5月末から7月頭にかけてエクス・リブリス月間という感じで、6冊ほど読んだので、まとめておく。
経緯
2023年に「海外文学読むぞ」と銘打ち、集中的に読んでいた。
海外文学と言えば、で思いつく出版社やレーベルは複数あると思うが、自分の場合、白水社Uブックスだった。で、白水社エクス・リブリスのことも知って、色々読みたいなあと思っていた。
2023年の際にも2冊ほど読んだが、他にも読み残しがあったので、後日、エクス・リブリスまとめて読む期間を設けようと思っていて、ようやく実行した、という経緯となる。
エクス・リブリスは既に100冊近く刊行されており、別に全部読もうとか半分読もうとかも思っていなくて、パラパラと気になったのを読んだだけだが、こうやって一つのレーベルを読むというテーマを決めて読んだのは初めてだったような気がする。
概観
2023年のまとめで、以下のようなことを書いた。
アジア文学も少しずつ手を伸ばしたいと思っているところである。ヨーロッパはこれまで通りパラパラ混ざる感じ。アフリカはまだ遠い……。
あと、やはり男性作家ばかりだな……。
アジア文学についていうと、エクス・リブリスにあるものをいくつかピックアップしている。プラス、上述した台湾文学をもう少し読むか否か。時勢的に、カナファーニーとかも読んだ方がいいかなあ……。
今回、6冊中4冊がアジア文学(中国・台湾・イラク・イラン)、6冊中3冊が女性作家となった。
アジア多めなのは意図したことだが、女性作家の方は意図していなかった(遅子建が女性だと知らなかったし)。
アジア文学を読んだとはいっても、ご覧の通り、東アジアと西アジアであり、まだ偏りはある。以前に読んだことあるアジア文学も中国、台湾、パレスチナである。東アジアだと韓国を読んでいないし、東南アジアと南アジアは全く手つかずである。考えてみれば、アジア初のノーベル文学賞受賞者はインド人なのだから、もう少し南アジアフォローしてもいいような気がするのだが、現状余り興味が向いていない。
元々、小説を読むときは、現実に即した話よりは、虚構性・幻想性みたいなのがある作品を好む傾向がある*1
今回も本を選ぶ際には、そういう要素をわりと重視はしたのだけど、地域性・政治性みたいなものも加味されたかなあと思っている。
というか、現代の西アジア文学の作品を読むかあ、と思った時点で、それは当然入ってくる*2
何となく今年は、小説以外も、社会的な本を読んでいる気がする。
読んだ本
中国東北部の少数民族エヴェンキについて
エヴェンキについては、この本の存在を知るまで全く知らなかったが、アイヌをはじめとする東北アジアの少数民族への興味があったので、読んだ。
トナカイ遊牧というこれまでほとんど知らなかった生活様式を知れた。また、ほぼ20世紀全体にあたる期間を描いているが、主人公が住んでいた地域は一時期は満洲国になっていたこともあり、ロシア・中国・日本といった大国に挟まれた中で少数民族の社会がいかに失われていったかが描かれている。
イラク人亡命作家による短編集。イラクが経験した暴力・混乱を描くにあたって、ある種の奇想・非現実的要素が必要とされたのだろう。
2020年代の我々が日々ウクライナやガザのニュースを見るように、2000年代は日々、アフガニスタンやイラクのニュースを見ていた。その時の記憶があり、この作品を知ったとき、読まねばならないなと思った。
無論、そのような義務感だけでの読書ではなかった。
イラン革命をマジック・リアリズムで描くというような惹句で、興味をひかれた作品。
とはいえ、読むかどうか実は少し迷っていた。でも、結果的に読んでよかったなと思う。イランという国を知るとっかかりとなった。
例えば、別に自分はイラクのことだって決して何某か知っているとはいえないが、上述の通り、2000年代に頻繁にニュースを見ていたことによって形成されているイメージがあった。イランについては、そういうとっかかりを持てていなかった。この本に描かれているペルシア・ゾロアスターとアラブ・イスラムの対比は、一面的な見方に過ぎないかもしれないが、興味深かった。
チリの作家による短編集だが、科学史を題材としているという点で興味を持った作品。
ハーバー、シュヴァルツシルト、グロタンディーク、望月新一、シュレディンガー、ド・ブロイ、ハイゼンベルクが主要登場人物なので、チリや南米を舞台にしているわけではなく、そういう意味で地域文学性(?)みたいなのはない。
ところで、このメンツだと、数学者はゲーデルとかが選ばれてもよさそうだけど、そこは違うんだなと思った。まあこれは、個人的にグロタンディークという人に馴染みがなかったせいかもしれない。グロタンディークもまたフィクションの題材にするのに適した人生を送っていた人のようではある。
戦後生まれの台湾人作家が、第二次大戦末期に日本の神奈川県で少年工として戦闘機製造に携わった父について書いた作品。
これは呉の第一長編となる作品だが、以前、同じく呉の『自転車泥棒』を読んでいてそれがたいそう面白かったので、遡ってこちらの作品も手に取ってみたのである。正直な話、『自転車泥棒』の方が圧倒的に面白いので、お薦めするなら『自転車泥棒』の方ではある。
自分は村上春樹をあまり読んでいないのでなんとも言えないが、どことなく村上春樹っぽさのある作家でもあると思う。なお、本作でも『自転車泥棒』でも(村上春樹は登場しないが)三島由紀夫は登場する。
ポーランド人ノーベル賞作家による、旅や移動をテーマにした断章形式の作品
エクス・リブリス作品を色々読んでいる中で、ブッカー賞受賞作品とかブッカー賞最終候補作品とかをちらちら見かけるようになったので、受賞作一覧を眺めていたら、たまたまエクス・リブリスにも収録されている本作を見つけた(しかもその上、ノーベル賞作家だった)のが、本作を手に取ったきっかけ。
なので、事前に内容をよく分かっていない状態で読んだが、読み終わった後もどんな作品なのか説明するのが難しい。読み始めた最初は面白いかどうかもよく分からなかったが、しかし、読み進むにつれてクセになってくるような独特な面白さがあった。内容に幻想性・超現実性は含まれていないが、筆者自身が星座小説というように、本来バラバラのものが何となく緩やかに結びつけられているところに、ある種の虚構性があるかと思った。
過去に読んだエクス・リブリス
郝景芳『郝景芳短篇集』(及川茜訳) - logical cypher scape2
パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ 二〇世紀史概説』(阿部賢一・篠原琢訳) - logical cypher scape2
甘耀明『鬼殺し』(白水紀子・訳) - logical cypher scape2
上から中国、チェコ、台湾