伴名練「二〇〇〇一周目のジャンヌ」

『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー』所収の短編
このアンソロジー自体、読みたいなと思っているのだが、他に読みたい本が結構たまっていて、色々比較しているうちに優先順位を少し下げてしまった一方、本作だけ、web上で期間限定で読めるうちに読んでいたのでメモ


タイトルにあるとおり、ジャンヌ・ダルクについての話。
ただし、実在のジャンヌではなくシミュレーションのジャンヌである。
量子コンピュータが発達した未来、歴史学の手法として、歴史上の人物のシミュレーションを行うというものがあった。ただし、正義主義といわれる立場によるもので、立派とされる人物を何度も繰り返しシミュレーションすることで、倫理的に問題あるバージョンを発見し、こいつには問題があるぞ、と告発するために行われていた。
フランスでの国家主義の台頭に対して、そのシンボルとして用いられがちなジャンヌ・ダルクについて、実は敬虔な信者ではなかったバージョンのジャンヌを見つけ出して、そのイメージを貶めるためにシミュレーションが行われる。
ところが、その際、従来のシミュレーションと違ったのは、繰り返す度に記憶を引き継ぐという設定がされたことであった。
シミュレーション内のジャンヌは、火あぶりにあった後、火刑される当日の朝へ戻されるというループを経験させられることになる。
前述の設定は、様々な書籍からの引用という形で断片的に語られ、本作の大半の部分はこのジャンヌのループを描いている。
このループ自体を神の試練だと受け止めたジャンヌは、ループによって蓄積された記憶を用いて、火あぶりを免れ、イギリス王を倒すまでに至り、静かな余生を過ごすが、死ぬとまた火刑の日へと戻される。
まだ神の意志を達成できていないかと思い詰めたジャンヌは、その後、ループする度にフランスの版図を広げ続け、ついには世界統一をなしとげるのだが、それでもなおループしてしまう。
このシミュレーションを実施している側は、適当な時間シミュレーションを走らせたあと、自分たちの意図に沿う結果だけを抽出しようとしているので、ジャンヌが何を達成しようとも、ループ自体は止まらないのである。
このジャンヌのシミュレーションを行っていた正義主義グループの中に、実は、匿名で右派的な言論を行っていた者が紛れ込んでいて、そちらはそちらで、意に沿うようなジャンヌイメージを導き出そうとしていた。
最終的には、この右派側から紛れ込んでいた者のデータが流出するという形で、このジャンヌシミュレーションが衆目にさらされてしまい、終わりを迎える。


伴名練っぽい話だなあという感じだった。