日本SF作家クラブによるアンソロジー第4弾
第1弾から第3弾は読んでない。なんかテーマ設定とかにそこまでピンとくるものがなくて……。
今回も地球SFという、ちょっととりとめもない感じのないテーマではあるのだけど、面子が気になったので手に取ってみたら、これがかなりアンソロジーとしてはレベルの高いものだったように思う。
地球テーマというのが、全体として多様性もありつつ、まとまりもある感じになっていた。
特に面白かったのは「夏睡」「一万年後のお楽しみ」「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」「鮭はどこへ消えた?」「竜は災いに棲みつく」「砂を渡る男」「我が谷は紅なりき」「バルトアンデルスの音楽」あたりかなー
収録作多い、かつ、読んでからブログ書き始めるのに時間あいたため、以下のメモはかなり雑……
粕谷知世「独り歩く」
コロナで外出とかできなかった頃の話。誰もいない河川敷を歩く。
記憶の同一性から生命進化の歴史を幻視する
関元 聡「ワタリガラスの墓標」
地球温暖化が進んだ未来。南極基地で働く科学者の話。3人で同じ基地にいたが、一人は帰国し、一人はフィールドワークに出かけてしまう。
この時代、南極の価値があがっており、基地に住まう科学者たちの出身国は南極条約を出し抜こうとしていて、スパイの真似事をさせられてもいた。
フィールドワークへ出かけた彼女は、スパイとしてデータを持ち出したのではないかと疑い、後を追うのだが
タイトルにあるワタリガラスは北極圏の動物であり、南極への北極生態系の移入の話でもある。
上にあげなかったけど、わりと面白かった気がする。短編だと少し物足りなかったような?
琴柱 遥「フラワーガール北極へ行く」
しろくまとくじらの結婚
遺伝子改造された知性をもつシロクマと、障害者が遠隔操作しているクジラとかだった気がする。
結婚式をしますといって、世界中から祝福してもらう話
しろくまとくじらの結婚なのでスケールがでかい
笹原千波「夏睡」
夏を寝て過ごす一族の生き残りが記した手記
冬眠ならぬ夏睡
文明を失った生活をしているのだが、語り手は、死んだと思われて取り残された後、文明人によって助けられた。
どうも、この一族はなんらか人為的にこういう遺伝子改造されて観察されているっぽいのだが、語り手はその情報が見られないので分からない。
それはそれとして、彼らの生活の描写が魅力的ではある。
津久井五月「クレオータ 時間軸上に拡張された保存則」
タイトルにある通り、とある物理学者が時間軸上に拡張された保存則なるものを唱え始める。これを使って、温暖化の熱エネルギーを過去に移動させる=クレオータという技術を開発する。
天候学者がパートナーとなる。
移動先の過去となるのは、寒冷化が起きていた時期で、ニュートン視点のパートがある。
これが成功した結果、ニュートンは万有引力の発見者ではなくなるという歴史改変
八島游舷「テラリフォーミング」
SAIボットに育てられた少女がメタバースで出会った少年は……という話
人類滅亡したかと思ったら実は生き残っていて、でも、人間なのかと思っていたら違って、みたいな感じのボーイミーツガール
企業が邪悪というか何というか
柴田勝家「一万年後のお楽しみ」
語り手が、ゲーム「シムフューチャー」について記している。
Googleマップ的な衛星画像マップサービスを利用したゲームで、1万年後の地球をシミュレートした画像が表示される。氷河期になっていて、人類の文明は崩壊している。見ててもあまり面白みがないのでコアなユーザーしかいなかったのだが、ある時、その世界に人類の生き残りがいることが分かる。
で、現実の世界で何かすると、それが1万年後のシムフューチャー世界にも影響するということをユーザーたちが発見して、盛り上がっていく様が書かれていく
(1万年後にも残りそうなものを置いておくと、衛星画像更新のタイミングで反映される)
で、どんどん盛り上がっていくんだけど、「これ、マジの1万年後にも残っちゃうんじゃねと気付いてヤバイなとなる。
この文章自体も、石版に彫られた1万年後へのメッセージ
過疎ってたゲームが次第に盛り上がっていく過程が面白いし、その帰結もなかなかスケール大きくてよいし、この文章自体がというオチもよかった(何となく匂わせは何度もある)
柴田勝家っぽいネタだなとも。
櫻木みわ「誕生日(アニヴェルセル)」
日本の90歳とフランスの10才が、ボトルメールを模したサービスで友人になる。
謎の地球のホログラムが世界各地で現れる。
長谷川京「アネクメーネ」
ある研究の特許を譲ってくれないかと言われて、北極の施設まで連れて行かれる話
地磁気変動が生じるとともに、方向感覚喪失症を多くの人が発症するようになっていた。
主人公の持つ遺伝子改変技術が、その治療に役に立つと言われるが、あやしさを感じる。
共に開発したが、既に故人となってしまった友人からの言葉を思い出す。
上田早夕里「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」
地球生まれの祖母の話を聞く
地球の貧困層出身で、感覚データを売るような生活に落ち込んでしまわないよう、生活管理デバイスから逃れる自由のために火星植民に参加した経緯の話
吉上 亮「鮭はどこへ消えた?」
種子バンクから盗み出して復活させられた鮭を狙う密漁者と料理人
春暮康一「竜は災いに棲みつく」
抗災害生物ADS
マグマを呑むADS-1、熱帯低気圧に触手を伸ばすADS-2、岩盤の隙間に浸み込むADS-3、天体衝突を防ぐADS-4
伊野隆之「ソイルメイカーは歩みを止めない。」
動く森ソイルメイカー
そこには知能を持つテナガザルが住んでいる
地下にはニンゲンが住んでいると言われていて、ソイルメイカーや知性化サルは、ニンゲンが環境改善のために作ったような感じ
別のソイルメイカーにいたオス
聞いたことしか答えないタブレット端末から、正しい知識を引き出すには。
矢野アロウ「砂を渡る男」
アルジェリアで、資源開発をしようとした企業が、なんか謎の能力者みたい奴に妨害される。
そのために派遣された学者と、案内人の男
実は、案内人の方がキーマンだった
塩崎ツトム「安息日の主」
アダプタという貴族階級、ファイアという戦士階級、ライドという奴隷(?)階級からなる社会
「付加価値」とか「サステナビリティ」とかが妙な宗教用語と化して、アダプタが過程によって付加価値が生じるのだ、と謎の規範を掲げている
主人公は、あるファイアに仕えている医者
ある訳ありの高貴な娘の治療にあたって、より苦しませるような手術が、付加価値を生むのだと言われて、医者としてのあるべき方向に悩む。
林 譲治「我が谷は紅なりき」
現世(火星)から禁星(地球)へ戻る一大プロジェクトを率いる長の話
かつて、地球から火星へと移住してきた人々が、再び地球へと戻る時が来た、となるのだけど、彼ら火星に適応した身体に改造されているので、地球も現在の火星のような環境になっていることが望ましい
空木春宵「バルトアンデルスの音楽」
地下深くまで掘られた穴から、「地球の音」が聞こえてくる。
これまでのどんな音楽とも性質が違う「音楽」
穴を掘った企業は、これを音楽イベントへと使い、世界各地に穴を掘る。
「地球の音」を聞いた人たちの間で(さらに聞いていない人にも感染する形で)生活サイクルの同調と概日リズムの短サイクル化、あるいは楽器化症候群という身体への変容が起きるようになる。
菅 浩江「キング 《博物館惑星》余話」
小惑星アフロディーテは、あらゆる美が集められている星
子どもの頃、王様になることに憧れてしかし現実の前に夢破れて平凡な人生を送ることになった主人公が、アフロディーテを訪れて、キングを名乗る案内人と出会う
円城 塔「独我地理学」
スファイルは丸くて平坦である、という一見して矛盾する知見を探求する主人公
全体としては丸いのだが、個別には平坦。折り畳まれている。
蜘蛛の新種がどんどんでてくるのは、そのためだったのかと気付く、主人公の友人