海外文学

スティーヴン・ミルハウザー『高校のカフカ、一九五九』(柴田元幸・訳)

ミルハウザーの最新短編集 短編集の原著タイトルはDisruptionsで、邦訳版では本書『高校のカフカ、一九五九』と『幽霊屋敷物語』(近刊)とに分冊される。 We Othersは、新作と旧作混ざった短編集だったが、邦訳版では新作のみ Voices in the Night は『ホー…

R・F・クァン『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』(古沢嘉通・訳)

1830年代のイギリス、オクスフォード大学の王立翻訳研究所に入学した、人種の異なる4人の学生たちの物語 すごい……すごかった。 すごく面白かった。 ネビュラ賞長編部門・ローカス賞ファンタジー長編部門受賞作であり、 『SFが読みたい! 2026年版』ベストSF…

クリストファー・プリースト『不死の島へ』(古沢嘉通・訳)

1981年に書かれた長編The Affirmationの邦訳 最初に書かれた「夢幻諸島」ものであり、29歳の青年のアイデンティティの揺らぎが、イギリスと夢幻諸島という2つの世界に跨がって描かれる。 プリーストの長篇としてはおそらく6作目で、初期の終わりか中期の始…

クラスナホルカイ・ラースロー『北は山、南は湖、西は道、東は川』(早稲田みか・訳)

2025年ノーベル文学賞受賞作家による、京都を舞台にした小説 日本に滞在したことがあり、そのときの経験を元にした作品とのこと。 2003年発表、2006年邦訳。 クラスナホルカイ*1の小説でおそらく唯一の邦訳作品なのだが、品切れで入手困難となっているらしい…

都甲幸治ほか『世界の8大文学賞』

文学賞をテーマにした座談会形式によるブックガイド的な本 8つの文学賞を取り上げ、それぞれの賞につき、3作品をあげて座談会をしている。 全ての座談会について都甲がホストで、他に文学研究者、翻訳者、小説家、書評家など2名がメンバーになっている。 対…

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』(阿部賢一・訳)

主人公が古本屋で手にした本をきっかけに、プラハの街の裏に隠されたもうひとつの街の存在を知っていくという長編小説 著者のアイヴィスはチェコの作家で、本作は、1993年に初版がでた著者の長編第一作。2005年の改訂版を底本に2013年に日本語訳され、2024年…

スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』(柴田元幸・訳)

ミルハウザーの短編集。2008年に白水社から出ていたもの(12年にUブックス)が東京創元社から文庫化されたもの。 これまでもミルハウザーは結構読んだけど、かといって網羅的に読んできたわけでもないので、この本も「そういえば読んでいなかったな、文庫化…

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(鴻巣友季子・訳)

とある家族とそこの客人たちが夏の別荘で過ごす1日を、意識の流れという手法によって描いた、ウルフの5作目の長編小説。 舞台となっている別荘は、ウルフ自身が子ども時代に夏に訪れていた別荘が、本作の主人公の1人でもあるラムジー夫人は、ウルフの母親が…

エクス・リブリス月間

5月末から7月頭にかけてエクス・リブリス月間という感じで、6冊ほど読んだので、まとめておく。 経緯 2023年に「海外文学読むぞ」と銘打ち、集中的に読んでいた。 海外文学と言えば、で思いつく出版社やレーベルは複数あると思うが、自分の場合、白水社Uブッ…

オルガ・トカルチュク『逃亡派』(小椋彩・訳)

旅、移動、解剖学をめぐり116の断章で構成された小説 白水社エクス・リブリス 筆者はポーランド人作家で、2018年にノーベル文学賞を受賞している。その際の受賞理由は「博学的な情熱によって、生き方としての越境を象徴する物語の想像力に対して」とある。博…

呉明益『眠りの航路』(倉本知明・訳)

睡眠障害に悩まされる「ぼく」の物語と、大戦末期に日本へ渡り神奈川で戦闘機製造の少年工となった父・三郎の物語とが交互に進んでいく 白水社エクス・リブリス ざっくりいって、戦争と記憶をテーマにした作品だといえる。 三郎パートの多くが日本を舞台とし…

ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』(松本健二・訳)

20世紀科学史・数学史における人物伝の形で、科学が人類の理解を越えてしまったのではないか、ということを描きだそうとうする中短編小説集 白水社エクス・リブリス 登場するのは、フリッツ・ハーバー(「プルシアン・ブルー」)、カール・シュヴァルツシル…

ショクーフェ・アーザル『スモモの木の啓示』(堤幸・訳)

イラクの次はイラン、ということで、イラン革命によって翻弄された家族を描いた作品を読んだ。 白水社エクス・リブリス 本作は長編だが、ハサン・ブラーシム『死体展覧会』(藤井光・訳) - logical cypher scape2と同様、奇想というか非現実的な描かれ方を…

ハサン・ブラーシム『死体展覧会』(藤井光・訳)

イラク人亡命作家による14篇からなる短編集 白水社エクス・リブリス イラクでの戦争や誘拐、自爆テロなどの暴力が主題となりつつも、それが、超現実的・SF的な設定やフレーバーとともに語られる。 版元紹介文では「幻想的に描き出す」と書かれている。海外文…

遅子建『アルグン川の右岸』(竹内良雄、土屋肇枝・訳)

エヴェンキ族の90歳の女性である「私」が、自らの人生を振り返って語るという長編小説 白水社エクス・リブリスの一冊で、このレーベルはこれまでも何冊か読んでいたが、これからしばらくエクス・リブリスを何冊か読みたいと思っている。 本作は、原著が2005…

トニ・モリスン『ソロモンの歌』(金田眞澄・訳)

ミルクマンとあだ名される青年が、自分の家族のルーツを探し出す話 と一応まとめられるが、ほんとはもう少し複雑 呉明益『自転車泥棒』(天野健太郎訳) - logical cypher scape2につづいて、プロットが面白い系文学だった。本作については橋本陽介『ノーベ…

呉明益『自転車泥棒』(天野健太郎訳)

失踪した父親とともに消えた自転車を探す過程で、自転車の持ち主たちに隠された過去にふれていく物語 台湾文学を読むのは甘耀明『鬼殺し』(白水紀子・訳) - logical cypher scape2に続いて2作目 (次に台湾文学読むとしたら本作かなあと目星はつけていた…

ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(黒田寿郎・奴田原睦明・訳)

学生時代からタイトルは知っていたけれど未読だった。 いよいよこれは読まねばならぬか、と思ってから、さらに1年ほど経過してしまったのだが、とにもかくにも、ようやく読んだ。 いずれの作品もずしっと重い作品ではあるが、しかし、リーダビリティは高く…

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(鼓直・訳)

文庫化奴 新潮には、次はマリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』(旦敬介訳) - logical cypher scape2の文庫化もお願いしたい ガルシア=マルケスは昔、ガルシア=マルケス『予告された殺人の記憶』 - logical cypher scape2、ガルシア=マルケス『エレン…

フリオ・コルタサル『八面体』

1974年刊行の短編集『八面体』に加えて、『最終ラウンド』(1969年)から3編と短編小説について論じたエッセーを加えた短編集。 コルタサルについては、これまで以下の2つの短編集を読んだ。『動物寓話集』は彼の初期短編集で、『悪魔の涎・追い求める男他八…

スティーヴン・ミルハウザー『夜の声』(柴田元幸・訳)

久しぶりにミルハウザー読んだ。 原著は2015年に刊行された”Voices in the Night”で、邦訳は2020年の『ホーム・ラン』と2021年の本書『夜の声』に二分冊されて発行された。 スティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』 - logical cypher scape2 スティー…

海外文学読むぞまとめ2

海外文学読むぞまとめ - logical cypher scape2のつづき 2023年5月~12月 前回、2022年12月~2023年3月の期間に12作品を読んだところでまとめたが、その後、5月以降で9作品読んだ。およそ1年で21作品読んだことになる。我ながらこれはすごいぞ。グラフも更新…

ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』(平石貴樹・新納卓也・訳)

フォークナーのヨクナパトーファ・サーガの第2作目で、1929年に発表された作品 フォークナーについては以前、ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』(藤平育子・訳) - logical cypher scape2とウィリアム・フォークナー『エミリーに薔薇を…

甘耀明『鬼殺し』(白水紀子・訳)

台湾を舞台に、怪力でならす客家の少年が第二次大戦中から戦後にかけての動乱を生き抜く姿を描く長編小説。 「鬼殺し」というタイトルだが、「killing the Ghosts」と英訳されていて、中国での「鬼」は、日本語ではむしろ「幽霊」にあたる。「鬼」には基本的…

アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは…』(須賀敦子・訳)

去年の年末あたりから「海外文学を読むぞ」と意気込んで読んできているわけだが、海外文学のおすすめ記事などを見ていると、わりと見かける名前が、アントニオ・タブッキである。自分は、意識的に海外文学について調べるまで全然知らなかったのだが、複数箇…

リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』(工藤幸雄・阿部優子・武井摩利・訳)

アフリカについてのルポルタージュ。ポーランドのジャーナリストである筆者が、1958年からおよそ40年に渡って取材してきたアフリカ各国でのルポ29篇からなっている。 「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」におさめられた1冊である。文学というとつい小説を…

パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ 二〇世紀史概説』(阿部賢一・篠原琢訳)

20世紀の歴史をカットアップした実験小説 海外文学読む期間をやっているが、海外文学といえば白水社だろと思って、白水社のサイトを見て回ってたときがあってその時に見かけて気になった本の1つ。 現代チェコ文学を牽引する作家が、巧みなシャッフルとコラ…

スティーヴ・エリクソン『君を夢みて』(越川芳明・訳)

エチオピアの少女を養子としたアメリカ人作家ザンの「アメリカ」を巡る物語。 オバマが大統領選挙に勝った頃のロサンジェルスやロンドン、あるいはザンが書く小説の中のベルリン、ロバート・ケネディが大統領選に向けて活動中のワシントンなどを舞台にして物…

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』(柴田元幸・訳)

分岐した20世紀のあいだで交錯するポルノ作家の男とダンサーの女の物語 片や1942年にナチスドイツがイギリスに勝利することになる世界で、ヒトラー専属のポルノ作家となる男と、片や1945年にナチスドイツが敗北する世界で、ダンサーとなる亡命ロシア人の女が…

マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』(田村さと子・訳)

19世紀フランスで女性解放活動家として労働組合結成を呼びかけたフローラ・トリスタンと、その孫でポスト印象派の画家であるポール・ゴーギャンの半生をそれぞれ描いた歴史小説。 リョサはマリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』(旦敬介訳) - logical cyp…