ダレン・ナイシュ/ポール・バレット『恐竜の教科書』

そのものずばり、恐竜の教科書という名前に違わぬ本。
筆者は、古生物学者であり、他にも一般向けの著作を書いているダレン・ネイシュだが、それだけでなく、監訳者が、小林快次を筆頭に、日本の若手恐竜研究者たちが揃った豪華ラインナップとなっている。


近年、類書としてはDavid Fastovsky、David Weishampel『恐竜学入門』 - logical cypher scape2があったが、新情報へのアップデートもあるし、フルカラーなど、本書の方が上回っている点も多い。
帯文で小林先生が「一家に一冊」と煽っているだけのことはあるw


同じダレン・ネイシュの本としては、ダレン・ネイシュ『世界恐竜発見史』 - logical cypher scape2というのもある。


以下、内容要約はせず、気になったトピックのみを拾う形でまとめる

監訳者序文(小林快次)


第1章 歴史、起源、そして恐竜の世界
第2章 恐竜の系統樹
第3章 恐竜の解剖学
第4章 恐竜の生態と行動
第5章 鳥類の起源
第6章 大量絶滅とその後


資料――年代層序表
用語解説
参考文献
和英索引
英和索引

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

第1章 歴史、起源、そして恐竜の世界

第2章 恐竜の系統樹

「古竜脚類」、実は一つの系統ではないことが分かってきて、この名称はもう使われてないとのこと
プラテオサウルスやマッソスポンディルスは、手のひら内向き、つまり二足歩行であることが分かっている
竜脚類というとジュラ紀の恐竜で白亜紀には姿を消したイメージがあるが、白亜紀にもまだまさ勢力を誇っていた


ヘテロドントサウルス
3種類の歯を持つとか(名前は異なる歯から来ている)。異歯性ってもうあったのか?
眼窩に突き刺さっているかのようなとげのような骨が特徴的

第3章 恐竜の解剖学

3~5章が特に面白い、という印象


恐竜(というか主竜類)の頭骨は、開口部が多い。
筋肉がついてて頭蓋骨全体を使って咀嚼しているという話もあるが、前眼窩窓の内側には気嚢があるというのがここでは紹介されている


二足歩行の恐竜は手のひらが内向き


恐竜の足首
趾行性とかの話なのだけど、恐竜類は足首の作りが独特で、これが繁栄の要因になったかも、とか


鳥盤類の前肢は、やや外向き、かつやや下向き


体重推定方法


コエルロサウルス類における尾大殿筋の退化と尾の小型化


気嚢システムは、放熱問題解決の決め手だったかも
含気性の骨は水に浮く→深いところでは不安定になるので、竜脚類は泳ぐのは避けて、浅瀬を歩く程度だったのでは


近年の恐竜の復元図は痩せすぎ


微細構造から色は復元できるのか
恐竜の色は、近年では羽毛からメラノソームの微細構造が発見されて、分かるようになってきているが、実はバクテリアの微細構造なのではないかという異論や、メラノソームだとしても変質してしまっていて、当時の色は復元できないのではないかとも言われているらしい。
とはいえ、多くの古生物学者はメラノソームだと同意しているようで、ここらへんは、一応、決着がついているわけではないことを示すために書いているくらいの話なのかなあと思わなくもないが。

第4章 恐竜の生態と行動

有限要素解析法
建物や航空機が、強風やエンジンの振動でどのような影響を受けるかコンピュータを使って解析する方法で、肉食恐竜の頭蓋骨が、バリバリ噛み砕くのに耐えられたのか調べる
ただ、この本で時々繰り返されてることだが、骨だけでは分からないことがある・誤解することもあるということがここでも注意されている


初期竜脚形類は雑食性


現生動物との比較から恐竜の運動能力について言うのは難しい
というのも、現生動物の走る速さや運動能力を我々はよく知らないからであり、また、恐竜の体の構造は、どの現生動物とも似ていないから


ケラトプス類は、その大きな頭が水に入ると沈むのと泳ぐのは苦手だっただろうという、そりゃそうだろうなという話が書かれているのだが、シミュレーションされたCGが付されており、妙におかしみがあるw


K戦略とr戦略という区別をすることは、廃れたらしい


成体と幼体は、別の種のように行動していた、と
幼体だけで構成されたグループとかがある
それから、パキケファロサウルストリケラトプスの特異な成長過程。従来、別種だと考えられていたのが、実は幼体だったというのが相次いで言われている。
成体と幼体とが、別種に分類されてしまうほど見た目が違うのは、他の動物にはあまり見られないのではないか、と

第5章 鳥類の起源

鳥類は恐竜の一種であるので『恐竜の教科書』である本書では、鳥類についても詳しく扱われている
ところで、鳥類も恐竜類の中の一種であるため、単に「恐竜」と言った場合、そこには鳥も含まれることになるが、普通我々は、鳥を含まない恐竜について特に話をしたい。そのため、現在は「非鳥類型恐竜」というやや面倒くさい呼び方がある。
たいていの本は、「本書で恐竜という場合、「非鳥類型恐竜」のことを指す」という但し書きをつけてたりするのだが、実は本書では、一貫して「非鳥類型恐竜」という書き方を貫いてたりする


恐竜から鳥への進化は複雑
恐竜にはなくて鳥にはあるとされる特徴は色々あるが、これらの恐竜から鳥への進化の途上での現れ方は多様で複雑
羽毛とかは複数の系統で発生していたりする。


鳥類の口に歯が消えた理由は、重いからではなくて、くちばしの方が便利だから


繊維と羽毛の進化は結構複雑


飛行の起源は、木から飛び降りるところから始まったのか、それとも地上を走るところから始まったのか
初期鳥類やマニラプトル類は、走るのに適した脚をしているが、木登りができるような形はしていない
一方、現生の鳥類の飛び立ち方を考えると、助走してから飛ぶということはしていない
近年、注目されているのが翼アシスト傾斜走行
危険から逃れるために、急斜面や木の幹を駆け上がるのに、翼を使ったというもの
ただ、飛行の起源は今なおはっきりとはしていない


アーケオプテリクスは長い尾をもつ
孔子鳥は、尾の骨が短くなった最も古い鳥類、だが現生鳥類のグループではない


エナンティオルニス類と鳥尾類

第6章 大量絶滅とその後

絶滅以前の多様性低下について
白亜紀後期、隕石衝突の前から恐竜の多様性は低下していて、隕石衝突はとどめだったという説がある
実際、この時期の恐竜の多様性は低下しており、それは海退が起きて、ララミディアとアパラチアがくっつくなどしたかららしいのだが、一方で、アジアやヨーロッパでは特に多様性の低下は見られない、恐竜とともに絶滅したプレシオサウルス類も多様性は低下していない


火山活動の影響
デカントラップによる火山活動は、環境の悪化を引き起こしていた
これについて、プランクトンの化石が証拠となっている。
プランクトンのような小さな化石が、当時の気候について知る重要な手掛かりになるのだと書かれている


複合要因シナリオ
隕石衝突が恐竜絶滅を引き起こした「とどめ」だったのは間違いない
ただ、火山活動や多様性の低下なども要因になっていたのだろう、というのが「複合要因シナリオ」


恐竜は絶滅していない。絶滅を免れた恐竜は鳥類として新生代に繁栄をとげている
しかし、どのような理由で絶滅を免れたのかはあまりはっきりしない
というのも、白亜紀の鳥類の中には絶滅してしまったグループもいるから。
筆者は、くちばしの便利さが有利に働いたのではないかと述べている。


新生代の鳥類の各グループについても記載されている。