矢代梓『年表で読む二十世紀思想史』

1883年~1995年までの、欧米の哲学・思想・文学・芸術を編年体で綴った本。
「世紀転換期・戦間期について読む(哲学思想篇)*1」の一環として手に取った本なのだが、タイトルと目次(あとはAmazonの該当ページとか)だけ見て図書館で予約した本なので、実際に図書館で受け取るまで一体どういう本なのかあまりよく分かっていなかった。
「「年表で読む」とあるけれど、一体どういうことだ? まさか、本が丸ごと年表ということはないだろうし、章ごとに年表があってそれに解説がついている感じか」などと想像していたのだが、そのまさかであった。

こんな感じで年ごとの記載で本が1冊成り立っている。
内容も概ね事実の羅列であって、著者による解説などは最低限におさえられている。本を通してのストーリーはないので、完全に要約を拒むような本である。
ただ、端的にその年にあった事実だけが記載されているわけではない。
例えば、○○年に「××が『~~』を刊行する」とかだったりした場合に、その××や~~に関連する事柄についてもあわせて解説されている感じになっている。
その意味ではやはり「思想史年表」ではなくて「年表で読む思想史」なのである。
あと、上の画像がまさにそうだが、どの年にどの出来事を配置するのかのコントロールが結構なされている感じがする。
シュペングラー『西洋の没落』の話を同書の刊行年ではなく、第二次モロッコ事件の年にしている。これは極端な例ではあるが、取捨選択・編集がなされていて、そのあたり、この「年表」を単なる事実の羅列ではなく読み物にしているのだと思う。
最近、20世紀前半くらいのことについて集中的に読んできたので、その意味では、色々ととっかかりがあって、読んでいて面白いし、「これはまだ知らない奴だな」とかもある。
あと、日本の出来事(著作や翻訳の刊行など)も記載されていて、明治の追い上げ(?)がすごいな、と思う。


ところで、あとがきから読んだのだが、筆者について全然知らなかったので驚きながら読んでいた。
筆者である矢代梓こと笠井雅洋は1999年に急逝しており、本書はその死を受けて出版されることになったもので、あとがきは妻によって書かれている。
それで全然知らなかったというのは、この方が、笠井潔の兄だったというところ。
中央公論社の編集者をしつつ、研究・執筆活動を行っていたとのこと。
兄弟で文筆家・思想家だったのかー、と。
で、この年表は、そもそも講談社の『現代思想冒険者たち』の付録のために作成されていたものだったらしい(なので『現代思想冒険者たち』で取り上げられている思想家は太字で強調されている)。
あ、あと、謝辞に青柳いずみこの名前が挙げられていて、こんなところにつながりが、ともなった。
青柳いずみこ『パリの音楽サロン――ベルエポックから狂乱の時代まで』 - logical cypher scape2

笠井「二十世紀思想史年表」のおもしろさ(今村仁司

本人の人となりと、この年表を解釈することについて


以下、年表に記載している項目を拾ってみた。
明示的に立項されているわけではないので、まあこのあたりだろうというのを切り出した
この本の読みどころは、項目ではなくむしろ内容の方にあり、この雑誌に誰と誰が一緒に寄稿しててとかが面白いと思うのだが、そういうのをまとめるのは大変すぎるので省略
ただ、項目の取捨選択にもこの本の面白さ(読み解きの対象)はあると思う。
最初と最後を除き10年ごとに一応章分けされているので、以下も章の区切りにあわせて感想・メモなど。

1883‐1900 ワグナー、マルクスの死と世紀末パリ

1883 ワグナー没、マルクス
ルイス・キャロルソサエティー・フォー・サイキカル・リサーチ加入
ゾラ「ルーゴン・マッカール叢書」11巻刊行
1884 ユイスマンス『さかしま』刊行
1885 キャバレー「黒猫」ラヴァル街に移る サティとドビュッシーが出会った店
ウォルター・ペーター、ケンジントンへ転居
フロイト、パリへ留学
1886 クローデルランボーを読む。翌年、マラルメの「火曜会」に
ジャン・モレアス「サンボリスム宣言」
1887 アンドレ・アントワーヌ「自由劇場」創設
1888 シュタイナーがグリーンシュタイドルのエクシュタインと知り合う
アーツ・アンド・クラフツ展協会の第一回博覧会
1889 ニーチェ昏倒
パリ万博
1890 ヴォラール、画商の店を開く
1891 ホフマンスタール、バールに出会う
タデ・ナタンソン『ラ・ルビュ・ブランシュ』創刊
1892 「薔薇十字の展覧会」
ムンク のちにベルリン分離派が生まれるきっかけ
1893 シカゴ万博 建築家ルイス・サリヴァンが斬新なプランを提出するが拒まれる。サリヴァンの弟子にはフランク・ロイド・ライトがいる。
1894 ビアズリー『ザ・イエロー・ブック』創刊
ドレフュス事件
1895 マッハ、ウィーン大学に招聘される ムージルブロッホへの言及あり
ベルリンで『パン』創刊
1896 『ユーゲント』『ジンプリツィシムス』創刊 前者はユーゲントシュティールの名前の由来となった雑誌。後者はマンが校正係をしていた。
1897 デュルケム『自殺論』刊行
1898 トリノで美術博
ウィーン分離派館建築開始。『聖なる春』刊行 翌年にはカール・クラウス『炬火』創刊
1899 『インゼル』刊行
1900 パリ万博/パリでメトロ開通

いきなり、ルイス・キャロルソサエティー・フォー・サイキカル・リサーチ加入、というのがあって一体何、となるのだが、本年表は神秘思想の系譜も追っているようなので、その1つかなと思われる。
1885年のウォルター・ペーターとか全く知らない人なのだが、彼のケンジントンの家にオスカー・ワイルドとかが集まっていたらしい(本書には言及なかったがWikipediaによればヘンリー・ジェームズも)。この同じ1885年に、キャバレー「黒猫」が並んでいて、文化人が集った場所について、ということでここにまとめたのかな、と思われる。
1891年の項目には、バールが、自作の批評を書いたホフマンスタールのことを老人と思っていたら、いざ会ってみたら17歳の青年だったエピソードがあるが、これは木田元『マッハとニーチェ―世紀転換期思想史』 - logical cypher scape2にも載っていた。

1901‐10 キャバレーとロシア・バレエの華

1901 ベルリンで「多彩劇場」(超寄席)開設
ミュンヘンでキャバレー「金鹿亭」開店
ベルリン郊外で「ワンダーフォーゲル」発足
1902 ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙』
1903 オットー・ヴァイニンガー自殺
ウィーン工房設立
1904 ロシア・サンボリズムの詩人ベールイとブロークの出会い
1905 フッサール、研究会ではじめて「現象学的還元」について話す
1906 ヘッケル「一元論者同盟」結成 エネルギー一元論者のオストヴァルトはドイツ工作連盟とも関わりがあった。
1907 ドイツ工作連盟設立
1908 『新フランス評論』刊行 2号にジッド「狭き門」掲載。1910年出版部門設立、ガリマール書店の始まり。
1909 マリネッティ「未来主義宣言」発表
バレエ・リュスのパリ・デビュー
1910 マックス・ヴェーバーハイデルベルクへ転居
モスクワで「ダイヤのジャック」展

19世紀から1910年代くらいまでは、ウィーンの話題が多いなあという印象がある。
ヘッケルの一元論者同盟とか気になる。オストヴァルトは化学者で染料の関係でドイツ工作連盟と関わりがあったようなのだけど、Wikipedia見ると色彩の規格化に関わっていたっぽいな。面白そうな人だな。
『新フランス評論』は桜井哲夫『戦争の世紀 第一次世界大戦と精神の危機』 - logical cypher scape2にちらっと出てきたな。
ガリマール書店は、この年表で今後度々出てくる。

1911‐20 第一次世界大戦期の文化人たち

1911 第二次モロッコ事件によりシュペングラーは『西欧の没落』の構想をえる
1912 ロシアで「アクメイズム」「ロシア未来派」始まる
エズラ・パウンドがT.E.ヒュームの詩を『ニューエイジ』誌で紹介
マヤコフスキーラフマニノフ「死の鳥」コンサート出席
青騎士』公刊
カフカ、ブロートの家でフェリーツェ・バウアーと知り合う
1913 ベルクソン、心霊研究協会で講演
ワンダーフォーゲル最後の大集会
失われた時を求めて』第一部『スワンの恋』刊行(自費出版)(その後、ガリマール書店から刊行 )
1914 第一次世界大戦勃発
1915 毒ガス使用、ルシタニア号事件
1916 チューリッヒにてキャバレー「ヴォルテール」開店
ジンメル、シュトラースブルク大学赴任
ソシュール『一般言語学講義』刊行
1917 『パラード』初演
ディーデリヒスによる知識人の大規模な集会開催
パレート『一般社会学概論』刊行
1918 マヤコフスキー『ミステリヤ・ブッフ』初演
1919 自由ユダヤ学院設立、ブーバー、シュトラウスの招聘
クルト・ピントゥス『人類の薄明』刊行
1920 デューイ『哲学の改造』刊行
バウハウスの夕べ」開催

1911年の第二次モロッコ事件で始めつつ、内容はほとんどシュペングラーの『西洋の没落』とその影響の話だったりする。
1913年に出てくる心霊研究協会は1882年設立、1883年にキャロルが加入している奴だな。ジョン・ラスキン(1900年没)も会員だったらしい。っていうか、ラスキンって1900年まで生きてたのか。
ワンダーフォーゲル」というの、単に山岳部のカタカナ語名というくらいの認識しなかったが、こう戦前ドイツの青年運動の1つとして特筆されるものだったんだな
パレートってパレート最適しか知らないなあ思ったら、本書でも、今ではパレート最適にしか名前を残していないが近年再評価が進んでいる、と書かれていた。
『人類の薄明』は詩のアンソロジーなんだけど、この時期、『西洋の没落』と本書がよく読まれていた、というのがこの時代の雰囲気をあらわしているとかなんとか

1921‐30 アール・デコ時代の到来

1921 ヤコブソン「最も新しいロシアの詩」発表
1922 ジョイスユリシーズ』、パリのシェイクスピア・アンド・カンパニー書店から刊行
エリオット「荒地」発表
ドイツ・イルメナウにて「第一回マルクス主義研究週間」開催 ルカーチや福本和夫参加
1923 ルカーチ『歴史と階級意識』刊行
1924 ハンナ・アレントマールブルク大学へ進学
フランスで急進社会党政府成立
マン『魔の山』刊行
1925 パリ「現代装飾・工業美術国際展覧会」開催 アール・デコ、シャネルの5番、ジョセフィン・ベーカー
1926 アラゴン『パリの農夫』刊行
1927 ベンヤミンのパリ滞在
1928 ブラウアーの講演「数学・科学・言語」 ウィトゲンシュタインが参加
1929 第一回国際スラヴィスト会議開催 プラハ言語学
ホワイトヘッド『過程と実在』刊行
1930 ケーニヒスベルク数学基礎論に関する国際数学者会議

1931‐40 現象学人気、そしてトロツキー暗殺

1931 ホルクハイマー、フランクフルト社会研究所所長就任
1932 サルトルフッサール現象学に興味を覚える
1933 コジェーヴヘーゲル哲学講義
ドイツ、ユダヤ系公務員に対する休職を強制する法律施行
第一回エラノス会議開催
ヴァールブルク文庫、ロンドンへ移転
1934 ミード『精神・自我・社会』刊行
1935 レヴィ=ストロースサンパウロ大学へ赴任
1936 ハイデガー、ローマで講演
ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』刊行
1937 退廃美術展
パリにて社会学研究会最初の会合開催
1938 ハウスホーファー『太平洋地政学』刊行
ラウシュニング『ヒトラーは語る』刊行
1939 トルベツコイ『音韻論の原理』刊行
映画『風と共に去りぬ』封切
1940 メイエルホリド銃殺刑/トロツキー暗殺

1932年のサルトルの話、有名な、カクテルについて語れるんだよのエピソードが出てくるんのだけど、これってサルトル現象学について教えた友人のセリフだったか。
1933年のコジェーヴヘーゲル講義については、今村の解説でも触れられていたが、のちのフランス現代思想を担う錚々たるメンバーが受講していた、と。コジェーヴの解釈を通じてヘーゲルを受容しているのだ、と。
あと、ブルトンも受講している。ブルトンヘーゲルといえば桜井哲夫『戦争の世紀 第一次世界大戦と精神の危機』 - logical cypher scape2で、ブルトンがルフェーブルと初めて会ったとき、ヘーゲルを読め的なことを言っていたエピソードが載っていたが、それは20年代のことだから、コジェーヴ講義より前か。
それから同じく1933年のユダヤ系公務員に対する云々は、ドイツの知識人がアメリカへ流出したという話。
エラノス会議はカール・ユングが講演したりしていた、宗教学、心理学、神秘思想系の奴
で、さらに同じ年に、ヴァールブルク文庫のロンドン移転もある、と。
こうやって並べられると、1933年は画期となる年だな、と思えてくる。
1936年のハイデガーのは、ユダヤ人の弟子に、ナチスへの傾倒を臆面もなく語ってしまうエピソード
1990年代後半に書かれていたこの本で、地政学についても目配りされているのは興味深い。
1930年代は全体としてナチスの台頭に関する項目が多く並ぶ中、そのオチ(?)としてメイエルホリドの銃殺とトロツキーの暗殺を持ってきているところが、またすごい。


1941‐50 第二次世界大戦を生きのびた知

1941 フロム『自由からの逃走』刊行
1942 シカゴ大学核分裂の連鎖反応の実験に初成功 (翌年「マンハッタン計画」開始 )
1943 サルトル存在と無ガリマール書店から刊行
1944 カール・ポランニー『大転換』刊行
1945 メルロ=ポンティ『知覚の現象学ガリマール書店から刊行
ポパー『開かれた世界とその敵』刊行
1946 アウエルバッハ『ミメーシス』刊行
マイネッケ『ドイツの悲劇』刊行
1947 アドルノ、ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』刊行(再版1968年)
クラカウアー『カリガリからヒトラーへ』刊行
1948 シャノン『通信(コミュニケーション)の数学的理論』刊行(後年、サイバネティクス会議 )
1949 ブローデル『フェリペ二世時代の地中海と地中海世界』刊行 ( アナール学派
1950 ピアジェ『発生的認識論序説』刊行

カール・ポランニーって名前は聞いたことあるけどよく知らなくて、その上、マイケル・ポランニーと混同する。カールが兄でマイケルが弟なのか(本書にはマイケル・ポランニーなし)。『大転換』はウォーラーステインに影響を与えたとか。
『開かれた世界とその敵』って1945年かー
アウエルバッハ『ミメーシス』は、ホメロスからウルフまで扱っているというのだからすごい。
啓蒙の弁証法』と『カリガリからヒトラーへ』って同年なのか。この本については最近地方映画史研究のための方法論(28)大衆文化としての映画②——ジークフリート・クラカウアー『カリガリからヒトラーへ』|佐々木友輔を読んだ。
啓蒙の弁証法』は筆者が再版の許可を出してなかったらしい。この本の知名度のことを考えると、ある時期、ある意味で幻の本と化していたのはちょっと不思議だ
アナール学派も名前しか知らん奴だ……

1951‐60 アメリ社会学の隆盛

1951 クワイン「経験主義の二つのドグマ」発表
パーソンズ『社会体系論』刊行 前年、リースマン『孤独な群衆』刊行
1952 ベケットゴドーを待ちながら』初演
ローゼンバーグ「アメリカのアクション・ペインターズ」発表
1953 クリックとワトソンDNAの二重らせん構造発見論文掲載
1954 エルンスト・ブロッホ『希望の原理』刊行
1955 フーコースウェーデン・ウプサラへ赴任
メルロ=ポンティに対する批判集会
レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』刊行
1956 オズボーン『怒りをこめてふりかえれ』初演 アングリーヤングメン
ギンズバーグ『吠える』発表 ビート・ジェネレーション
ビュートル『時間割』刊行 ヌーヴォー・ロマン
フルシチョフスターリン批判
1957 ノーマン・コーン『千年王国の追求』刊行 神秘主義思想再評価
チョムスキー『統語構造』刊行
1958 ノイマン『電子計算機と頭脳』刊行 ノイマンとウィーナーが比較されている。
1959 ミルズ『社会学的想像力』刊行
1960 『テル・ケル』第一号スイユ書店から刊行

章のタイトル(これ筆者がつけたものなのな刊行にあたって誰かが便宜的につけたものなのか分からんが)が「アメリ社会学の隆盛」で、クワインパーソンズから始まるので、確かにアメリカの時代始まったなーという感じだけど、10年通して見れば、アメリカ以外の話題も当然ながら多い。
クリックとワトソンのところは、ロザリンド・フランクリンについて結構字数を割いてる。
1956年のところは、英米仏でそれぞれ新しい文学の動きが出てきたということだろう。アングリーヤングメンって知らなかったし、ビートジェネレーションもヌーヴォーロマンも未読なので、よく分からないが……。
神秘主義まわりもよく分からない。初めて見る名前

1961‐70 台頭する構造主義者たち

1961 バシュラールフーコーへ好意的な手紙
ヤン・コット『シェイクスピアはわれらの同時代人』刊行
オースティン『哲学論文集』刊行(前年に死去)
1962 カーソン『沈黙の春』刊行
クーン『科学革命の構造』刊行
1963 コンラート・ローレンツ『いわゆる悪――攻撃の自然誌』刊行 ユクスキュルや「生存圏」への言及などナチ支配下のドイツ生物学に由来
バフチンドストエフスキー詩学』再刊
1964 マルクーゼ、ハイデルベルクでのドイツ社会学会で講演
マクルーハン『メディアの理解――人間の拡張』刊行
1965 リクール『フロイトを読む』スイユ書店から刊行/ガダマー『真理と方法』刊行
1966 バルト『批評と真実』スイユ書店から刊行
ラカン『エクリ』、フーコー『言葉と物』刊行 前年にはアルチュセールマルクスのために』
1967 ガルブレイス『新しい産業国家』を刊行
デリダ『グラマトロジーについて』刊行
1968 パリ大学ナンテール分校の封鎖(五月革命へ)
1969 ハーバーマスとガダマーとの解釈学論争、ハーバーマスルーマンとの社会システム論争
1970 グールドナー『社会学の再生を求めて』刊行

バシュラールフーコーの『性の歴史』読んで激賞する手紙送って今度会いましょうって言ってたけど翌年に亡くなったというエピソード
沈黙の春』と『科学革命の構造』って同年なのかーと思ったら、筆者もこの2つが同年なことに言及していた。わりと珍しい。
ユクスキュルと「生存圏」ってこういうふうに並べられるものだったのか、と。気になる。

1971‐80 自己組織化からオートポイエーシス

1971 ロールズ『正義論』刊行
グランスドルフ、プリゴジン『構造・安定性・ゆらぎ その熱力学的理論』刊行
ポール・ド・マン『死角と洞察』刊行
1972 ベイトソン『精神の生態学』刊行
ドゥルーズガタリ『アンチ・オイディプス』刊行
1973 ハイデン・ホワイト『メタヒストリー  十九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』刊行 F.ノイマンの教え子。ダントー『歴史の分析哲学』(1965)とともにニューヒストリシズムの潮流を生む
1974 ウォーラーステイン『近代世界システム   農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立』刊行 ブローデル史学の影響
1975 フリッチョフ・カプラ『タオ自然学』刊行
1976 イーザー『行為としての読書』刊行
1977 グールド『個体発生と系統発生』刊行
チャールズ・ジェンクス『ポスト・モダニズムの建築言語』刊行/デリダ・サール論争
1978 イードオリエンタリズム』刊行
ダメット『真理という謎』
1979 リオタール『ポストモダンの条件   知・社会・言語ゲーム』刊行
ハーバーマス講演「近代 未完のプロジェクト』
ラヴロック『地球生命圏』刊行
1980 アルチュセールラカンを論難
エリッヒ・ヤンツ『自己組織化する宇宙』刊行.
マトゥラーナ、ヴァレラ『オートポイエーシス

1970年代は、有名な本がズラズラ並んでいる感じがするんだけど、そうかこの本って70年代だったんだ、という感想
なんというか自分にとって1970年代って、歴史化されてもいないが、現代(同時代)とも感じられない、微妙な時代で、これはこの本のラインナップからも感じた。
ロールズの正義論よりダメットの真理論の方があとなのか、とか、ダントーってそんなところに関わっていたのか、とか、自分の中でアメリカ現代哲学が歴史として捉えられてない
しかし、ウォーラーステインとかタオ自然学とかイーザーとかグールドとかラヴロックとか同時代的に並ぶんだな、百花繚乱というか何というか

1981‐95 冷戦終焉。ドゥルーズレヴィナス死す

1981 西ドイツでの反戦反核集会
デリダプラハで逮捕
1982 ブノワ・マンデルブロフラクタル幾何学』刊行/ミシェル・セール『生成』刊行
「スリジー・ラ・サル国際文化センター」でリオタールを中心としたコロキウム
1983 西ドイツ、緑の党議席獲得など「アルタティーヴェ」運動広がる
クリストファー・ノリス『デコンストラクティヴ・ターン』刊行
1984 リュス・イリガライ『性的差異のエチカ』刊行
1985 映画『ショアー』公開
1986 ハーバーマス「歴史家論争」
1987 ヴィクトル・ファリアス『ハイデガーとナチズム』刊行
1988 ウンベルト・エーコ薔薇の名前』刊行 当時のイタリア情勢(「赤い旅団」テロなど)とかかわり
ディディエ・エリボンとレヴィ=ストロースの対話『遠近の回想』刊行
1989 アロン・グレーヴィチ『同時代人の見た中世ヨーロッパ』 タルトゥ学派の影響を受けた筆者による心性や意識に注目した文化史
1990 ハーバーマス『遅ればせの革命』刊行
クリステヴァ『サムライたち』刊行 クリステヴァ本人やバルト、デリダフーコーアルチュセールをモデルにした人物たちが出てくる小説
1991 ジェイ・D・ボルター『ライティングスペース――電子テキスト時代のエクリチュール』刊行
1992 フクヤマ『歴史の終わり』刊行
1993 ノルベルト・ボルツグーテンベルク銀河系の終焉』刊行
1994 ジジェク『享楽のメタ・ステージ――女性と因果性についての六つのエッセイ』刊行
1995 ドゥルーズ自殺/レヴィナス死去/劇作家ハイナー・ミュラー死去

しかし、意外というか何というか、時代的には1番近い80・90年代が一番よく分からなかった。
自分は生まれてはいるけれど、もちろん思想や文化などに触れている年齢ではないので、自分の経験としては知らない時代だけれど、一方で、歴史として学ぶ時代でもなかった、というところか。
それにしても、それだけではないようにも思う。
例えば、80年代の冒頭は西ドイツの反核運動自然保護運動が出てくる。確かに思想・文化的な運動の側面もあるのだろうけど、本書で取り上げられてきた他の出来事と比べると、何となくジャンル違いのように見える。まあ、ここまでもカーソンやローレンツ、ラヴロックがあって自然保護運動思想みたいな文脈が準備されているし、2020年代現在の視点から見ると、SDGsとか人新世の思想とかに接続できるかもしれず、思想史として取り上げる意味はあるかもしれない。でも、あんまりその文脈が今はピンとこない気もする。
一方で、フェミニズムジェンダー論やポスト・コロニアリズムの文脈が本書からはあまり見えてこない。これらを全く無視しているわけではないけれど、点として出てくるだけで、線になっていない感じがする。
自分はフェミニズム史に疎いので何を取り上げるべきなのか分からないし、また、この本も一番メジャーなものではなく敢えて少しズラしたところを取り上げたりもするので何とも言えないところがあるが、バトラーやハラウェイに全く言及がなく、著作としてはイリガライが1冊だけというのは、何とも不思議な気がする。
あと、クリステヴァがそんなモデル小説を書いていた、というのは全然知らなかったし、エピソードとしては面白くはあるんだけど、そこチョイスするんだ、という感じはする(それにしてもサムライたちってタイトルすごいよな(全く褒めてない))
ポスト・コロニアリズムも、サイードのみで、50年代のファノンとか80〜90年代のスピヴァクとかが言及すらされていない。
逆に、電子メディア論が2冊取り上げられていて、メディア論自体は20世紀思想の花形だとは思うが、手厚い。
フェミニズムやポスト・コロニアリズムの流れが見えていなかったとは思えないが、90年代後半というのは、自然保護運動とか電子メディア論とかの方が盛り上がりがあった時代なのだろうか、と思った(これらは21世紀以降も重要な流れではあるとしても)。
それからやはり時代、というか単に30年前だからという話にすぎないけど、ジジェクについて今後の著作が楽しみ的なこと書いてあったのが面白かった。当たり前だがジジェクも新進気鋭だったことがある。

*1:この呼び方はたった今つけた)