2015年に発表されたSF短編のなから19作品+新人賞1作品
SFマガジンの隔月刊化に伴い、短編発表の機会は減るも、同人誌や企業PRあるいはtwitterなど様々な媒体での発表作品から広く集められている。
既読作品は1作のみで、去年は確かにSF短編全然読んでなかったなーという感じ。まあ読んでる時でも、既読2、3作品だけど。
アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)
- 作者: 大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 文庫
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藤井太洋「ヴァンテアン」
3Dプリンタを使ったラボで、菌を使ったバイオコンピュータを作ってしまう天才の話
ラボ経営者が語り手で、雇った研究者がやばい天才だった
最後、遺伝配列の特許の話とかにもなり、面白い。
高野史緒「小ねずみと童貞と復活した女」
こちらは、『屍者たちの帝国』収録作品で、読んだことのある作品だった。
『屍者の帝国』と『白痴』や『アルジャーノンに花束を』などを混ぜ合わせた作品
宮内悠介「法則」
ヴァン・ダインの20則が物理法則のように働く世界で殺人をもくろむ話
ちなみに、この作品と藤井の作品はどちらも同じ企画に掲載
森見登美彦「聖なる自動販売機の冒険」
残業中に屋上で休憩していたら、向かいの屋上に設置してある自動販売機が飛んでくる。
向かいのビルで飲んでいた女性が酔っ払い、自販機を取り替えそうと屋上を飛び移ろうとする。
自販機は宇宙へ帰っていく。
飛浩隆「La poésie sauvage」
「自生の夢」姉妹編
詩人アリスが生前に作ったモンスターを罠にとらえる話
言葉でできている世界で、ストランドビーストような姿をした詩=ポエティカル・ビーストがとてもよい
零號琴も単行本化作業が進んでいるということで楽しみ
円城塔「〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉」
物語を作るプログラムが作動してる過程で出力した文章、みたいなもの
と書くと、何やら分かりにくいが、結構現実的な執筆時の話として読めないこともない。
〈ゲンジ物語〉や〈マツダイラ・サダノブ〉は、書きながら、固有名詞を一括で置換することができるように置かれた記号
物語を作るプログラムというとまあ大げさであって、とりあえず名前の決まってない登場人物などを、役割名などで書いておいて、あとから置換機能を使えば、それで小説ができるし、作業中の管理もしやすいよねみたいな話なんだけど
野粼まど「インタビュウ」
インタビューを模した作品
SF作品は実は作家と編集者が異星探検して書いてるノンフィクションだという世界
鳴き声があたかもインタビューのような宇宙怪獣をだまして近づくために、インタビューしながら探検するSF作家と編集者
架空の作品の広告が掲載されていたりする。
伴名練「なめらかな世界と、その敵」
同人誌『稀刊奇想マガジン』収録
あらゆる並行宇宙を同時に見渡しながら、それぞれの世界を行き来するのが当たり前になっている世界。転校してきた友人は、その能力を失っていた。
以前もハードSFとラノベを融合させたようなものを書いてたけど、今回もそんな感じ。
季節が次々と変化していく様が視覚的に楽しいし、クライマックスの2人で競争するところもいい。
ユエミチタカ「となりのヴィーナス」
マンガ
前掲の伴名作品では、2つのエピグラフが冒頭にあるが、そのうち片方はユエミチタカ作品からのもの(別の作品だが)
林譲治「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」
タイトル通り、とある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査がそのまま文字起こしされたような作品。
時節柄、国立競技場のことかなと思わせておいて、実はあの有名なSF映画二出てくる建築物の話
酉島伝法「橡」
酉島作品は、年刊日本SF傑作選に収録されている短編でしか知らないような気がする。過去2回読んだけど、あまり自分と噛み合わず、単行本に手を出せていない。
こちらは、今まで読んだ中で一番とっつきやすかったし、分かりやすかった。
月にいた幽霊達が、人類の絶滅した地球に再突入し、マネキン人形みたいなものに取り憑いて、人間のまねごとのような生活をはじめる。人間ではないものたちが、人間っぽいものを依り代にして、人間のようなことをして、うまくいったりいなかったりする話。
こちら、飛作品と同じく、詩とSF特集に掲載された作品らしく、詩の効用みたいな話になっていく。
ところで、珈琲の話が出てきていて、誰が「珈琲」をつくったのか?#珈琲咖啡探索隊 (ダイジェスト版) - Togetterを思い出した。自分はこれに直接参加してなかったけど、作者コメントで宇田川榕菴が〜とか書いてあって、「あ、知ってる知ってる」となったw
梶尾真治「たゆたいライトニング」
「エマノン」シリーズの短編
エマノンとヒカリの物語。まだエマノンが単細胞生物だった頃から始まって、エマノンとヒカリとの時間を越えた不思議な邂逅の日々が描かれる。
30億年の記憶を持つエマノンと、様々な時間へのタイムスリップを繰り返し続けるヒカリ。
時間順序がランダムに進むヒカリの生は、「ここがウィネトカなら、君はジュディ」や『スローターハウス5』のようだけど、ヒカリの人生の幅を超えて人類の生まれていない遥か過去までもタイムスリップしている点は異なる。
こういう時間順序がランダムに進む人生にとって、死というのは、普通の人生とはまた違った位置付けがありそうな気がするけれど、穏やかな死のシーンも描かれている。
北野勇作「ほぼ百字小説」
Twitter上で書かれている小説を集めたもの。
めちゃくちゃ短いショートショートとも、長い短歌とも言えるような作品群。
それぞれ100字ほどで完結しているが、いくつか、続きものになっているのかな、と思わせるものもある。
普通の小説を読むのとは違った集中力を使う。
菅浩江「言葉は要らない」
医療用ロボット開発を続ける研究者
彼は研究一筋で人間と関わるのが苦手であり、自身が作るロボットでも、人間に近づけるというアプローチをとらない。そのため、彼の研究室にはなかなか人が居着かないのが、新しく入ってきた若手研究者は彼とともに働き続けた。その青年は彼とは真逆で、研究以外に趣味や家庭も大切にするタイプであり、さらには彼が目指した医療用ロボットの完成にもこぎつける。
IHIの広報用webサイトに掲載されている。
上田早夕里「アステロイド・ツリーの彼方へ」
無人宇宙探査機がテーマ
主人公は、民間企業で宇宙探査機からのデータをSR(代替現実)システムを通じて分析する仕事をしている。そんな彼に、探査機に搭載される予定の人工知性と会話する仕事がふられる。
人工知性自体は社内でも秘密プロジェクトなので、彼の目の前には、その猫型端末が出てくる。
前半は、人語を話す妙に頭のいいネコとの、ちょっとほのぼのした物語ともいえる。
後半になって明かされる人工知性の正体、というか、実際どういうシステム構成になっていたのかという話がなかなかすごい。
探査機のデータをSRシステムでっていう冒頭にかなり惹かれたのだが、この人工知性の正体もなかなかよかった。