『SFマガジン2022年2月号』

先日、ハヤカワSFコンテストと創元SF短編賞 - logical cypher scape2という記事で「坂永雄一や酉島伝法など、年刊SF傑作選などを通じてわりと読んでいてもう少し読みたいなあと思っている作家もいる。」と書いたのだが、そういえば、最近のSFマガジンに坂永雄一の短編が載っていたはず、と思い出して読んだ。
坂永というと、伴名練とともに京大SF研出身で、面白いけど寡作の作家という感じだが、そろそろ短編集とか出てもいいのではないか。
あと、最近だと「無脊椎動物の想像力と創造性について」の評判がよいが未読


坂永作品(Wikipedia調べ)と、そのうち自分の既読作品は以下の通り。
「さえずりの宇宙」未読
「ジャングルの物語、その他の物語」大森望編『NOVA+ 屍者たちの帝国』 - logical cypher scape2
無人の船で発見された手記」大森望・日下三蔵編『年刊日本SF傑作選 アステロイド・ツリーの彼方へ』 - logical cypher scape2
「大熊座」大森望・日下三蔵編『おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2
無脊椎動物の想像力と創造性について」未読
「移動遊園地の幽霊たち」未読

坂永雄一「〈不死なるレーニン〉の肖像を描いた女」

ソ連を舞台にした歴史改変SF
ロシア革命前、1913年のペテルブルクで芸術家たちが集う夜のカフェから物語は始まる。
近くで自動車事故が起き、カフェで芸術談義をしていた4人グループのうち一人の女性画家アナスタシア・エレアザロワが行方不明となる。
彼女の左目は、我々の知らないソ連を見る。
1915年に彼女が描いた絵には、未来のソ連が描かれていた。
テルミンがその天才を発揮し、ソ連無人偵察機などを開発、イランの共産化に成功
第3インターナショナル記念塔が実現し、南米アメリカ大陸に透明都市が造られ、全人民の意識は「世界共産党」というAIと接続、ガガーリンとライカは初の火星着陸を成し遂げる……。
ペテルブルクのカフェで彼女と語らっていた画家のフョードルは、1920年カスピ海上の巡洋艦で、1939年かつてのアルゼンチンにある都市275329で、不意に出現する彼女と再会し、そして彼女はまた不意に去っていく。
1948年のレニングラードテルミン博士は、音楽家アヴラーモフによる「サイレン交響楽」と人民の合唱を通じて、レーニンを復活させる。
1958年、〈不死なるレーニン〉は火星に到達
3491年、かつてペテルブルクがあった場所、人類はいなくなった地球にも彼女が現れる。1500年前に〈不死なるレーニン〉はダイソン球を完成させ、全人類は意識のアップロードをはたしていた。彼女だけは機械化した肉体を持ち続け、そして物語は1913年のペテルブルクへと舞い戻る。


途中で、アレクサンドル・ボグダーノフの署名が入った、彼女のカルテが引用される。
ところで、ボグダーノフってどういう人だっけとWikipedia見たら以下の記述を見つけてびっくりした。

1908年に、火星を舞台としたユートピア小説『赤い星』を出版。
(中略)
『赤い星』は、キム・スタンリー・ロビンソンのネビュラ賞受賞作『レッド・マーズ』の発想源の一つであった。登場人物のアルカディは姓をボグダノフといい、設定上のボグダーノフの子孫ということになっている
アレクサンドル・ボグダーノフ - Wikipedia

キム・スタンリー・ロビンスン『レッド・マーズ』上下 - logical cypher scape2


参考文献として、ロシア・アヴァンギャルド関係の本が並んでいる。また、ザミャーチンの『われら』があるが、これは、作中に出てきた透明の都市の元ネタらしい。


ところで、坂永雄一の好きなロシア・アヴァンギャルドの画家はフィローノフらしい
知らない画家だったが、ググってみると、なんかよさそうだった。

天沢時生「ショッピング・エクスプロージョン」

これもあわせて読んだ。。SFマガジン初掲載らしい。
そういえば、以前も大森望・日下三蔵編『おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2で坂永、天沢を読んでいるな
近未来のLAで、貪鬼(パンサー)に憧れる少年ハービーが、マーケットでヤバいブツを見つけたことで、伝説的存在であるキャノンボールことセロニアスと出会い、共に「お宝」を目指すことになる話
ストーリーや登場人物の性格などはすごく真っ直ぐで、読後感もさっぱりしているが、この作品の特徴はその世界観と文体にある。
安売りの殿堂「サンチョ・パンサ」は、自然増殖する〈自生品〉により世界の救世主となったが、社長の死後、その権限委譲がなされなかったことにより店舗を暴走的に自動拡張しはじめ、世界の各所が呑み込まれていった。世界中の資源がサンチョ・パンサの拡張に使われ、貧困が拡大する一方、不用意に店内に踏み込むと、鋼鉄店員に万引き犯として認識されて攻撃される。貪鬼(パンサー)は、果敢にサンチョ・パンサ店内へと入り込み、商品をせしめてくる者たちである。
さて、この「サンチョ・パンサ」社長であるコモミ・ワタナベは、死の間際にこう言い残した、「探せ。当店のすべてをそこに置いてきた」と。「サンチョ・パンサ」の店内のどこかに「ひとつなぎの秘宝」が隠されているのだ。
サンチョ・パンサとはもちろん、ディスカウント・ショップ「ドン・キホーテ」のことで、「サ」のマークをつけたペンギンのマスコットもいる。上述したワンピースネタ以外にも、様々な作品からの引用を織り交ぜつつ、ルビを大量に織り交ぜたサイバーパンク文体で語られる。
ルビネタで好きなの「風流(ドープ)」
ハービーは、トランスフォーマーのフィギュアを手に入れたら、その中に謎のチップがあって、それを売ろうと思ったら、思った以上にとんでもないブツだったらしく、セロニアスが買い手に現われる。
売り渡す前に自分でも確認してみようと首筋にあるスロットに接続してみたところ、なんとそれは、サンチョ・パンサ店内の詳細なマップで、社長IDの場所を示していた。がしかし、サンチョ・パンサはリアルタイムで拡張を続けており、そのマップも巨大化していく。ハービーの電脳はあっという間に容量オーバーでショートする。
セロニアスが応急処置を施し、一命を取り留めるが、スロットが溶けてしまい、少年とマップが事実上一体化してしまう。生ける宝の地図と化したハービーとセロニアスは、即席でバディ関係となり、サンチョ・パンサ店内への突入を試みることになる。



あと、読んでないけど、連載に空の園丁があり、いや以前から始まったのは知っていたけれど、改めて見て、ちょっとテンション上がった。早く本になったの読みたいなー