バウハウス・デッサウ展

直線や円といった幾何学図形が組み合わさっているような、いわゆる抽象画などと呼ばれる、造形美術が好きなのだと思う。
あと色も、原色がはっきりと組み合わされているような奴がよい。
モンドリアンとかミロとか、あるいは、ミニマリズムとか。本物は見たことがないし、知っている作品数も非常に少ないけれど、好きだ。
戦間期という時代が好きというのもある。
そういうわけで、バウハウス・デッサウ展は面白かった。

同時代性

会場に入るとまず目につくのは、年表である。そこには、当時の政治的状況とあわせて、科学技術や文学・思想、そして芸術運動が書かれており、バウハウスの活動と当時の状況を並列して見ることができるようになっている。
この年表を見ているだけで、気分が俄然盛り上がってくる。それだけ、この20世紀初頭という時代はすごい面白い時代なのだ。革命と戦争の時代であり、科学技術が次々と発展を遂げる時代であり、大衆文化が花開く時代であり、現代思想の始まりの時代でもある*1
実際の展示では、ロシア構成主義や同時期の他の工芸学校などの作品を見ることができる。
バウハウスにしろ、ロシア構成主義にしろ、若い人がかなり有力なポジションに立てたということがある。ドイツの場合、戦争で人を亡くしていたこと、ロシアの場合、革命によってかつての権威が追われたことが影響している。
で、ロシア構成主義の作品として、「赤い楔よ白い円を撃て」というものが飾ってあった。タイトルだけしか見なければ、この作品がロシア革命に関するポスターであることは容易に想像がつくだろうが、実際の作品を見ると、政治的なポスターとは思えない程に、斬新でポップなデザインであって、かっこいいのである。
直線や円と幾何学的な形態が、この時代の多くの芸術を規定したのが分かる。
バウハウスでは、建築を最終目標に置きながらも、造形美術全般や舞台芸術なども教育していた。
それらにおいて、どれにも幾何学的な形態を見いだすことができる。
舞台芸術として、ダンスなどのパフォーマンスの映像が上映されていたのだが、そこでは、手足を小刻みに動かす男性*2や、全身を堅いボディスーツのようなもので覆った男女が踊るところが写し出されていた。背景も、幾何学的で抽象的な空間である。
これらが非常に機械的な印象であって、パフォーマンスという点ではシュールレアリズム的なんだけれど、機械的な運動という点ではむしろ未来派なんじゃないだろうかという感じがした*3。そういえば、矢印をいくつか見かけたけど、矢印も未来派だったっけ。
それから、家具のデザインや建築に関しては、コルビジェとも似ている。コルビジェのような狭苦しさはないものの、コルビジェ展で見たことがあるようなデザインがわりとあった。椅子の形やガラス張りのところや直線の配置などだ。
幾何学的、機械的、抽象的といった言葉は、現代では非人間的・否定的とも取られかねないが、20世紀初頭はむしろ、これらを人間的・肯定的な要素として捉えていたのではないかと思う。
これが変わるのは、やはり第二次世界大戦を経てからだろう。

現代への影響

家具デザインは、完全に現代でも通用するものばかりである。
というか、そもそも現代の家具デザインの基礎を作ったのがバウハウスと言われているのだから、当然といえば当然である。
その一方で、バウハウスがデザインの実験場だったのだろうとも思わせる。つまり、椅子やランプのシェードなんかを見ていると、今でもよく見かけるなあと思うものと、今見ると斬新だなあと思えるものが混在しているからだ。様々なデザインが作られ、淘汰されていったのだろうと思う。
とはいえ、今では見なくなってしまったようなデザインであっても、すこぶるかっこよかったりするのだから、すごい。かっこよさだけでなく工夫も凝らされていて、良品。
そしてそれがまた、学生の作品であったりするのだ。
この展覧会は、教育施設としてのバウハウスの面がかなり強調されている。学生の作品がずらっと並べられているし、演習授業で提出したようなものも多く置かれている。教育カリキュラムや教育方法についての解説もあるし、また教員についての説明も、業績よりは、バウハウスでの役割について中心的に書かれている*4
そして、そうした教育カリキュラムや演習を見ていると、現在の美術教育と繋がっているということが非常に感じられる。
例えば、色彩を並べる図であったり、ボール紙による工作であったり、そういったものだ。
バウハウス・デッサウ展公式サイト*5

*1:エンパイアステートビルができて、その二年後にキングコングができていたりする

*2:マンガなんかで、人が走る時に腕や脚を何本も描くけど、あれを直接演じているような感じだった。そして、その描き方は未来派から始まっているらしい

*3:そして、シュールレアリズムと未来派もまたほぼ同時代の運動である

*4:カンディンスキーパウル・クレーなど、一級の芸術家が揃っていたわけだが

*5:何故かマイスペースもある