David Fastovsky、David Weishampel『恐竜学入門』

本としては判型も大きく表紙もシンプルなので、専門書かなとちょっと手を出しにくく感じるかもしれないが、内容としてはまさに「入門」で、読みやすい筆致で

基礎的なところを広範に解説してくれている。恐竜に関わることなら大半のことを網羅しているのではないか。
分岐図の下に共有派生形質が列挙されているところだけは、ちょっと初心者にはついていきがたいところだがw
あと、サウリアとかサウリダエとかいった語が全く何の説明もなく放り込まれているのもちょっと戸惑うところかもしれない。
各章に章末問題がついているのが、アメリカの教科書っぽい。
出てきた単語の説明とか基本的にその章に書いてあったことを説明させる内容だけど、時々難しい問題も混ざってる。多分、大学のレポート課題とかにそのまま使えそうな奴。全然やってないけど。


個人的には、やっぱり各分類群について改めて勉強できたのが面白かった
植物食恐竜については、咀嚼についての説明が多かった印象
外温動物か内温動物かという話も面白かった。これ、僕が子どもの頃の恐竜の本には必ず載っていたトピックだけど、最近の本だと、内温動物っていうことで落ち着いてきたからか、あんまり見ないような気がして。バッカーがなんで恐竜が内温か考えたのかの理由が思ってもみなかったような話で面白かった。
それから、古生物学史は色々なエピソードが多くて読んでいて楽しい。特にノプシャ男爵に驚く。
恐竜の絶滅の話はよく読むが、起源の話は(特に分類とからめた形では)まとまって読んだことがあまりなかったような気がしたので興味深かった。

第1部 過去をたぐり寄せる

第1章 恐竜を捕まえにいこう

化石がどのようにできるのか
化石採集の方法について

第2章 恐竜たちの地球

地質学の話
年代測定や層序
中生代の大陸と気候について
海の水は気候を安定させると書いてあって、阿部豊『生命の星の条件を探る』 - logical cypher scapeを思い出した。水の存在は気候を安定させるのだけど、どのス

ケールで見るかによっていて、『生命の星の条件を探る』のレベルになると逆に水の存在は気温を不安定化させるものになる。

第3章生物同士がどういう関係にあって、どうやってその関係がわかるの?

相同性について
系統樹について
系統分類学や分岐図について。分岐図と系統樹の違い。
最節約性原理。
最後に、科学とは何かという話にも少し触れている。

第4章 恐竜ってどんな動物?

脊椎動物→四肢動物→羊膜動物→双弓類→恐竜類という感じで、
分岐図を用いた系統関係と、骨の部位などの解説
側頭窓と眼窩と前眼窩窓との位置関係をちゃんと理解していなかったかも。
というか、前眼窩窓のことわかってなかった。
側頭窓が上部と下部の二つあると双弓類
前眼窩窓があると主竜形類

第2部  鳥盤類:鎧をまとい、角で武装し、アヒルのようなくちばしをもった恐竜たち

恐竜の入門書では多くの場合、竜盤類→鳥盤類の順で紹介されることが多い。
ただ、それは竜盤類の方が原始的で、鳥盤類の方が派生的という思い込みが反映されていることが多いと筆者は指摘する。
竜盤類も鳥盤類もどちらも等しく派生的なグループである、ということから、あえて鳥盤類の章を先に配置したとのこと
第2部と第3部では、分岐分類が詳しく紹介されていて、最近の恐竜分類に疎くなってしまっていた身としてはかなり勉強になった

第5章 装盾類:鎧をまとった恐竜たち

ステゴサウリア類やアンキロサウリア類などで構成されるグループ

  • ステゴサウリア類

咀嚼は一応できたがそれほどうまくなく、スピードもそれほど速くなかった。
第2の脳があるという説があったが、これはさすがに間違いっぽいが、ただ骨盤のところにある孔が何の役割を果たしたかはよく分かっていない。ただ、鳥類の一部に同様の構造をもつ者がいて、グリコーゲンの貯蔵庫として使われているらしい。
背中の骨板は、体温調節のためとか、性的ディスプレイのためとか言われている。

  • アンキロサウリア類

さらにアンキロサウリダエ類とノドサウリダエ類に分類される。前者は尻尾にこぶがあり、後者はない。
二次口蓋があり、咀嚼と呼吸が同時にできた。

第6章 周飾頭類:コブやツノ、クチバシで着飾った恐竜たち

パキケファロサウリア類とケラトプシア類からなる

  • パキケファロサウリア類

発達した嗅覚を持っていた。
頭蓋骨は頭突きをしても大丈夫な構造をしていた。
性的二型が見られる。

  • ケラトプシア類

角で有名だが、角がない種類もいる。角があってもなくても持っている特徴は、頬が左右に張り出していることと、吻骨というくちばしがあること
発達した鉤状突起とデンタルバッテリーがあって、咀嚼していた。
前肢が下方型か側方型か統一見解を得てない、とこの本にはある。この本には載ってないのと、自分もあまりよく分かってないのだが、藤原復元だかいうのが2009年に発表されているらしい。
角やフリルは、種内の競争のため。性的二型や大きな群れ。
アジアの原始的な種から北米の原始的な種、そして北米の派生的な種へと進化した。北米の派生的なグループはケタトプシダエ類で、これがさらに短いフリルのセントロサウリナエ類と広いフリルのカスモサウリナエ類に分かれる。

第7章 鳥脚類:中生代のバイソンと、レイヨウと、“飛べないアヒル”たち

小型のものはおもに二足歩行、大型のものは通常は四足歩行、速く移動するときに二足歩行、一部のハドロサウリダエ類は完全四足歩行


ミイラ化石から胃の内容物が見つかっている。ミイラ化石は、軟組織が鉱物に置換されたもので、本当のミイラというわけではない
堅い植物を食べていた
くちばし、歯隙、頬歯、頑丈な鉤状突起、頬などから咀嚼していたことがわかる
ヒトが行う咀嚼は下顎が上下に動く以外は他の骨は動かない=アキネティック
鳥脚類の咀嚼は上下運動だけでなく左右の動きも加わる=キネティック
上顎がわずかに回転する=プレウロキネシス
永久に生え続けるデンタルバッテリー


トサカ状の突起は種内競争と性選択によるものか
恐竜も子どもはかわいい顔をしていた
植物と共進化した

第3部  竜盤類:凶暴、強力、強大な恐竜たち

第8章 竜脚形類:偉大、異様、威風堂々たる恐竜たち

竜脚形類の3分の1が古竜脚類、3分の2が竜脚類

咀嚼への適応がどこの見当たらない。胃石があった。たる型の胴体から、胃の中で発酵させていたと見られる
竜脚類についてはあまりよく分かっていない。

1億4000万年の間、身体のデザインを変えていない
歯の形が様々、あまりずらっと並んでおらず、口の先端に制限する傾向もある
椎骨の内側に、側腹腔という空洞や含気孔という孔がある
水圧の問題があって、かつて考えられていた水中生活は無理
多くの竜脚類は、首と肩が並行だったが、ブラキオサウルスやギラファティタンは前肢が後肢より長く、頭部を高く持ち上げていたと考えられている。その場合、

すごい血圧が必要になるし、脳の毛細血管が切れないような太さである必要があるが、このあたりは推測以上のことが言えない
首が長いので、もし哺乳類のような呼吸法だと、肺に到達しない無駄な空気が生まれてしまう。含気孔があることを考えると、鳥類と同様に一方向的な呼吸システ

ムを持っていたと考えられる。
ディプロドクスやカマラサウルスは群居性だった。一方、ブラキオサウルスなどは単独行動性
1997年に初めて巣の化石が発見。2007年に2例目となる巣の化石。
ネオサウロポーダ類という大きな分類があり、その中にカマラサウルス、ブラキオサウルス、マクロナリア類やディプロドコイデア類が含まれる。マクロナリア類

の中に、カマラサウロモルファ類、ティタノサウリア類が含まれる。

第9章 獣脚類1:血に染まった歯と鉤爪

獣脚類は南極を含むすべての大陸から発見される
完全二足歩行性、脊柱がほぼ水平、正中線の上を綱渡りするように交互に足を踏み出す、最も速いものでは時速40〜60km、一部の獣脚類は泳ぐ
第2趾の鉤爪、第1指は向かい合うような配置


ティラノサウルスなどの短い前肢は、巨大化した頭部とのバランスをとるためと言われているが、計算上は300kgの物を持ち上げることが出来る。


小型の獣脚類の歯は薄く、大型獣脚類の歯は分厚い。
アロサウルスは歯と顎で獲物の肉を切り裂くようにしていたが、それが一発で獲物を仕留められるわけではなかった。
ティラノサウルスやカルタノサウルスの太い歯は、一撃で獲物の骨を砕いて仕留めることができた。
歯の減少や焼失が、獣脚類では少なくとも2回(鳥類を含めれば3回)起きている。オルニトミモサウリア類は、くちばしと胃石を持っていて植物食だった。オヴィラプトロサウリア類はくちばしで貝殻を破壊して食べていた。


CTスキャンを使うことで、脳の発達部位などがわかるようになり、感覚器の発達度合いについても推測できるようになってきた。
左右の目で両眼視して立体視することができた
トロオドンティダエ類は中耳腔が広く聴覚にも優れていた
ティラノサウルスの仲間は、大きな嗅球を持ち、鼻腔も大きく、嗅覚に優れていた。


デイノニコサウリア類は、尾が付け根の部分以外曲がらないことで、尾を補強しバランサーとして使っていた。


ボーンベッドで発見された獣脚類もいて、コエロフィシスのような小型獣脚類だけでなく、ティラノサウルスのような大型獣脚類も群れで暮らしていた可能性があ

る。
頭骨にとさかがあるものもいて、ディスプレイとして機能していたのではないか。性的二型があるものもある。
シノサウロプテリクスは、メラソームが発見されて、尾は黒、背から尾にかけては黄褐色ないし赤みを帯びた茶色だった


1990年代の終わり頃、Mary Schweitzerが、恐竜のヘモグロビンや髄質組織を発見

第10章 獣脚類2:鳥類の起源

鳥類と獣脚類の共有派生形質から、鳥類が獣脚類であるということの説明
始祖鳥の系統学的位置について
指のフレームシフトについて
羽毛の進化について
飛行能力の進化について


第11章 獣脚類3:初期の鳥

始祖鳥以後の、中生代における鳥類の進化について
分子進化の研究からの鳥類進化について


モノニクスを代表とするアルヴァレツサウリダエ類の位置が不明
鳥類の特徴である手根中手骨と竜骨突起のある胸骨がある。鳥類と相同なのか、2回進化したのか。


第4部  恐竜の内温性、地域固有性、起原と絶滅

第12章  恐竜の体温調節:“お熱いのがお好き

恐竜は、外温性か内温性か、変温性か恒温性か


内温性は鳥類と哺乳類の特徴だが、今では一部のヘビ、サメ、マグロ、昆虫、植物もあり、鳥類と哺乳類「だけ」の特徴ではない


内温動物である鳥類が恐竜であることから、鳥類への進化の途中で内温性が進化してきたはず
断熱材としての羽毛、含気骨や気囊による効率的な呼吸システムは、内温性を示唆


バッカー
下方型姿勢は内温性の証拠ではないかと考えた
また、現生の動物で二足歩行性のものはすべて内温動物
また、捕食者と被捕食者の生体量の比から、内温か外温か判別しようとした。捕食者が内温動物の場合、外温動物であるよりエネルギーが必要なので、被捕食者との量に関係してくるはず。
ここから、恐竜が内温動物だと導いた。
ただし、問題点も指摘されている。捕食者と被捕食者のサイズが同じくらいという前提が正しいとは限らないことと、化石の保存の精度


現在の内温動物はすべて心臓が4部屋→2000年、心臓の痕跡が残った化石発見→本当に心臓かははっきりしていない


内温動物として代謝を維持するためには呼吸が頻繁に必要→乾燥から鼻を守る必要がある→呼吸鼻甲介があるのでは→発見されていない


恐竜の生息域は80度の高緯度地域まで広がっている。高い代謝能力をもっていたのではないかと思われるが、両生類も高緯度地域が見つかっている。



哺乳類や鳥類には、骨の中にハバース層板がある。恐竜にも見つかっている。
ハバース層板があるのは、恐竜類、翼竜類、哺乳類を含む獣弓類だけである。


成長速度から代謝率を推測する→恐竜は内温性の範疇には入っている


体温を調べる
物質中の酸素の同位体の質量比を調べると、その物質が形成された時の温度が分かる
身体の内側の骨と、外側の骨とで、温度差があれば変温動物、少なければ恒温動物
恐竜は恒温動物っぽい
→酸素の同位体比から温度を調べるためには、水の同位体組成を知る必要がある。ただし、相対的な温度差を調べるだけなら必要ない。
水の同位体組成を知らなくても分かる新しい測定法が開発→竜脚類恐竜5体を測定したところ、31〜38℃
巨大な竜脚類については、巨体恒温性という説がある。内温性ではないが、大きいので恒温性になっているというもの。しかし、それに対して、巨体恒温性にしては、31〜38℃は低すぎであって、積極的に体温維持をしていたはずとの反論がある。
恐竜はおそらく内温性であったが、しかし現生の鳥類のような内温性でもなかった。


この章には、コラムとして、恐竜の足跡から速度を測る方法、体重を量る方法、知能を測る方法などについても紹介されていた。

第13章 中生代の栄華

恐竜の多様性の変遷や植物との共進化についてなど


第14章 発想の積み重ねとしての古生物学史

やや毛色を変えて、古生物学史について
通常、恐竜発見史というとギデオン・マンテルから始まるが、ここではマンテル以前、恐竜という生き物がまだ知られていなかった頃に化石がどのように見られていたかということにも触れられている(グリフォンは、プロトケラトプスの化石から発想されたのではないかとか)。


オーウェンについて
オーウェンは恐竜が内温動物だと考えていたが、それは中生代が今より空気が薄かったからという間違った根拠に基づいていた
また、オーウェンは進化論に反対していた。
彼の人間性についても触れられているが、性格はかなり悪かったみたい。



Seeleyとvon Hueneは、鳥盤類と竜盤類の区分を発見。さらに、槽歯類というグループからそれぞれ進化してきたと考えた(恐竜類という一つのグループではない考えた)。
槽歯類からは、翼竜やワニ、鳥類がそれぞれ進化してきたとも考えられてきた。
しかし、今では槽歯類は単系統群ではないことが明らかになり、無効な分類となっている。


タンザニアのテンタグルは、1909年からフンボルト博物館の調査隊が、4年間にわたり、200名の作業員を実働させ、さらにその家族が同行したため、900人の村が作られるほどの大調査を行ったらしい。


ノプシャ男爵って名前くらいしか知らなかったけど、すごい人だった
トランシルヴァニアの貴族
生物学的に恐竜をとらえる古生物学・パレオバイオロジーのパイオニア島嶼化とか顎の運動メカニズム、成長速度、体温調節、鳥への進化などの研究を行った。
多言語に通じて、ドイツ語、英語、ハンガリー語、フランス語で論文を発表。
アルバニアの地質や民族学についての論文集も書いている
バルカン戦争中、アルバニアのスパイとして働く。建国されたばかりのアルバニアの国王になるべく、オーストリア=ハンガリー帝国との同盟を画策。
第一次大戦中は、ルーマニアでスパイ活動


1960年代以降、パレオバイオロジーの考えが広まる
オストロムによるディノニクスの記載論文、始祖鳥についての詳細な研究
バッカーらによって、恐竜類を爬虫類からはずし、鳥類と恐竜類をあわせて恐竜類にすることの提唱
同時期、分岐分類学アメリカで広まる(ヘニングの本の翻訳が1966年と79年)
恐竜の分岐分析は1984年に始まる
(1)槽歯類というグループが消える(主竜類と同じであることがわかる)
(2)恐竜類が単系統であることがわかる
(3)かつて、大型の肉食恐竜はすべてカルノサウリア類、小型の肉食恐竜類はすべてコエルロサウリア類にまとめられていたが、分岐分析によって違うことがわかった。大型獣脚類は幾度も独立して進化していた。また、テリジノサウリア類は分類不明だったが、獣脚類であることがわかった。鳥盤類の中でも近縁関係がわかるようになった。
(4)鳥類が恐竜であることがわかった


恐竜は何故反映したのか
(仮説1)他の競争相手を恐竜が追い落とした
(仮説2)他の競争相手が絶滅して、恐竜がラッキーなことに生き残った
バッカーは、内温性を獲得することで競争に勝ったのだと主張したが、Bentonは、恐竜以外の動物が絶滅したあとに恐竜が繁栄したと主張した


20世紀後半の有名な古脊椎動物学者として
バッカー、ホーナー、ノレル、セレノの4名を紹介している。

第15章 恐竜:その幕開け

恐竜の起源について
主竜類の中の鳥頸類の中の恐竜形類の中の恐竜類
系統的なグルーブの定義にういて
ハトとトリケラトプスの共通祖先の子孫すべてが恐竜類、ここからはずれたら恐竜形類
恐竜の祖先に近いシレサウリダエ類は完全二足歩行動物
三畳紀後期カーニアン期の南米で恐竜は誕生したと考えられている。
ただし、三畳紀後期の中のカーニアン期、ノーリアン期、ラエティアン期は、絶対年代はほとんどわかっておらず、また海棲生物の生層序にもとづいているため、他の地域同士の三畳紀後期の比較ができない。

第16章 白亜紀‐古第三紀境界大量絶滅

1970年代、アルヴァレス親子によるK/Pg境界でのイリジウム異常の発見
(物理学者の方のアルヴァレスってノーベル賞とってる人だったのか)
衝撃石英など、衝突の痕跡と考えられるものの発見
1981年、ユカタン半島でクレーター発見


絶滅の時に一体何が起こったか
絶滅と大量絶滅について
他の絶滅仮説の検討
絶滅仮説はどのような仮説でなければならないか
(複合要因仮説は、反証不可能なので科学的仮説ではない、とか)
絶滅後の回復について


恐竜学入門―かたち・生態・絶滅

恐竜学入門―かたち・生態・絶滅