『パワードスーツSF傑作選 この地獄の片隅に』(ジョン・ジョゼフ・アダムズ編、中原尚哉訳)

パワードスーツをテーマにした書き下ろしSFアンソロジー
やはり宇宙や戦場を舞台にした作品が多いが、開拓時代のオーストラリアやスペイン内戦を舞台にした歴史改変系SFがあったり、ラブロマンスサスペンスものがあったりと、多様性があってちょっと驚く。
スーツ自体にAIが搭載されていて、それが人間から自律していることによって生じる物語を描いている作品が比較的多かった印象。
なお、原書は23編らしいが、日本語訳版は12編がセレクトされている。
また、日本語ではパワードスーツSFとなっているが、原書タイトルはArmoredであり、収録作品でもパワードスーツという呼び方をしてる作品はなく、作品によってアーマー、メカ、メカスーツ、エグゾ、ハードスーツなどと様々な呼び方がされている(アーマーが多い)
レナルズ「外傷ポッド」ヴォーン「ドン・キホーテレヴァイン「ケリー盗賊団の最期」キャンベル「この地獄の片隅に」マクデヴィット「猫のパジャマ」あたりが面白かった


ジャック・キャンベル「この地獄の片隅に」Hel’s Half-Acre

ニッヘルハイム星の前線で戦うアーマー小隊
そこに将軍が現地視察に訪れ指揮を下す
人間だと思っていた将軍が実は、という話

ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「深海採集船コッペリア号」The Last Run of the Coppelia

異星の海で藻類の採集を生業としているコッペリア号クルー
それぞれ愛用のメカを着て海に潜っている。
ジャコバはある日、海の中でデータドライブを拾う。そこには、軍の刺青を入れた者たちが民間船を襲撃している映像が残されていた。

カリン・ロワチー「ノマドNomad

ギャングの話
ラジカルと言われるメカと人間が融合している。メカの方にも人格があり、メカの方が主人公
抗争で、自分のパートナーである人間が死んでしまったメカのマッドは、新しい融合を望まず、ノマド(人間と融合しないメカ)となり、ファミリーからも離れることを決める。
しかし、マッドとの融合を望む新入りが、マッドについてきて、マッドのパートナーであるトミーの死の真実を告げる

デヴィッド・バー・カートリー「アーマーの恋の物語」Power Armor: A Love Story

パワードアーマーを決して脱がない天才発明家が、パーティに訪れた女性に恋をする
実は、発明家も女性も未来人で、未来の専制社会から逃げてきた発明家と、それを追ってきた暗殺者

デイヴィッド・D・レヴァイン「ケリー盗賊団の最期」The Last Days of the Kelly Gang

開拓時代のオーストラリアを舞台にしたスチームパンク的な作品
隠遁している老発明家の元に、盗賊団がやってきて、甲冑を作るよう脅してくる。
発明家は、工学的関心から、蒸気機関で動かす甲冑を作り上げてしまう。

アレステア・レナルズ「外傷ポッド」Trauma Pod

戦場で負傷した兵士が目覚めると、医療用ポッドの中だった。遠隔の基地にいる女医からの通信が入り、ポッド内で遠隔手術が行われることになる。
最初、どこがパワードスーツなのかよく分からないのだけど、このポッドを運んできた医療ユニットが二足歩行ロボットで、戦場から離脱するため、再びポッドをロボットの腹部へと収める。で、兵士自身がこのユニットの操縦者となる。
人とスーツがすり替わってしまうような話で、その点で「この地獄の片隅に」に似ているが、一人称で展開されているこちらの作品の方がより面白い。
っていうか、なんかこうレナルズみある作品

ウェンディ・N・ワグナー&ジャック・ワグナー「密猟者」The Poacher

環境保護区となっている未来の地球
レンジャーとなった主人公は、月出身なので、アーマーを装着している

キャリー・ヴォーン「ドン・キホーテ」Don Quixote

スペイン内戦が終わった直後のスペイン
そろそろ国へ帰ろうとしていたジャーナリスト2人組が、いまだにフランコ軍と戦い続けている者に出会う
そこには、戦車を改良して作られた、一人で操縦可能な半人形戦闘兵器の姿が。
「ケリー盗賊団の最期」と同様、パワードスーツなど全くない時代に、パワードスーツ的な兵器を開発してしまう話。どちらも、他に並び立つもののない強さで圧倒する。もしこれが量産されたら今後の戦争は一変してしまう、というところまでは同じ。
その後の主人公のとる行動が違う。本作の方が、人間に対してより悲観的だが、個人的にはこちらの方が好き

サイモン・R・グリーン「天国と地獄の星」Find Heaven and Hell in the Smallest Things

植物が支配する惑星をテラフォーミングするために送り込まれた部隊。植物たちは恐るべき力で襲いかかってくる。
しかし、異星の凶悪植物より、主人公の属してる社会の方が怖い。主人公は事故で身体を欠損し、そのかわり、ハードスーツに入れられることで一命を得た。だが、その高額な治療費と引き換えに兵士とされてしまう。ほとんど強制兵役、しかも、ハードスーツ着用じゃないといけないような場所に連れて行かれる。
ただ、主人公の暗い一人称と裏腹、他の登場人物はなんというかわりと軽い感じがする
最終的に、タイトルから何となく予想がつくが、この惑星に取り込まれていく(?)という話で、どっちかという異星生命SFという趣の方が強いかも

クリスティ・ヤント「所有権の移転」Transfer of Ownership

エグゾ(外骨格)の一人称で、着用者を殺され、殺人者が所有権を奪おうとするがうまくいかない話
所有権はエグゾに移行する

ショーン・ウィリアムズ「N体問題」The N-Body Solution

超古代宇宙文明が残したループというワープネットワーク
その一方通行の終着点、ハーベスター星に辿り着いてしまった主人公は、そこでメカスーツを着たまま決して脱がない執行官と出会う
ハーベスター星には、地球人類以外の種族もたくさん来ていて、彼らも登場するが、主要な登場人物は地球人のみ
主人公もただの人間というわけではなく、クローンみたいな存在
執行官の謎とループの謎を巡って話が進んでいく作品で、スーツも重要なアイテムではあるが話の中心ではないような

ジャック・マクデヴィット「猫のパジャマ」The Cat’s Pajamas

宇宙SFかつ猫SF
唯一、戦闘等と無縁の作品かも。宇宙服の延長としてのスーツが出てくる。
クエーサーの観測ステーションへやってきた支援船は、しかし、ステーションが何かと衝突して破損してしまっている。唯一の生き残りは猫
猫をどうやって助けるかという話である種地味だが、比較的リアル感のある宇宙SF
この前NetflixでやってたSFショートアニメみたいな感じで映像化できそう