冲方丁『マルドゥック・アノニマス4』

ルーン・バロットとウフコックのバディが再起動するシリーズ第4弾
冲方丁『マルドゥック・アノニマス1』 - logical cypher scape2
冲方丁『マルドゥック・アノニマス2』 - logical cypher scape2
冲方丁『マルドゥック・アノニマス3』 - logical cypher scape2


高校を卒業し、いよいよ大学の法学部へと入学したルーン・バロットが、再び悪徳渦巻く世界へと戻ってくる。
4巻では、2つの時間軸の物語が交互に進められていく。
1つは、3巻の直後、バロットととウフコックが再会したところから続く戦闘シーン
もう1つは、ウフコックとの再会に至るまで、バロットがウフコックを探しつづけた過程
前者は、ウフコックの閉じ込められていたガス室のある施設から、ウフコックを連れ出すために、クインテットのメンバー(特にそのナンバーツーであるバジル)と戦うところで、いわば、一つの戦闘シーンを一冊かけて描いているものだし
後者は、バロットとイースターズ・オフィスの2年間の歩みを、一冊に凝縮して描いているものとなっている、と言える。
この2つの時間の流れを、一冊で読むことができるのは非常に贅沢な感じだなあと思いながら、まあ、どちらもこの1冊で完結してなくて、次巻に続くけど


ウフコックは、再会したバロットが非常に頼もしい存在になっていること、さらにバロットだけではなく、ウフコックが望んだ「勢力」が彼の知らない形で再興していることに気付き、驚かされるわけだが、読者もその驚きを共感するだろう。
一方で、もう一つのパートを読むことによって、そこに至るまでどのような過程があったのかが分かっていくのであり、また他方で、そこで描かれている過程が、ウフコック救出という形で結実したのだということを同時に知ることができる
例えば、アビーがバロットのことを「姉さん」と呼んでいることに、ウフコックと読者は驚かされるわけだが、もう一つのパートを読むことで、何故アビーがバロットのことを「姉さん」と呼ぶに至ったのを知ることができるし、また、最初はこんな関係だけど2年後には「姉さん」と呼ぶような関係になれたのだなということも知ることができる。
アビーとの関係は、バロットの成長と立ち位置の変化を示すこの上ないエピソードになっている。


また、ここに至る3巻までの流れで、さんざんイースターズ・オフィスの面々を苦しませ続けてきたクインテットに対して、一矢報いる展開となっていて、カタルシスがある
特にそれは、単純に戦闘で勝ったぜーということではなくて、イースターズ・オフィスとバロットが共有したモットーを体現した反撃となっている。不殺の反撃。
そして、これまで完全に謎に包まれてきたハンターの正体へと迫る一歩が示され、さらに「シザース」との関係が見え隠れしはじめてきて、アノニマスだけでなく、スクランブルやヴェロシティでの展開も含めてこれまでの流れがいよいよまとめられ、結末へと向かっていくのか―ということを感じさせはじめている。


続きが楽しみ
しかし、その前に、そろそろスクランブルとヴェロシティを再読した方がいいんじゃないか、俺