エルサ・パンチローリ『哺乳類前史』(的場知之・訳)

単弓類の進化についてのポピュラー・サイエンス本。
タイトルの通り、哺乳類が哺乳類になる前の話で、古生代から中生代の話となっている。
哺乳類というと、中生代は恐竜に隠れた日陰者で、新生代から一気に世界を支配した、というイメージをもたれるが、実際にはそうではなくて、新生代よりも前からの長い歴史があり、また中生代においてもかなり多様性があったことが分かっている。
筆者は現役の古生物学者であり、現在の古生物研究の様子も細かく描写されている。古生物の研究というと、荒野で発掘するイメージが強いだろうし、本書でも発掘シーンに割かれているページ数は多いのだが、必ずしもそれだけではないということが本書の中では繰り返し主張されている。例えば、放射光施設で化石のスキャンを行うあたりなんかは、面白かった。
読み物として面白いなあと思いつつ、(英語圏のポピュラーサイエンス本にわりとよくあることだけど)教科書的に知識の整理をしようと思って読むとちょっと大変なところもある。


また筆者は、スコットランド出身の女性であり、同じくスコットランド出身の古生物学者であったり、あるいは女性の古生物学者であったりにわりと着目する内容になっていたりもする。
他にも、古生物学における「帝国主義」の問題なども度々指摘されている。
本書は、哺乳類が新生代になってようやく進化した生き物という過去のイメージと、古生物学研究は白人男性による荒野の発掘という過去のイメージとを、それぞれ払拭しようとしている本、だともいえるかもしれない。
ところで、アンドリュースのゴビ砂漠発掘の目的が、哺乳類だったのは知っていたけれど、オーウェンも結構哺乳類の研究していたり、コープとマーシュももとは哺乳類が専門だったり、アウストラロピテクス・ロブストスの発見で有名なロバート・ブルームが哺乳類の起源の研究でも有名だったりとか全然知らなかった。


読みやすくて面白い文章ではあるのだが、系統に関する図が一切なかったのは気にかかった。また、復元イラストもほぼないので、登場する古生物たちの姿はおおむね文章から思い浮かべるほかない(ただし、復元イラストは全くないわけではなく、章の扉に多少ある)。


的場知之訳の本を読むのは3冊目
ジョナサン・ロソス『生命の歴史は繰り返すのか?』(的場知之・訳) - logical cypher scape2
デイヴィッド・クォメン『生命の〈系統樹〉はからみあう』(的場知之・訳) - logical cypher scape2

第1章 霧とラグーンの島
第2章 カモノハシは原始的じゃない
第3章 頭にあいた穴ひとつ
第4章 最初の哺乳類時代
第5章 血気盛んなハンターたち
第6章 大災害
第7章 乳歯
第8章 デジタルな骨
第9章 中国発の大発見
第10章 反乱の時代
第11章 故郷への旅
エピローグ 小さきものたちの勝利

第1章 霧とラグーンの島

スコットランドのスカイ島での発掘シーンから始まる。
スティーブ・ブルサッテ『恐竜の世界史』 - logical cypher scape2にも出てきた、スカイ島のデュガルド・ロスという人物が、本書にも登場する。

第2章 カモノハシは原始的じゃない

現生の哺乳類は、有胎盤類、有袋類、単孔類に分類されるが、有袋類や単孔類は「原始的な哺乳類」と見なされることが多い。
有袋類や単孔類が歴史的にどのように扱われてきたかを見つつ、章タイトルにあるよう、「原始的」というわけでないことが論じられていく。


この章に登場するのは、古生物学史ではある意味お馴染みの面々で、バックランド、キュビエ、ジョフロワ、ライエル、オーウェン、コープ、マーシュ、オズボーンだ。
しかし、バックランドが、メガロサウルスを発見した地層から哺乳類も発見しているのは知らなかった。
バックランドが発見したのは、哺乳類の下顎で、キュビエはオポッサムのような有袋類とした。が、キュビエ的には、中生代に哺乳類がいたとは認められず、年代層序を誤ったのではないかと考えた。
オーウェンは、中生代には「下等」な哺乳類がいたにすぎないと考えた。なお、このオーウェンによる中生代の哺乳類観が、その後の一般的なイメージを規定することになる。
実際、オーウェンの時代にはまだ発見された哺乳類自体が少なかったが、コープとマーシュは恐竜だけでなく、多くの哺乳類も発見した。そもそも2人は哺乳類に関心があったらしい。
オズボーンは、中生代の哺乳類の分類に非常に苦慮した。中生代の哺乳類は、現生の哺乳類とは違うグループだということが分かってきた。こうして20世紀の半ばには、中生代の哺乳類が独自に進化し繁栄していたことが分かってきた。一般にはいまだオーウェン的な考えが主流だったが。


本章では、「高等」や「下等」という言葉遣いを批判する
カモノハシやハリモグラなどの単孔類は、哺乳類の祖先の形質も持っているが、独自に進化させた形質も持つ
また、「ミッシングリンク」という言葉もいまや無効であることが、本書の中では繰り返し言及される。それは、存在の階梯を前提にした言葉であって、進化論においては本来妥当しない。ただ、たびたび「ミッシングリンク」探しはされてきた。


ジュラ紀命名したのはフンボルト

第3章 頭にあいた穴ひとつ

第3章は、古生代石炭紀


四肢動物の上陸

  • 有羊膜類の誕生

胸式呼吸をするようになったことと植物食の実現

  • 単弓類と竜弓類の分岐

哺乳類は爬虫類から進化したわけではない*1
有羊膜類から、単弓類と獣弓類とに分岐する。
特徴は頭骨にある側頭窓が一つであること。ヒトだとこめかみのあたり。顎を動かす筋肉が入っている。
かつて、哺乳類型爬虫類という言い方があったが、これも間違い。
初期の哺乳類が爬虫類に似ていたわけではなくて、現生の爬虫類が初期有羊膜類に似ているのだ、と表現している。
初期の単弓類として、アサフェステラ、プロトクレプシドロプス、アルカエオティリス、エチネルペトンが紹介されている*2。カナダから発見されている。

第4章 最初の哺乳類時代

古生代ペルム紀
筆者がスコットランド・クラシャック採石場を訪れて、足跡化石を見るところから始まっている。ただし、クラシャックの話は、5章で再び出てくる。


ロデリック・マーチソン
スコットランド出身の地質学者でロシアのペルミ地方を探検しペルム紀命名した

  • 盤竜類

土屋健『前恐竜時代』 - logical cypher scape2では、盤竜類という分類名はなくなってしまっている旨説明がされていたが、本書では、引用符も特になく、普通に使われていた。
ディメトロドンやエダフォサウルスの神経棘の役割は一体何かということで諸説紹介されている。

  • コープの帆説

コープはご執心だったが、その向きで帆があっても進めないのでは、と

  • ローマーの体温調節説

これ、実際にどれくらいで体温があがるか計算した人がいて、体温調節説がもともと主張している程には早くならないらしい。また、神経棘の中に血管が通ってなくて、そもそも体温調節に使えない種もいる

  • ベイリーのこぶ説

らくだみたいな脂肪があって、それを支えていたのでは、という説。
いやでも、らくだはこんな棘ないじゃん、とも

  • レガの防御説

むき出しになってて防御に使ってた説。強度はあったらしいが……

  • コープのカモフラージュ説

コープはこっちの説も唱えていた

  • 性淘汰説

筆者はこの説を推しているっぽいが、とはいえ性的二型は確認されていないし、と

  • カセアサウルス類

植物食をするにあたって、腸内で微生物の力を借りるようになったはず
ここでは現生哺乳類が腸内で微生物を利用している方法について説明されている。

第5章 血気盛んなハンターたち

第4章に引き続き、古生代ペルム紀
第5章は獣弓類について

  • 獣弓類の特徴

異歯性
耳の形成
←顎の骨のうち歯骨が主となり、それ以外の骨が小さくなっていって、次第に耳小骨へと進化していくことになった
噛む力が強く
四肢が胴体の下へ


獣弓類として、「ビアルモスクス類」「恐頭類」「ゴルゴノプス類」「アノモドン類」「ディキノドン類」「キノドン類」が紹介されている。
土屋健『前恐竜時代』 - logical cypher scape2とも重複しつつ。

  • ビアルモスクス類
  • 恐頭類

モスコプス
エステメノスクス(頭のまわりがとげとげしていて、一度見たら忘れられない顔をしている。本書では、これに対してトリケラトプスを二番煎じ扱いしていてちょっと笑った)

  • ゴルゴノプス類とアノモドン類

まず、新生代の剣歯ネコについて紹介された後、ペルム紀にも犬歯が大型化した剣歯獣がいたとして、ゴルゴノプス類とアノモドン類が紹介される。
なお、剣歯ネコとしてはスミロドンが有名だが、それ以外にも複数のグループで同様の進化があったらしい。
ゴルゴノプスは一体どうやってかみついたのか。歯が折れることを気にしない。何度も生え変わった
アノモドン類のスミニアは、哺乳類系統で初の樹上生活者

  • ディキノドン類

前歯を喪失しくちばしを獲得
多様化

  • キノドン類

側頭窓の大型化、歯の完全な機能分化、顎後端部分の骨はさらに小型化など、獣弓類グループの変化がさらに加速したグループ

  • 内温性の獲得

糞化石から、一部の獣弓類に毛があったことが示唆される
鼻甲介=水分が失われるのを防ぐ、鼻の中の畝
においの検出に使われる嗅覚鼻甲介と、呼吸に使う呼吸鼻甲介がある。
嗅覚鼻甲介はほぼすべての単弓類にあるが、最初の呼吸鼻甲介はテロケファルス類とキノドン類にしか見つからない
骨組織学→骨の成長率と代謝に相関し、そして獣弓類は成長が早い
酸素同位体分析→キノドン類の代謝率上昇を裏付け
相関進行=温血性(やそのほかの特徴も)という形質は、一度の変化で獲得されたわけではなく、複数の変化が独立に起きて蓄積していったことで獲得された、という考え

第6章 大災害

ペルム紀末の大量絶滅と三畳紀初期
南アフリカでの発掘


ペルム紀の大量絶滅がどれだけ大量の種・グループが絶滅だったかの説明で、昆虫にとってはこれが唯一の大量絶滅だったとあって、昆虫すげーなと思った

  • 大量絶滅後の回復について

ディザスター動物群としてのディキノドン類リストロサウルス
ディザスター動物群というのは、大量絶滅後に支配的になった種のことだが、一方で、こうした動物群の天下は短い。
しばらくし爬虫類が台頭することになる(ただし、恐竜ではない)
ディキノドン類は次第に姿を消していくことになるが、その末期にあらわれたリソウィシアは、最大の単弓類であった。

第7章 乳歯

中生代三畳紀

  • キノドン類

硬口蓋を獲得
椎骨の部位ごとの変化
→哺乳類は、首の骨(頸椎)と腰の骨(腰椎)の違いは一目瞭然だが、例えば爬虫類は見た目で区別がつかない。盤竜類の頃から少しずつ違いが生じていた。
また、腰のあたりの肋骨がなくなっていくことで、「腰」ができる。身をひねることができるようになった。

  • ロバート・ブルーム

キノドン類の研究で知られる古生物学者。初期哺乳類の研究では外せない名前
スコットランド出身で、研究のため南アフリカへ移住した。
哺乳類の「ミッシングリンク」を探していた
オーウェンと文通をしていたことがある。また、オズボーンとは親友であった。
系統学により哺乳類の祖先にあたるグループが何であるかを調べ、キノドン類プロキノスクスを発見した。
ところで、ブルームは一般には人類についての研究で知られる。やはり人類の「ミッシングリンク」を探すため、晩年になってアウストラロピテクスの発掘研究を始めた。
自分もロバート・ブルームの名前はこっちで知っていたので、むしろ哺乳類研究の専門家だったと知って驚いた。
さて本書では、ブルームの「罪」にもスポットを当てている。
彼は古人類の研究をするにあたり、先住民の標本を集めていた。が、この先住民の標本という奴が、どのように集められたのかといった点が、闇。


三畳紀後期
初期の哺乳類で、体重数百グラムを超える種はいなかった

  • 夜行性

哺乳類以外の脊椎動物は4種類の錐体をもつが、哺乳類は2種類しかない(霊長類は例外的に色覚を再獲得した)。夜行性
眼窩の容積などから、夜行性自体は石炭紀からあったとされるが、三畳紀の夜行性への転換は画期的

  • 聴覚

小型化により顎関節の負荷が減り、顎の骨が耳の骨に

  • 二生歯性

乳歯から永久歯へ1回生え替わる二生歯性が成立
二生歯性があるということは、授乳していたということでもある
かみ合わせが正確になり、新たな食性の実験

カモノハシのような注入毒を持っていたのではないか

第8章 デジタルな骨

中生代三畳紀

  • シンクロトロンX線

欧州シンクロトロン放射光研究所の施設を使った研究について
古生物学では、CTスキャンによる研究が一般化しているが、さらに強力な装置として放射光施設も用いられているというのは知らなかった。
筆者が標本を調査するにあたり、研究室にあるCTスキャン装置では十分な精度でえられなかったので、シンクロトロン放射光研究所を訪ねることになった際のエピソードが描かれている。
中生代の哺乳類は、非常に小さかったので、この手のスキャンが必要になってくるようだ。


スカイ島
ウォルドとサヴェージによる発掘研究
彼らの発掘した標本のうち、十分な研究がされていなかったものを筆者が研究することになった。シンクロトロンⅹ線で分析している標本がそれ。


ウィリアム・ジョンソン・ソラス
連続断層撮影のアナログ版を開発した人。当時は、標本を薄片にする必要があった。


ひげと神経にはかかわりがあるので、頭骨の神経の通り道からひげの起源を探る
頭頂孔は、四肢動物にある孔だが、哺乳類系統では、ひげの出現とほぼ同時に消失している。同じ遺伝子がかかわっている

  • 乳の起源

皮膚の汗腺と皮脂腺が乳腺形成に関与
高い体温で卵の水分を保つ方法としての汗
→乾燥だけでなく感染からも保護するようになる
この皮膚分泌物を、子に与えるようになったのだと
単孔類は乳首を持たず、皮膚から分泌される乳を与える
乳を乳首から吸うには、硬口蓋と喉と舌の筋肉が必要
ジュラ紀後期の哺乳類で、舌骨を持つものが発見されている。

第9章 中国発の大発見

中生代ジュラ紀
筆者が中国の古脊椎動物・古人類学研究所を訪れたところから始まる。中国で発見された標本はなかなか見ることができない


哺乳類の歯の構造についての説明がされている。
本書ではここまでも何かと書かれていたが、哺乳類はとにかく歯が特徴的。多くの絶滅哺乳類が、歯によって種が同定されている。歯だけしか発見されていない種も多いが、種ごとに歯の形が違うのでそれで特定できる。
マイクロウェア分析
哺乳類の歯には、トリボスフェニックという構造がある
本章で扱われるドコドン類は、正確には、哺乳類ではなく哺乳形類で、このトリボスフェニック構造を持たないが、トリボスフェニックとは上下が逆転した(つまり同じくらい複雑な)構造の歯を持つ


ドコドン類は、もともとマーシュが発見
燕遼のドコドン類
内モンゴル自治区道虎溝集落から発見
上記のエピソードと同じ時に、筆者が、北京自然史博物館でこれらの標本を見た時のエピソードが書かれている

現生のモグラと呼ばれる動物は複数の系統が含まれている。共通するのはショベル型の手(収斂)
指骨の本数が減るという変異(短指症)で、新生代になってから登場したと思われていが、ドコフォソルは、それが中生代にも起きたことを示した

水かきの痕跡
体重が約800グラム

  • ハラミヤ類

ヴォラティコテリウム
史上初の滑空性哺乳類


スカイ島もジュラ紀でドコドン類の化石が発見されている
燕遼と違って三次元構造が維持されている点が、強味


生態形態学
→プログラミング、自動化、統計処理

  • 哺乳類

有袋類とそれに近縁の絶滅哺乳類を含むクレードを後獣類
胎盤類とそれに近縁の絶滅哺乳類を含むクレードを真獣類
二つをあわせて獣類と呼ぶ
現生の哺乳類は、単孔類を除くとすべて獣類

  • 耳の成立

下顎の骨は複数からなっているが、キノドン類の頃にはその大部分は歯骨となり、それ以外の骨は縮んで後方へ。そして、音を耳に伝達するようになった。キノドン類のMMEC
MMECが現生の哺乳類の耳(DMME)へ進化する
哺乳形類のドコドン類では、まだ顎に残っていた。これが耳の中に収まるようになる
現生の単孔類はDMMEをもつが、祖先種はもっていない
逆に、獣類より前に分岐した多丘歯類は、DMMEを持つ。
後獣類と真獣類の共通祖先もDMMEを持たない
2016年の研究で、DMMEは複数回進化したとされている。
最後に、外耳の進化についても触れられている。
耳介は集音のために有用だが、耳介で集音できるのはそもそも高周波の音らしい。そして、高周波の音も聞こえるようになったのは、小型化したため。
耳介はなかなか化石には残らないが、高周波の音も聞こえるような耳になって以降に、耳介もできただろうと考えられる。

第10章 反乱の時代

中生代白亜紀

  • トリティトロドン類

キノドン類の1グループ
オリゴキプス
三畳紀末から白亜紀前期までの長期にわたって存続したグループだが、古生物学者の中でもあまり知られていない
中生代の小型哺乳類がほとんど昆虫食だったのに対して、植物食に特化して繁栄した
歯の摩耗に対して、ベルトコンベア式に生え変わりすることで対応した
(なお、仕組みは違うが、現生の哺乳類でもゾウ、ジュゴンマナティ、一部のカンガルーが生え変わり式を採用している。なお、ゾウは生え変わり回数に限界があって、その限界を迎えると死ぬ)(歯の化石だけたくさん見つかるらしい)
つまり二生歯性ではなかったので授乳はしていなかったとみられる
植物食について、現生哺乳類で最大の成功をおさめているのが齧歯類
彼らは、前歯によって植物食に対応した

白亜紀被子植物が台頭する
恐竜をはじめとして多くの植物食者に影響をもたらした
トリティトロドン類から多丘歯類への交代
なお、ここで最後のトリティトロドン類の化石の産地として、石川県の白峰の名前が上がっている

  • ゾフィア・キエラン=ヤウォロウスカ

ポーランドの女性古生物学者
10代の頃から動物学と古生物学に魅せられたが、第二次世界大戦中は家族とともにレジスタンス活動を行った
戦後、ワルシャワの動物学博物館で働き始め、1960年代までにはワルシャワ古生物学研究所の所長にまでなった
そして、1962年から1971年にかけて、モンゴルとのゴビ砂漠合同調査を実施する
彼女は幼いころ、アンドリュースのゴビ砂漠探検のことをしってあこがれていた

  • モンゴル

アンドリュースによるゴビ砂漠調査で発見された哺乳類は、オーウェン以来の中生代哺乳類目録を完成させ、また進化の速度について研究して現代的総合に貢献した古生物学者ジョージ・シンプソンと、アンドリュースの調査隊メンバーであったグレゴリーにより研究された
白亜紀に真獣類がいることが判明した
また、後獣類の起源もアジアだった可能性が出てきたが、2018年になって、熱河生物群での新標本の発見により、これについては疑問符がつけられるようになった。後獣類の起源は現在も謎のまま。
なお、同じ時に熱河生物群で発見された種として、エオマイアがいる
一方、キエラン=ヤウォロウスカは、モンゴルで発見された哺乳類化石コレクションから、多丘歯類の研究を行う
多丘歯類は、獣類に含まれない哺乳類
白亜紀当時、獣類はまだ少なく、多丘歯類が繁栄を謳歌していた
キエラン=ヤウォロウスカは、ソラスの連続断層撮影装置を使って研究を行い、系統関係を明らかにした
多丘歯類は、森林、草原、乾燥地帯などに生息し、樹上性、穴居性などさまざまなニッチに広がり、大きいものではビーバーほどの大きさにもなった、多様性をもったグループであった

  • ゴビコノドン類

やはり獣類に属さない哺乳類
ここではまず超肉食性について説明されている
いわゆる肉食動物は、肉しか食べないわけではなく肉以外のものも食べる
対して、少なくとも4分の3以上は肉を食べているのが超肉食性動物
ティラノサウルス・レックスが有名だが、ヒトデやウーパールーパーも実は超肉
ネコとかも超肉
白亜紀では、ゴビコノドン類が、主に昆虫食のハンター
その中で最大級なものとして、2005年に中国遼寧省で発見されたのがレペノマム・ロボストゥス
胃の内容物が残っており、なんと恐竜(プシッタコサウルス)を食べていたことがわかった

  • 古生物学の不均衡

化石の発見地が北半球に偏っていて、南半球のことはあまりよくわかっていない
南半球は海が多いという理由もあるが、古生物学がそもそもヨーロッパから始まった学問であることもここではあげられている。
アマゾンなどは密林すぎてそもそも発掘しようがない
また、化石の多くはインフラ建設中に発見されることに触れ、政治的経済的に安定していないと、開発が行われない、発掘地までのアクセスがない、ということがあげられている
こうした「不均衡」の是正の例として、中国やモンゴルがあげられているほか、南米やマダガスカルでの最近の発見があげられている。ゴンドワナ獣類というグループが発見されはじめているが、まだ謎が多い。多丘歯類と近縁と考えられているが、ハラミヤ類と近縁という説もある
ここでは再び、キエラン=ヤウォロウスカにも触れられて、中国やモンゴルの研究者を育成したことなどが述べられている。また、彼女自身が、その功績に対して、科学史上十分な評価がされていない女性研究者の一人でもある。
なお、筆者はキエランの孫弟子にあたるようだ。
モンゴルの話でいうと、モンゴルで発見された化石の返還活動をすすめている、モンゴルのボロルツェツェグ・ミンジンという女性古生物学者についても触れられているが、こうした返還のもっとも有名な例として、ニコラス・ケイジが2007年に落札していたタルボサウルスがあげられている

なぜ、白亜紀になって被子植物が一気に広まったのか
2009年の葉に着目した研究が紹介されている
葉脈を増やして蒸散作用を促進したからというもの


白亜紀陸上革命の結果として、トリティトロドン類から多丘歯類への交代劇が起きたが、これを多丘歯類のほうが「すぐれていた」からと考えないようにすべきだ、と最後に釘が刺されている

第11章 故郷への旅

白亜紀末の大量絶滅と新生代


体サイズの進化パターンの研究
想定されるシナリオは3つ
1.ブラウン運動(つまり体サイズの進化はランダム)
2.方向性シナリオ(大きくなりつづける)
3.オルシュタイン・ウーレンベック・モデル(「最適値」の周辺におさまる)
哺乳類は、中生代においてオルシュタイン・ウーレンベック・モデルだが、白亜紀末の大量絶滅後ブラウン運動に変わる
体サイズを制限していた要因がなくなったから。
それは恐竜だろうと思われてきたが、近年の研究において、哺乳形類や、多丘歯類・ゴビコノドン類といった初期哺乳類が、獣類(現代の哺乳類)を抑制していたのではないか、とも


鳥類と哺乳類の類似点(小型、毛、昆虫食)


大量絶滅後の各グループ(多丘歯類、有袋類、単孔類、有胎盤類)の動向
直後の哺乳類は実はみんなよく似ていて、あまり区別がつかないため、よくわかっていないことが多いらしい


最後に、舞台は再びスコットランドに戻る
実はスコットランドは、古第三期に噴火があり、世界的には大量絶滅から回復していた時期であったが、回復が遅れたらしい。

エピローグ 小さきものたちの勝利

現代の人類による絶滅について

*1:両生類から進化したわけでもない

*2:こうした学名に対して、薬の名前みたいだとか、いやらしいスラングみたいだ、とかコメントを入れていて、まあ学名に対する親しみ(?)を持たせるために書いているのだろうけど、英語に慣れ親しんでいないので微妙によくわからないたとえだった