ジョン・ヴァーリィ『さようなら、ロビンソン・クルーソー(〈八世界〉全短編2)

ジョン・ヴァーリィ『汝、コンピュータの夢(〈八世界〉全短編1)』 - logical cypher scapeに続く第2巻
第1巻は、1974年から1976年までに発表された7編、第2巻は、1976年から1980年までに発表された6編を収録。
全体的には、1巻の方が好きだったかも。
2巻の中で面白かったのは「ブラックホールロリポップ」、次いで「イークイノックスはいずこに」あたり
1巻と2巻あわせて一番面白かったのは、やはり「カンザスの幽霊」

びっくりハウス効果
さようなら、ロビンソン・クルーソー
ブラックホールロリポップ
イークイノックスはいずこに
選択の自由
ビートニク・バイユー

びっくりハウス効果

彗星の中をくりぬき、エンジンをとりつけた、豪華客船〈地獄の雪玉〉
サイエンティフィクション作家のクエスターは、その最後の航海に乗船することになったが、様子がおかしいことに気付く。
解体作業が予定より早く進んでいたり、乗務員が減っていたり。
次から次へとトラブルが起こるが、あまりにむちゃくちゃ次第にコメディめいてくる
最後、太陽をかすめとんで宇宙に放り出される

さようなら、ロビンソン・クルーソー

「ピリは二度目の幼年期を迎えていた」
冥王星の地下に作られた「ディズニーランド」
八世界ではディズニーランドとは、ウォルト・ディズニーのテーマパークのことではなく、地球の生態系を再現した観光地のことを指す。
南の島を模した環境で、ピリは自由気ままな生活を送っていた。人体改造で鰓呼吸ができるようになっていて、海を泳いで魚を捕ったり、そして夜は近くの村に住む人々とたき火を囲ってパーティをする。
そこにとある女性がやってきて、ピリの幼年期は終わりを迎える。
ピリは実際は100歳近い老人で、子どもの体に入って、10年の休暇を送っていたのだ。
この冥王星の地下のディズニーランドはまだ建設途中で、空が作りかけだったり、海をずっと向こうまでいくと、建設途中のエリアに出たりするようになっている。それがちょっと『トゥルーマンショー』みたいだなと思った。
トラブルが起こって大津波が起きるシーンなどがよい。
冥王星と地球との距離によって生じる時間差が、経済格差を生むという、八世界の経済に関する設定なども出てくる。
ピリの正体や、幼なじみの女の子、謎の女性それぞれとの関係とかは、ちょっとなんか都合のよさを感じてしまったけど

ブラックホールロリポップ

ホールハンターの話
この宇宙には、微小なブラックホールがあって、外宇宙でそれを捕まえているホールハンターがいる。無尽蔵なエネルギー原となるため、一度見つけると一生暮らせるくらいの金が得られるが、あまりにも確率が低いので事業化されず、個人のホールハンターしかいない。
ザンジアのもとに、ブラックホールだと名乗る通信が入ってくる。ザンジアは最初、ゾウイのいたずらと考えるのだ……。
ザンジアは、ゾウイが自分のクローンとして作った娘。
ゾウイは、一度ブラックホールを見つけたが、ホールハンターとしては非常に珍しく、その金で再び船を調達して二度、三度とブラックホール探しの旅に出ている。しかも、娘を連れて。
ホールハンターはできるかぎり遠くへ行く必要があり、そのために重量を減らす必要があり、それゆえ1人が基本。
ブラックホールはザンジアにこんな話をしはじめる。「クローン制限法」について。八世界には出産制限があり、その抜け穴としてクローンがあったが、それも規制され、同じ遺伝子を持てるのは1人だけと決められている、と。もし冥王星に帰ったら、ザンジアは処分されてしまう。
そもそもブラックホールが話すなんてことはあるのか、普通に考えればありえない話で、最後にトリック(?)が仕掛けられている

イークイノックスはいずこに

土星の〈環〉で生活する共生者(シンプ)の話
パラメーターとイークイノックスはシンプだ。シンプについては、1巻の「歌えや踊れ」で出てくる。
パラメーターは、もともと水星で生まれ、その後、ドラッグ、セックス、殺人、宗教様々なことをしたが、まだ行ったことない場所が〈環〉だったので、シンプになった。
シンプたちは、改革派と保守派にわかれて戦っていた。改革派は、いずれダイソン球を作ったり、超知性体と接触したりすることを目的に、〈環〉に色を塗っていた。
パラメーターは、どちらにも興味がなかったが、シンプになるときに保守派側にいた。
が、改革派につかまり、イークイノックスと分離させられてしまい、その際身ごもっていた5つ子も行方不明となる。
イークイノックスと5つ子を探すため、改革派へと潜り込む。

選択の自由

八世界シリーズの中で、最も古い時代の月が舞台。まだ、世界の価値観などが現代に近い。
性転換である〈変身〉の技術が普及し始めてはいるが、まだ一般化していない。
クレオは、働きながら3人の子どもを育てている。今まで何の不満もなく暮らしてきたが、次第に育児に協力しない夫に不満を覚えはじめる。
そして、クレオは〈変身〉をしてみることを衝動的に決意する。
妻が突然男になるとどうなるか、ということを描く物語

ビートニク・バイユー

八世界では、プロの子どもというのがいて、子どもたちの教育係を担っている。
プロの子どもというのは、中身は大人だけれど、体は子どもで、子供たちの情操教育などを担っている。
アーガスの先生にあたるキャセイは、ある時、キャセイに対して不条理な理由で詰め寄ってくる女性になじられる。彼女には同情すべき理由があったのだが、キャセイに何か非があったわけではない。警察沙汰にならないようにするため、キャセイは彼女に泥を投げつけてその場を離れさせる。
が、その後、彼女はキャセイを訴える。
月のセントラルコンピュータ(CC)は、アーガスを始め、月の住民1人1人にとってよき相談役であると同時に、彼らを裁く司法も担当している。アーガスは、CCが自分の味方であると同時に、自分に死刑を処すこともできる存在であることを実感する。
アーガスのもとには、新たに思春期の教師役にあたるトリルビーが現れる。


1巻に収録されていた「ピクニック・オン・ニアサイド」とか「逆光の夏」とか、「さようなら、ロビンソン・クルーソー」とか「ビートニク・バイユー」とか、少年時代の終わりみたいな話が結構あるような気がする。ここらへんの話は、SF的な設定や風景もあるんだけど、読後感があんまりSFっぽくない気がする。
「さようなら、ロビンソン・クルーソー」とか「ビートニク・バイユー」とかは、少年時代に輝いて見ていたものが、急に色褪せて見えるというところで終わっていて、なんともいえない寂しさがある。