1980年代後半の20代半ばの会社員が、自らの生活のディテールをひたすら綴っている小説。
木原善彦『実験する小説たち』 - logical cypher scape2で紹介されており、海外文学読むぞ期間の一環として手に取った。
ウラジーミル・ナボコフ『青白い炎』(富士川義之・訳) - logical cypher scape2と同様、注釈が多い作品だが、『青白い炎』は注釈が本編みたいな作品だったが、こちらは単に注釈が多かったり長かったりするだけで、本文は本文でちゃんとある。
タイトルの「中二階」というのは、主人公の勤務先がビルで中二階にあることから。
正直な話、物語自体はつまらない、というか、物語らしい物語は存在していない。
一方で、本作は1988年刊行で、物語の舞台もほぼ同じだが、80年代後半のアメリカのサラリーマンの生活の様子が垣間見えるという点での面白さはあるかもしれない。
とにかく主人公が、靴紐とかホッチキスとかエスカレーターとかドラッグストアとかストローとかについて、それらに対する偏愛とともに詳細に記述している。80年代のことなので、2020年代の現代にも共通するものも多くあるけれど、もはやなくなってしまったものについての記述も当然あって、そのあたりの歴史的な(?)面白さはあるかもしれない。
あとはその、主人公のディテールに対する偏愛に、クスりと笑えるかどうか、とか。
概要
昼休みが終わり、エスカレータに乗って会社に戻るところから始まり、最後の第十五章では、そのエスカレータを見るところで終わる。
つまり、エスカレータに乗っている間だけという、とても短い時間の物語であるが、実際には、回想に継ぐ回想となっている。昼休みにドラッグストアへ靴ひもを買いに行っているのだが、それは午前中に靴ひもが切れたからで、さらにそもそも靴ひもを結べるようになった幼少期の思い出へと話が進んでいく、というように。
また、この文章を書いているのは、さらにその後のことで、思い出しながら書いているようだ。
主人公は、入社して数年目の若いサラリーマン。あまり詳しいプロフィールは分からないのだが、靴ひもを結べること、エスカレータのステップを見なくても登れること、自分の会社がトイレに高級なペーパータオルを設置していることなどを、誇りに思っている。また、恋人もいる。
各章
- 第一章
ストローの話など
ところで、紙ストローからプラスチックストローに変わった時のエピソードを、ちょうど、マックで紙ストローを使って飲み物を飲みながら読んでいた。
- 第二章
昼休みに入ろうかという時に靴ひもが切れた話だが、日常生活で同様の驚愕を感じる例とか(ホチキスをしようとして針が入ってなかったとか)、「私の人生における大きな進歩」を8つ挙げていたりする。
この「大きな進歩」のうち最初の3つは、靴ひもの結び方を覚えたなど靴ひも関係
- 第三章
「大きな進歩」の4番目以降について
恋人が歯磨きの時に舌も磨いていることを知って、自分も磨くようになったこととか、やはり恋人の影響で、ほうきで部屋の掃き掃除をすると気持ちがいいのを知ったとか
- 第四章
秘書のティナとの会話
レイが入院してしまったので寄せ書きを作ってるとか、靴ひもならどこそこのドラッグストアで売っているはずだとか
ドアノブから父親のネクタイの思い出話につながるやたら長い注釈がついてたりする。
ティナが使っている日付スタンプについても長々と考察していたり
- 第五章
エスカレータに乗る喜びは、子ども時代の思い出補正なのが、大人にとっても喜びなのか
- 第六章
牛乳パックの話
子ども時代、家では配達される瓶牛乳を買っていたが、それがスーパーで売られる紙パック牛乳へととってかわられるようになっていった話とか
- 第七章
会社に勤め始めて数か月くらいの頃の朝、自分の成長が終わって、大人になったのだとふいに気づいたこと
- 第八章
オフィスに戻るとき、ロビーでメール室で働く同僚たちとすれ違ったことや、清掃員がエスカレータの手すりを掃除しているところに出くわしたこと
スケートやレコードの溝についての長い注釈がある
大人になった時の話として、自分でお金をやりくりする喜びについて書かれており、その中で、レストランの会計の時にカーボン紙にサインすることなどが書かれていたりする
- 第九章
オフィスにあるトイレのペーパータオルの話とか、会社のエレベータの話とか、会社の廊下にある自動販売機の話とか
ミシン目を称える注釈ついていたり、温かい飲み物の自動販売機が何故プラスチックコップじゃなくて紙コップなのか考察する注釈がついていたり
- 第十章
トイレの話
他の人がトイレに入っているとうまく尿ができないとか、トイレで放屁することについてとか
- 第十一章
トイレのハンドドライヤーdisとペーパータオル賛美
再びストロー話
- 第十二章
エスカレータでは絶対歩く派だった主人公が、いかに、エスカレータで歩かなくてもいいかと思うようになったか
- 第十三章
ポップコーン、ドラッグストア、シャンプー、靴用品、レジ係
- 第十四章
昼休みに読もうと思っていた、ペンギンブックスの『自省録』について
自分の思考内容の周期表について(どういうことを普段よく考えているか、というのを、年に何回くらいの頻度で考えたかという周期で表にしたもの)
- 第十五章
中二階についてエスカレーターを見下ろす。