早瀬耕『グリフォンズ・ガーデン』

早瀬耕『プラネタリウムの外側』 - logical cypher scape2の前日譚にあたる作品
元々、1992年に刊行されたのだが、2018年に文庫化された
プラネタリウムの外側』と同じく有機素子コンピュータが登場する。『プラネタリウムの外側』では、なんか出自はよくわからないけど放置されてたというような扱いだったけど、『グリフォンズ・ガーデン』はこのコンピュータの開発現場である知能工学研究所、通称グリフォンズ・ガーデンが舞台となっている。
とはいえ、有機素子コンピュータの開発物語ではなく、それを用いた仮想現実シミュレーションの物語である。

グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA)

グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA)


primary worldという章とsecondary worldという章が交互に進んでいくという構成になっており、secondaryの方は、primaryの方のコンピュータ上で走ってる仮想現実ということになっている。
primaryの方は、情報科学系の大学院を出た後、札幌にある知能工学研究所にポストを得て、恋人ともに札幌へとやってきた若き研究者が主人公。
secondaryの方は、修士論文がなかなか進まない大学院生が主人公。
いずれの主人公にも、高校時代から交際しており、言語学の研究をしている恋人がいて、研究生活と恋人との生活について綴った断章形式によって進んでいく。
どちらも、ゆるい三角関係の話としても読める。
primaryの方は、研究所の先輩である藤野という女性が、secondaryの方は、主人公を感覚遮断実験の被験者にする高校時代の同級生が出てくる。
断章形式で進んでいき、最初はあまりはっきりとしたストーリーというのは浮かんでこなくて、なんか主人公と恋人との間で交わされる、インテリっぽい会話からなるエピソード群という感じもある。
舞台となっているのが80年代後半くらいなので、時代を感じさせる描写も色々あってちょっと面白い。
例を出すと、主人公の恋人が、ロータス1・2・3に四苦八苦しているというエピソードがあったりする。


ところで、断章形式になっているのは意味があって、primaryの方でsecondaryの世界を作る時に、世界全部は作っておらず、部分だけを作っているから、という理由がある。
primaryの方で世界をリセットしていたりして、その影響で、secondaryの方の主人公の記憶がちょっといじくられたりするのだが、一方で、primaryの方も、次第に自分の世界についての懐疑を抱くようになる。
secondaryの主人公が、知能工学研究所に就職することによって札幌に旅立つところで終わるのだが、これが、primaryの方の最初と全く同じ文章で書かれていて、逆に、primaryの最後の章に、secondaryの最初の章と同じ文章によって書かれたシーンが出てくる。
というわけで、primaryとsecondaryとの関係が、単純に創造主と被造物というわけではなく、primaryも何かの被造物の可能性や、入れ子というよりウロボロスのようになっている? という可能性も示されて終わる。