冲方丁『マルドゥック・アノニマス8』

毎年恒例、アノニマスの新刊
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前回、7巻の感想でこんなことを書いている

「これ一体いつ終わるんだろう」という一抹の不安が浮かびつつも、年に1回ペースで読めるならまあいいかとも思ったり。

まあ、今回も似たようなことを思いつつ、長期連載作品厳しいなあとも思い始めた。
第8巻は、主にマルセル島を舞台に、ハンターグループとマクスウェルグループの抗争を描いている。既に登場したキャラクターだけでも膨大な人数になるこのシリーズだが、さらに新キャラクターが続出する。というか、どこからが新キャラクターでどこまで既刊で登場済みのキャラクターなのかも、もう全然分からない。
で、描かれる個々のバトルや個々のキャラクターの背景などは十分面白いことは面白いのだけど、この巻、バロットの登場シーンが少なくて、どうしても「主人公マダー」となってしまう。
マルドゥック・アノニマスという物語の全体の中でこのマルセル島抗争が一体どういう位置づけなのか、脇筋を延々読まされているのではないのか、という疑念が浮かんで「うーん」となってしまった。
この巻を読み終わってみると、まあ、マルセル島抗争の位置づけ自体は分かることは分かるんだけれども、この長さをかける必要あったの、みたいな気持ちはやはりある。
まあ、この巻、引きがいいので、「続きが気になるぞぉ」ってなって、読んだ後の印象はいいんだけど。



ハンターグループに反旗を翻したマクスウェルと「Mの子どもたち」、そして彼らへと寝返ったいくつかのグループ。ハンターは、自グループを総動員してマクスウェルらへのカチコミをかける。
マクスウェルもシザースなので、ハンターによるシザース狩りでもあるのだが、例えばハンター配下の〈シャドウズ〉にとっては、ゴールド兄弟という薬物調合者や〈ウォッチャーズ〉が裏切ったことに対する落とし前という面があった。
しかし、ハンターの主目的はマクスウェルではない。同じくマルセル島に根拠地を持ち、シザースの一員でもあるフリート議員であった。
マルセル島抗争のさなか、ハンターグループの中でも勢力図の再編が起こり始める。
〈シャドウズ〉は、ジェイクなど数人を除いて壊滅
一方、ショーン(ルーンの兄)とプッティ(カトル・カールの生き残り)からなる〈白い要塞〉は、〈マリーン・ブラインダーズ〉と組むようになる
ホスピタルなど、後方支援要員からなる〈ガーディアンズ〉が、評議会内での地位への野心を少しずつ浮かび上がらせ、〈戦魔女〉はその動きを警戒しはじめる。
また、バジルと二重能力者になったシルヴィアとの関係が深まり始まる。


全体的にマルセル島の抗争を中心に展開するが、時々、時系列としてはマルセル島抗争終了後におけるルーン・バロット視点のエピソードが挿入される。
薬害訴訟に取り組むイースターズ・オフィス側は、当初、マルセル島抗争についてはあまり関心を向けていなかった。
抗争終了後、ハンターがフリート議員の後継者として、市議会議員選挙へ立候補する。この突然の後継者指名は、マルセル島抗争が何らかの関係があるのだろうと推測されたが、それ以上の関わりはしなかった。
しかし、突然、抗争の生き残りであるジェイク・オウルから証人保護プログラムの要請が、ルーン・バロットを指名してオフィスに入ってくる。
ジェイクを介したハンターの思惑が分からぬままにその要請を引き受けるイースターとバロットだったが、実はそれは、薬害訴訟への大きな攻撃であった。
そして、7巻で度々挿入されてきた「誰かの葬式」の誰かが判明する。おお、このための、バジルシルヴィアカプであったか。