「宇宙倫理学研究会: 宇宙倫理学の現状と展望」

JAXA Repository / AIREX: 宇宙倫理学研究会: 宇宙倫理学の現状と展望
筆者は、呉羽真、伊勢田哲治、磯部洋明、稲葉振一郎、岡本慎平、神崎宣次、清水雄也、水谷雅彦、吉沢文武、


海外の研究と国内の研究がざっとまとめられていてよかった。宇宙倫理学と一言で言ってもいろいろなテーマがあるということがわかる(というか、そもそも「宇宙倫理学」という分野自体がまだちゃんとできているわけではないが)。
地球外生命体は道徳的配慮の対象になるかとかテラフォーミングの是非とかいったSFっぽい話から、衛星画像によるプライバシーの問題とかデュアルユースの問題といった実際にありそうな話や、宇宙開発や有人宇宙飛行する金を地球上の問題に振り向けた方がいいのでは、とか。
「人類存続の義務」が持ち出されることがあるけど、それが最優先されるかどうかは自明なことじゃないんじゃないかという話とか。
天体そのものに内在的価値があるのではないかとか。
宇宙における所有権とか
そもそも「宇宙空間」といった基礎的な概念でも意味が曖昧だったりするし、そもそもどんな問題があって、何が重要で何が重要でないかもよくわからないので、まずはそこんとこの整理が課題だってのでしめられてる

1.宇宙倫理学とは何か
2.国外の研究状況
3.国内の研究状況
4.宇宙倫理学の展望


この論文自体が、これまでの研究のまとめなので、それをさらにまとめるというのもなんなので、とりあえず項目やトピックを羅列するだけにとどめる。

1.宇宙倫理学とは何か

2.国外の研究状況

  • 『モニスト』誌の宇宙探査特集

1988年に組まれた特集「宇宙探査の哲学的諸問題」に掲載された論文の紹介

道徳的に配慮すべき対象の範囲について

    • ボニー・スタインボック「進歩と宇宙の価値」
    • アンソニー・グレインボッシュ「宇宙に基盤を置く弾道ミサイル防衛の倫理」
    • アーノルド・バリアント、サラ・フォウラー「デザインによるスペース――宇宙コミュニティのプランニングにおける美学的および道徳的諸問題」
    • アンソニー・ウェストン「認識論としての電波天文学――地球外知性の現代的探索についての哲学的反省」
    • デル・ラッチ「宇宙旅行と宗教への関係」
    • フレドリック・ヤング「宇宙における労使関係――地球外ビジネス倫理試論」
  • UNESCO報告書『宇宙政策の倫理』

UNESCOが1998年に設立した「宇宙空間の倫理に関するワーキング・グループ」の報告書
第2章
宇宙開発において懸念される倫理問題として以下の4点に集約
(1)宇宙における生命――宇宙に人間がいったり、ほかの天体からのサンプルリターン
(2)次元としての宇宙――宇宙空間に介入することそのものの問題(スペース・デブリなど)
(3)道具としての宇宙――人工衛星による情報通信や天候の予測など
(4)認識としての宇宙――宇宙開発に対する世論の動向
第3章
先進国と途上国の宇宙開発における格差、デュアルユース、デブリ、リスクコントロール人工衛星によるプライバシー侵害等

  • ジャック・アルヌー『イカロスの二度目のチャンス』

基礎的な情報や基本的な論点の呈示、関連する歴史的経緯などの情報
宇宙飛行士について
宇宙空間を利用した通信技術や位置情報技術
デュアルユース
デブリ
月面の所有権
地球外生命
テラフォーミング

  • 『スペース・ポリシー』誌の宇宙倫理特集

宇宙倫理学専門誌はまだ存在しない
宇宙政策の雑誌『スペース・ポリシー』の2014年に行った特集の紹介

    • アルヌー「探検者のコンプレックス」

Mars One計画批判等

    • ゴンサロ・ムネバー「宇宙探査と人類の存続」
    • ジェームズ・シュワルツ「科学探査優先」
    • リー・スミス「明白な複雑性」
  • トニー・ミリガン『月は誰のものでもない』

2015年刊行の倫理学専門家による研究書

    • 第1章 テラフォーミングは可能か
    • 第2章 天体改変の倫理
    • 第3章 旅行者と熱狂家
    • 第4章 板挟みの宇宙倫理
    • 第5章 人類延命の義務
    • 第6章 宇宙懐疑論
    • 第7章 地球外の資源採掘
    • 第8章 惑星保護

天体を保護すべき内在的価値とは

    • 第9章 あらゆる小さなものたち

地球外の微生物を配慮すべき内在的な価値とは

    • 第10章 世代宇宙船

世代宇宙船が作られるとして、宇宙船内で生まれ生涯を終える世代に対する倫理的問題

    • 第11章 地球外への播種
    • 第12章 われらの地球性

宇宙船地球号」と「地球性(地球人)」という比喩の違い

3.国内の研究状況

  • 概要
  • 個別研究1(磯部)

宇宙開発によって獲得された、地球を外から見る視点のポジティブな面とネガティブな面

  • 個別研究2(稲葉)

小惑星コロニーについて
グローバル化による人類の均質化に逆転する多様化→文化だけでなく身体的にも異なる人類が生まれる可能性が高い
そういう社会を望むか?
すでに、人体改造やヒューマノイドが実用化されていれば、宇宙植民に対しても積極的になるのではないか
ヒューマノイドは人間に対して比較優位を主張しうるのか

  • 個別研究3(神崎)

環境倫理学を拡張するものとしての宇宙倫理学

4.宇宙倫理学の展望

  • 宇宙倫理学研究会の概要
  • 宇宙倫理学研究会例会での議論内容
    • 「宇宙空間」という概念の曖昧さ
    • 何をもって「人類の存続」とみなすのか
    • 地球外生命体との接触について、「接触」とはどういう意味か
    • 「宇宙科学」と「宇宙開発」は区別されうるのか
    • 国家に属さない場所での「所有権」とは
    • 一般の人々や(宇宙コミュニティの)自然科学者の間では、人類存続の義務を当然視していたが、哲学者・倫理学者はそうではないのか
  • 宇宙倫理学研究会の今後の活動計画