』(1928)
ベティ・ブープの作品である『ミニー・ザ・ムーチャー』(1932)
細馬宏通『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』 - logical cypher scape2
歌や演奏、芸などのライブ・パフォーマンスが、次第に録音や映像などに移り変わっていく、ということが映画館の歴史
(...)
アメリカにおける初期の映画館においては、観客がスライド上映にあわせて合唱する、ということが行われていたらしい。あるいは、ユダヤ人地区ではイディッシュ映画が、イタリア人地区ではイタリア映画が上映されるなど、エスニック・コミュニティを成立させる場としても、映画館は機能していたという。
(...)
時には、映画館そのものが、享楽の対象となる。
例えば、1915年頃に誕生する、映画宮殿(ピクチュア・パレス)などは、その名の通り、映画館自体が非常に巨大で、豪華な装飾を施されており、設備も充実し、ドアマンや案内係までいたというのである。
加藤幹郎『映画館と観客の文化史』 - logical cypher scape2
ボードヴィルやらニッケルオデオンから映画館へ、という流れ
- 恐竜
第二章 巨大妄想
19世紀におけるクジラの怪物性(ダーウィンとメルヴィル)
メルヴィルのガラパゴス島体験とダーウィンへの批判・皮肉
バートルビーこそが未開の地の生物?
マニフェスト・ディスティニーと恐竜ゴールドラッシュ
アメリカの巨大妄想
地層や絶滅という概念の浸透。地球というテクストを読む古生物学者と地球空洞説SF
コープとマーシュの争いからバーナムへといたる、博物館文化と見世物文化の合流
バーナム・ブラウンの名前はP.T.バーナムにちなんでいる、というホントかウソかよくわからない話が……
巽孝之『恐竜のアメリカ』 - logical cypher scape2
コープとマーシュは19世紀の人だが、バーナム・ブラウンは主に20世紀前半の人
1902年に記載されたティラノサウルス・レックスを発掘している(論文書いてるのは多分オズボーンか)。
コープとマーシュの化石戦争で恐竜のイメージは広がったのだと思うのだけど、この時点では、ティラノサウルス・レックスは未発見なわけで、おそらく20世紀初頭に、現在に至るティラノサウルスの大衆的イメージが確立するのだろうと思われるのだけど、そのあたりの表象史は気になる。
恐竜表象というと、1851年のロンドン万博が嚆矢だろうが、海野弘『万国博覧会の二十世紀』 - logical cypher scape2を読む限り、20世紀のアメリカ開催の万博では、恐竜がメインコンテンツだった気配はない。
あと、上記にある通り、「見世物」から「博物館」へ、といった流れのことも気になる。
でもって、チャールズ・ナイトか……。
19世紀末、パレオアートを発展させた成果として、本書はアメリカ西部での恐竜化石の大量の発見などと並んで、チャールズ・ナイトの存在を挙げる
ナイトは、アメリカ中の動物園や博物館に作品を作り、1935年からは本も出している。
復元プロセスについて広範に書いた初めてのパレオアーティスト
影響力は非常に大きい。
例えば、1925年の「ロスト・ワールド」や1933年の「キングコング」だけでなく、1960年代のハリーハウゼン作品にも影響を与えている。
「パレオアート小史」(Mark Witton”The Palaeoartist's Handbook”1章) - logical cypher scape2
ナイトは科学的な知見に基づいて恐竜の絵を描いているわけだけれど、1920年代にはこんなのも
あと、1920年代に古生物トレーディングカードがお菓子のおまけについていたんだなーっていう。
「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」展 - logical cypher scape2
まさに消費社会と大衆文化だ!
恐竜と怪獣と人類のあいだ――恐竜表象の歴史をたどって / 中尾麻伊香
19世紀の小説→20世紀前半の映画→20世紀後半の映画で、どのように恐竜表象が移り変わっていったか
(...)
(2)20世紀前半の映画
『ロスト・ワールド』(1925)『キング・コング』(1933)
マーシュとコープの発掘競争によって発見された恐竜が登場する
どちらも秘境探検映画
未開の地に人間が訪れる。危険な存在ではあるがそこまで恐れるものではないものとして描かれている
(...)恐竜とハンティング――「赤ちゃん教育」から「ジュラシック・パーク」まで / 丸山雄生
「赤ちゃん教育」という1930年代のスクリューボール・コメディ映画の主人公が、何故古生物学者だったのか。
いわゆる専門バカである学者が、恋愛コメディにおけるカリカチュアだったと監督は述べているが、本論では、それ以上に当時、オズボーンなどによる恐竜と博物館のイメージが関係していると論じている。
それは化石ハンターとしての古生物学者像であり、「ハンティング」というものがもつ、男らしさなどが象徴されているとしている。
『現代思想2017年8月臨時増刊号 総特集=恐竜』 - logical cypher scape2
1920年代には、ロイ・チャップマン・アンドリュースによるゴビ砂漠遠征も行われている(後に、インディ・ジョーンズのモデルとなる)。
バーナム・ブラウンやアンドリュースのボスが、アメリカ自然史博物館のヘンリー・オズボーンだったはず。多分、ティラノサウルスの大衆的イメージ確立のキーマンはオズボーンのはず。
- その他
禁酒法とギャングの時代でもあるわけだが、このあたりも全然知識がない。
常松洋『大衆消費社会の登場』 - logical cypher scape2で、メジャーリーグの話が少し触れられていた。野球全く分からんけど、ベーブ・ルースとかもこの時代だよなあ。
- 哲学
第9章 ハーヴァードにおけるプラグマティズム 一八七八―一九一三
ウィリアム・ジェイムズについて
第10章 シカゴとニューヨークにおける道具主義 一九〇三―一九三四
ジョン・デューイについて
第11章 専門職的な実在論 一九一二―一九五六
ジョージ・サンタヤナ、そして、アーサー・ラブジョイ、ロイ・ウッド・セラーズ
C.I.ルイス
第12章 アメリカに対するヨーロッパのインパクト 一九二八―一九六四
この章では、1930年代頃のアメリカの大学の安定と停滞について触れ、ヨーロッパからのインパクトとして「フランクフルト学派」「論理経験主義」「実存主義」の3つを挙げている。
ブルース・ククリック『アメリカ哲学史』(大厩諒・入江哲朗・岩下弘史・岸本智典訳) - logical cypher scape2
そういえば、ウィリアム・ジェームズと『ねじの回転』のヘンリー・ジェームズが兄弟だというのを最近知った。
分析哲学前夜、という感じの時代だよなあ。