『美術手帖2019年10月号』

特集「アーティストのための宇宙論

下記、特集部分のみの目次

巻頭座談会:宇宙×アートの問題系 木村大治×久保田晃弘×永松愛子
目[mé]がプレゼンする、宇宙アート計画!もしも宇宙空間で作品をつくるとしたら? 目×関根康人
宇宙を目指すアーティストたちの実践 トレヴァー・パグレン/ハリル・アルティンデレ/マイケル・ナジャー
アーティストのための宇宙入門 監修=磯部洋明 イラスト=いしいひろゆき
マンガ:The Space Potter 作画=寺本愛 原作=大竹竜平
宇宙科学研究機関とアートの協働 CERN(欧州素粒子物理学研究所)/NASA JPLNASAジェット推進研究所)
宇宙×デザインファイル
論考:さよなら宇宙人 かつてあれほど栄えていた「宇宙人」について 藤田直哉=文
論考:ロシア美術における宇宙 宇宙主義・不死・ユートピア 鴻野わか菜=文
コラム:「宇宙×芸術展」というミッションは続く 森山朋絵=文
論考:宇宙とアートの何が面白いのか 磯部洋明=文
BOOKガイド

美術手帖 2019年10月号

美術手帖 2019年10月号

巻頭座談会:宇宙×アートの問題系 木村大治×久保田晃弘×永松愛子

人類学者の木村、アーティスト・研究者の久保田、JAXA研究者の永松による座談会
まず、久保田が行っているARTSATプロジェクト、永松の宇宙放射線研究、木村の宇宙人類学についてそれぞれ自己紹介
まあ色々な話をしているのだけど、科学者のロジャー・マリーナという人と、アーティストのアーサー・ウッズという人による、宇宙芸術の7つないし9つのカテゴリ分けとか気になった

目[mé]がプレゼンする、宇宙アート計画!もしも宇宙空間で作品をつくるとしたら? 目×関根康人

「目」のアーティスト荒神、ディレクターの南川が、色々とアイデア出しして、宇宙生物学者の関根が「こうしたらできますねー」とか話してる企画
荒神の出す案が、地球の自転を止めるとか軌道を変えるとかヤバめの話ばかりするのが面白いw
あと、まさに2人と関根さんが話す中で出てきた奴として、宇宙空間に空気を詰めた袋を浮かべる→空気と真空は屈折率が違う→蜃気楼の原理で月が2つあるように見える、っていうの面白そうだなと思った

宇宙を目指すアーティストたちの実践 トレヴァー・パグレン/ハリル・アルティンデレ/マイケル・ナジャー

実際に行われている宇宙芸術
パグレンは、「オービタル・リフレクター」という作品を作っていて、キューブサットサイズで打ち上げて軌道上で30メートルの構造物になるというもので、太陽の光を反射して地上でも見えると
で、ファルコン9で実際に打ち上げられるところまでいったのだが、展開するにあたっては連邦通信委員会の承認が必要なところ、2019年1月のトランプ政権と議会との対立で米政府が閉鎖したタイミングで、連邦通信委員会の承認作業も中断。政府機能が復活した時には、オービタル・リフレクターの方の機能が止まっていたという結末だったらしい
そんなのやってたなんて全然知らんかった

アーティストのための宇宙入門 監修=磯部洋明 イラスト=いしいひろゆき

キーワード集

マンガ:The Space Potter 作画=寺本愛 原作=大竹竜平

近未来、民間宇宙航空会社に宇宙飛行士志望で入社した主人公が、惑星から採取された土壌を使って陶芸する仕事に割り当てられる話
結構面白い気がする

宇宙科学研究機関とアートの協働 CERN(欧州素粒子物理学研究所)/NASA JPLNASAジェット推進研究所)

CERNでは、アーティストが滞在して科学者・エンジニアで交流できるプログラムがあるとか
あと、映画祭も開催しているらしい


JPLには、ア―ト・デザインのスタジオがある、とか
2003年に、まだグラフィックデザイン専攻の学生だったダン・グッズが、JPLを訪れ、アーティスト・デザイナーとして働き始める
JPL内のデザイン事務所みたいな感じで、科学的概念や発見の視覚化とかそういうことをやっているらしい
3つ作品が紹介されていて、一つは、人工衛星の位置を示す音が鳴るという半ドーム状の作品
それから、道案内の標識なんだけど、回転しながら惑星や探査機の位置を示しているというもの
最後が、系外惑星観光のポスターで、これは見たことがあった!
exoplanets.nasa.gov

宇宙×デザインファイル

論考:さよなら宇宙人 かつてあれほど栄えていた「宇宙人」について 藤田直哉=文

大衆文化の中に見られる宇宙人表象が、何のメタファーだったのか

論考:ロシア美術における宇宙 宇宙主義・不死・ユートピア 鴻野わか菜=文

ロシア宇宙主義についての簡単な解説
ロシア・アヴァンギャルドへの影響(第3インターナショナル記念塔とか)
ソ連後期には、アンダーグラウンド美術で、ソ連のアンチテーゼとして宇宙のイメージが使われる
近年、宇宙主義の再評価が始まり、宇宙モチーフのアート作品が増えているらしく、この記事の後ろ半分はそういったロシア現代アート作品の紹介(市原の美術館でロシア現代アート展がやってるらしい)

コラム:「宇宙×芸術展」というミッションは続く 森山朋絵=文

論考:宇宙とアートの何が面白いのか 磯部洋明=文

筆者は、天文学・宇宙物理学が専門で、以前、京大の宇宙総合学研究ユニットにいた人なので、いまは京都市立芸術大学にいるらしい。磯部さん、お名前は宇宙関係でよく見かけてたけど、芸大の先生になってるとは知らんかった
「宇宙をテーマにしたアートって本当に面白いのか?」という話で、まあ結局陳腐だったり教育的すぎたりしないか、ということを主に書いている記事だけど、最後に本人が好きだという作品を3つ挙げている*1
1つは、野村仁の「アナレンマ」という写真作品
2つ目は、元バイオ系の科学者であったマイケル・ウィッテルによる、探査機の磁場データを元にしたドローイング
最後は、大正生まれの歌人、依田照彦による短歌

これらの作品に共通しているのは、私たちを取り囲むこの宇宙がどんなところなのか、それをより深く、より豊かに、そして身体的な実感を伴って受け止め味わうことを、科学と芸術の協働が可能にしてくれるということだ。(p.107)

この3作品の解説を読んで、鬼界彰夫『『哲学探究』とはいかなる書物か――理想と哲学』 - logical cypher scape2にもあった、科学の「理解」のことを思い出したりしていた。あるいは、見方を変えることの亜種としても捉えることができるかもしれない

BOOKガイド

種子島宇宙芸術祭2019

事物の退隠─ロバート・モリスの盲目性 沢山遼=文

特集以外の記事も読もうと思い、最近林洋子編『近現代の芸術史 造形編1 欧米のモダニズムとその後の運動』 - logical cypher scape2を読んだこともあって、これを読んでみたが、そもそもモリスについてよく知らないのであんまり分からなかった

*1:なお、上述した「オービタル・リフレクター」について、メッセージの陳腐さのほか問題点を指摘している