第9回文学フリマお疲れ様でした

日曜日は、第9回文学フリマでした。
参加された皆様、事務局や運営スタッフの皆様、お疲れ様でした。
筑波批評社ブースを訪れて下さった方、お買い上げいただいた方、ありがとうございました。


「感想を書き終わるまでが文学フリマです」
というわけで、まあざっとコメントしてみたいと思います。

『クロニック・ラブ』終わりの会

まず、ブックデザインがかっこいい!
表紙もいいんだけど、谷島貫太インタビューの斜めの段組や注釈エリアやルビの振り方とかが、デザインとリーダビリティがうまく共存している。誌面デザインに凝るとリーダビリティが落ちるということがよくあるけれど、『クロニック・ラブ』はそんなことがない。
そしてこの特集テーマである「サーバーパンク」と、谷島貫太によるスティグレールの紹介がとても面白かった。スティグレールは、インターコミュニケーションで名前を見掛けたことがあるなあ程度だったのだけど、面白そうな人だ。フランスの哲学者で、デリダの弟子で「技術の哲学」をやっている。技術と記憶や時間の関係について論じている。メディオロジーともつながるのかな?「サーバーパンク」との関わりでいうと、スティグレールフッサール批判なんかを伏線にしつつ、物理的限界・物理的故障から、人間の記憶や意識について考えようというような話*1
フランス現代思想は結局よく分からないままなのだけれど、こういったメディオロジー的な話と、エピステモロジー的な話とかって接点はあるのだろうか。あるいは、認知科学やロボット工学との関わりとか。
『クロニック・ラブ』の編集人である、永田さん(id:negative-naive)は、東浩紀の「サイバースペースは何故そう呼ばれるのか」を評価しているけど、確かにそこらへんも思い出させる。
それから、id:tomadのコラムもよかった。ネット上で知り合った友人の死について書かれている*2。その死を自分は知っているが、ネット上の多くの人はまだ知らない時、彼は本当に死んでいるのか、という話。
同人誌「クロニック・ラヴ」、12月6日(日曜)、文学フリマにて頒布します!(続報) - 美学的、病痾的
http://owarinokai.s2.fm

『5M Vol.3』サークルファイブエム

十文字青特集。
僕自身は十文字青は読んだことがないのだけれど、id:K-AOIくんとかが薦めていたので名前は知っていた。
十文字青にも興味を持つと言えば持つけれど、むしろ藤原くんや卯月くんの文章がそれ単体で面白かった。
藤原くんは、読まれなくても書く、読まれないからこそ書くみたいなことを書いていたけれど、そういえば『クロニック・ラブ』の谷島論文では、読まれるからこそ書くことが可能になるみたいなことが書いてあったな。
卯月くんの「愛の遠近法的倒錯」は、「キャラ」に「萌え」る機序として読んだ。キャラが真にキャラたりうるために、僕らに必要とされていること、というか。
キャラがキャラたりうるために、といえば、月読絵空の「空想の局所的具現化-SHORT Ver.-」も興味深く読んだ。ただこれは「ストーリー4コマ」論で、僕がストーリー4コマに疎いのでよく分からない部分もあったけど。
卯月、月読それぞれのキャラ論は、やっぱりこの話題は面白いよなと思わせてくれたけれど、しかしあと一歩届いていない感もあって、難しいなあと思った。自分もそこはまだよく分かっていないし。
それから、スウェーデンボルグについてまとめてある記事も面白かった。
http://5m-web.com/
サブカルチャー批評誌『5M Vol.3』 - ミントな皿うどん

『幻視社第四号』幻視社

特集「見えないもの」
小説は「服部半蔵」を読んだ。服部半蔵の忍術が北海道からアイヌ、ロシアへと伝わり、そして現代、ロシア人の父親と日本人の母親のハーフとして札幌で暮らす男子中学生である「俺」が、24代目服部半蔵になることになってしまった、という話。コミカルなタッチで進んでいって、なおかつそれでいて「見えないもの」というテーマとして、忍者、KGB、そしてそれらを繋ぐものとしてさりげなくアイヌウィルタの名前が出てきて、短編としてうまく出来てるなあと思った。
現代で、何故か忍者として生きることになってしまって大変って話は、まあ色々あるかと思うけど、アーカイブ騎士団の忍者小説集をちょっと思い出した。
それから、岡和田さん(id:Thorn)の「「世界劇場」から外れた演技者ジュヌヴィエーヴ」と東條さん(id:CloseToTheWall)の「見えていても見えない」を読んだ。
岡和田さんの方は、TRPGウォーハンマー』の世界観で書かれた吸血鬼の小説について論じている。「歴史=物語」を演じるということをめぐる話。
東條さんの方は、クリストファー・プリースト論。プリースト、読まなきゃなあという気分になったw 前からちょこちょこ気になってはいたんだけど。この論、導入として下條信輔オリバー・サックス認知心理学の話を入れていて、その導入にひっかかって読み始めたのであまり強くは言えないけれど、プリースト論とその導入部分が別々の話になってしまってもったいないなあと思った。
http://www.geocities.jp/gensisya/
幻視社 第九回文学フリマ終了の記 - Close To The Wall

『ソフラマ! 04号』ソフラマ

詳しい感想は既にid:K-AOIくん本人に伝えているので、ここに何を書けばいいのかという感じなのだが。
なんか惜しい、もったいない、という感じがする。誌面の作り方という点において。そういうところはあまり人のことは言えないけれど。
書いている内容は悪くないと思うので。
2009冬の文学フリマに参加します! - sofuramaの日記

『ぼっち本』

江戸屋猫八百「孤独について、バトーの愛について」
攻殻機動隊GIS』と『イノセンス』において、バトーが、友愛でも恋愛でもない愛を抱いているということについて論じている。友愛は境界線を引くもの、恋愛は友愛を突き破るものとし、バトーが抱いているものはそのどちらでもないとする。『イノセンス』におけるバトーのあの何ともいえない雰囲気がうまく論じられている気がした。
峰尾俊彦「少女は獣姦の夢を見る」
「他者」=「動物」ってところから、「動物」を人間とみなしてコミュニケーションをなすというあり方について、エロマンガ「少女は犬の夢を見る」から論じている。
峰尾のエロマンガ批評は面白いと思う。エロマンガを自分があまり知らないせいかもしれないけど。
「他者」とのコミュニケーションの話とか好きだよなあと思いつつ、「動物」と「人間」の話は気になる。
http://d.hatena.ne.jp/hachimasa/20091206/1260115974

『Fvol.5』現代文化研究会

特集「映画」
まだ読めてない。
『F』では毎度おなじみになっているレコメンド、「この論文を書いた人はこんな映画を観ています」は読んだ。Fはこのレコメンドが面白いんだよね。
あと、矢野さんのマンガとか。
文学フリマで『F』5号を販売します!: 現代文化研究会公式BLOG

『aBrevol.2』aBre

こっちもあまり読めてない。
コラムは全部読んだ。牛濱知昭の「私はずっとおぼえてる」はイイハナシダナーって感じだった
あと、「クレヨン王国」って読んだことないけど、今もうほとんど手に入らないと知ってちょっと驚いた。

『架空書評集』叶える子

架空の本についての書評。
ほんとにありそうな書評から、ありえないものまで。
前者としては「巨石」が、後者としては「ココヌーチャ・ネートチャチャ・ナナンの真実に迫る」がうまいなあと思った。

BWN

文学フリマのなかで印象に残ったのはこのサークル
8P折り本で、一体どんなブースになるのか全く想像できてなかった。
文学フリマの中に別の生態系が出来ている、と言っていたけれど、とかく色んな種類のものがあちこちから集まってバラバラと並べられているのは、ワクワクする眺めだった。
id:extrameganeさんの企画には毎度唸らされる。っていうか、めがねさんすごい。

*1:フッサールは、無限の記憶を想定しているといって、スティグレールフッサールを批判しているらしい

*2:名前は明記されていないが、imoutoidのことだと思われる