攻殻機動隊 M.M.A. - Messed Mesh Ambitions_ISSUE #01 特集_東洋的|The East

攻殻機動隊のグローバルサイトなるものが立ち上がり、その中で士郎正宗へのインタビューがあるのが話題となっているが、他にも論考記事が掲載されている。
普段、こういう記事へのリアクションはブクマでしているし、これらの記事についてもブクマでもよかったのだが、複数の記事に分かれていたりするので、まとめてブログに書いておくことにした。


なお、攻殻機動隊については現在、ヤンマガのサイトで原作が無料公開されているので、そっちも読んでいる。
以前読んだはずなのだが、完全に内容を忘れている。ただ、部分部分覚えているところがあったり、あるいはアニメで見たから覚えのある箇所とかもある。
『2』は未読だったはず。
個人的な攻殻体験は、押井版のG.I.Sとイノセンス、神山版のS.A.C.によっている。

01 特集_東洋的|The East

ISSUE #01 | 【公式】攻殻機動隊グローバルサイト
今のところ、この「東洋的」という特集だけ公開されている状態だと思う。
藤田直哉さんが監修で、各記事の聞き手をやっている。

三宅陽一郎「東洋的AIの可能性」

研究者かつゲーム開発者という特異なポジションから、西洋と東洋のAIに対する価値観を対比させる。
これはまた、西洋的な学問の蓄積からAIを見るという立場と、物語・キャラクターを実現するというゲーム開発からAIを見るという立場の両方があるからこそ、実感のこもった言葉にもなっている。
ただ、個人的には、洋の東西で捉えるのにはやや懐疑的だったりはするのだが……。というか、東洋哲学・東洋思想に独特の面白さはあるのだろうけど、巷によく見られる「西洋の思想の方向性は早晩だめになる、東洋思想に打開策がある」的な持ち上げ方にうまくノれない、というか。

西山圭太「同型性の宇宙:生命から政策まで」

経産省の官僚であり、「強い同型論」という世界観を提唱し、具体的には、共通プラットフォームによるDX改革ということを考えている人。
強い同型論のベースには、ベイジアンネットワークである「マルコフ・ブランケット」の考え方があり、どうも、フリストンはこれを応用した人らしい。
この文章の中では自由エネルギー原理という言葉は出てこないが、予測最小化みたいな話は出てくる。ここでは、フリストンがこれを生命全体の原理とした、と説明されている。
西山の「強い同型論」というのは、形而上学も量子物理学もこれと同型だという主張である。
創発的、計算主義的、関係的な世界観だとも述べている。
2010年代にこういうこと考えて著作にもしたらしいんだけど、フリストンとか出てくる新しさはあるけれど、創発とかをキーワードにしてグランドセオリー作ろうとしているところに、正直「うおっマジで?!」という感じはしてしまった。
官僚ってこういう思想性強い人もいるんだな、と(歴史の本とか読んでると、官僚ってたいてい実務家だけど、時々思想強い人が出てくる印象はある)
実例として出てくる、インドのインディア・スタックとみちのりホールディングスの話は、縦割り行政やピラミッド型組織の改革の事例として、まあ面白い話ではあるなあとは思った。

近藤銀河 + 西條玲奈 + 清水知子「記憶の継承、未来の複数性」

アーティストの近藤、哲学者の西條、メディア研究者の清水による座談会。
清水先生、筑波から東京芸大に移ってたんですね
さて、上2つの記事と比べて面白かったのだが、上2つは『攻殻機動隊』の話を実は全然していないのに対して、こちらは一応『攻殻機動隊』をフックしながら話をしているからだと思う。あと、座談会ゆえの読みやすさはある。一方、座談会なので、話題があちこちに飛ぶし、次から次へと色々な作品などが参照されるので、話を追うのがやや大変というのはある。
面白かったなと思ったのは、
アイデンティティの根拠を関係性に求める議論は多いが、素子は自身の感覚の問題としており、刺激的
・テクノロジーと障害の関係を描くSFとして、キム・チョヨプへの言及
・死者のように振る舞うAIエージェントが出てきたとしても死生観はそれほど変わらないのではないか。そもそも死生観の変容についてどのように答えることができるのか。DeathLABのプロジェクト
・西洋東洋比較論への懐疑。日本独自ではなく特定のクリエイターのキャラクター造形が巧みだっただけなのではないか問題。呉羽真「日本人とロボット──テクノアニミズム論への批判」(https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/265441 で読めるが、面白かった)
・音声の非ジェンダー化の困難さや人工物固有のセクシュアリティへの指摘
シドニーユダヤ博物館によるAI技術を駆使した「証言の次元」という企画

安田登 + 浜崎洋介「新しい時代をめぐる身体のゆくえ」

能楽師・安田と批評家・浜崎の対談
能の舞台は、流派の異なる役者たちが集まって、持っている台本も違うし一緒に練習もしないで、作品を上演する、というのがかなり驚きだった。
調和とか集合的(コレクティブ)であることについても、みんなで同じことをするというわけではなくて、それぞれ異なるのだけどそれの息ががあうことだとしている。Stand Alone Complex
保守主義と右翼・伝統主義は異なる、ということについても指摘があり、変化は許容するけれど、その変化の速度をなるべく遅くする思想だとする。「最小の動揺と最大限の連続性」として、ジェイムズのプラグマティズムと保守思想が共通する、とも。
能についても、動揺が少なく、自然に変化していく世界なのだ、とか。

藤田直哉「『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と『イノセンス』のあいだ」

藤田による編集後記的なもの
2017年から2021年にかけて、転向のようなものがあったと語っている。
小学生の頃にインターネットや攻殻機動隊に触れ、ネット上の政治活動に積極的にコミットしていったが、2017年頃に本当にこれでよかったのかと思うようになり、その後、『攻殻機動隊』の中にあったがこれまで避けてきた、日本神話や神道神秘主義の思想を学び直すことにした、と。
年齢を重ねるにつれて保守的な思想に変わっていくというのはありがちな話かもしれないが、「能楽堂に繰り返し通い、神道アニミズムの関連書籍を読み、実際に神社仏閣や聖地とされている山や森に赴いて歩き回った」というのは素直にすごいなと思った。