シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画』『巨神覚醒』『巨神降臨』

6000年前に地球に残されていった巨大ロボットが発見されるところから始まる、巨神シリーズ三部作
2017年に第一作である『巨神計画』の邦訳が刊行された時点で気になっていた作品だったのだが、三部作揃って一気に読んだ方が面白そうだったので、待っていた。
実際、『計画』と『覚醒』はそれぞれ「え?!」っていうところで終わる。中途半端なところで終わる、というよりは、すごく次の話が気になるヒキになっている。
また、三部作なのでもちろん一つにつながっているのだが、『計画』と『覚醒』、『覚醒』と『降臨』の間にはそれぞれ9年の時が流れており、話も当初とはどんどん離れたところへと向かっていく格好となっている


この作品の大きな特徴としては、全編が、インタビュー記録、議事録、報告書、日記などで構成されているということだ。
いわゆる普通の小説のような地の文はなく、大部分が、会話文となっており、また基本的にはそれらは全て報告という形をとっている。つまり、物語世界内の出来事に対して事後的な報告で構成されているのだ。
これがある種の、フェイク・ドキュメンタリー的な雰囲気を作るのに一役買っており、また、どんどん読み進んでいくドライブ感も生み出している。
まあ、アクションシーンにおいてはどうしても、「おい、そっちの脚を動かすんだ! ああ、奴が腕を振り上げたぞー」みたいな説明台詞(実際にはこんな台詞はないけれど)で状況説明しなきゃいけなくなっていたりするのだけど、そこも一応、なんでそんなこと喋ってるのかというお膳立てはしてあるので、そこまで不自然に感じることなく読めるようになっている。
巨大ロボットが発見され、それをどうやって動かすのか、一体何なのかを調べていくというところから始まるのだが、このプロジェクトを率いている謎の男(作中、結局名前は分からないままで、登場人物一覧には「インタビュアー」という名で載っている)が関係者に対して行う聞き取りが、本編のほとんどを占めている。
このロボットは一体何なんのだ、という謎と同じくらい、あるいはそれ以上に、このインタビュアーは一体何者なんだというのも大きな謎なのであるが、
このインタビュアーの、なかなか巧妙な嫌な奴ではあるのだけど、しかし実はかなりいい奴でもあるという、そのキャラクターや言い回しがどんどん癖になっていくところもある。


ちなみに、日本語訳だとタイトルが全て巨神から始まる漢字4文字であるが、原題だと"SLEEPING GIANTS" "WAKING GODS" "ONLY HUMAN"となっている。



巨神計画 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神計画 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

巨神覚醒 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神覚醒 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神覚醒 下 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神覚醒 下 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神降臨 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神降臨 上 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神降臨 下 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神降臨 下 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)

巨神計画

本編の主人公(の1人)である物理学者のローズは、子供の頃、森の中で突然現れた穴から、巨大な人工物の上に落ちたという経験を持つ。
大人になった彼女は、インタビュアーにより、この巨大な人工物=巨大ロボットの手の研究を行うことになる。
アメリカ各地から発見されるロボットのパーツを、インタビュアーは密かに回収していた。
回収チームのヘリコプターのパイロットとして、米陸軍のカーラやラッセル、ロボットに刻まれた文字のような模様の解読に言語学者(院生)のヴィンセントが集められる。
巨大ロボットのパーツをどうやって集めるか、また、巨大ロボットの正体は一体何なのか、どうやったら動かせるのかといった問題に取り組むと同時に、
物語としては、カーラ、ラッセル、ヴィンセントの三角関係が絡み合ってくる
もちろん、それらも全て、インタビュアーによる聞き取りから浮かびあがってくるわけだが。
ロボットは、女性型をしており(テーミスと名付けられる)、2人乗りのコクピットがあって、上半身と下半身を分担して動かす
ほぼ地球人と同じ形なのだが、膝関節の向きが違うってのが操縦する上でネックになってくる
さらに、コクピットにあるヘルメットを最初にかぶった人間を専用パイロットとして認識してしまうという機能があって、カーラとヴィンセント以外の人間には動かせなくなってしまう。
操縦の訓練をしている最中に、誤操作をしてしまい、テーミスがとてつもない破壊力のあるビーム攻撃が可能なことと、テーミスの存在が世界中に明らかになってしまう。
で、後半からは、遺伝学者でありマッド・サイエンティストの気のあるアリッサが色々やりはじめる。
また、バーンズという謎の男がインタビュアーに接触してきて、テーミスの正体についての情報を与えられる。
このバーンズというのは、今までアメリカの政府高官ですら手玉にとってきたインタビュアーを、逆に手玉にとるという奴で、インタビュアーが一瞬言い返せなくなってしまうところで笑ってしまったw
バーンズによると、地球にはかつて、はるかに文明の発達した異星種族が訪れていたのだけど、地球人類がまだ全然進化していなかったので、立ち去ったという。

巨神覚醒

『巨神計画』の最後で、インタビュアーは国連地球防衛軍なるものを作り、テーミスをどの特定の国家でもなく地球防衛軍のものとする
それから9年。
突如としてロンドンに巨大ロボットが現れる。
テーミスを作ったのと同じ異性種族の手によるものであることは明らかだったが、何かコンタクトをとってくるわけでもなくただ立っているだけ


ロンドンだけでなく、世界各地に突如として現れるロボットたち
そして、そのロボットからは致死性の高いガスが噴出される。人類は瞬く間に滅亡の危機に立たされる。
しかし、そのガスの中にいて、全く死ななかった者たちもわずかながらに存在していた。
ある特定の非常に珍しい遺伝子配列を持っていることが分かったが、何故彼らだけには効かなかったのか
はるか昔、地球に訪れた異星種族のうち、地球に残った者たちは地球人類の中に溶け込んで暮らすようになっていた。地球人の中には、異星種族の遺伝子が広がっていた。


インタビュアーの正体、というわけでもないのだけど、過去が明らかになる
彼がいなくなると、話の雰囲気がやはり変わってしまうとこある


一方、アリッサの手による体外受精により、本人たちも全く知らないところでカーラとヴィンセントの娘、エヴァが生まれていた*1
カーラは、人類の危機そっちのけで、彼女を探しに行く
エヴァは幼い頃から、人がたくさん死ぬ白昼夢を見ている。これが一種の予知夢で、ロボットによるガス大量虐殺のシーンを見ていたのだが、カーラの最期も夢で見ていた

巨神降臨

『巨神覚醒』では、最後、ロボットを倒してテーミスの中で祝勝パーティをしていたローズ、ヴィンセント、エヴァ、ユージーン准将がテーミスごと地球以外のどこかへワープしてしまう
9年後、彼らは地球へと戻ってくる
以後、降臨は、彼らが9年間を過ごした惑星エッサト・エックトでの話と、地球での話が交互に展開していく。
話の雰囲気がかなり変わって、ロボットは物語の後景に引っ込む
地球では、テーミスが消えた後、テーミスによって倒されたラペトゥスをアメリカが復活させ、世界中をアメリカの下に支配していた(露中は抵抗しているが)
何より、この地球では、異星種族の遺伝子がどれくらいあるかによって、ランク付けがされ、もっとも異星種族に近い者たちは収容所へと隔離されるという世界になっていた
(そもそも6000年前に拡散した遺伝子なので、実際のところ、異星種族の遺伝子の過多はかなり偶然に近い。親にはあまりないのに、子には多いということもありうる。ただ、従来からある人種差別が微妙に混ざり合っている模様)
一方、エッサト・エックトに行ったことで、何故地球に対してガス攻撃がなされたのかが分かる。というか、実は地球人に対する攻撃ではない。
エックトでは政治体制が変わり、別の種族に対する徹底した不干渉主義がなされるようになる。一切の影響を排除するのがよいことだとされ、6000年前にエックトが訪れた地球に対しても、エックトの影響を消すべきだという考えになり、地球に残ったエックト人を抹殺すべくガスをまいた。しかし、すでにエックトの遺伝子が地球人の中に分け隔てなく広まっていたのが、エックト側の完全な誤算で、エックト側でもこれがちょっとした問題となっていた。
10歳から19歳になるまでをエッサト・エックトで過ごしたエヴァは、非エックト系住民の活動に関わるようになる。ローズは、その不干渉主義により決して科学知識を開示してくれないエックトからなんとか学ぼうとして、わりと楽しくエックト生活を送る。一方、ヴィンセントは何とかしてエヴァを連れて地球に帰ることを目的に生活し、エックトの生活には溶け込まない。ユージーンは、最期までエックトを敵視し続ける。
エックトで巻き起こる社会不安、それを利用したローズとヴィンセントの地球帰還計画
地球では、戻ってきたテーミスとヴィンセントをロシアが確保し、米露の対立が深まる。ローズは、どうにしかして異星種族がもはや地球に害をなさないことを納得させ、現在の無意味な差別・収容所体制をなくさせようと奔走する。
ヴィンセントとエヴァの親子喧嘩


計画と降臨とでは、違う雰囲気の話になっていて、あれよあれよとここまで連れてかれた感じもあり、また、ロボットも降臨では物語のメインではなくなっていくのだが、しかし、ロボット同士の格闘戦が読めるのは実は降臨だけだったりするので、やっぱり最後までロボットものであるには違いない


  • 追記(20190914)

『降臨』、話の内容自体はまあ面白いかなとは思うんだけど、でもやっぱ『覚醒』が一番面白かったかなと思う。
『降臨』は、そういう方向に切り込んでいくのかという面白さはあって、決して悪い作品ではないんだけど、もともと巨神シリーズの特徴である、聞き取り・報告書等の体裁で書かれるという形式が、『降臨』は全然生きてない感じがして、話の内容とは別にそこがあまりよくない。
セリフだけで構成されてるパート*2と、普通の一人称小説がごとき「私的記録」パートで構成されていて、内面描写とか地の文の説明が必要だなってところを全部「私的記録」でどうにかしてしまっている感じがする
インタビュアーが生きていた頃は、そのあたりが、インタビュアーによるインタビューによって語られていくという形式をとっていたので、フェイクドキュメンタリー感が出て面白かったのだが。
「私的記録」は『計画』の時から既にあったけど、あれも、日記が資料としてアーカイブされてんだなという感じで解釈できる範囲だったんで
『覚醒』も、インタビュアーの死後は一応ローズがその立場を継いでいるということになっているので、ローズによる聞き取りがあるけど、『降臨』はそういうのがなくなってしまう

*1:ちなみに、育ての親がアニメファンだったので、エヴァンゲリオンが名前の由来だったりする

*2:戦闘シーンで「ぎゃあ、うぎゃあ」ばっかりで進行してしまうところがあるのは、やっぱまずいよね