架空の本についての書評
対象となるのは、小説が多いが、最後の4編は学術書
原著が1971年、1989年に刊行された邦訳が今年文庫化された。
SF的な作品もあれば、文学パロディなものもある。
今でも面白いなあ、というものもあれば、もうさすがに古いかなというものもある。
- 作者:スタニスワフ・レム
- 発売日: 2020/01/07
- メディア: 文庫
スタニスワフ・レム著『完全な真空』読書人チテルニク出版所、ワルシャワ
この本は、この本の書評から始まる。
自著解説としても読むことができるし、実際このあとに掲載されている各作品を分類し解説しているが、この書評の中で言及されている『完全な真空』の序文なるものは、本書にはない。
マルセル・コスカ著『ロビンソン物語』書肆スィユ、パリ
パトリック・ハナハン著『ギガメシュ』トランスワールド出版社、ロンドン
ジョイスの『ユリシーズ』を意識して書かれた作品への書評なのだが、作中に出てくる単語などに対する事細かな注釈で、そんなのほんとに読み取れるのかみたいな感じになってる
サイモン・メリル著『性爆発』ウォーカー&カンパニー、ニューヨーク
アルフレート・ツェラーマン著『親衛隊少将ルイ十六世』ズアカンプ社、フランクフルト
この書評は、ほぼこの作品のあらすじをまとめたもので、長編のアイデアはあるが書ききれないものを開陳したもの、という印象だが、実際面白そうな作品ではある。
ナチスの親衛隊少将が、戦後に南米に逃れ、自分の王国を作るというもの。彼はもちろんドイツ人だが、タイトルにある通り、何故かルイ16世を自称し、元部下や途中で連れてきた売春婦たちも含めてその世界を演じるようになる。
ソランジュ・マリオ著『とどのつまりは何も無し』真昼書房、パリ
ジャン・カルロ・スパランツァーニ著『白痴』モンダドーリ書房、ミラノ
『あなたにも本が作れます』
これは本ではなく、こういう名前の商品について書かれた文章
名作の文章を継ぎ接ぎして、自分の本を作れるキットで、批評家たちはこれを冒涜として怒ったが、大して売れなかったみたいな話だが
何というか、二次創作・ファンフィクションや同人出版(自費出版)が広く行われている世の中でこれを読むと、面白さが感じられないというか何というか
クノ・ムラチェ著『イサカのオデュッセウス』
これ結構SF
この作品の主人公は、天才を探している、それも第一級の天才を。主人公によれば、二級の天才は同時代には認められないが後世になると認められる存在。一級の天才は、あまりにかけ離れていて、後世に渡って永遠に認められない存在
で、それらしき人を見つけるのだが、第一級の天才というのは、他の人類とは全然違う別のところを歩んでいるのだと気づく
オルタナティブ数学みたいなことをやってる。
レイモン・スーラ著『てめえ』ドゥノエル書店、パリ
ヴィルヘルム・クロッパー著『誤謬としての文化』ウニヴェルシタス書店、ベルリン
ツェザル・コウスカ著『生の不可能性について』『予知の不可能性について』全二巻、国立新文学研究所、プラハ
冒頭の『完全な真空』書評においては、家庭年代記の馬鹿馬鹿しい面白さに惑わされてはいけません、本題は確率論への攻撃にあるのです、とあるのだけれど、しかし、それでもやっぱり、家庭年代記の部分が面白い
アーサー・ドブ著『我は僕ならずや』パーガモン・プレス
コンピュータの中で作られたパーソノイドたちを何世代も進化させる実験で、彼らが到達した神学論争の記録
『新しい宇宙創造説』
これは書評ではなく、ノーベル賞受賞者の講演録という形式を取っている。
新しい宇宙創造説を唱えた物理学者テスタが、そもそもその説を提唱した忘れられた哲学者アヘロプーロスの『新しい宇宙創造説』について語っている。
現在の宇宙の物理法則などは、自然なものではなく、他の文明によって作られたものであるという考え
太陽が生まれるより前に出来ていた文明は、物理法則をもコントロールできるようになるまで発展したが、そこでこの宇宙の他の領域に同じような文明が他にもあることに気付き、それらの文明間の暗黙的な均衡が、今の宇宙だという説
宇宙に生命や文明が生じる確率は十分にあるのに、それを示すような痕跡がないことへの答え