イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』

カルヴィーノは一時期いくつか読んで結構好きだったんだけど*1、最近http://unnamable.hateblo.jp/entry/20150607/1433659017で紹介されているのを見て、読んでみた。



シャルルマーニュ率いる軍勢の中にいる騎士の物語
主人公アジルールフォは、「存在しない」騎士である。というのは、彼は白く美しい甲冑をまとっているのだが、兜の庇をあげてもそこは空っぽなのである。存在しないというか、肉体を持っていないという方が正確かと思うが、作中では「存在しない」と書かれている。存在していないのに存在している存在が存在する時代のお話なんですよ、みたいなノリ(?)
彼は、武勇に優れているだけでなく、細かいところによく気がつき軍務もそつなくこなす優れた臣将なのだけど、あちこち細かいところまで指摘してくるので、他の将兵からは疎まれている(まあ、学級委員長タイプというか)。面白いのは、肉体がないので、睡眠もとらないし食事もとらない。食事とらないのだけど、宴会には顔を出す。
他の登場人物として、若い貴族の子息ランバルド、アジルールフォの部下となったグルドゥルー 、女騎士ブラダマンテがいる。
ランバルドは、父親の仇を討つべく出征してきたのだが、騎士の世界というのが思っていたのとは違うというのが次第に分かってくる。その中で、アジルールフォについてまわったりしている。一応、仇は討つのだが、その後、ブラダマンテに出会い、彼女への慕情によって突き進むようになる。
一方のブラダマンテは、女ながらに非常に強い騎士であり、自分より弱い男には興味なし、というようなタイプ。無論、ランバルドには見向きもせず、アジルールフォを追いかけるようになる。
グルドゥルーは、物事の順序がすぐにわからなくなってしまう男で、例えば「自分がスープを飲んでいる」のだが「スープが自分を飲んでいる」のだか分からなくなってしまう。名前がたくさんある。
それから、さらにもう1人の登場人物として、語り手の尼僧テオドーラがいる。アジルールフォらの物語は、この尼僧が修道院でのお勤めとして書いているものとなっている。なんか、絵物語っぽい。地図を描いて矢印を引っ張ってとか、船を大きく描いてとかそういうことを言ってるので。
アジルールフォらのパートと尼僧のパートが交互に進んでいくのだけど、尼僧のパートは途中から  アジルールフォのパートに入っていく。尼僧が一人称で話すときは「です・ます体」だけれど、アジルールフォらの物語の時は、三人称「だ・である体」で、一人称・「です・ます体」で書かれている段落→三人称「です・ます体」の段落→三人称「だ・である体」の段落というように、切り替わっていったりしているところもあったりして面白い。


中盤から物語が動き出す。
若い騎士トリスモンドがアジルールフォの前に現れる。アジルールフォが騎士になったのは、かつて純潔の女性ソフローニアの危機を救ったことによるのだが、トリスモンドによれば、ソフローニアは彼の母親で、当時既に純潔ではなかったという。もし、純潔ではない女性を助けたのだとしたら、彼の騎士としての立場は失われる。アジルールフォは、自分の存在基盤を賭けて、彼女が当時純潔であったことを確かめるべく旅立つ。そんな彼を追いかけてブラダマンテが、彼女を追いかけてランバルトが後を追う。
後家のプリッシラや聖杯の騎士が出てきたりして、舞台は海を渡りアフリカ、さらわれてスルタンの後宮にいれられていたソフローニアのもとへ
アジルールフォはソフローニアを助けるが、帰りに船が難破し、ソフローニアは浜へ流される。そこで、ソフローニアが母とは気づかずトリスモンドが出会う。ソフローニアは、シャルルマーニュの前で、トリスモンドは自分が育てたといい、アジルールフォは姿を消してしまう。
ところが、実はトリスモンドは、ソフローニアの異父弟だったのだ。ソフローニアはトリスモンドを育てはしたが、母ではない。さらにいえば、ソフローニアとトリスモンドは、母も違い、2人は近親姦を犯したわけではないこともわかる。
こうして丸く収まったかのように見えたが、時既に遅く、アジルールフォは完全にいなくなってしまっていた。甲冑だけが残されており、ランバルドがそれを着込む。


最後の最後に、尼僧テオドーラと女騎士ブラマンテが同一人物であることが明らかになり、何故かブラマンテがランバルドを好きになって、まあめでたしめでたし

*1:『見えない都市』『柔らかい月』『レ・コスミコスケ』、『宿命の交わる城』を読んだ。[冬の夜ひとりの旅人が』を実はまだ読んだことがない