大森望・日下三蔵編『おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選』

2018年に発表されたSF短編の中から、大森・日下の両名が選出した18編+第10回創元SF短編賞受賞作を収録したアンソロジー
元々、2008年に刊行された『虚構機関』から始まった本シリーズだが、今回、12冊目にして最終巻となる


『零號琴』のスピンオフである「「方霊船」始末」と『BEATLESS』の前日譚「1カップの世界」がそれぞれ入っていて、これらは文句なく面白い
新人賞の「サンギータ」も面白かった。アマサワトキオ作品は「ラゴス生体都市」も前から気になっていてkindleには突っ込んでいた気がするのだが未読
あとは「大熊座」「アルモニカ」「レオノーラの卵」「検疫官」「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」「四つのリング」あたりが面白かったり好きだったりする作品

宮部みゆき「わたしとワタシ」
斉藤直子「リヴァイアさん」
日高トモキチ「レオノーラの卵」
肋骨凹介「永世中立棋星」
柴田勝家「検疫官」
藤井太洋「おうむの夢と操り人形」
西崎憲「東京の鈴木」
水見稜アルモニカ
古橋秀之「四つのリング」
田中啓文三蔵法師殺人事件」
三方行成「スノーホワイトホワイトアウト
道満晴明「応為」
宮内悠介「クローム再襲撃」
坂永雄一「大熊座」
飛浩隆「「方霊船」始末」
円城塔「幻字」
長谷敏司「1カップの世界」
高野史緒グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」
アマサワトキオ「サンギータ」(第10回創元SF短編賞受賞作)

宮部みゆき「わたしとワタシ」

45歳の「わたし」の元に、30年前の「ワタシ」がタイムスリップしてくるという話

斉藤直子「リヴァイアさん」

アドバルーンスカイフィッシュの話
少し不思議な話というか

日高トモキチ「レオノーラの卵」

工場長の甥が「レオノーラの産む卵が男か女か賭けようじゃないか」と言ったところから話が始まり、時計屋、やまね、チェロ弾きらの話によって、レオノーラの母親であるエレンディラと工場長の話になる。その時もエレンディラの卵が男か女かという話が
男と女と家族の愛についての昔話
作者はもともと漫画家らしいのだけど、宮内悠介が「博奕」をテーマにしたアンソロジーを企画した際に、宮内が依頼したという経緯で書かれた作品らしい

肋骨凹介「永世中立棋星」

マンガ作品
ウェブコミック誌で連載されているシリーズものの中から1話
人工衛星に搭載された将棋AIの話

柴田勝家「検疫官」

物語が入ってくるのを防ぐ検疫官、という管理社会もの

藤井太洋「おうむの夢と操り人形」

Pepperのようなロボットを題材にしたロボットSF
最後の筆者のコメントに「「脳」がなくても知能を感じさせてくれる機械」についての話とあり、ここで出てくるのも、相手の会話をオウム返しするプログラムである(特に言及はないが、イライザのような奴だと思う)
それと、料理運搬ロボットを組み合わせた事業で成功した2人の話

西崎憲「東京の鈴木」

トウキョウ ノ スズキを名乗る謎のメールが警視庁に届く。
意味不明な文言なのだが、その後に起きた事件を予告したものだと世間で話題になっていく

水見稜アルモニカ

アルモニカとは、アメリカのベンジャミン・フランクリンがグラスハープをもとに発明した楽器
これを動物磁気のメスマーが、ウィーンにおいて、治療器具として使用していた
インチキの疑いをかけられて、パリでラヴォワジェを筆頭とした王立調査委員会が開かれるというところから始まって、フランス革命の時期で終わる
サリエリとかも出てくる

古橋秀之「四つのリング」

「百万光年よりちょっと先、今よりほんの三秒むかし」という書き出しから始まるSFショートショートシリーズの中の一篇
滅びた星系の生き残りである少年が、星間戦争などを解決するのに、リング(指輪にしてダイソン球)を使って人々を助けるけど、誰からも少年がそれをやったとは気づかれないという話

田中啓文三蔵法師殺人事件」

朗読イベント用に書き下ろされたものが初出という作品

三方行成「スノーホワイトホワイトアウト

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』に収録された一篇。タイトル通り、白雪姫パロディ作品
VR空間で姫として過ごしてきた主人公だが、世界に雪=バグが混じるようになる
7人の小人が7つの大罪

道満晴明「応為」

マンガ作品
葛飾応為のもとに、未来からやってきた宇宙人がマンガを置いていって、応為がエロマンガ描き始めるという話

宮内悠介「クローム再襲撃」

「クローム襲撃」を「パン屋再襲撃」(というか村上春樹)の文体で書く、ダブルパスティーシュ作品
どっちの作品も多分読んでいるはずなんだけど、もう一度読み返したくなった。「クローム襲撃」は手元にあるけど「パン屋再襲撃」はないなあ

坂永雄一「大熊座」

民話とか伝説とかを調べている研究者が、クマがなんぞしているという目撃談を追っているうちに、クマたちが火を使っているところを見てしまうという話
クマが火を使っているとは一体、となるが、その実、人間が火を使うことができないまま文明を発達させた世界の話だったということが最後に明らかになる、歴史改変SF

飛浩隆「「方霊船」始末」

『零號琴』のスピンオフ
ワンダ・フェアフーフェンが学生時代、假面と假劇と出会い、何をやったかという回想譚
「方霊船」は、ワンダが無理矢理やった假劇。ワンダは実はちゃんとやったのだが、作品そのものにトラップが仕掛けられていて、てんやわんやする

円城塔「幻字」

「予」をひっくり返した文字があって、『犬神家の一族』じゃんっていう話
文字を擬人化した話だけれど、擬人化というかなんというか
まあ、楽しい作品ではある

長谷敏司「1カップの世界」

BEATLESS』の前日譚
エリカ・バロウズが冷凍睡眠から目覚めたときのお話
自分が慣れ親しんでいた21世紀の振る舞いを、しかし、hIEは再現することができず、そのため「アナログハック」されることのなかったという点から、エリカ・バロウズと未来世界とのズレを説明していく。
これ読むと、やっぱり『BEATLESS』ってアニメ化するの難しい作品だったなと思う。映像では説明しようのない要素が肝になってて、アニメだけ見ても、このエリカ・バロウズが世界に対して抱いている感情はわかりにくいと思う。

高野史緒グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」

子どもの頃、土浦でツェッペリン号を見たことがあると夏紀がいうと、アメリカの大学で量子コンピュータの研究をしている従兄が、VRゴーグルとグローブを渡してきて、これを見ながらツェッペリン号を追え、という
現在の土浦市VRゴーグルに映し出される過去の情報についてのタグが混ざりあい、夏紀は在りし日の土浦を幻視する。時間や可能世界に関する考察を交えつつ、ノスタルジックなツェッペリン号の飛ぶ光景を描き出す


ところで、p.505の最後の行にある「ゴーグル」は「グローブ」の誤りでないかと思うのだけど、どうなんだろう

アマサワトキオ「サンギータ」(第10回創元SF短編賞受賞作)

ネパールのクマリ女神信仰を描いた作品
幼い少女が初潮を迎えるまでの間、クマリ女神として崇める風習があるが、そのクマリ女神に選ばれたサンギータという少女と、その護衛として雇われたアウトカーストの男の話。
サンギータは、クマリ女神が実質的な力を失ってしまったのは神としての証である身体的特徴がないからだと考える。それは、様々な動物の特徴を併せ持つ姿なのだが、若者の間で流行している、バイオテクノロジーを用いた身体改造を利用して、神格を復活させようとする。


過去の年刊日本SF傑作選

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量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

結晶銀河 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

結晶銀河 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

『量子回廊』(2009年作品)、『結晶銀河』(2010年作品)、『拡張幻想』(2011年作品)は未読
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