アレステア・レナルズ『火星の長城』

レナルズ面白い!
短編集なので、『啓示空間』と違ってサクサクッと読めて、SF的エンターテイメントを堪能した感じ。「むむ、これは」と唸るような感じではなくて、気軽に楽しめる感じで、しかし抑えるところはきっちり抑えてという感じで。
映像作品で見てみたいような気もする。
レナルズの宇宙史シリーズもので、作品は年代順に並べられている。23世紀の火星の話から始まって、26世紀の太陽系外惑星の話まで。
ちなみにこの短編集は2巻組で、『銀河北極』へ続くのだが、年代順に並べるとしたら、おそらく第二長編の『カズムシティ』が続くのだと思う。見つけられたら次はそれを読む。見つけられなければ、『銀河北極』へ。レナルズワールドに引き込まれてしまったので、刊行されている分は読むことになりそう。

火星の長城

『啓示空間』では名前だけしか出てこなかった連接脳派が早速登場。
連接脳派と普通の人間との対立が極度に達した火星での話。
火星の長城というのは、火星全部をテラフォーミングするの大変だから、一部を囲ってテラフォームしている囲いのこと。
戦闘シーンがかっこいい。っていうか、表紙にもなっているパワードスーツ来た兵士が降下してくるところ。
そして、連接脳派の火星からの脱出の仕方がこれまたすごい。
これはある意味、『啓示空間』と同じで、天体だと思ったら実は人工物だったネタ*1
『啓示空間』読んでるときは、眼球内映像って何のことなのかよく分からなかったのだが、ARのことだということがようやく分かった。人体改造の具合が、時代によったり種属によったりで色々と違うのが面白い。

氷河

「火星の長城」の続き。火星から脱出した連接脳派が初めて到達した惑星に、かつて人類が探査したあとがあり、その探査隊が一人を残して全滅していた、と。その謎を探るサスペンス。
レナルズは、架空の都市とか建築物とかの造型がイメージ豊かで魅力的だと思う。火星の長城しかり、氷河における氷の星と探査基地しかり。『啓示空間』では、カズムシティとアマランティン族の遺跡が、これまたすごかった(しかし全般的には、インフィニティ号とリサーガム星での監禁生活が主だから、地味だけど)。
SFネタの方は、まあよくあるネタだけど、いいよね(ネットワーク全体が知性って奴)。
宇宙生物学の話とか、科学的説明のシーンが結構あったりして燃えるw

エウロパのスパイ

タイトル通り、今度はスパイもの。
連接脳派が去ったあと、木星の4つの衛星は二つずつに分かれて、それぞれ無政府民主主義者とイシス政府がおさめるようになっていて、イシス政府のスパイが、無政府民主主義者のいるエウロパへ向かう。
エウロパは、氷の下に海があって、その海に円錐形の都市が浮かんでいる、というこれまたかっこいいイメージのものになっている。
そして、エウロパの海で労働するために、鰓人なる種属が生まれている。

ウェザー

ツンデレktkr
レナルズって視点人物に近い三人称だけれども、『啓示空間』の訳者解説にあるとおりハードボイルド的であまり内面描写をしないのだが、この作品は一人称で、おっと思ったら、ツンデレ少女が登場。しかも、連接脳派。
この話は、とにかくひたすら連接脳派の少女、ウェザーに萌えるしかない。
そして、連接脳派エンジンの謎の一端が明かされる。やっぱすげーよ、連接脳派。連接脳派エンジンには、高い演算処理能力が必要で、人の脳を積んでいるという。
火星の長城でも、サヴァンの少女にコンピュータの代わりやらせてるしね。まあ扱いは大分違うけれど。
主人公は全くウルトラ属っぽくないウルトラ属。ウルトラ属と連接脳派の関係もちらほら。
そういや、どうもこの時期には人間の寿命は400歳にまで延びているらしいのだけど。個人の寿命と歴史のスケールがどういうふうに噛み合っているのかが掴めないでいる。
太陽系を脱出したのが23世紀頃で、イエローストーン星入植とかが24世紀とかで、『啓示空間』が26世紀で、3世紀も離れているから現在の感覚でいえばすごい離れているけれど、どちらの時代も生きている人がいたりする。冷凍睡眠で簡単に1世紀超えたりするし。

ダイヤモンドの犬

訳者解説に、最近の人だと『CUBE』を連想するのかもしれない、とあるが、まさに『CUBE』って感じの、謎の塔に挑む人々の話。
ただし、『CUBE』のように全くわけわからず放り込まれたわけではなく、いちおう自分たちの意志で来ている。
マッドな感じの人たちが多い。
塔をクリアするべく、どんどん人体改造をしていくという。


*1:考えてみればスターウォーズもそうだな。スペオペって読んだことないけど、このネタはあるあるなんだろうか