ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々3』

ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々』 - logical cypher scape
ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン『闇の国々2』 - logical cypher scape
1,2巻より面白かった、気がする。
1,2巻と比べて凝った仕掛けや形式がなく、オーソドックスにマンガだったからかなあと思ったり。
絵もフルカラーできれい。

ある男の影

主人公は、保険会社の辣腕営業マンで、最近、誰もがうらやむ美女と結婚したばかり。しかし、ひどい悪夢に悩まされていた。
妻から何度も言われてようやく医者に行って薬をもらうと、悪夢は嘘のように見なくなり、よかったよかったと思ったのもつかの間、影が何故か色付きになる。影が黒じゃなくて、彼の肌の色とか服の色とかを全部反映したものになってる。
妻から気味悪がられるし、本人もなるべく人から見られないようにするために、会社を休みがちになったりする。が、とうとうばれて家からも会社からも逃げ出す。
日当たりの悪い、取り壊し寸前のアパートに部屋を借りるんだけど、向かいに住んでいる女性にたまたま影が見つかってしまう。彼女は女優志望で、彼と一緒に芸人としてのし上がろうという話になる。
彼女は演出とかのアイデアがあって、彼の色付きの影をうまく使ったショーを考え出し、一躍大盛況になる。
ところが、ある時、彼の影は普通の影に戻ってしまう。彼は再び失意に陥るが、女の方は、影なしでも2人でやっていけると励ます。めでたし。
この話は、ストーリーとか、2人でやるショーとかもいいんだけど、乗り物とかがよかった。
小型飛行機みたいなのが交通機関になってる街で、高層ビルのそれぞれの部屋の窓から直接離発着できる。
ワッペンドルフが再登場したり、「傾いた少女」で出てきた双頭の男がひとこま出てきたりする。あと、女優志望の女と「塔」の芝居を練習するシーンがあったりする(巻末の年表によると、『闇の国々』の作品は大体700年代の出来事なのだが、「塔」だけは450年頃の出来事とされている)。

見えない国境

これが面白かった。巻末のインタビューでも、『闇の国々』の中でも傑作として言及されてた。
この作品のいいところは、ヒロインの作中での意味がはっきりしているところかもしれない(「ある男の影」もその点はそう)
あと、主人公が若い男性なのも、個人的には感情移入しやすかったのかもしれない。
結構、『闇の国々』はおっさん、じいさんが主人公のこと多い気がする。「塔」のじいちゃんくらいになっちゃうと逆にいいんだけど、「ユルビガンド」のロビックとか「ブリュッセル」のコンスタンとかだとちょっとのりきれなかったのかもしれない。
主人公のロランは大学出たての丸眼鏡かけた青年で、何もない荒野にある巨大なドーム建築である、国立地理院に着任し、昔気質の地理学者ムッシュ・ポールのもとで働き始める。
国立地理院は、最終的に巨大なジオラマとして地図から地形を再現したものを作っている。また、ジュノフという若い技術者が、地図からデータを読み取る巨大なマシーンを担当している。
ソドロヴノ=ヴォルダシという国が舞台なのだが、その元帥が地理院にやってきて、国境画定作業を行うために地理院を増強し、効率化させるように指示する。
時系列的には、『闇の国々』シリーズの作品の中ではかなり後の方に位置して、ユルビガンド、ブリュゼル、ミロスなどの都市が混乱・衰退しており、そこをぬって、ソドロヴノ=ヴォルダシを一躍大国に押し上げようという背景がある。
一方、この地理院には、公娼みたいなのがいて、ロランはそこでシュコドラーという他の娼婦とは雰囲気の違う女性と出会う。彼女は服を脱ぎたがらないのだが、それは体に痣があるから。
効率化の指示によって、ムッシュ・ポールのような地理学者が追いやられ、ジュノフの機械が幅をきかせるようになる中、ロランはシュコドラーの痣が、ソドロヴノ=ヴォルダシの古い国境を示しているのではないかと考えはじめる。
そして、二人で地理院から逃亡する。
まあ結局捕まって終わりで、バッドエンドなんですけど。
ワッペンドルフの開発した車輪型のバイク(これまでも時々出てきた)がかっこいいなあーと思う
あと、章扉のイラストがかっこよくて、とくに骸骨に窓が開いてる奴がよかった
地理院内を移動するためのレール自転車とか、巨大ジオラマとかもいいし。逃亡中の風景もいい。
いやしかし、ムッシュ・ポールがあっさりとロランを売ったのが笑えたw いい上司かと思ったらただのエロオヤジだったというw

エコー・デ・シテ

闇の国々の世界で発行されている新聞「エコー・デ・シテ」の紙面がそのまま掲載されている。
読んでいくうちに、闇の国々の様々な出来事が読めるとともに、「エコー・デ・シテ」という新聞の創刊から終刊までに辿った経緯がわかってくる。
今までの「闇の国々」作品で出てきた街や出来事なども載っていて、それはそれで面白い。ロビック、ワッペンドルフ、ミロス、ブリュゼル、ソドロヴノ=ヴォルダシ、マリー・フォン・ラッテン。
スピットファイアに乗って別の世界から闇の国々へと迷い込んでしまった男女の話とかもでてくる。
全部新聞の紙面なのだけど、それを通して、「ある男の影」の冒頭に出てきた冒険家ミシェル・アルダンと、「エコー・デ・シテ」の編集長サンクレールの話が見えてくる。
アルダンについての記事が度々出てきて、同行取材などするよるになるのだが、アルダンがある発見について取材を断ったために、彼らの仲が悪くなる。
ちなみに、その発見というのが、「傾いた少女」で出てきた球体で、実は闇の国々のあちこちにあるみたい(新聞に載っていた他の事件(ヴェルヌが現れたとか、子どもたちがありえない距離を移動したとか)もこの球体と関係してるかもとほのめかされる)。
それから、「エコー・デ・シテ」は人気を博していたのだけど、ある時期から人気が落ちていて、絵からアルダンの撮影した写真へと部分的に切り替えてたりする(本当に写真を使っている)。
「エコー・デ・シテ」が終刊したあと、アルダンが創刊した真主体の新聞に載った、サンクレールのインタビュー記事が最後に載っている。
絵から写真へ。読者を煽るような記事から事実主体の記事へ。という新聞史にもなっている。

作者インタビュー

訳者による、2人の作者へのインタビュー。
フランスには、カラリストっていうBDに彩色する人がいるらしい。この作品は、アシスタントもカラリストもいれずに1人で描いて、1人で色塗ってるんだという話とかしてる。


闇の国々III

闇の国々III