2007年に発表された16作品を収録した、SFアンソロジー。
「年刊日本SF傑作選」として今年始まったシリーズ第一作となる。
16作品もあると、かなり色々なタイプの作品が揃っていてとても面白い。
少しでもSFに興味があるのであれば、少なくとも2,3本は気に入る作品があるはず。
ちなみに、年次でSFアンソロジーが編まれるのは、日本では筒井康隆編による『日本SFベスト集成』以来32年ぶりだとか。
2007年は、『宇宙塵』創刊50周年、ワールドコン日本大会、星新一デビュー50年・没後10年+最相葉月による星新一の評伝、円城塔・伊藤計劃のデビュー*1と日本SFにとってかなりエポックとなる出来事が並んだ年とのことで、すごいねw
田中哲弥「羊山羊」
お色気(?)コメディSF。
2つシリアスな作品が続いて、これがくるとなかなか破壊力があるw
北國浩二「靄の中」
地球に紛れ込んでいる地球外知性体を処理するMIBみたいな捜査官の話。
人類とは異なる知性をどう見分けるか。
ハードボイルドっぽい雰囲気。
ちょっとミステリっぽい展開をした後に、さらにもう一回ひっくりかえるオチ。
この人、名前も知らなかったけど、面白かった。
円城塔「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」
群像新人文学賞への応募作。二次選考まで残るも落選した幻の作品。
当然ながら、紛うことなき円城塔作品。
タイトルにあるとおり、8つの掌編から成っている。
一つ一つの掌編の難易度は『SelfReferenceENGINE』と同じくらいか、ちょっと難しい。
中原昌也「声に出して読みたい名前」
SFアンソロに中原昌也?
こういうのを選んでくるあたりが、大森望だなあという感じがするかも。
大森の解説曰く、「中原は資源ゴミの日にサンリオSFを拾ってくるのが得意」「現代日本のニューウェーブSFの書き手」「筒井康隆も推薦」という感じ。
テレビだかラジオだかから、人の名前を読み上げる声が聞こえてくるというもの。
こうしてSFアンソロの中に並べられると、確かにSFだなあと思えてくるw
岸本佐和子「ダース考」「着ぐるみフォビア」
『ちくま』連載中のエッセイから2本。
前者は、ダースベイダーについて。後者は、遊園地とかイベントとかにいる着ぐるみについて。
特に後者は、途中から作者の妄想か何かが混じっていって、エッセイというよりはショートショートのような読後感を漂わせている。
堀晃「開封」
同じく、星新一へのトリビュート・ショートショート。
こちらは一人で宇宙を旅する宇宙船乗りを主人公にしていて、宇宙で起こる怪現象に出くわすというもので、やっぱり見事な星新一トリビュートになっている。
萩尾望都「バースデイ・ケーキ」
今回のアンソロには、マンガが一本収録されている。
地球外生物もの。「靄の中」とはまた別の形での地球への「侵略」が描かれている。
エロティックだったりグロテスクだったりぞっとしたりする絵。
福永信「いくさ」「公転」「星座から見た地球」
早稲田文学のフリーペーパー『WB』で連載中「三カ所」から。1回に3編が掲載されているので、ここでも3編が収録。
それぞれA、B、C、Dという4人の少年少女(?)を主人公にした掌編だが、さっぱりわからない不思議な小説。
少し不思議という意味での不思議ではない。小説として不思議。
八杉将司「うつろなテレポーター」
コンピュータの中で生活するAIが量子テレポーテーションする、という設定だけ聞くと何だかイーガンみたいな作品。
といってもハードな理論が展開するわけではなく、恋愛とパラレルワールドものになっている。
平谷美樹「自己相似荘」
タイトルには、フラクタルハウスとルビがふってある。
幽霊騒動の起こった屋敷の調査に、科警研にある怪奇現象担当部署の捜査官があたるというもの。
幽霊を科学的に説明する、イプセトメモリア説という架空の学説が作り込まれていて楽しい。
林譲治「大使の孤独」
林譲治と朝松健って月寒高校出身だったのか*2。
地球外知性体ストリンガーと人類とのコミュニケーションを確立するために行っていた居住実験中に、ストリンガーが一人の人間を殺害するという事件が発生する。
地球外知性体とあっさり話が通じるわけないというリアリズムをもって描かれている。全く通じないわけでもないが、かといってすらすらと話が通じるわけもない。
伊藤計劃「The Indifference Engine」
この作品は読んだことがあった。
そういえば『ハーモニー』と同じく哲学的ゾンビがテーマの短編があったよな、これかなと思ったけど、これじゃなかった*3。
アフリカの紛争を戦った少年兵の訪れることのない戦後を描いている。
しかし、なんでこんな雰囲気の作品に、『もってけ☆セーラー服』を混ぜるのかw
地球外知性体を扱った作品と心・アイデンティティを扱った作品が多い印象。
まあ、SFの王道といえば王道か。
とはいえ、本当に色々なタイプが集まっている。小説だけでなく、マンガやエッセイがあるし、中原や福永といった非SF作家と思われている作家も混ざっている。
そんなわけで読んでいて楽しかった。
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