恐竜アメリカ文学史。
以前、恐竜文学研究として南谷奉良「洞窟のなかの幻想の怪物―初期恐竜・古生物文学の形式と諸特徴」東雅夫・下楠昌哉編『幻想と怪奇の英文学4』 - logical cypher scape2を紹介したが、他にも恐竜文学研究をしているっぽい本を見つけたので読んでみた。
ところで、巽孝之って読んでいそうで、意外にも(?)今まで読み損ねていた人だった。単発の文章なら多少読んだことはあるけれど、著作はなんか読むタイミングを逸していたというか何というか。
実際読んでみるとなかなか独特の文章というか、次々と話が進んでいくので、論旨をつかみかねているところもある。
また、恐竜文学研究といっても、恐竜をキーワードにしたアメリカ文学史で、恐竜以外にも鯨の話や進化論の話なども多い。
というわけで、純粋に(?)恐竜が登場する作品についての解説みたいなものを期待するとやや面食らうのだが、アメリカ文学史ないし文化史の再解釈として読むと面白いのだと思う(アメリカ文学史自体に詳しくないので分からないが)。
メルヴィルやトゥエンによるダーウィンや当時の科学に対する風刺的な作品についてや、
コープとマーシュの恐竜発掘競争とバーナムの博物館興業から当時のアメリカの見世物文化と恐竜ブームを結びつけているところなど、個々のトピックについて面白いところは多い。
はじめに
第一章 ニューイングランドの岸辺で
1 一〇〇万年の孤独
2 ネッシーから、始まる
3 限りなく恐竜に近い巨鯨
4 浜辺という名の廃墟
5 レッカー文学史序説第二章 巨大妄想
1 ダーウィンの黒熊鯨とメルヴィルの白子鯨
2 ロマン主義者のガラパゴス
3 恐竜ゴールドラッシュ第三章 恐竜小説史の革命
1 ダビデとゴリアテ症候群―トウェイン、ヴォネガット、ジェイコブスン
2 神が見世物になるとき―『ゴジロ』を読む
3 白鯨、ハック、ゴジラ―カオス時代の恐竜小説史第四章 人工恐竜はイディオ・サヴァンの夢を見るか?
1 『ジュラシック・パーク』以前・以後
2 バージェス博物館―『ディファレンス・エンジン』を読み直す
3 怪獣チェッシーはいまどこを泳ぐ?
あとがき
参考文献
各章のキーワードや言及作品などメモ
第一章 ニューイングランドの岸辺で
ブラッドベリ『霧笛』とネッシー
ドラゴンとクジラの区別がついていなかった14~16世紀
自然文学・デイヴィッド・ソロー『ケープ・ゴッド』におけるクジラ
浜辺という廃墟、クジラという死骸、漂着物拾い(レッカー)
レッカー文学からサイバーパンクSFへ
第二章 巨大妄想
19世紀におけるクジラの怪物性(ダーウィンとメルヴィル)
メルヴィルのガラパゴス島体験とダーウィンへの批判・皮肉
バートルビーこそが未開の地の生物?
マニフェスト・ディスティニーと恐竜ゴールドラッシュ
アメリカの巨大妄想
地層や絶滅という概念の浸透。地球というテクストを読む古生物学者と地球空洞説SF
コープとマーシュの争いからバーナムへといたる、博物館文化と見世物文化の合流
バーナム・ブラウンの名前はP.T.バーナムにちなんでいる、というホントかウソかよくわからない話が……
第三章 恐竜小説史の革命
マーク・トウェインとカート・ヴォネガットに極大-極小コントラストへの注視を見る
トゥウェインの科学者(古生物学者)諷刺、主人公がコレラ菌になる『細菌ハックの冒険』
マーク・ジェイコブスン『ゴジロ』
アメリカ見世物文化史におけるネイティブ・アメリカンから映画黄金時代へ
第四章 人工恐竜はイディオ・サヴァンの夢を見るか?
恐竜再生とテーマパークを結び付けて、植民地主義的興奮を再生させた『ジュラシック・パーク』
『ディレフェンス・エンジン』と古生物、イディオ・サヴァン、複雑系
ジョン・バース『サバティカル』に出てくる怪物チェッシー
ディズニーランドが出来てテーマパークブームがあったから、クライトンはジュラシック・パークが書けたのか