土屋健『前恐竜時代』

サブタイトルは失われた魅惑のペルム紀世界とある通り、ペルム紀を扱った本。
ペルム紀を単独で取り上げた本というのはとても珍しいだろう。
古生物といえば圧倒的に恐竜が人気の中心だろうが、その直前の時代にあたるペルム紀も面白いぞ、と古生物サイエンスライターである筆者が熱くプレゼンしている本である。

序章 忘れられた時代の物語

第1章 英雄たち

まずは、ペルム紀の代表的な古生物として、ディメトロドン、ディプロカウルス、エリオプス、イノストランケヴィアを紹介している

ペルム紀の前半を代表する単弓類
しかし、発見したのがあのコープで、また、ディメトロドンの帆が体温調節のためのものだったと示したのがあのローマーだった、というのを知らなかった。
体温調節したと考えられるのは、あの帆の中に血管が入っていたからだが、ディメトロドンの中には血管の跡が確認されていない種もいる。
ディメトロドンといえば帆だが、進化上重要なのは、そして名前の由来になった特徴は、異歯性

  • イノストランケヴィア

ペルム紀の後半を代表する単弓類
やはり異歯性の肉食動物で、長い犬歯と発達した門歯を持つ
3mというペルム紀最大級の大きさで、嗅覚も発達していた

  • エリオプス

ディメトロドンと同時代に生きたライバル
2~2.5mの両生類(の中の分椎類)

  • ディプロカウルス

特徴的な頭骨をもつ両生類(空椎類)
発見者はこれまたコープ
その頭部については、ブーメラン型の復元とフラップ型の復元がある

第2章 そこにいる「ペルム紀の古生物」

この章はちょっと面白い章で、玩具、フィギュア、マンガ、図鑑、はたまた公園の遊具などに登場しているペルム紀の古生物を紹介している。
上述したとおり、古生物といえば一般的には恐竜が想起されるし、それこそ玩具や公園の遊具で古生物モチーフの何かがあれば、普通は「恐竜だ」と思われていることだろう。
しかし、意外や意外、その中にペルム紀の古生物(つまり、恐竜ではない古生物)も結構いたりするのである、ということを紹介してる章
ペルム紀の古生物なんて知らないなーと思っている人も、案外と身の回りにいるかもしれませんよ、ということを示している。
ディメトロドンが圧倒的に多いが、ディプロカウルスも多少(例えばゾイドには、ディメトロドンモチーフと、ディプロカウルスモチーフのゾイドがそれぞれいるらしい)
あんまり普通の古生物の本にはこういう章はないと思うが、世間的にはマイナーな存在であるペルム紀をプレゼンするという趣旨によくかなっている章だと思う。


第3章 ペルム紀前半の世界―寒冷化の中で栄えたキテレツ動物たち

ペルム紀は、地質年代的にはさらに「シスウラリアン」「グアダルピアン」「ローピンジアン」に分けられるが、期間を均等に3等分しているわけではない。期間の長さという点では、シスウラリアンが「前半」、グアダルピアンとローピンジアンとあわせて「後半」となる。

  • カセア類

石炭紀後期に登場しローピンジアンまで存在していた単弓類の中の1グループ
その中からミクテロサウルス、カセア、コティロリンクス、エンナトサウルスが紹介されているが、カセア類の中の代表的存在はコティロリンクス。全長が3.7メートルありながら、頭部が20cmほどしかない
どうやって水を飲んでいたのかという問題があり、水中で生活していたのではないかと言われているが、近年、それへの反論も出ているとのこと

  • ユーペリコサウルス類

日本語で真盤竜類。
盤竜類なら聞いたことがあるが……と思ったら、今では、学術的な分類名ではなくなったしまったとのこと。
さて、このユーペリコサウルス類はさらにいくつかのグループに分けられる。
ヴァラノプス類、オフィアコドン類、エダフォサウルス類、スフェナコドン類、獣弓類である。
ヴァラノプス類は、2018年にユーペリコサウルス類ではなく双弓類ではないかという説が出てきているとのこと。発見されている化石が少ない。
オフィアコドン類も、半水棲か陸棲か議論が分かれているという
エダフォサウルス類は、ディメトロドン同様に帆をもつが、植物食で帆も熱交換機能はなかったと考えられる。エダフォサウルスの帆は、シカの角のようなディスプレイの役割を果たしていたのではないか説
スフェナコドン類は、ディメトロドンを含むグループ。帆のないディメトロドンのような見た目のスフェナコドンや、おそらく帆を持っていただろうと推測されているセコドントサウルスがいる。異歯性を持つ
最後に獣弓類であるが、シスウラリアン最末期に登場。テトラケラトプスという種で、50~60㎝くらいと推測されている。獣弓類は、ペルム紀後期にはいって、イノストランケヴィアを生み出す

  • 両生類

両生類からは、すでに紹介されたエリオプス、ディプロカウルスを除き、さらに4種が紹介されている。
ディアデクテス形類のディアデクテスとリムノスケリス。前者は植物食、後者は肉食。かつて爬虫類に分類されていたこともある。
さらに、分椎類から、カコプスとプラティヒストリクス。後者は帆がある。

  • 爬虫類

爬虫類は、側爬虫類と真爬虫類に分けられる。
側爬虫類として、水中生活に移行したメソサウルス類、二足歩行を始めた最古の四足動物ボロサウルス類のユウディバムス
真爬虫類としては、カプトリヌス類や、最古の双弓類であるアフェロサウルス
ペルム紀に繁栄したのは側爬虫類だったが中生代に入って消失。真爬虫類はグアダルピアン以降に多様性を増し、中生代以降は爬虫類の中心となる。現在、爬虫類といえば双弓類のことである。

  • 海棲動物

ヘリコプリオンについて
あの螺旋の歯を使ってアンモノイド類(アンモナイトの祖先)の殻から軟体部を引き出すことができた

第4章 ペルム紀後半の世界―温暖化の中で栄えた愛らしい動物たち

ペルム紀後半に入ると、獣弓類以外のユーペリコサウルス類(”盤竜類”*1)が衰退し、獣弓類が発展した。
ところでこの“盤竜類”から獣弓類への移行について、オルソンのギャップという説がある。
“盤竜類”はアメリカで発見され、獣弓類は多くはロシアと南アフリカで産出する。
これは地層の偏りによるものなのだが、地理的隔たりがあるため、“盤竜類”から獣弓類への移行がどうだったのか不明で、これをオルソンのギャップという。しかし、近年では、そのようなギャップはなく、スムースに移行したと見られるようになっている、と

  • ゴルゴノプス類

長い犬歯を持つ

  • 異歯類(ディキノドン類)

寸詰まりの頭部、進化的な種では口の中に歯はなく、口腔外に犬歯がある。
ディキノドン類は、異歯類の中のグループだが、ほぼ異歯類=ディキノドン類

  • テロケファルス類

毒を持つとされるユーシャンベルジアなど。ユーシャンベルジアは、1930年代から毒を持つのではないかといわれていたが、2017年にマイクロCTを用いた研究で、毒腺があったとみられる空間などが発見された

  • デイノケファルス類

頭部にヘラのような4つの突起と小さな角を持つエステメノスクスなど

  • キノドン類

のちに哺乳類が生まれくてくるグループ
この時代は、際立った特徴は持っていなかった

  • 側爬虫類

パレイアサウルス類

  • 真爬虫類

皮膜をもち、初めて空を飛んだ動物とされるウェイゲルティサウルスなど

  • 両生類

史上最大の両生類とされる、全長9mのプリオノスクスなど

すでに衰退期に入っていた三葉虫
ウミユリ類、腕足動物、二枚貝類のシカマイア

終章 夢の終わりがやってきた

ペルム紀末の大絶滅

*1:すでに述べたように学術的な分類名としては消滅したが、便利なので、便宜的に使われ続けているらしい。その場合、“”付きで表記される