『早稲田文学増刊U30』

まだ小説は読んでないけど、評論は読んだ。

まあ大体タイトルどおりの感じの話

非常に面白かった。「カギ括弧論」もそうだけど、伊藤さんって派手さはないけど面白いのを書くなあと思う*1。後述する渡邉論文もそうだが、小説と映画という違いはあれど、両者とも「表象」の理論とでもいうべきものを退け、そうした理論では扱えないリアリティを捉える理論を提出しようとしている。ここで伊藤は、カギ括弧を通して、登場人物の存在に接触するということを言っていて興味深い。「表象」の場合、物語世界がメディアを介在してしか現れないので、認識論の問題なんじゃないかと思うのだが、ここでは物語世界の存在が期せずして問われているように思える

  • 坂上秋成「捏造の技法」

どういうコミュニケーション手法を描いているか、そしてどのようなコミュニケーション手法が望ましいかという観点で色々な作品が論じられている。宇野さんの文章読んでいる気分になった。個人的には、この観点に興味がない。

  • 渡邉大輔「世界は密室=映画でできている」

WEB版のワセブンでも連載が始まったようです。そっちの第一回も読みました*2。結構壮大。上述したとおり、「表象」の理論から離れて、「映像圏imagosphere」という概念でもって2000年代の映像表現(国内外を問わず)を論じていく。
上で、伊藤さんの論文を派手さがないと評したけれど、そこいくと渡邉さんの論文はとても派手w それゆえにそんなにアクロバティックで大丈夫なのかと不安になることもあるのだけど、2000年代の映画・映像表現史を描き出すという壮大な試みにはワクワクせざるをえない。
「表象」の理論に対して展開されるのは、一見無秩序に氾濫する「映像」に対して、「規則」を読み込むことで秩序を再形成するという話。イマゴスフィアの元ネタがブロゴソフィアであることからも分かるように、近年の情報環境論を踏まえれば分かりやすい話だけれど、映画/映像というフィールドを定めてやっているのでやはり面白い*3

作品観の更新。ただ、短すぎてなんとも。

いずみの流物語論。物語鑑賞のための技術でもあるけれど、作り手側にとっての話でもある。

  • 内沼晋太郎「拡張する本」

本屋以外で本を売ることについてのレポート。他の小売とはあまりにも違うシステムだよ、出版業界はって話。

早稲田文学増刊U30

早稲田文学増刊U30

*1:中沢さんもそうかなと思う。

*2:http://www.bungaku.net/wasebun/read/pdf/watanabe_daisuke01.pdfPDF注意

*3:ところで、上のほうで泉信行論文に対して、「実像」って何よって書いたのだが、僕は泉さんの「見える」の話もまた、伊藤・渡邉論文と通じる、「表象」の理論とは異なるものではないかと思っているのだけど、そうだとすれば「映像と実像は違う」といってしまうと、「表象」の理論と同じになってしまう。フィルターとかそういう考え方自体は確かに「表象」の理論っぽいんだけど、「見える」ことで世界が変質するという点がやっぱり方向性が違うんじゃないかなあと思っている