『Genesis 一万年の午後』

創元日本SFアンソロジー
創刊号と銘打たれているのでシリーズ化するらしい。創元の編集部によるアンソロ。タイトルのGenesisは、「創元」の英訳みたい。
創元SF短編賞受賞作家を多くそろえ、ジャンルもバリエーション豊かな感じになっている。

久永実木彦「一万年の午後」
高山羽根子「ビースト・ストランディング
加藤直之 エッセイ SFと絵
宮内悠介「ホテル・アースポート」
秋永真琴「ブラッド・ナイト・ノワール
松崎有理「イヴの末裔たちの明日」
吉田隆一 エッセイ SFと音楽
倉田タカシ「生首」
宮澤伊織「草原のサンタ・ムエルテ」
堀晃「10月2日を過ぎても」

久永実木彦「一万年の午後」

第8回創元SF短編賞受賞作「七十四秒の旋律と孤独」と設定を共有している作品。
大森望・日下三蔵編『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2
「七十四秒の旋律と孤独」から遙か未来。創造主たる人類のことを知らないロボットたちが、人類の残した文書ファイルを〈聖典〉として行動している。
生命のいる惑星を1万年間調査し続けている6体のチーム。彼らは「特別を作らない」ということを金科玉条としているが、個性が生じてきてしまう、という話

高山羽根子「ビースト・ストランディング

カイジューリフティング」というスポーツが行われている未来
2つのパートに分かれている
1つは、スタジアムの売店で働く少女、もう一つは、カイジュウ上げの非公式選手の少女
怪獣SFであると同時にスポーツSFでもあり野球SFでもある。
また、若干のポスト・アポカリプス感もある。スタジアムの売店はほぼ自動化されており、従業員は少女一人。話し相手になるのは売店AIだが、めったにアプデされない。大昔の在庫が出てくるシーンから始まるのだが、漢字教育を受けていない彼女は、そのタオルに書かれた名前を読むことができない。
この世界では、フェノメナという怪獣が落下してくる現象がたびたび発生している。その最初の発生現場が野球スタジアムだったこともあり、野球は衰退。代わりに、スタジアムがカイジューリフティングの会場として使われるようになっている。
ルールが定められ、男女別で行われているプロと、ルールも何もなく勝手に行われている非公式の野良プレイがある。
怪獣は何故日本にやってくるのか、という問いにも面白い答えを出している(鯨座礁仮説)
また、スポーツとはということについても触れられている

加藤直之エッセイ

宮内悠介「ホテル・アースポート」

舞台はインド洋の小国。軌道エレベーター近くの寂れたホテルで起きた密室殺人事件の話
元々は、ミステリーズ!新人賞の最終候補となった作品の改稿版
軌道エレベータが弦となって発する騒音と弦楽器

秋永真琴「ブラッド・ナイト・ノワール

かつて吸血鬼と呼ばれた種族「夜種」が、夜だけでなく昼も活動できるようになり、人間に代わって繁栄している世界。一方、人間は、数を減らした代わりに貴重な血統として「王族」となり、夜種と共存している。
夜種のマフィアが、王族の少女から人捜しを依頼される話
いわゆるファンタジー作品

松崎有理「イヴの末裔たちの明日」

汎用AIの発展によって多くの人たちが技術的失業にあっている近未来
主人公も例にもれずクビになる
ベーシックインカムが整備されているが、下がってしまう収入を補うために、治験のアルバイトをすることにする
確率薬理学に基づくという新薬は、運がよくなるとか異性にモテるとか死ににくくなるとかいった謎の薬効をもっている
で、まあこの薬開発自体が実は……という奴で、ショートショートっぽさがある

吉田隆一 エッセイ SFと音楽

楽器ってSFだよねって話しててちょっと面白い(管楽器は内臓の外部拡張、鍵盤楽器は巨大ロボット)
あと、シュトックハウゼンの「ヘリコプター弦楽四重奏曲」というのが紹介されていた

倉田タカシ「生首」

幻想というか幻覚というか、次々と様々なイメージが奔流してくる
元々は、音がすると生首が落ちている、という謎の能力(?)を身につけてしまったという話なのだが、謎の料理の話とか髑髏持っているおばあさんの話とか鰐の話とか
それでいて、やはりなんだかんだいって、生首に話は落着してくる
とかくわけわからないのだが、なんだかするすると読めて、なんか面白い
人工知能学会編『AIと人類は共存できるか』 - logical cypher scape2の「再突入」とか、大森望・日下三蔵編『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2の「二本の足で」とかも面白かったけど、そちらとは全く別種のタイプの作品
冒頭の作品紹介文の中で「幻想が幻想を呼び起こす不思議な読み味は、いままで発表されたどの作品とも異なっています。作風の幅広さに驚かされる方も多いのではないでしょうか」とあったけど、まさにそれ
『母になる、石の礫で』読んでないけど、読まんとなー

宮澤伊織「草原のサンタ・ムエルテ」

大森望・日下三蔵『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』 - logical cypher scape2に掲載された「神々の歩法」の続編
読んだはずなのだが、さっぱり忘れいていた。読んでいるうちに「あーそういえばこんな話だったかもなー」と思い出した。
冒頭の作品紹介文の中で「最近、ワオキツネザルの身体を得てユーチューバーになっています」と書かれていて、あ、この文章書いているひとが、担当作家がワオキツネザルになって困惑してしまった担当編集の人かーとなったw
アメリカ合衆国のサイボーグ兵士部隊と、地球外知性体に憑依されて超人と化してしまった8歳の少女が、新たに出現した、地球外知性憑依体から地球を守ったり、友達になろうとしたりする話
憑依体を倒すための物量攻撃がすごい
超常の存在と戦うミリタリーSFであり、おじさんと少女の話でもある感じで、普通に面白い
ところで一点だけ、誤植だと思うんだけど、アメリカから日本へ向かっているシーンで「太平洋を東へ向かう」と書かれているのが気になった

堀晃「10月2日を過ぎても」

ほぼほぼ日記
2018年に大阪を襲った数々の災害を、大阪中心部にほど近いマンションで暮らしている筆者の視点から綴っている
っていうか、台風とか大雨あった次の日に、すぐに自転車で川の水位を見に行くのやめてくださいww
若い頃は災害が起こると、カタストロフを想像してたけど、最近は災害起こっても被害は少ないし、自分自身も想像を巡らせることができなくなって、これが老いか、と思いながらも、最後に大阪に津波がきた日についても書いている。