シリーズ最終巻
正確に言うと、フランスで現在までに出版されている作品についての翻訳が一区切りついた巻。正編全てと、主な番外編についての翻訳が終了したという意味での最終巻。
3巻も面白かったけど、4巻も面白かった。
特に3巻の「見えない国境」と4巻の「砂粒の理論」だけど、ストーリーが分かりやすいから、かなと思う。
1、2巻がつまらないというわけでは決してないし、「エコー・デ・シテ」(3巻)、「アルミリアへの道」「砂粒の理論」(4巻)とかは、1,2巻を読んできたからこそ面白いというところもある。
ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々』 - logical cypher scape
ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々2』 - logical cypher scape
ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々3』 - logical cypher scape
アルミリアへの道
「アルミリアへの道」「傾いたメリー」「月の馬」「真珠」の4つの短編が収録されている。
後ろ3つは、絵本として描かれており、絵のタッチも他の作品とは異なっている。
「傾いたメリー」は、1巻に入っていた「傾いた少女」のリメイク版。ストーリーはほぼ同じだが、デゾンブルの下りはカットされている。マイケルソン山で、メリーは自分と同様に傾いている人たちと出会い、一緒に暮らすようになって終わる。
「月の馬」と「真珠」は直接的には、「闇の国々」と関係ないように見える。
「アルミリアへの道」は、アルミリアへと向かう少年の日記パートがメインで、マンガ部分よりも文章の部分の方が多い。背景に絵が描いてあって、その上に少年の日記が書いてある紙が置いてあるようなレイアウトになってる。
この日記パートは、ジュブナイル冒険もの的な感じになっている。
アルミリアで異変が起きて、それが世界にも影響を及ぼし始めている中、ツェッペリン型飛行船コベンアヴェン号が、解決の鍵を握る1人の少年を乗せて出航する。それで、闇の国々のいくつかの都市を巡っていくという趣向。
闇の国々は、飛行船だったり飛行船チックな乗り物がよく出てくる。この話だと、ムーカやブリュゼルでたくさんの飛行船や気球が飛び交っているシーンがきれい。また、砂漠をいく砂漠艦とか出てくる(大型客船に大きな車輪をつけたような乗り物。ワッペンドルフの発明)
で、一方、並行して進む別のパートでは、ミロスにある、ヘッドギアで接続された子どもたちが並ぶ謎の施設が出てくる。そのうちの1人の少年が、冒険物語の本を何冊も持ち込んで、機械の調子を狂わせていて、どうもアルミリアへの冒険旅行ってこの少年の夢なのでは、ということを匂わせてる。
永遠の現在の記憶
この作品がどういう経緯で作られたかは、筆者によるあとがきが付されている。
アニメーション作家ラウル・セルヴェの映画『タクサンドリア』に参加したスクイテンがコンセプトデザインを手がけたのがきっかけ。映画自体は、当時としては新しいCG合成などを使った野心的な企画だったようだが、逆にそのせいで色々あってあまりうまくいかなかったらしい(俳優が合成になれておらず演出が混乱したり、アメリカ受けするような脚本にしようとしてエンタメともアートともつかないものになってしまったり)。そんなこともあって、元々あったストーリーを形にしたいという感じで、描かれたらしい。
舞台となる世界は、必ずしも闇の国々ではないようだし、絵柄も他の作品とはちょっと異なっている。
「永遠の現在」が続くタクサンドリアで暮らす少年(タクサンドリア唯一の子供)エメは、本を見つけ、過去に起きた「大異変」について知る。先生はそのことについて隠していて教えてくれない。そこで、この国の王様に会いに行くのだが、王様は実はもう死んでいて、先生がそれを操っているだけだった。そして、エメはタクサンドリアをあとにする。
砂粒の理論
ブリュゼルで起きた奇妙な現象を、「傾いた少女」のメアリー・フォン・ラッテンと「ブリュゼル」のコンスタンが、解決に導いていく。
3巻はフルカラーで、4巻もここまではカラーだけど、この作品のみ白黒。しかし、そこに仕掛けが施されている。
ブリュゼルの宝石商エルザのところに、闇の国々の奥地*1からブグティの首長が訪れる。その後、彼は不幸にも路面電車にはねられて亡くなってしまう。それとほぼ同じ頃、とあるアパートメントの部屋にはどこからともなく砂が現れるようになり、コンスタンの部屋には石が、そしてその近くの料理屋のシェフは食べても食べても体重が減るようになる。
これらの現象は次第に拡大していき、ミロスの首長を退き、超常現象の専門家になっていたメアリーがブリュゼルを訪れる。
メアリー、コンスタン、体重が減り続けついには宙に浮くようになってしまったシェフは、これらの現象のそもそもの原因になったブクティの男が持っていた飾りを探す。
メアリーやブクティには、こうした超常現象が「光」として見えているのだが、これが誌面上では、白色で塗られている。紙の色とは違う白なので、確かに光って見えるし、またそうはいっても白いわけだから、メアリー以外には見えないというのも表現できているといえなくはない(読者はかなり後半になるまで、この色の違いの意味が分からない)。
エルザは、自分の家が異変に巻き込まれ、階段が消えたりなんだりというのが起こるだけど、最後に異変が解決したあと、ブリュッセルの方に行って、そこで自分の家があるのを知ってそこで暮らしはじめる。
全てが大団円でおさまってハッピーエンドなのが、ほかの「闇の国々」作品とちょっと違うかも。「闇の国々」シリーズ作品の中では一番しっかりと怪現象の解決される話だったと思う。
で、これにもあとがきがあるのだけ、作中にでてくるエルザの家、オートリック邸というのは、実はブリュッセルに実在している家で、オルタという建築家によるもの。ある時、それが売りに出されているのを知ったペータースとスクイテンは、ブリュッセル市にこれを買い取ってもらい、内部を修復し、2004年から一般公開をはじめ、ワークショップなどができるイベントスペースとして使っているらしい。
年表
巻末についている年表から一部抜粋。
塔の建設開始を0年とする。
450年頃 ジョヴァンニ・バッティスタによる塔の横断(「塔」1巻)
696年 クシストス/サマリスに関する噂が広まる。委員会はフランツ・バウアーの派遣を決定する(「サマリスの壁」2巻)
719年 『エコー・デ・シテ』創刊(「エコー・デ・シテ」3巻)
721年 スタニスラス・サンクレールが『エコー・デ・シテ』の編集長に(「エコー・デ・シテ」)
735年 ユルビカンド/奇妙な立方体が発見され、増殖をはじめる(「狂騒のユルビカンド」1巻)
738年 ユルビカンド壊滅
745年 ブリュゼル/フレディ・ド・ヴルウ、新しいブリュゼルの模型を提出(「ブリュゼル」2巻)
746年 アルミリア/大陸中の時間が狂うような異変が起こる(「アルミリアへの道」4巻)
746年 ブリュゼル/デルサンヴァル博士の病院開業。異変、災害が発生。(「ブリュゼル」)
747年 アラクシス/フォン・ラッテン家が遊園地を訪れ、メリーの体が傾く(「傾いた少女」1巻)
747年 マイケルソン山/ワッペンドルフが奇妙な天体を発見(「傾いた少女」)
748年 ガラトグラード/サンクレールが外国人ではじめてドームに訪れる(「エコー・デ・シテ」)
750年 マイケルソン山/メリー・フォン・ラッテンとワッペンドルフが出会う(「傾いた少女」)
755年 パーリ/アブラハム博士がスパイの罪で処刑される(「パーリの秘密/アブラハム博士の奇妙な症例」2巻)
757年 ミロス/メリーが首長の座を受け継ぐ(「傾いた少女」)
758年 アクラシス/エコー・デ・シテが誌面を一新(「エコー・デ・シテ」)
759年 イリアステル島/ミシェル・アルダンが「普遍理論」の確立を主張。サンクレールと決裂。(「エコー・デ・シテ」)
760年 緑湖/祝典でメリー・フォン・ラッテンがミロス首長引退を表明(「傾いた少女」、「エコー・デ・シテ」)
761年 ソドロヴノ=ヴォルダシ/ロラン・ド・クレメールが国立地理院配属(「見えない国境」3巻)
762年 アクラシス/「エコー・デ・シテ」廃刊、アルダンの「リュミエール」創刊(「エコー・デ・シテ」)
784年 ブリュゼル/異常現象発生。メリーが解決に乗り出す。(「砂粒の理論」4巻)
以下のファンサイトに年表あり
The Obscure Cities | François Schuiten & Benoît Peeters
Alta Plana(アルタ・プラナ)って闇の国々の資料が全て集められることになっている街の名前
- 作者: ブノワ・ペータース,フランソワ・スクイテン,古永真一,原正人
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2013/10/19
- メディア: 単行本
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*1:マラウアカの近く。マラウアカは「エコー・デ・シテ」で冒険家アルダンが謎の球体を発見している場所