大森望・日下三蔵『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』

去年から、漢字4文字タイトルから表題作タイトルに変わった創元の年刊日本SF傑作選
やっぱ、個人的には漢字4文字タイトルの方が好きだったかもしれないw

長谷敏司「10万人のテリー」

BEATLESS』と同じ世界観、「アナログハック・オープンリソース」プロジェクトの一環として書かれた作品
脳をデータ化したオーバーマンは、しかし社会にとって危険な存在であるために消去される。とあるエージェントが、長年発見されたなかったオーバーマンの処理へと向かう
何故発見されなかったかといえば、自分の人格をカードゲームのカードに分割し、それらが揃ったときだけ起動するようにしていたからだった

下永聖高「猿が出る」

ちょっと昔のSFっぽい筆致。ちょっと昔のSF、そんなに読んだことないけど。
猿の幻を見るようになるのだけど、その猿がどんどん人間へと進化していく。実は、脳腫瘍が正体で、というような話
進化していく猿の話を聞いて、興奮する妻がかわいいw
進化の記憶や夢の中での人格統合の試みとかのアイデアがいい

星野之宣「雷鳴」

モーニング掲載か何かで、雑誌掲載時に読んだことあった
ジュラ紀へのタイムスリップが可能になり、「ブロントサウルス」に憧れる富豪のおじいさんがジュラ紀に訪れる。目が見えない彼は、せめてその名の由来となった雷鳴のような足音を聞きたいと願うが、実際に見てみると足音が全然しない。
アパトサウルスをはじめとして竜脚類は何故あれほど巨大化したのか。そして、何故足音がしないのか。
同行した研究者は、気嚢とその中に入った気体によって説明する。
最後は、雷でどかーんで、なかなかすごい絵なんだけど、そんな生き物、進化するかなー。でも、面白いw

理山貞二「折り紙衛星の伝説」

表題作なわけだが、あんまりよくわからなかった

草上仁「スピアボーイ」

去年の傑作選に掲載された「ウンディ」も面白かったけれど、こちらもまた、架空の生物と人間との関係を描いた作品で面白い。
ウンディは、楽器として使われる生物だったけど、スピアは、空中をすごい速さで飛び回っている家畜。カウボーイならぬスピアボーイが管理している。
ロートルでどこの牧場にも属さないスピアボーイと、若く血気盛んなスピアボーイの一騎打ち

円城塔「∅」

なんか、だんだん文字数が少なくなっていく小説
ところで、話と直接関係ないけど、「この宇宙で最大の数」ってこの宇宙の中に存在するの? 数字はあるけど、数はどこにあるのか、という意味で

堀晃「再生」

作家である「私」が、健康診断で不整脈がでて、心臓の手術を受けるために緊急入院して退院するまでの話

田丸雅智「ホーム列車」

ホームが列車になるというショートショート

宮内悠介「薄ければ薄いほど」

小説現代』掲載時に読んだことがあった。ホスピス終末医療を巡る話
死についての話はなかなかどんよりした気分になるが、そういう気分にさせるだけの話だともいえる

矢部嵩「教室」

先生も生徒も狂ってる教室

伴名練「一蓮托掌(R・×・ラ×ァ×ィ)」

何でも真っ二つにしてしまう双子

三崎亜記「緊急自爆装置」

自爆する権利が一般的になり、個人が自爆装置を携行するようになった時代
市役所におて、電話ボックスが撤去されて空いたスペースに、緊急自爆装置が設置されることになった。
コメディタッチのお役所的なやりとりの中に「自爆」という要素が挿入された作品

諸星大二郎「加奈の失踪」

最初から、セリフに違和感があり、真ん中あたりで「あ、もしかして」と思う。
ネタバレしてしまうと、作品全体で回文になっているという作品

遠藤慎一「『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ〜その政策的応用」

遠藤慎一=藤崎慎吾による、論文形式のSF小説
ヒューマノイドの見た目における「不気味の谷」に対して、AIの知能における「恐怖の谷」を実証したという論文になっている
この論文を書いたのは人間ではなく、シンギュラリティを越えたAIらしい。人間を集めて、知能レベルをいくつかにわけてAIと会話させて、どう感じるか調べた実験。人間と同じくらい頭いいAIに対しては嫌悪を覚えるが、さらに頭のいいAIとの会話にはむしろ喜びを覚え、その言葉に従うようになる。これを恍惚の峰と名付け、人間を効率的に労働させるのに応用できるだろう、と論じている

高島雄哉「わたしを数える」

バーチャルお化け屋敷の中に存在しているお菊さん
ほとんど客のこないところに、久々の客として少年が現れるが、彼はお菊さんを全く怖がらないばかりか、数の数え方を教わろうとする。
この時代、思考補助装置の発達によって、「数える」行為すら人間はしなくなっていた。
そもそも「数える」とは一体どういう行為なのか

オキシタケヒコ「イージーエスケープ」

やっぱり、オキシタケヒコは面白い
今回の収録作の中で一番面白かったかも。
地球圏から亡命するために逃がし屋に仕事を依頼するところから始まる。
かつて、他の恒星系を目指して出発した移民団があった。彼らからSOSが来たが、地球はそれに答えなかった。その後、移民団は独力で生き残り、地球外知性体の残したテクノロジーを手に入れ発展する。彼らは地球圏へと帰還するが、地球側は人体改造・遺伝子改造を行っている彼らを嫌い、そのテクノロジーを妬んだ。
主人公は、彼らの架け橋となるべく、学生時代から雑誌を作っているが、いよいよ攻撃が近付いてきており、亡命をはかることとなった。
人格をシミュレートするテクノロジーを脳内で走らせていて、実は兄を逃すために、身体は兄で脳に弟の人格をシミュレーションを走らせていたのだが、さらに実は、という話

酉島伝法「環刑錮」

刑務所不足から新たに定められた環刑錮という刑罰は、人体をミミズのようにして、刑務所の地下を這い回せておくというもの
この技術を開発した男の息子が主人公で、父殺しで捕まり、環刑錮となる。
イタコ的な存在がいて、容疑者の記憶にアクセスして代弁するのだが、そいつが実は真犯人、みたいな話なんだけど、うーん、ちゃんとは分からなかった
独特の用語や訛りなどが世界観を形成して面白いのだけれど、ミミズにしてしまうのはやはりグロテスク。

宮澤伊織「神々の歩法」(第6回創元SF短編賞受賞作)

超人バトルSF
娯楽作としては非常に完成度が高く面白い作品だった。が、一方で、新人賞作品かと言われると、ちょっと違うような気もするという感じもあった。この賞、前回と前々回しか読んでないけど、その分だけの感触でいうと、わりと手堅く面白いものが受賞する傾向にあるのかなと思えば、まあその傾向には合致している。面白いのは間違いないし、完成度も高い。
受章者はすでにプロのラノベ作家として活動されている方なので、完成度の高さは納得である
北京を一日にして壊滅させた謎の男、米軍の特殊部隊が北京へと派遣される
米軍の戦争サイボーグでも全く歯が立たないところに、1人の少女が現れて、男と互角の戦いをしてみせる
実は、その男や少女は、地球外の生命体に憑依されてしまった存在だという。
以前、https://twitter.com/OgisoSetsuna214/status/616829752423231488https://twitter.com/OgisoSetsuna214/status/618220958139027456というツイートが話題になっていて、この本自体、これをきっかけに読もうと思ったのだけど、実際読んでみると、この設定はここにちらっと出てくるだけ、あくまで背景の一部で、話には絡んでこなかった。
せっかく、戦う少女が出てくるのだから、そのあたりのあーだこーだというのがあってもよかったかなと思わないもないけど、それを入れると、話の完成度としては下がったとは思う。