アレステア・レナルズ「スパイリーと漂流塊の女王」「スリープオーバー」「トロイカ」

レナルズ作品について、邦訳された奴、大体全部よんだのではないか、と思って調べてみたら、まだ読んでない奴がポロポロあったので読んでみた。

スパイリーと漂流塊の女王

『不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選』収録
フォーマルハウト星系で資源を巡り2つの勢力が戦争している。
基本的には、星系の中心部で蜂機と呼ばれるドローンが戦闘していて、人間は周縁部にいる。
主人公のスパイリーが乗っている濃液艦が、離反者を発見する。
濃液艦というのは、宇宙船なんだけど船内が液体で満たされている。そのため、スパイリーの同僚は、脚をひれに置き換えている。
ミサイル撃っても、相手にあたるまで何時間もかかるリアル宇宙戦争
離反者、星系中心部から弾き出された塵がかたまった漂流塊に墜落した。
しかし、スパイリーはそこで離反者のウェンディゴから、蜂機は知性を獲得したということを知らされる。


フィクションだと思っていたものが実は真実だった、ということが明かされるなど、


用語がやや独特
蜂機はまあドローンかなと思うが
轟推進や轟弾頭。虎眼基地、虎章、虎貨
それから「伏魔」という単語が出てくるのだが、どうも濃液に入れられている何か(ナノマシン?)のようだ。

スリープオーバー

『ロボット・アップライジング  AIロボット反乱SF傑作選』収録
将来的に不死技術が出来ることを見越して冷凍睡眠に入っていた主人公ゴーントが、眠りから覚まされる。しかし、そこは不死技術が出来た輝かしい未来ではなく、ゴーントは、洋上リグでの作業員として起こされたのだった。
AIがシンギュラリティを超えた結果、この世界は、より高次元の世界「超領域」で走っているシミュレーション世界であることが分かる。なおかつ、そこには全く別のAIが先住しており、新参である地球のAIは存在を脅かされることになった。
普通の動植物をシミュレートしている分にはいいが、人類の意識を走らせると、超領域の計算資源を食うので、AI同士の抗争において不利ということが分かり、地球の全人類20億人が冷凍睡眠に入ることになった。そして、その冷凍睡眠装置を置いている洋上リグの管理のために、40万人程度だけが作業員として起きている。
ゴーントは元々、IT長者だったのだけど、ここではひたすら地味な単純作業である、ロボットのメンテナンス作業を行うことになる。ちなみにゴーントは60歳。希望も何もなく、わりと過酷で、人間関係もあんまりよくないが、それでも次第に適応していく。
時々、ドラゴンが襲撃してくる。これは、AIが超領域から介入してきたもの。実は、地球のAI同士でも派閥争いがあり、人類をそもそも滅ぼしてしまえ派のAIがこの世界にドラゴンを召喚して襲撃してくるのである。
時間的精度があまりよくないので、ドラゴンは別の時代にも現れているはず、という話が最後にあって、これもフィクションが実は、というパターンになっているな。「スパイリーと~」とは意味合いが違うけど(「スパイリー~」は作中でスパイリーが鑑賞している娯楽作品が実は、というもので、こちらは、具体的な作品ではなく大雑把に昔話とか伝承とかって実は、というもの)。

トロイカ

第二ソ連とかがある世界が舞台。
マトリョーシカ」と呼称される謎の巨大物体が太陽系内に忽然と姿を現わす。その調査に赴いた宇宙飛行士の話。
主人公の元宇宙飛行士ディミトリは、調査にいった3人のうち、ただ1人の生存者で、その後精神病棟に隔離されていた。そこから逃亡して、かつてマトリョーシカの研究に関わっていたが異説を唱えて冷遇された天文学者ネシャのもとを訪れる。
物語は、ディミトリがネシャのもとへ訪れた際の話と、マトリョーシカ調査の話とが交互に進行していく構成をとっている。
主人公は1993年生まれで幼い頃にミール宇宙ステーションを見ている(あれ? と思って調べてみたが、ミールが廃棄されたのは2001年だった)。一方のネシャは、1975年生まれで、ゴルバチョフ以前を覚えている、という発言があり、現実世界と地続きの未来を舞台にしている。
が、冒頭で述べたとおり、この世界では第二ソ連なるものができている。
また、主人公がマトリョーシカ調査へ行った頃から宇宙開発が全世界的に停滞しており、有人宇宙飛行できる能力を持つのは第二ソ連だけになっている(アメリカ、中国、ヨーロッパがそれぞれ無人探査機をマトリョーシカに飛ばしていた記述はある)
このマトリョーシカなる物体は、その名前が示すとおり、入れ子構造になっていて、シェル1、シェル2、シェル3と何層もの外殻がある。外殻にはそれぞれ開口部があるのだが、回転していて、それのタイミングがあうと内部に入れる。
最初、無人機を母船からコントロールしながらサンプル採取するんだけど、中で動かなくなってしまったので、地球機関用のソユーズ使ってサンプルを回収しにいく
マトリョーシカ内部の様子とかがファーストコンタクト感がある。
しかし、実はこれファーストコンタクトものではない。
先の天文学者は、元々恒星の脈動を研究テーマとしており、それをマトリョーシカに応用した結果、音楽を奏でているという内容を発表し、批判された。
ディミトリ、本当に音楽だったんですよ、ということを伝えに行ったわけだが、実はマトリョーシカはタイムマシンで、明らかに異星物体にしか見えないので、地球人だということを知らせるために音楽を使っていたのではないか、と。
なお、中性子星を何個もつなげてぐるぐる回すことで時空を歪めて過去に戻る、というよくわからんスケールのタイムマシン。っていうか、太陽系内に中性子星持ってきて大丈夫なのか……。
なお、この未来人(到着時点で半ば正気を失っていて、到着直後に死ぬ)は、第二ソ連は60年後に滅びるぞ、宇宙開発やめると人類滅びるからな、というメッセージを携えている。
ところで、これ最後の最後で、さらにどんでん返し(?)が待っていて、ディミトリが実はディミトリじゃない
ディミトリと一緒に乗船していたヤコフは乗船中に少し頭がおかしくなる。タイムトラベラーも正気を失っている。ネシャのもとに訪れたのはディミトリではなく、ディミトリの主治医で、自分をディミトリと思い込んでしまっている。これは、マトリョーシカに接近した他の宇宙飛行士にも見られた症状で、自他の境界がなくなってしまう。おそらくマトリョーシカのらせいで精神異常起こしてるっていうのが、宇宙ホラーっぽい感じ
これ、個々の描写も面白い(雪の中、施設を脱走して、かつて星の街だった街へやってくるシーンとか、上述した通りマトリョーシカ内部の描写とか)し、未来の宇宙開発の様子が何となく察せられるところとか、マトリョーシカの仕組みのSF設定もいいし、色々な不安感やサスペンス感があって最後までサプライズが出てくる展開も読ませる。
ただ、最終的にどういうことだったのか若干よく分からない感じもする。

既読邦訳作品リスト





「火星の長城Great Wall of Mars」
「氷河Glacial」
エウロパのスパイA Spy in Europa"」
「ウェザーWeather」
「ダイヤモンドの犬Diamond Dogs」



「時間膨張睡眠Dilation Sleep」
ターコイズの日々Turquoise Days 」
「グラーフェンワルダーの奇獣園Grafenwalder's Bestiary」
ナイチンゲールNightingale」
「銀河北極Galactic North」


 
「フューリー Fury」



ジーマ・ブルー Zima Blue」



「外傷ポッド  Trauma Pod」


 
「人形芝居 Polished Performance」

  • 今回読んだ作品(上述)

SFマガジン2011年12月号』 
トロイカ Troika
『不死身の戦艦』
「スパイリーと漂流塊の女王 Spirey and the Queen
『ロボット・アップライジング』 
「スリープオーバー Sleepover」

アニメ化作品

『ラブ、デス&ロボット』 - logical cypher scape2
「わし座領域のかなた Beyond the Aquila Rif」
ジーマ・ブルー Zima Blue」

未読邦訳作品

『武道館にて』
武道館にて。 | HAL-CON Japan Site
はるこんで発行された本に以下の3編が収録されていたらしい。
「武道館にてAt Budokan」
「宇宙船医の助手The Star Surgeon's Apprentince」
「未来への眠りSleepover」

レナルズ全作品リスト

英語版Wikipediaから抜粋してきた。
邦訳されたのは初期作品だけで、ほとんど翻訳されていないことが分かる。

Novels(長編)
2000年から2025年までで19作品あるが、邦訳は4作品しかない
まず、「啓示空間」シリーズという同じ世界観で書かれた作品群があって、その中にさらに「インヒビター三部作」というのがある。これ、2021年に4作目が出たので、三部作ではなくシークエンスとなったようだが、この三部作のうち2本目までしか邦訳されていない。
で、2022年にでた”Eversion”が何故か突然邦訳されたのが『反転領域』となる。

  • Revelation Space series
    • The Inhibitor Sequence:

Revelation Space. London: Gollancz, 2000.→『啓示空間』
Redemption Ark. London: Gollancz, 2002. →『量子真空』
Absolution Gap. London: Gollancz, 2003.
 Inhibitor Phase. London: Gollancz, 2021

    • The Prefect Dreyfus Emergencies:

The Prefect/Aurora Rising. London: Gollancz, 2007
Elysium Fire. London: Gollancz, 2018
Machine Vendetta. London: Gollancz, 2024

    • Standalone:

Chasm City. London: Gollancz, 2001.→『カズム・シティ』

Blue Remembered Earth. London: Gollancz, 2012
On the Steel Breeze. London: Gollancz, 2013
Poseidon's Wake. London: Gollancz, 2015

Harvest of Time. BBC Books, 2013

  • Other

Century Rain. London: Gollancz, 2004
Pushing Ice. London: Gollancz, 2005
House of Suns. London: Gollancz, 2008
Terminal World. London: Gollancz, 2010
The Medusa Chronicles (with Stephen Baxter). London: Gollancz, 2016
Eversion. London: Gollancz, 2022 →『反転領域』
Halcyon Years. London: Gollancz, 2025


Young adult novels
ヤングアダルト作品も書いているんだねー。

Revenger. London: Gollancz, 2016
Shadow Captain. London: Gollancz, 2019
Bone Silence. London: Gollancz, 2020


Collections(短編集)
短編集は6冊か
そのうち、” Diamond Dogs, Turquoise Days”(2作品)と”Galactic North”(8作品)に収録されている10作品が、5作品ずつ2冊の短編集に編み直されて邦訳されている。これら10作品は全て「啓示空間」シリーズに属する。
それから「スパイリーと漂流塊の女王(1996)」「スリープオーバー(2010)」「外傷ポッド(2012)」「人形芝居(2020)」がテーマ別アンソロジーに収録されたことで邦訳されていて、「フューリー(2008)」「トロイカ(2010)」がSFマガジン誌上で、「ジーマ・ブルー」が橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』で邦訳された、と。

Diamond Dogs, Turquoise Days. London: Gollancz, 2003
Diamond Dogs (2001)「ダイヤモンドの犬」
Turquoise Days(2002) 「ターコイズの日々」

Zima Blue and Other Stories. San Francisco, CA: Night Shade Books, 2006.
"Enola" (December 1991).
"Digital to Analogue"(1992)
"Spirey and the Queen" (June 1996)「スパイリーと漂流塊の女王」
"Angels of Ashes" (July 1999).
"Merlin's Gun" (May 2000)
"Hideaway" (July 2000).
"The Real Story" (2002)
"Everlasting" (Spring 2004).
"Beyond the Aquila Rift" (2005) 「わし座領域のかなた」(『ラブ、デス&ロボット』でアニメ化。活字の邦訳はたぶんない)
"Zima Blue" (Summer 2005) 「ジーマ・ブルー」
"Signal to Noise" (2006)
"Cardiff Afterlife"
"Understanding Space and Time"
"Minla's Flowers"
Galactic North. London: Gollancz, 2006.
"Great Wall of Mars" (February 2000).「火星の長城」
"Glacial" (March 2001).「氷河」
"Weather" (2006)「ウェザー」
"Grafenwalder's Bestiary" (2006) 「グラーフェンワルダーの奇獣園」
"Nightingale" (2006); 「ナイチンゲール
"Dilation Sleep" (September 1990).「時間膨張睡眠」
"A Spy in Europa" (June 1997)「エウロパのスパイ」
"Galactic North" (July 1999) 「銀河北極」
Deep Navigation. Framingham, MA: NESFA Press, 2010
"Nunivak Snowflakes" (June 1990)..
"Byrd Land Six" (June 1995)
"On the Oodnadatta" (February 1998)..
"Stroboscopic" (August 1998)
"Viper" (December 1999)..
"Fresco" (May 2001)..
"Feeling Rejected" (2005)..
"Tiger, Burning" (2006), .
"The Sledge-Maker's Daughter" (April 2007)
"Soirée" (March 2008),.
"The Star-Surgeon's Apprentice" (April 2008),.「宇宙船医の助手」
"Fury" (November 2008)..「フューリー」
The Fixation (2007)
"The Receivers" (April 2009),.
"Monkey Suit" (July 2009) (a Revelation Space story).
Beyond the Aquila Rift. London: Gollancz, 2016
Thousandth Night (2005),
Troika (2010), 「トロイカ
"Sleepover" (May 2010) 「スリープオーバー」「未来への眠り」
"Vainglory" (December 2012),
"Trauma Pod" (April 2012) 「外傷ポッド」
"The Last Log of the Lachrimosa" (July 2014) (a Revelation Space story)
"The Water Thief" (February 2012)
"The Old Man and the Martian Sea" (April 2011),
"In Babelsberg" (May 2014),

Belladonna Nights and Other Stories. Subterranean Press, October 2021
"Different Seas" (May 2018).
"For the Ages" (November 2011),.
"Visiting Hours" (2017)
"Holdfast" (August 2017)
"The Lobby"
"A Map of Mercury" (June 2013)
"Magic Bone Woman" (2011)
"Providence" (March 2018).
"Wrecking Party" (May 2014).
"Sixteen Questions for Kamala Chatterjee" (October 2016)
"Death's Door" (July 2018)
"A Murmuration" (Mar–Apr 2015)
"Open and Shut" (January 2018) (a Revelation Space story)
"Plague Music" (2021) (a Revelation Space story)
"Night Passage" (October 2017), (a Revelation Space story)

Novellas

"Thousandth Night", (2005),
"The Six Directions of Space",(September 2007
"Troika" (2010)
"Slow Bullets" (2015),
"The Iron Tactician" (2016),
"Permafrost" (2019)
"The Dagger in Vichy" (2025)

Uncollected short fiction(単行本未収録)

"The Big Hello"
"The Manastodon Broadcasts" (December 2008)
"Scales" (2009)
"Lune and the Red Empress"
"At Budokan" (March 2010),.「武道館にて」
"Ascension Day" (May 2011).
"Sad Kapteyn"
"Remainers"(July 2017),
"Polished Performance" (March 2020) 「人形芝居」
"Things to Do In Deimos When You're Dead" (September/October 2022)
"End User" (June 2023)
"Detonation Boulevard" (July 2023)]
"Lottie and the River"t (16/23 December 2023)
"The Scurlock Compendium" (May 2024)