阿部和重『オーガ(ニ)ズム』

神町トリロジー完結編!
シンセミア』『ピストルズ』に続く、山形県神町を舞台にした三部作の最終章
さらに『ニッポニアニッポン』『グランド・フィナーレ』『ミステリアスセッティング』ともつながっている。
(なので以前は、神町サーガという呼び方をしていたが、トリロジーという言い方に今は変わっている)


なんと(?)主役は「阿部和重
テロリズム、インターネット、ロリコンといった現代的なトピックを散りばめつつ、物語の形式性をつよく意識した作品を多数発表している」*1作家の自宅に、突如、CIAのケース・オフィサーであるラリー・タイテルバウムが血まみれで家に転がり込んでくる。
おりしも、妻の「川上さん」は仕事である映画の撮影で家を留守にしており、阿部和重は息子の映記(3歳)の世話に追われていた。
ラリー・タイテルバウムは、神町に古くから住む謎の一族菖蒲家が、バラク・オバマ米大統領を狙った核テロを画策していると考えており、阿部和重は、「素人現地協力者」としてラリーとともに核テロを防ぐべく奔走させられることとなる。


分厚いわりに、さくさくと読み進んだ
台風でひきこもってる時に結構読めた、というのも大きいと思うが、それにしても思ったより早く読み終わったという感じがある
まあ、細かく読みこもうと思えば色々読めるかもしれないが、ざくざくと話を読み進めていくだけでも、面白く読める
シンセミア』『ピストルズ』読み直してから読もうかなと思ったのだが、その時間が惜しくて、結局過去作読み直しはせずに読んだ。
で、続きは続きなのだが、わりと過去2作とは雰囲気が違うし、読み直ししなくても案外どうにかなった


シンセミア』も『ピストルズ』も日米関係が一つのテーマになっているわけだが、それがまた違う形で、というかわりと露骨に出てきて回収されていった話だった

さくさくと読めたので、まあ感想もさくさく書けるかなと思ったのだが、そうは言っても前作『ピストルズ』をさらに上回るページ数なので、思い返してみると要素が膨大
基本的には、阿部和重とラリーのバディものなのだが、阿部和重は身体的にはいたって普通の46歳の中年男性であり、チームから孤立し負傷したラリーはなかなかに胡散臭く、その上、阿部和重は息子の映記のわがままに度々振り回されることとなり、ドタバタコメディ的な雰囲気も醸し出している


現実と虚構、ないしメタフィクションと語りという点でいうと、実はこの話は、72歳になった阿部和重の回想という形式をとっている
その上、『ピストルズ』に登場した菖蒲家に伝わるアヤメメソッドによる幻覚や、菖蒲リゾートで行われているアイソレーションタンクを使った明晰夢体験が、どこまで現実でどこから幻なのかを分からなくしている。
もっともそれは、登場人物たちの主観の上でわからなくなっているという話で、読者側からすれば一応分かる(あとで大体、どこが幻覚だったかは教えられる)
上で述べたドタバタ感が、読んでいて「こいつ、壮大な誤解をしているだけでは、あるいは騙されているだけでは?w」という感じをさせるのだが、実際その通りで、幻覚で騙されてた部分がそこそこある
そして、そもそもこの世界が、現実と虚構が入り混じった世界となっている。
無論、その筆頭は「阿部和重」だろう。
作中に登場する阿部和重は、『ニッポニアニッポン』と『ミステリアスセッティング』は書いている。だが、そのどちらもが実話をもとにしたフィクションであり、一方で『グランド・フィナーレ』や『シンセミア』『ピストルズ』への言及はなく、おそらく芥川賞もとっていない。
そして、2011年に起きた永田町直下地震(これの真相はスーツケース型核爆弾だったという設定の話が『ミステリアスセッティング』ということになっている)により、神町へと首都移転がなされている。
2014年、神町は急ピッチで進む開発によりその姿を変えていくところで、そこにオバマ大統領が来日の際に訪れる予定となっている
作中、オバマ大統領に関する多くの新聞記事(主にweb上に掲載された記事)が引用されており、これらはおそらく現実の(つまり我々読者の世界の)ニュースからの引用で、虚実が入り混じる
このオバマ大統領も、夜な夜なSiriと会話するのにのめりこんでいき、神町と菖蒲家の伝説を楽しんでいるというちょっとボンクラ感のあるキャラクター造形になっている


日米関係は、神町トリロジーではこれまでも描かれているが、ここでは、日本人の阿部和重アメリカ人のラリーとして描かれている
そもそも主人公の阿部和重が自分とラリーの関係において自分のことを「属国人」と称していたりする
さらになんと物語のラスト、2040年の日本はなんとアメリカ合衆国51番目の州となっている

追記(20191023)

読みながら気になってたんだけど、書き忘れていたこと
度々、ひらがなに開いている熟語があった
例えば「後半(こうはん)」とか
今、パッと思い出せるのがこれくらいなんだけど、これくらいの難しさの程度の漢字がいくつかひらがなになっていて、どういう基準で選ばれているのか分からない
(追記終わり)


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文學界が10月号の特集記事をweb上に掲載している
読み終わった後に読むととても面白い
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*1:Wikipediaからの引用だが、作中で繰り返し繰り返し出てくる。このフレーズ元々書いた人は一体誰なんだろうなー